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コラム

新型コロナと移民

 
第5回 台湾――コロナ禍は家庭介護における外国人労働者・雇用主・仲介業者の関係改善の転機になるか

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051911

2020年12月
(6,807字)

台湾では新型コロナウイルスの感染が比較的抑えられており、市民の日常生活もコロナ禍前に戻ったようにみえる。しかし、水際対策で外国人の上陸制限や強制性のある在宅隔離・在宅検疫の実施が継続されているため、外国人労働者は海外から入りにくい状態が続いている1。一方、コロナ禍による景気減速で外国人労働者の雇用を減らす製造業者がいるものの、対人サービスである介護労働の分野における外国人労働者への雇用需要は景気の変動に影響されにくい。本稿はこうした状況に注目し、仲介業者と労働者へのインタビューを通して、コロナ禍下での外国人介護労働者・雇用主・仲介業者の動きおよび関係変化について考察する2

減少する外国人労働者

台湾はインドネシア、ベトナム、フィリピン、タイ、マレーシア、モンゴルの6カ国から外国人労働者を受け入れている。外国人労働者総数はこれまで右肩上がりで上昇してきたが、コロナ禍の影響で2020年2月の71万9487人をピークに減少しはじめ、2020年9月現在では69万9218人となっている(表1)。

表1 2019年12月~2020年9月の外国人労働者の推移(単位:人)

表1 2019年12月~2020年9月の外国人労働者の推移(単位:人)

(出所)台湾勞動部「勞動統計査詢網」に基づいて筆者作成。

外国人労働者の減少は、景気変動よりも各国の新型コロナウイルス感染対策に強く関連しているとみられる。まず台湾については、3月19日、台湾政府は居留証明書や商務履行契約証明書などを持たない外国人の上陸を禁止した。雇用契約のある外国人労働者は上陸制限の対象外であるが、海外から労働者を受け入れる場合、雇用主または仲介業者がその上陸後の14日間在宅検疫の責任を罰則付きの形で負う。また、新型コロナウイルス感染対策の一環で台湾勞動部(以下、労働部)は雇用主に海外から新規労働者を受け入れる代わりに、すでに台湾に居て、かつ何らかの理由で新しい雇用先を探している外国人労働者の雇用を勧めている3。他方、外国人労働者の送り出し国側でも、自国労働者の新規出国申請を一時取りやめるなどの措置をとっていた4。これらの対策が国際的な人の往来を急速に減少させた結果、国際線の大幅な減少で多くの労働者も出国できなくなった。

現在、台湾の感染状況が比較的落ち着き、外国人労働者総数は9月以降再び増え始めている。ところが、産業別でみると、建設業は6月、製造業は9月以降外国人労働者が再び増加傾向になったが、農・林・漁・牧畜業、そして家事と介護の分野における外国人労働者が依然として減少し続けている。本稿が注目する介護労働者については、施設雇用(以下、施設外国人介護労働者)と住み込みの家庭雇用(以下、家庭外国人介護労働者)の2つがあるが、施設外国人介護労働者の人数が6月以降再び増加しているのに対し、家庭外国人介護労働者は依然として毎月1000人以上減少し続けている(表1)。

こうした業種別または雇用形態における受け入れ人数の増減の違いは、労働者の上陸後の14日間在宅検疫の場所を雇用主や仲介業者が政府の規定に沿って用意できるかどうかに関連していると考えられる。工場や介護施設などは多くの外国人労働者を受け入れているため、寮を設置することが多く、在宅検疫の場所を確保しやすいが、零細な農林漁業や個人の雇用主は基準に合う在宅検疫の場所を用意することが難しい。それに対して、政府は労働者用の検疫ホテルを用意しているが、仲介業者S氏は、検疫ホテルの使用料に加えて、ホテルの部屋数に限りがあり、順番待ちになっているため、家庭外国人介護労働者が海外から入りにくくなっていると指摘する5

売り手市場における労働者の期待と不安

2020年9月現在、台湾には25万2100人の外国人介護労働者がおり、うち9割は家庭外国人介護労働者である。一方、介護分野で働く台湾人(結婚移民を含む)は2020年6月現在では合計6万人ほどしかおらず 、施設も家庭も外国人介護労働者に強く依存しているのが現状である6。介護施設は、運営継続のために、労働人材の確保が必要不可欠である。家庭雇用主も介護需要が存在している限り、外国人介護労働者への雇用需要は急にはなくならないと考えられる。毎月1000人以上の家庭外国人介護労働者の減少は家庭雇用主にかなりの影響を与えていると想像できる。

海外から新規外国人労働者を迎え入れることが難しいなか、家庭雇用主は労働部の方針に沿い、台湾にいる外国人介護労働者に労働力を求める傾向が強まっている。それにともない、労働者側から雇用主に雇用主変更を申し出るケースも増加している。インタビューした仲介業者S氏、インドネシア人労働者T氏とU氏はともにコロナ禍で家庭外国人介護労働者の雇用主変更の申し出が増えていると話す。T氏は友人の話しを聞いて、自らも雇用主変更を申し出たい気持ちが高まっているという。「コロナで新しい労働者が台湾に入って来られないから、今は雇用主変更をしやすい時期だ。友達は雇用主変更を申し出た次の日にすぐ新たな雇用先を見つけた」。

