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コラム

新型コロナと移民

 
第8回 新型コロナ禍下の中南米移民――「3つの流れ」の現況

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00052119

2021年4月
(8,292字)

2021年の「キャラバン」はじめ

2021年1月14日の夜半、米国を目指す3000人ほどの移民キャラバン(Caravana de migrantes)がホンジュラス第2の都市サン・ペドロ・スーラを出発した。これは新年早々から活発化したWhatsAppやFacebookでの情報交換を通じて組織されたもので、隣国グアテマラとの国境に到達する頃には約9000人にまで膨れ上がった。

こうした動きをグアテマラ政府もいち早く察知し、すぐさまジャマテイ大統領は東部国境付近7県(ペテン、イサバル、サカパ、チキムラ、フティアパ、エル・プログレソ、サンタ・ロサ)に15日間の予防宣言を発令1 、2000人近くの警察官や国軍兵士が国境に配備された。この宣言によりグアテマラ政府は、領域内への不法侵入者を必要とあらば武力で退散させうる大義名分を得たことになる2

キャラバンに先んじて越境した小グループのなかには、滞在条件の一つである「PCR検査陰性証明書」の不携帯により捕捉され、諦めて母国へ引き返す者や、監視の目を潜り抜けてグアテマラ国内に深く入り込んでいった者たちもいた。しかし同17日に国境の検問所に数千人規模のキャラバン本体が到着し、数にものを言わせて強行突破を試みると、国軍兵士や警官が催涙ガスや棍棒によってそれを暴力的に押し返し、移民たちの侵入を阻止しようと試みた。これは、一方で、恒常的な貧困と暴力に加え、新型コロナウイルス感染拡大やハリケーン来襲によってもたらされた困窮状態から逃れようとするホンジュラス移民と、もう一方で新型コロナウイルスの脅威から自国民の生命を守ろうとするグアテマラ政府とが織りなす、「コロナ禍下の中南米における移民」のありようを物語る一つのエピソードである。

近年の中南米での移民状況

かつて中南米地域は、域内諸国間での行き来もさることながら、ヨーロッパから多数の外国移民を受け入れていた。しかし20世紀半ばからこの地域はもっぱら送り出す側となり、それ以降、人口統計学でいう純移動率(net migration rate)がマイナスに転じたまま、人口増加率が自然増加率をわずかに下回る状態で推移してきた。少し古い数字だが、例えば2010年の時点では、中南米地域の全人口のうち4.8%にあたる約2900万人の人びとが域外の国ぐにに住んでいたという。しかも、後述するとおり、それ以降着実に海外への移民人口が増えており、とくにここ数年は激増していることを踏まえると、2010年の水準を超える数の人びとが域外で生活していることになるだろう。むろん、一口に「中南米地域」といえども移民状況は国ごとにさまざまだが、なかでもメキシコおよび中米やカリブ海諸国からの移民数は著しく多く、現在でも、それら各国人口の10%強から30%弱の国民が海外で働き、日々の生活を営んでいるという。

とくに近年の中南米地域で目立つ人の移動についてみておくと、① 上記の中米、なかでも北部三角地帯諸国(グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドル)とメキシコから米国での就労を目指す人びとの流れ、② すでに数十年前から存在したものの、とくに2018年春の政情不安でそれがより強まったニカラグアからコスタリカやパナマへの移民や政治難民の流れ(上谷 2019:13)、そして最近では中米やカリブ以外、つまり、③ 1998年のチャベス政権成立以降、現マドゥロ政権下でより深刻化した政治・経済・社会的な混乱に由来するベネズエラから周辺国への移民や難民の流れと、大別して3つの流れが確認できる。

上記①の流れについては次節で詳述するとして、後者の②と③のコロナ禍下の現状について少し言及しておく。

まず、②のニカラグアからコスタリカへの移民については、すでに数十年の歴史があり、もはやコスタリカ経済においてニカラグア移民の提供する労働力は必要不可欠なものとなっている。実際、合法・非合法合わせてコスタリカには約50万人のニカラグア人が居住しており、この国の外国人人口の8割弱を占める。ただこうしたニカラグア人の多くが従事するのは、例えば、路上売り、家政婦や警備員、運搬人、建築土木作業員、農園収穫人など、いわゆるインフォーマル部門に属する低技能労働である3 。とりわけ、インゲン豆やキャッサバ、パイナップルなどの大規模農園で働くニカラグア移民労働者(概して不法季節労働者)は、コスタリカ人と比べ低賃金で雇用できるという大きな利点があり、さまざまな問題が指摘されつつも長らく重宝されてきた。

