研究者のご紹介

佐々木 智弘 研究者インタビュー

「中国の現代政治を読むポイントとは?」

佐々木 智弘 研究員
所属: 海外研究員 海外調査員(上海)
専門分野: 中国政治・外交

中国の政治に関心を持ったきっかけは?

中学生のとき、短波ラジオで海外のいろんな国の日本語放送を聞いて手紙を投稿するのが趣味だったんですが、北京放送がカードやバッチ、ペナントといったプレゼントが一番多かった。それで自分が日中友好に貢献しているようでうれしくて中国に興味を持つようになったんですが、見事に中国のプロパガンダにはまってしまった形です。今となっては子供だましのようなものですが、まだ大事にしまっています。

大学に入るときも中国政治について勉強しようと思い、そのためには「国際関係」を専攻しなければと一途に思い込んでいました。今思うとそんなにこだわらなくてもよかったわけですが。。。アジ研に入ったのもその流れです。大学時代の恩師(タジキスタンで殉死された秋野豊先生)の影響で、研究の分野で中国に関わりたい、できればシンクタンクや地域研究の研究機関で働きたいと思っていました。その後修士課程に進学し、修了時にタイミング良くアジ研で募集があり入所できました。

中国の現代政治を研究する上でのポイントは?

今の中国政治研究の関心は大きく二つあると思います。一つは、権力(政府、中国共産党)。もう一つは、「基層」社会と呼ばれる末端の社会です。私は、中国政治の特徴が共産党の一党支配にあると思っているので、前者の方、つまり共産党の一党支配の分析、解明に関心を持って研究しています。中国、北京自体がとても経済的に豊かになり便利な社会になってはいますが、政治面では、一党支配による様々な制約があり、社会の仕組み、カラクリは依然として変わっていないのです。研究する上では、「人民日報」という共産党の機関紙を読んで、その文章の行間を読むことで共産党が何を考え、何をしていきたいのかを理解することが大事だと考えています。

インターネットの普及で以前に比べると政治関連の情報が増えています。ただ、インターネット情報も、さまざまなので、発信者が誰かということに注意しています。

今回刊行した 『現代中国の政治的安定』 の狙いは?

昨年の北京オリンピックの直前に発生した民族問題、格差問題にみられるように、現在の中国の社会、政治は不安定でもあります。では、どういった構造から不安定になっていて、中国共産党がどう対応しようとしているのかといったことについて具体的な事例を設定して探ってみたのが本書です。中国では社会の多様化、経済発展、中間層の増加といった社会構造の変化のなかで、昔からある問題でも争点の中身が変わってきていて、毛沢東、鄧小平の時代の対処法では恐らくコントロールできない状況にきています。「群体性事件」(デモなどの集団抗議行動)、労働者の権益、農地収用問題、民族問題などに対し、中央政府や地方政府がどういった新しい対応策を考えているのか、あるいは共産党自身もまだ模索中なのかを探るのが本書の狙いです。少なくとも以前の対応策との相違、現状の対応については描けたのではないかと思います。今までのように上から鶴の一声で全てが決まっていくわけではなく、様々な声を聞きながら多様なものに対応していく必要があり、共産党自身の変化が求められている。こういった中国共産党の変容を分析し把握しようというのが最近の中国政治研究の大きな潮流となっており、この研究成果も同様です。

アジ研で中国政治について研究する強みは?

アジ研では経済について研究されている方が多いこともあり、より経済、産業問題について強く意識するようになりました。そのおかげで、経済イシューを切り口にして中国政治がどうなっているかという研究視点を持つようになったと思います。中国の場合、急激に経済発展が進み、経済問題は重要なイシューで、共産党や政府の関心も経済政策に傾いています。たとえば、私自身は中国の通信行政について研究していますが、この政策決定も政治の問題なわけで、通信行政をひとつの切り口として政府と市場との関わり、企業との関わりをずっと追っています。アジ研にいたからこそこのような視点がもてたと思っています。

しゃべりたいタイプなので「掲示板」で一方的に情報を発信しています。1998~2000年に中国に赴任していたときに、目まぐるしく変わる中国についてできるだけ早く伝えたいというが気持ちがあって情報発信をはじめ、その続きで今もやっています。実は、このウェブサイトから 北京からの「熱点追踪」~現代中国政治の見方~ (アジアを見る眼No.101) が 生まれました。最近では、忙しいため掲示板で「今日の『人民日報』」を更新するだけになっていますが、人民日報の興味い面白い記事について解説していま す。マスコミやシンクタンクなどで情報収集をしている方々が見てくれていて、実際に電話で問い合わせがあったりするので、固定の読者はそれなりにいるようです。是非アクセスしてみてください。

(取材:2009年5月21日)