労働者が雇用主変更を申し出るのは、コロナ禍で初めて発生したことではない。外国人労働者は基本的に雇用主を変更することができないが、2006年と2013年の法改正で雇用主が労働者との雇用契約を解除したあと、煩雑な手続きがなくても、新たな外国人労働者を受け入れることが可能になった。一方、労働者も雇用契約の解除によって、別の雇用先で再就職することができるようになった。それ以降、仲介業者や各地方労工局が仲裁しにくい労使トラブルにおいて、雇用主に対して、雇用契約の解除、すなわち労働者の雇用主変更への同意を勧めることが増えており、労働者も自ら雇用主変更を申し出るケースが増加している。

近年、外国人介護労働市場が急速に買い手市場から売り手市場へ移行している。国際間の労働者確保競争が激しくなり、かつ少子高齢化の進行により介護需要が急増するなか、台湾はかつてのように容易には十分な量と質の外国人介護労働者を確保できなくなった。そのため、労働者は新しい雇用主を見つけることが容易になっている。コロナ禍で外国人労働者が海外から入りにくくなった今、売り手市場がさらに進んでいるようにみえる。

しかしながら、注意しなければならないのは、雇用主変更を申し出た労働者が必ずしも希望どおりにより良い条件の雇用先に移れるわけではないということである。まず、雇用主変更の最終決定権は依然として雇用主側にあるため、労働者は雇用主変更を申し出ても、雇用主の同意を得られない可能性がある。申し出により雇用主との関係が拗れて、かつ雇用主変更の同意を得られない労働者は強制帰国させられる可能性もある。

そして、仲介業者などの紹介がなければ、労働者は次の雇用先を見つけることが難しいうえ、再就職期間の60日以内に次の雇用先が見つからなければ帰国するほかない。再就職できても、新たな雇用先の条件や状況は必ずしも現在の雇用先より良いとは限らない。売り手市場への移行で労働者の選択の機会が増えているとはいえ、様々な選択リスクのなかで雇用主変更を申し出るべきかを悩む労働者が多い。先述したインドネシア人労働者T氏は雇用主変更をしたい気持ちが高まっているものの、実際には何も行動していない。

また、雇用主変更を選択した労働者は、その申し出の正当さを証明したいために、雇用者が労働者の不利益になる働かせ方をしている証拠を確保しようとすることが多い。一方、雇用主側には、元の労働者が再就職または帰国しなければ、新たな外国人労働者を受け入れられないという制限があるため、介護労働の担い手がいなくなる危惧から、労働者との雇用契約の解除を渋る雇用主が少なくない。また、自分に不利益な働かされ方をしている証拠を確保しようとする労働者に対して、雇用主も自身に非がないことを証明しようとする。それにより労使間の緊張関係が高まり、労使関係が泥沼状態になるケースが少なくない。雇用主変更を申し出たあと、その結果に不安や不満を感じる労働者が多く、それが原因で失踪するケースも多い。

外国人介護労働者の失踪問題

近年、年間2万人近くの外国人労働者が失踪している。なかでも介護労働者の失踪が目立っている。失踪問題は、制度的制限に加えて、労働者の経済的なプレッシャーや労働・生活への不満や不安など、複合的な要因で発生することが多いが、「失踪した後にも仕事がある」というのも労働者が失踪を「選択」する理由の1つである。外国人介護労働者が失踪した後にも家庭または病院で短期的な介護労働に携わる機会が多い。

家庭における短期的な介護労働需要の発生は、労働者の失踪や一時帰国、そして雇用主変更の期間で生じることが多い。病院介護は台湾の病院が入院患者の食事や排せつなどの身の回りのサービスを提供しない入院慣行に起因する。これらの短期介護労働需要が発生した際には要介護者の家族自身で担うか、または24時間の付き添い(住み込み)台湾人介護労働者(結婚移民を含む)を雇うしかない。しかし、台湾人介護労働人材の不足は深刻化している。結果、緊急的な介護労働需要で失踪者に介護労働力を求めるという非合法的な選択をする家庭が増えている。近年、失踪者の賃金が上昇し、合法家庭外国人介護労働者の賃金よりも高くなっている傾向がある。


新型コロナウイルス感染拡大の影響で新規外国人労働者が入って来られないために、労働者の雇用主変更がさらに活発になっている。そのため、失踪者に介護労働を求める動きもさらに強まっているとみられる。失踪してから十数年ずっと介護労働に携わってきたベトナム人女性W氏は、2020年10月から11月上旬まですでに3人の雇用主のもとで介護労働を提供してきた。「この頃は仕事が増え、人手がとにかく足りない」とW氏は語る