しかし、新型コロナウイルスの到来でこうしたニカラグア移民の多くは収入源を失い、もともと脆弱であった生活状況がさらに悪化した。基本的なニーズ(住宅、食料、衛生、医療)を補うための、コスタリカ政府からの支援策を当てにできる可能性は非常に限定的か、存在しない。それどころか、いったんニカラグア移民の多い地区や職場で感染クラスターが生じでもすれば4 、彼(女)らが強いられている過密な住環境や、公衆衛生へのアクセスの困難さが問題化されるのではなく、「感染予防意識の低い不法なニカラグア移民」といったステレオタイプで捉えられ、社会的な差別や排除、ゼノフォビアの対象となりがちである5 。いずれにせよ、ニカラグアからコスタリカへの人の流入は、2020年3月から10月までは完全に国境は閉鎖され、その後11月にいったん開放されたが、新規感染者数が高止まりするなかですぐさま閉じられ、本稿執筆時点では(公式には)閉ざされたままである。コスタリカで働くニカラグア移民からニカラグア本国への郷里送金は、米国移民からのそれに次いで、全送金額の重要な部分を占めるため、両国間の人の行き来の滞りは、貴重な労働者を失ったコスタリカだけでなくニカラグアにとっても死活的な問題となっている。

一方、③については、チャベス在任中より国内の政治・経済状況の悪化や先行きの不安から、当初は中間層、近年では最貧層をも含むすべての社会階層でベネズエラを離れる人びとが後を絶たず、いまや全人口3440万人中の約6分の1(550万人)もの人びとが海外に居るという(坂口 2021:238)。2015年時点での推計によれば、その約8割以上が中南米域内への移民や難民であり、とくにコロンビアやペルーなどアンデス周辺諸国はそれぞれ数十万~百万人規模のベネズエラ移民を受け入れている(宮本 2018:12)。しかしこうした周辺国へのベネズエラ移民や難民の流出は、その数が増すにつれ、受け入れ国側でのさまざまな軋轢や問題(財政負担増、社会サービスの逼迫、犯罪増、外国人差別感情増)を引き起こし、2018年からはどの国も受け入れにブレーキをかけつつあった。そこへきての新型コロナ禍である。上記のコスタリカ同様、感染抑制のためにほとんどの中南米諸国は、断続的にだが国境を閉鎖し、管理体制を強化し、国内においても時に厳格な移動制限を課した(中米に関しては上谷[2021]や浜端[2021]などに詳しい)。新型コロナウイルス感染拡大は直接的(=感染)にであれ間接的(=経済社会的困窮)にであれ、各々の社会の最も脆弱な部分を狙い撃ちしてくると言われるが、まさに移民や難民こそが、最も強烈にそうした打撃を受けがちである。例えば、国連などが実施した中南米に散らばるベネズエラ移民・難民に関する合同調査によると、その40%近くの人びとが新型コロナ禍の最中に、失職等で住居の立ち退きや帰国を余儀なくされ、さらに38%の人びとが受入国政府から何の支援もなく、住居を失う危険に晒されているという6

なお、このようなベネズエラ難民の直面する現状は、かねてよりコスタリカに居住していた古株のニカラグア移民ではなく、とくに2018年春以降新たにコスタリカに流入したニカラグアの難民たちが直面するそれと幾分似ているようである。というのも、2018年春の政治危機によって、コスタリカに保護を求め逃れてきた約10万人のニカラグア難民や亡命者は比較的教育レベルが高く、それゆえ高技能職や知的労働の求人をめぐって現地のコスタリカ人らと競合するので、就労機会を得るのが非常に困難という問題があるからである7 。またここ最近では、コスタリカだけでなく、その先のパナマからも、長引くコロナ禍によって経済的困窮状態に耐えられないニカラグア人が母国に引き返す事例が多発しているという話もある。

新型コロナ禍下での中米・メキシコから米国への動き

さて、最後に上記①、つまり中米やメキシコから米国への移民の動きについて論じる。はじめに、近年のこの流れの変動を、米国の税関・国境警備局が公表するデータのなかの、南西部国境、つまり米-メキシコ間の国境における不法越境者逮捕件数を元に少し見ておく。昨2020年11月に発表された統計によると、2020年度8 における南西部国境での逮捕件数は40万651件で、12年ぶりに逮捕件数が急増した前2019年度からは53%も減少したものの(図19)、2020年度の累計は、概ね近年の他の年度と同程度である。

