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コラム

中国貴州・ミャオ族の村々から

 
第3回 藍染の村(3)――支援する人々

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051967

2021年2月
(5,296字)

中国貴州省で藍染を生業とするミャオ族の人々が暮らす「藍染の村」では、地域特有の藍染文化に魅力を感じ、その稀少性に価値を見出した人々が、作品の作り手の生計手段を支える方策を共に探りながら、藍染文化の保存と継承を模索している。前回までのコラムでは、中国貴州省で藍染を生業とするミャオ族(第1回)や彼女たちの藍染作品を世界の市場とつなぐソーシャルビジネスの起業家(第2回)について紹介してきたが、第3回では「藍染の村」を支援する人々の試みをとりあげたい。貴州省では国や国際機関による貧困削減対策が重点的に行われてきたが、私たちが訪れた「藍染の村」では独自の草の根支援が行われている。

少数民族地域の貧困削減対策

地域・民族特有の文化を維持しつつ、いかにして人々の生活改善と地域の社会経済発展を図るかは、世界共通の課題である。近年の中国では、少数民族地域が集中する西部内陸地域に対して、国際協力も得て、インフラ建設をはじめとする経済開発を重点的に進めるとともに、農村に焦点をあてた様々な貧困削減対策が官民により行われてきた(厳2011)。そして2020年12月に開かれた中国共産党中央政治局常務会議では、現政権が掲げた貧困脱却の数値目標を予定どおり達成した、と宣言された。同時に同会議では依然として様々な課題が横たわっていることも指摘されたところである1

貴州省の農村地域を対象にした主な貧困対策事業としては、2014年から実施されている世界銀行の「貴州農村発展プロジェクト」が挙げられる。私たち研究チームは2017年8月に同プロジェクトに参画している現地の専門家とともにいくつかのサイトを訪れた2。そこでは果物や茶などの農産物だけでなく、藍染による伝統的な手工芸品を生産する家庭を組織した農民専業合作社3の設立を通して、農村住民の生計手段の確保と地域産業の発展を図るという試みがなされていた。また、合作社には貧困農家が8割以上参加しなければならないという条件も課されていた。世銀によると、2020年末時点で、対象地域の3市(畢節・遵義・銅仁市)11県に76の合作社が設立され、9万7451人の農民(うち55%が少数民族)が研修を受けたとされている。このプロジェクトは2021年までに総額1億4千万米ドルが投入されることになっている4

このように、世銀プロジェクトは、特定地域に多額の援助資金を集中投資するだけでなく、農民の組織化や農民間の格差にも配慮した農村貧困対策が盛り込まれたものとなっている。他方で専門家からは、意思決定や物資調達の手続きに時間がかかることや運転資金に融資できないなどの課題が指摘された。

写真1 世銀プロジェクトによる藍染の農民専業合作社に参加している農民

写真1 世銀プロジェクトによる藍染の農民専業合作社に参加している農民(貴州省銅仁市石阡県にて、2017年8月)。
花旗貴州手工業発展プロジェクト

その後、私たち研究チームは「藍染の村」が集まる黔東南ミャオ族トン族自治州丹寨県を訪問した。そこでは2010年以来、貴州師範大学自然保護・社区発展研究センターの任暁冬教授が率いる研究チームが、シティグループ(花旗集団)の財団組織であるシティ・ファウンデーションの資金援助を得て、現地政府、新聞社、企業、NGO、ボランティアら多様なバックグラウンドや立場の人たちとともに「花旗貴州手工業発展プロジェクト」として藍染の作り手に対する支援活動を行っている。

貴州師範大学のプロジェクトは対象地域が1県に絞られており、世銀のプロジェクトに比べて面的な広がりには欠ける。他方で以下に見るように、研究者とデザイナーらが作り手と一緒になって藍染作品の経済的・文化的価値の見直しを行いながら、作り手の立場に立ったバリューチェーンの再構築を通して、地域特有の民族文化の伝承を模索していることが特徴的である5

貴州師範大学プロジェクトの理論的支柱となっているのは、中国西南地域での参加型農村開発の経験が豊富なプロジェクトリーダー・任教授と、貴州省の少数民族村落で長年フィールドワークを行ってきた文化人類学者・王小梅氏である。任教授らはまず対象村落でのフィールドワークによって藍染手工芸品のバリューチェーン(本連載第2回を参照)の調査を行った(陳ら2018)。それにより藍染手工芸品の生産者組織は農民専業合作社に限らず、個人の家庭工房も含めた多様な組織体から成ること、藍染作品に対する市場ニーズが高まる一方で組織間、個人間で販路や収益の機会に格差があること、ブローカーによる中間搾取がみられることなどを明らかにした。また王氏は、ミャオ族による藍染の民間手工芸品の収集とその作り手の口述記録の整理を行い、藍染の図柄には、先祖代々の地域のミャオ族の人々が捕食してきた昆虫、魚類、両生類、動物や周りの野山に咲く花々、さらには神話に登場する龍や蝶々などが描かれていることを明らかにしている。