コロナ禍は転換ポイントになるか

コロナ禍で家庭外国人介護労働者の雇用主変更がこれまでよりも活発になっている。仲介業者S氏は、より良い条件を提示して労働者を確保しようとする家庭雇用主が増えているという。家庭外国人介護労働者の賃金はこれまで1万7000~1万8000元(約6万2900~6万6600円/1元=3.7円で計算、以下同様)であったが、直近では2万1000~2万8000元(約7万7700~10万3600円)となるケースさえある。また、賃上げのかわりに、休日の約束や介護以外の余分な仕事を頼まない約束を提示する雇用主も増えている。

仲介業者S氏は、コロナ禍で労働者が前よりも自分の権利を主張するようになったとも語る。インドネシア人労働者のU氏は、その1人である。U氏は経済的な理由から、これまでは休日を取れないことや大量の介護以外の仕事について、声を上げずに我慢していた。しかし、労働者の雇用主変更の増加にともない、U氏は8月以降、雇用主と交渉する証拠を集めはじめ、雇用主変更の申し出を準備した。U氏は、最終的に雇用主と直接に話し合うことができ、雇用主に介護以外の仕事が法律違反であることを納得させ、それらの仕事依頼を取りやめる約束を得た。「労働者は自分の権利を主張すべきだ。私は自分の権利を主張して勝ち抜いた」とU氏は誇らしげに語る。

仲介業者S氏は、2020年に政府の監査を受けた合法の仲介業者は約1300軒あるが、新規労働者が入って来られないなか、規模の小さい仲介業者が次々と閉業し、来年には1000軒以下になるのではないかと予測している。S氏はこの傾向を仲介業界の転機として捉えている。「仲介業は人と人をつなぐ仕事で、専門知識や高いコミュニケーション能力が必要なのだ。しかし、仲介業者のイメージが悪いなか、良い人材を集めにくく、誰でもやれる仕事と認識されることが多い。コロナで質の良くない仲介業者が淘汰されていき、仲介業の専門性やイメージをアップできることを期待している。労使双方が安心・安定できる、ウィンウィンな関係になれるようなサポートは今後の仲介業の要になると思う」。

S氏の希望どおりに、コロナ禍は労使間のウィンウィン関係作りや仲介業者の転機になるのであろうか。現在の制度的制限および介護環境のなかでは全般的な改善が難しいと考えられる。しかし、コロナ禍が続くなか、売り手市場の進行で労働者はこれまでよりも声を上げることが増え、雇用主も緊迫した介護労働需要で労働者の要望を聞き入れる姿勢を示すことが増えると考えられる。外国人労働者の仕事や生活の課題に対する社会全体の認識が高められれば、ウィンウィン関係になれなくても、せめて「共に生きる」となる新たな一歩を踏み出せる可能性がある。

(付記)本記事は JSPS 科研費 JP20H04415 の成果の一部です。

写真:日曜日の台北駅のロビー

日曜日の台北駅のロビーは外国人労働者の一つ大事な社交場・憩いの場であるが、コロナ対策で一時的に集まりが禁止された。
使用禁止の解除とともに外国人労働者も再び様々な活動で集まっている。
写真はNPO法人燦爛時光東南亜書店が毎週日曜日に設置する移動図書館に本を借りに来た2人のインドネシア人女性。
写真の出典
  • 2020年9月13日撮影、廖雲章さん提供
参考文献
  • 鄭安君(2019)「台湾の介護分野における外国人労働者受け入れに関する問題――労働者の労働・生活・行動と失踪問題の視点を軸に――」宇都宮大学大学院国際学研究科博士論文。
著者プロフィール

鄭安君(ていあんくん) 宇都宮大学国際学部附属多文化公共圏センターコーディネーター、相模女子大学・国際医療福祉大学非常勤講師。国際学博士(宇都宮大学)。専門は日本と台湾の移民社会分析。おもな論文に、「台湾における外国人労働者の失踪と失踪後の非合法介護労働――ベトナム人失踪者の事例による一考察――」『アジア・アフリカ研究』第58巻第1号(2018年)pp.1-21、「台湾における外国人介護労働者の失踪問題――制度的弱者のジレンマと「総弱者化」の進行」『移民政策研究』第12号(2020年)pp.148-164など。

  1. 在宅隔離は感染者と一定程度の接触があった人が対象者で、在宅検疫は海外から入ってきた人が対象者(GPS追跡付き)である。
  2. コロナの影響ですべてのインタビューはSNSを通して行った。仲介業者S氏は2020年7月16日と11月5日、インドネシア人労働者T氏は2020年9月17日、インドネシア人労働者U氏は2020年7月7日と8月14日と10月20日、ベトナム人失踪者W氏は2020年11月6日にインタビューした。
  3. 自由時報「武漢肺炎》疫情期間移工回國不能再返台 年限到期可延長3個月」(2020年11月15日閲覧)
  4. 仲介業者S氏インタビューより。
  5. 検疫ホテルの14日間の宿泊費1万500元と検疫費2000元を合わせて、合計1万2500元(約4万6250円、1元=3.7円で計算)の費用は、基本的に雇用主負担となっている。
  6. 自由時報「高教展望》全國照服員破6萬人 結訓後就業率逾7成」(2020年11月8日閲覧)

(2020年12月17日 誤字修正)