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新興国発イノベーション

 
第2回 デジタル経済から労働者が得るものとは?(ウガンダ)

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051536

2020年1月
(4,194字)

アプリで呼ぶバイクタクシー

渋滞を避け狭い道でも縦横無尽にすいすいと走ることができるバイクタクシーは、東アフリカに位置するウガンダでは「ボダボダ」と呼ばれ、一般市民の交通手段として親しまれている。

今ウガンダの首都カンパラで、スマートフォンのアプリを使ってボダボダを探して行きたい所へ移動することは、ごく日常的になっている。利用者がアプリに行き先を入力すると、アプリは利用者に適したバイクタクシーを割り当てて、画面上に運賃やドライバーの評価を表示し、利用者はそれらの情報を確認してからオーダーを確定する。利用者はもう毎回面倒な値段交渉をしたり、行き先までの道順を説明したりする必要はない。支払いを電子決済で行えば、バイクタクシーのために小銭を財布の中に貯めておく必要もなくなった。そのうえ、キャンペーン時には割引価格が適用される。利用者がスマホユーザーであれば、配車アプリを使わない理由を探す方が難しいほどだ。

他方、バイクタクシーをオンラインにしたデジタル経済は、バイクタクシーの配車アプリを超えて、バイクタクシーのドライバーが抱える社会的課題を解決し、新たに社会的な付加価値を生み出している。

典型的なドライバーの課題

個人が簡単に始められる商売としてウガンダで人気が高いバイクタクシービジネスだが、ドライバーは様々な課題を抱えている。典型的な課題を3つ挙げると、1つ目は、お金を適切に管理できず客から得た運賃を私的に使ってしまう、運賃で顧客とトラブルを起こしてしまうというような労働者の「金融規律」に関するものである。2つ目は、利用客を運んだ先で必ずしも戻り客を得られず非効率であること、また借用バイクを使い損料を支払うために儲けが少ないという「ビジネスモデル」に関する課題である。少ない儲けではバイク保険にも加入できないため、事故にあった場合には何の補償もなく、事故と同時に収入手段を失ってしまうドライバーも多い。3つ目は、時間や約束、交通安全ルールを守るといった一人前の社会人として働くために必要な基礎的能力が低く、能力を上げる機会にも恵まれていないという「実践的な就業能力」の課題である。

これらの課題は、デジタル経済をきっかけに改善されたのだろうか。先進国のオンライン配車サービスでは労働者の権利にかかわる負の課題に関心が集まっているが、これはウガンダにはあてはまらないのだろうか?

写真1 カンパラ市内を走るバイクタクシー「ボダボダ」

写真1 カンパラ市内を走るバイクタクシー「ボダボダ」(2018年撮影)
ギグエコノミーがもたらすのは搾取か恩恵か?

オンラインのバイクタクシードライバーのように、オンラインプラットフォームをベースとした単発での働き方を可能にした経済形態は、ギグエコノミーと呼ばれる。この経済の中で働く労働者はギグワーカーと呼ばれ、企業と直接雇用契約を結ばずに働く。労働時間や働く場所を自由に選べるなど柔軟な働き方ができる一方で、ギグワーカーの賃金は低く、社会保障や労働組合の支援を受けられず社会から孤立しているケースも多い。このため、プラットフォームを運営する企業が低賃金で労働者を使用し不当に利益を得ているのではないかという危惧もある。

米国カリフォルニアでは、ギグワーカーの典型とされるUberやLyftのドライバーは個人事業主としてプラットフォームを利用する立場であり、これら企業の従業員ではないため、企業がドライバーの労働者としての権利を保障する責任を負わないことが問題となっている。また、ドライバーは個人事業主として配車サービスを利用しているとされるが、実際には配車サービスのドライバーとして専属的に働いていると指摘されている。

これを受けてカリフォルニア州政府は、ドライバーとして働く労働者の権利や福利厚生を守るための制度を整える方向に動いている。同州知事は、UberやLyftのドライバーは実質的には企業の従業員と同等の働き方をしており、企業から有給休暇や健康保険料や労災手当等の福利厚生および最低報酬の保証を受ける権利があると述べた。そして同州知事は、2019年9月18日にオンラインプラットフォームを運営する企業が労働者を個人事業主として外部委託契約を結ぶ際の条件を厳しくする内容のカリフォルニア州議会法案第5号(AB-5)を承認した。AB-5は2020年1月1日に施行される予定である。