そもそも民間の手工芸品に描かれた図柄は印刷されたマニュアルがあるわけではなく、娘が母に寄り添って見様見真似で描きながら代々伝えられてきたものであり、その時々の彼女たちのイマジネーションで描かれたものである。つまり、過去から現在に受け継がれている伝統的なパターンの中に、一人ひとりの創意工夫があり、そこから一つ一つの作品が日々の生活や婚礼や祭りなどで使う手工芸品でありながら、唯一無二の芸術作品として、社会的、文化的、経済的価値が生まれるのである。他方で、エキゾチックで珍しい図柄を模倣した廉価な工業製品が市場に流通しており、藍染作品の伝統的価値を台無しにしているという問題もみられる。

写真2 (上):貴州九木和集文化伝播有限公司で商品開発された木琴のカバー。木琴は漢族が使うものであるが、カバーにはミャオ族の藍染模様の布地が使われている。(中):同公司の商品に付けられたタグ。作品と制作者の説明が書かれている。(下):同公司の工房に飾られた花旗貴州手工業発展プロジェクトに参加したミャオ族の人々の写真

写真2 (上):貴州九木和集文化伝播有限公司で商品開発された木琴のカバー。木琴は漢族が使うものであるが、カバーにはミャオ族の藍染模様の布地が使われている。(中):同公司の商品に付けられたタグ。作品と制作者の説明が書かれている。(下):同公司の工房に飾られた花旗貴州手工業発展プロジェクトに参加したミャオ族の人々の写真(すべて、貴州省貴陽市、2017年8月)。
地域の個性をまもり、外の世界とつなぐ

丹寨県の藍染の村が抱えているこうした問題に対応すべく、貴州師範大学チームは貴州九木和集文化伝播有限公司を立ち上げた。そこでは、藍染作品に対する国内外の市場の多様なニーズに対応すべく、ミャオ族の作り手とデザイナーが協力して伝統的な図柄を現代的な日用品に印刷するなど新たな商品開発に取り組んでいる。そして、作品の一つ一つには作り手のプロフィールや作品の背景説明を印刷したタグをつけて、制作者の知的所有権と作品の文化的価値をまもる試みを行っている。

また貴州師範大学チームのボランティアの一人、楊波氏は、貴州省の貧困農村での支援活動の経験をいかしてカメラを片手に対象地域の村々に足を運び、言葉の壁やノウハウがないことなどから藍染手工芸品の市場へのアクセスができていない作り手の発掘を行い、彼女たちの作品の写真をインターネットにプロフィールと連絡先付きで公開している6。これにより、ブローカーを介さずに、国内や海外の藍染作品の愛好者と直接つなぐことが可能であり、制作にかけた労力やデザインの稀少性などを基にした正当な価格での取引を促している。これもまた、藍染作品の作り手の立場に寄り添った藍染文化の維持と作り手の経済的支援を両立させる試みである。

さらに貴州師範大学チームは藍染作品の生産活動を行う村民の組織化に関する活動も行っている。世銀プロジェクトでも農民による生産者組織として農民専業合作社の設立支援が行われているが、貴州師範大学チームは地元政府が主導して結成した藍染手工芸協会の会員に対して独自のキャパシティ・ビルディングを行っている。私たちがプロジェクトの活動拠点となっている村を訪問した日には、チームの一人が協会副主任と数人の会員ら女性と建築士の男性を集めて、協会が利用している建物の間取りや使い方についてアイデアを出し合って村民ら自らが決められるよう議論を進めていたところであった。こうした村民の共有空間に関する小さな取り決めを自分たちで行うようになることで、村民の自治意識を高めていくことがねらいである。またメンバーの一人は、ミャオ族の藍染の村に観光客やブローカーがどんどん入ってくることで、地域の藍染文化やその背景にある民族特有の自然観や世界観が損なわれていくことを危惧していた。そこで、村の憲章を作り、外からの訪問者に対して憲章の理解と遵守を求めていくことも必要ではないかとも語っていた。