図1 米国南西部国境地帯における国籍別の逮捕件数

図1 米国南西部国境地帯における国籍別の逮捕件数

(出所)米国税関・国境警備局(CBP: U.S. Customs and Border Protection)が公表するデータに基づき筆者作成。

こうした2019年度からの急激な減少は、言うまでもなく新型コロナウイルス感染拡大の衝撃で、南北米大陸をはじめ世界各地の社会の動きが一気に鈍化し、各国政府も新型コロナウイルスの感染抑制のため国境を全面的または部分的に閉鎖したことなどによるだろう。実際、米国側でいえば、新型コロナウイルスの防疫措置の一環として、国境の事実上の封鎖とともに警備が強化され、また、そこへの亡命申請手続きもより厳格となった10 。また、南西部国境の不法越境者の大半はメキシコや中米出身者が占めるが、例えばメキシコ政府は2020年3月に米国との国境を越える不要不急の旅行を制限したし、中米北部三角地帯諸国の各政府も、少なくとも3月にWHOによって新型コロナウイルス感染は世界規模のパンデミックであると宣言されてからの数カ月間は国内移動や国外渡航をかなり厳しく制限した(上谷 2021:24-26)。

このような事情で、2020年度は全逮捕者数が激減し、逮捕者数の内訳ではメキシコ人が全体の63%を占め、過去5年ではじめてメキシコ人が非メキシコ人を上回った。しかし2012年あたりから見られる大きなトレンドでは、全逮捕者数に占めるメキシコ人割合が漸減しており、2017年以降ではメキシコ人と非メキシコ人の割合は逆転し、2019年に前者はかなり減少していた。とりわけここ約5、6年で急増しているのが、グアテマラ、ホンジュラス、エルサルバドルなど中米の北部三角地帯諸国から米国を目指す移民の流れであり、こうした大きなうねりを構成しているのが、冒頭でも言及した「移民キャラバン」である。

そもそも近年のキャラバンの発端は、2018年10月13日にホンジュラスの野党政治家らの呼び掛けで生じた移民キャラバンである(村山2020)11 。当初の彼らの意図は、不況や貧困や治安の悪化など当国が直面している経済社会的窮状に現政権が対応できないことを揶揄し「もはや移民しかない」かのごときイメージを国内外に喧伝することであった。しかし、SNSでこの企てが広く拡散され、現地メディアも大きく報じたことで移民希望者がこのキャラバンに殺到すると、当初の意図を超えてそれ独自のダイナミズムを持ち始めた。

実際、米国に向かう道すがら、グアテマラやエルサルバドルからの移民希望者がこれに次々と合流し、メキシコを通過する頃にはキャラバンは当初の想定を超えて大規模化していた(約7000人)。そして、彼(女)らが比較的順調に歩を進めるにつれて、それが「成功体験」としてホンジュラス本国やエルサルバドルなどにも伝播し、第2陣、第3陣と後続のキャラバンを誘発することになる。つまり、できるだけ人目につかないのがよしとされ、強盗や警察当局の嫌がらせなど幾多ものリスクを孕んでいた移民行為が、巨大な群れとなることで防御力や安全性や認知度を高めるために参加の敷居を低め、さらに多くの個人や家族づれがそれに参加するという「新しい移民の方法(村山 2020:236)」となった。

ただしその後は、米国のトランプ前政権からの圧力で、当初同情的であったメキシコ政府の対応が変化したため、大規模なキャラバンによる「移民の波」は徐々に小さくなり、そのまま新型コロナ禍に突入した。しかし、例えば「移民の波」に関するホランドらの研究によれば、そうした「波」の興隆は、概して、送り出し国側での貧困や治安状況などの悪化よりも、むしろ受け入れ国側での政治的機会の変化とより緊密にリンクしているという(Holland & Peters 2020)。それゆえ今年の1月に生じた本稿冒頭のエピソードのように、移民に対し強硬的なトランプ前政権から比較的寛容とされるバイデン政権への権力移行というタイミングは、キャラバンでの移民を目指す人びとに絶好の機会と映るようであり、もはや新型コロナウイルスへの感染云々などと関係なく12 、今後しばらくはそうした試みが続くと予測する専門家もいる13

おわりに

おそらく中南米地域だけでなく、世界の多くの開発途上諸国の国民(とくに貧困層)にとっては、国内での政治経済的な不安や社会的な不満の脱出口として、海外移民が重要な役割を果たしてきたと思われる。しかし新型コロナウイルス感染拡大の影響で、自国や通過国そして受け入れ国側での国境閉鎖や通過ルールが厳格になっただけでなく、受け入れ国側が新型コロナウイルス感染の波状攻撃に苛まれることで、経済が断続的にしか動かず、海外移民の実現可能性が乏しいままとなっている。

