-
(2024年インドネシアの選挙)第7回 プラボウォ政権への移行期政治
/ 本名 純
2月の大統領選挙と議会選挙を経て、プラボウォ・スビアント新政権の誕生を10月に控えるなか、インドネシアの政治は約8カ月の長い政権移行期の最中にある。10年前のユドヨノ政権からジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)政権への移行は、7月に大統領選挙を行ったため、3カ月という短い期間であった。今回の移行期間は異例の長さであり、新たな政治力学を生む契機となっている。その展開は、プラボウォ政権の展望を大きく左右する。本稿は、今の移行期政治を特徴づける3つの政治的駆け引きを考察したい。第一に、ジョコウィの退任後の政治力の温存をめぐる駆け引き。第二に、プラボウォ政権の連立与党形成に向けた駆け引き。第三に、統一地方首長選挙を睨んだ駆け引きである。
2024/07/25
-
(2024年インドネシアの選挙)第6回 政治YouTuberの台頭とインドネシアの民主主義
/ 見市 建
ジョコ・ウィドド(ジョコウィ)大統領の2期10年が任期満了を迎えようとしている。2014年に「初の庶民出身」として大統領に就任したジョコウィは、経済開発の成果や頻繁な現場視察などによる国民へのアピールによって、高い支持率を維持し続けた。他方で、情報および電子取引法(ITE法)の濫用によって、ソーシャルメディア上で政府や大統領を批判した人物が逮捕されるケースが頻発するなど、自由な言論空間たる市民社会の活動が制限された。とくに大統領の側近であるルフット・パンジャイタン海事・投資担当調整大臣の資源ビジネスへの関与を批判した2人のNGO活動家が、2021年にITE法違反で刑事告訴された事件は象徴的だった(2024年1月8日に無罪判決)。アムネスティ・インターナショナルによれば、この事件を含め、2021年1月から12月の間に人権活動家に対する367件の起訴や逮捕、暴力、脅迫があり、そのうち100人以上がITE法違反で告訴されたという。こうしたことから、ジョコウィ政権の2期目には多くの研究者がインドネシアの民主主義は後退しているとみなすようになった。
2024/07/16
-
(2024年インドネシアの選挙)第5回 ティックトックの政治化は民主主義を空洞化するのか?
/ 岡本 正明・八木 暢昭・久納 源太
インドネシアの2024年大統領選挙においては、3組の正副大統領候補(アニス・バスウェダン=ムハイミン・イスカンダル、プラボウォ・スビアント=ギブラン・ラカブミン・ラカ、ガンジャル・プラノウォ=マフッド・MD)が出馬し、プラボウォ=ギブラン組が6割近い得票率で勝利した。プラボウォ=ギブランが、8割近い支持率を有する現職大統領ジョコ・ウィドド(以下、ジョコウィ)の後継者とみなされたことが勝利の一番の要因である。そもそも、副大統領となるギブランは、ジョコウィの長男である。法的には40歳以上しか正副大統領候補になれないにもかかわらず、ジョコウィの義弟が長官を務める憲法裁判所が地方首長経験者であれば例外を認めるという判決を下すことで、36歳でソロ市長をしていたギブランが副大統領候補になることができた。選挙キャンペーンでは、大統領活動資金のバラマキが行われ、国家機構にはプラボウォ=ギブランを支持する動きもあった。こうした司法・行政・国家財政の動員は、民主的に選ばれた大統領が民主主義の価値を掘り崩す動きとみなされ、一部の学生や知識人からは強い批判が行われた。しかし、こうした民主主義の衰退への懸念の高まりは、プラボウォ=ギブランのペアへの支持率を下げるほどではなかった。ギブランがプラボウォの副大統領候補となったことで、プラボウォの支持率が上がりさえした。
2024/07/01
-
(2024年インドネシアの選挙)第4回 ナフダトゥル・ウラマー新議長の「政治的中立」
/ 茅根 由佳
2024年2月に実施されたインドネシアでの大統領選挙は、大方の予想どおり、ジョコ・ウィドド(以下、ジョコウィ)大統領の支持を得たプラボウォ・スビアントの勝利に終わった。選挙戦も比較的平穏であった。宗教的アイデンティティが前面に出され、インドネシア社会の分極化が危惧された2019年選挙とは対照的な展開であった。
2024/06/21
-
-
-