貴州師範大学チームによるこうした一連の取り組みは、ミャオ族の人々の潜在能力の発揮を通して地域の発展可能性を探ること7、そうして地域の内なる個性をまもりながら、外の世界とつないでいくことに重点がある。他方で省・県政府も伝統手工芸品の伝承人の認定や作り手の研修活動、学校教育での藍染文化の学習活動など、地域の民族文化を担う人々の裾野を広げていく試みを始めている。草の根支援活動を点から面に広げていくには、こうした政府の支援とも連携しながら、伝承と創造をもとにした地域の持続可能な発展を目指し、次世代にとっても魅力ある地域づくりのための協働が求められている。

写真3 花旗貴州手工業発展プロジェクトのサイトとなっている基加村の風景

写真3 花旗貴州手工業発展プロジェクトのサイトとなっている基加村の風景
(貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州丹寨県、2018年8月)。

写真4 (上):花旗貴州手工業発展プロジェクトのサイトとなっている基加村の活動拠点。(下):協会の建物の使い方について話し合う村人達と貴州師範大学チームのメンバー

写真4 (上):花旗貴州手工業発展プロジェクトのサイトとなっている基加村の活動拠点。(下):協会の建物の使い方について話し合う村人達と貴州師範大学チームのメンバー(すべて、貴州省黔東南ミャオ族トン族自治州丹寨県、2018年8月)。
写真の出典
  • すべて筆者撮影
参考文献

(日本語)

  •  厳善平(2011)「中国における農村貧困削減の取り組みと成果」竹歳一紀・藤田香編著『貧困・環境と持続可能な発展――中国貴州省の社会経済学的研究』晃陽書房所収。
  • 清水展(2017)「サステナビリティーからエリアケイパビリティー(AC)へ――地域資源の活用によるダイナミックな社会発展をめざして」石川智士・渡辺一生編『地域と対話するサイエンス――エリアケイパビリティー論』勉誠出版社所収。 
  • 藤田香・大塚健司・山田七絵・松永光平(2020)「地域資源をいかした持続可能なコミュニティ構築のための都市・農村間連携」『近畿大学総合社会学部紀要』第8巻第2号、39~70ページ。
  • 山田七絵(2020)『現代中国の農村発展と資源管理――村による集団所有と経営』東京大学出版会。

(中国語)

  • 陳燕・任暁冬・陳正府・穆柳梅(2018)「非物質文化遺産視角下郷村手工芸人的伝承現状、発展策略与市場推広――以貴州丹寨楊武鎮苗族蜡染為例」『西北民族大学学報(哲学社会科学版)』 2018年第1期、152~158ページ。
  • 王小梅(2015)『寨生:手上的記憶』貴州教育出版社。
  • 王小梅・王建萍(2013)『藍花叙事』貴州教育出版社。
著者プロフィール

大塚健司(おおつかけんじ) アジア経済研究所新領域研究センター環境・資源研究グループ長。環境学(博士)。著作に『中国水環境問題の協働解決論――ガバナンスのダイナミズムへの視座』晃洋書房(2019年)、『アジアの生態危機と持続可能性――フィールドからのサステイナビリティ論』(編著)アジア経済研究所(2015年)、中国環境問題研究会編『中国環境ハンドブック2011-2012年版』(共編著)蒼蒼社(2012年)など。

追記

本連載は、科学研究費助成事業基盤研究(C)「日本と中国の地域資源をいかした都市・農村間連携モデルと持続可能コミュニティの創出」(17K2055、代表者・藤田香、平成29年度~平成31年度)の成果の一部である。研究会で実施した現地調査の詳しい記録は、藤田ほか(2020)に整理した。

  1. 中共中央政治局常務委、貧困脱却堅塁攻略総括報告を聴取 習近平氏重要演説」『新華網』2020年12月4日(2021年2月12日アクセス)。
  2. 主な民族はグーラオ(仡佬)族であった(藤田ほか2020)。
  3. 農民専業合作社とは2007年に制定された農民専業合作社法に基づき工商部門に法人登録される生産者組合である(山田 2020, 78, 113-116ページ)。
  4. Summary of Guizhou Rural Development Project, The World Bank(2021年2月12日アクセス)。
  5. 同プロジェクトについては主に藤田ほか(2020)、王・王(2013)、王(2015)を参照。
  6. 楊波図文集—郷村芸術家」のサイトを参照(2021年2月12日アクセス)。
  7. 清水展らはアマルティア・センによるケイパビリティー論を援用して人間と自然の相互作用にもとづく地域の潜在能力を伸ばすための方策を「エリアケイパビリティー論」として議論している(清水2017)。