むろん、例えば最近のグアテマラやエルサルバドルのように、主要受け入れ国の米国で経済活動が徐々に再開されだしたことで、一時完全に滞っていた海外送金も少しずつ回復の兆しがみえるという。とはいえ、まさにこうした「吉報」のために、移民オプションへの期待がさらに高まるなかでの厳格な国境管理の継続は、移民希望者のあいだでいわゆる相対的剥奪感を強め、ますます社会にフラストレーションを充満させる恐れがある。とくに中米諸国では、改善の兆しのない貧困や治安の悪さ、そして新型コロナ禍に加え、昨年11月には相次いで大規模なハリケーンが来襲し、この地域の人びとにさらに厳しい試練と徹底的な失意をもたらしている。おそらく世界の他の地域の移民たちと同様、中南米地域を彷徨う移民たちにもまだ明るい未来はみえていない。

参考文献
  • 上谷直克 2019「脆弱化するラテンアメリカ民主政治」『ラテンアメリカ・レポート』35(2)1-25.
  • 上谷直克 2021「COVID-19に揺さぶられる中米・北部三角地帯諸国(NTCs)」『ラテンアメリカ・レポート』37(2) 20-35.
  • 坂口安紀2021.『ベネズエラ――溶解する民主主義、破綻する経済』中央公論新社.
  • 浜端喬2021「ニカラグアにおけるCovid-19の感染状況」『ラテンアメリカ・レポート』 37(2) 78-84.
  • 宮本英威 2018「南米に広がるベネズエラ移民、生活苦で160万人脱出――周辺国が対応に苦慮、住民との摩擦も」『ラテンアメリカ時報』No.1424, 12-15.
  • 村山祐介 2020.『エクソダス――アメリカ国境の狂気と祈り――』新潮社.
  • Holland, Alisha C. and Margaret E. Peters 2020. "Explaining Migration Timing: Political Information and Opportunities," International Organization 74(3), (Summer) p. 560-583. 5.
著者プロフィール

上谷直克(うえたになおかつ) アジア経済研究所 地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ副主任研究員。修士(政治学)。専門は政治経済学(ラテンアメリカ地域)。最近の著作は、2020年「専制化の兆しを見せる中米・北部3カ国(NTCs)」『ラテンアメリカ・レポート』36(2)、『権威主義――独裁政治の歴史と変貌』(エリカ・フランツ著、今井宏平、中井遼との共訳、白水社、2021年)など。

  1. "Guatemala decretará estado de prevención por caravana migrante," DW (Deutsche Welle)(2021年1月15日閲覧).
  2. これに関連して非常に興味深いのは、移民を送り出す側のホンジュラスでは、移民キャラバンの安全確保のため、グアテマラ国境へのルートに沿って約7000人の警官を配備したことである(Por Sergio Morales y Julio Román, "Caravana migrante: Guatemala, El Salvador, Honduras y México ante su primera prueba del año," Prensa Libre)(2021年1月16日閲覧)
  3. "Nicaragüenses varados entre Panamá y Costa Rica retornan a su país," Swissinfo(2021年2月18日閲覧).
  4. 実際この手のクラスターは散発していたし、2020年12月の段階では、コスタリカ全感染者数の2割弱が外国人で、かつその約半数がインフォーマル労働従事者であった("3517 nuevos casos de coronavirus en Costa Rica en los últimos tres días,"El Mundo)(2021年2月25日閲覧)。
  5. "Nicaragüenses en medio de una pandemia en Costa Rica," El País(2021年2月27日閲覧).
  6. "Desalojados y en la indigencia, la dura realidad de muchos migrantes venezolanos durante la pandemia de COVID-19," Noticias ONU(2021年3月3日閲覧).
  7. "La COVID-19 hace pasar hambre a la mayoría de los refugiados nicaragüenses en Costa Rica," Noticias ONU(2021年3月5日閲覧).
  8. ただしここでいう「2020年度」とは、米国の会計年度である2019年10月~2020年9月の期間を指す。
  9. このグラフは、米国南西部国境地帯における逮捕件数の過去約10年の推移を示している。点線はこの地帯での全逮捕者数を示しており、積み上げ面グラフはメキシコと中米北部三角地帯諸国の国籍別逮捕者数を表している(データ元は、Stats and Summaries, U.S. Customs and Border Protectionなどを参照)。
  10. Ana Gonzalez-Barrera, "After Surging in 2019, Migrant Apprehensions at U.S.-Mexico Border Fell Sharply in Fiscal 2020," Pew Research Center(2021年3月11日閲覧).
  11. 中米の移民キャラバン、ないし「エクソダス」に関してはスペイン語や英語でも多くの出版物があるが、日本語で読める秀逸なルポルタージュとして 村山(2020)がある。本稿の以下の記述もこの文献を参考にさせていただいた。
  12. Rachel Iacono, "New CBP Data Shows SW Border Apprehensions During First Three Months of FY2021 Climbed to Levels Last Seen in FY2019," Bipartisan Policy Center(2021年3月17日閲覧).
  13. "Alertan de nueva caravana para finales de este mes," La Tribuna(2021年3月2日閲覧).