このように、政策によってギグワーカーの労働者としての権利を守る必要があるという議論が、先進国を中心に高まっている。しかし、米国とアフリカのケースを比較すると、労働者が社会で置かれている状況によって、搾取されているのか、恩恵を受けているのかは違ってくるようだ。アフリカでは、先進国とは社会環境が異なり、労働安全衛生、労働基準などの法制度や実施・監督体制が整っていない。このため、安定した雇用契約が結ばれず、適切な福利厚生や労災の際の補償が受けらないインフォーマルセクターの比率が高い。ILOによるとサブサハラアフリカ地域では、労働者人口の66%がインフォーマルセクターで働く。とりわけ、ウガンダのインフォーマルセクターは、労働者全体の87.2%、若年労働者の91.9%を擁し、GDPの50%以上を担うほどに経済への影響が大きい1

しかし、ウガンダ歳入庁の2016年のデータによると、インフォーマルセクター労働者の収入は低く、約8割は貧困を抜け出せるほどに稼ぐことができない。彼らが持続的に働き貧困から抜け出すレベルに達するためには一定水準の教育や就業経験から培われた能力が求められるが、インフォーマルセクターで働く労働者の教育水準は54.5%が初等教育以下、実務経験を有するのは29%と低く研修機会にも乏しい。このような社会環境でバイクタクシービジネスに求められることは、労働者が働き続ける機会の提供と労働経験を通じた能力向上なのである。

デジタル経済で改善する労働者の能力

ウガンダでは、デジタル経済によって立つバイクタクシーに関連した社会的企業が、ドライバーが継続的に働き続けるために必要なスキルを獲得する機会を提供している事例が見られる。それらのビジネスは、冒頭で挙げた金融規律、ビジネスモデル、実践的な就業能力という3つの課題について、どのように改善を促したのだろうか。

バイクタクシー版の配車サービスのSafeBodaは、これまで道ばたで客待ちをしていたドライバーをオンラインのプラットフォームにつなげた。ギグワーカーとして働くようになったドライバーは、アプリ上で乗客を探すようになったことで仕事の効率が上がり、その結果収入が増え、ビジネスモデルが改善した。また、SafeBodaは事前研修やモバイルマネーの活用を通じてドライバーに資金管理の方法を教え、交通安全教育などを行うことを通じて、お金の管理や交通マナーなどに関するドライバーの実践的な就業能力を改善した。

写真2 ドライバーと乗客の両方がヘルメットを被るSafeBoda(左)と被らないボダボダ(右)

写真2 ドライバーと乗客の両方がヘルメットを被るSafeBoda(左)と被らないボダボダ(右)(2019年撮影)

デジタル経済を活用したマイクロファイナンス事業を行うTugendeは、ドライバーに対してバイクを信用販売している。ドライバーが日々バイクオーナーに損料として払っていたお金に僅かな付加分を足せば、自分のバイクを購入できる仕組みである。Tugendeは、債権回収にモバイルマネーを活用して効率的かつ堅実なものにすることで、信用力が低いためにこれまでは借金ができなかったドライバーへのサービス提供を可能にした。同時に、ドライバーにお金の教育を行い彼らの金融規律の課題を改善し、スムーズな借金の返済を促した。債務履行期間の終了後にはドライバーの儲けを増やしビジネスモデルを改善する。

オンデマンド型の配達サービスを、元バイクタクシーのドライバーが中心となって行うPink Tieは、バイクタクシーのドライバーに新たな就業の選択肢と、彼らが持続的に働き続けるために必要な社会人としての基礎的な能力を得る機会を与えた。Pink Tieは、ドライバーが商品を決められた場所に時間どおりに届けて料金を回収するような能力をOJTで養い、金融規律や実践的な就業能力の課題の改善を促した。また、同社は報酬の基準と内容に透明性を持たせて決められた期日に支払うほか、経営者が労働現場で常にドライバーと対話できる体制を整えた。これによってドライバーのロイヤリティを上げ、基礎的能力の向上を助けた。そして、スマホアプリを活用した配達システムは、Pink Tieのビジネスモデルの効率化を支えた。

3社の事例はデジタル経済が直接的にバイクタクシー産業に従事する労働者の所得や業務の質や効率を改善するだけではなく、デジタル経済によって立つ事業プロセスを通じて、間接的に彼らのお金に関する知識や働くための基礎的な能力の向上を促したことを示す。教育レベルが低くトレーニングを受ける機会にも恵まれないインフォーマルセクターで働く労働者が、金融規律や実践的な就業能力を高められたのは、デジタル経済の副次的効果であろう。これによってドライバーは、仕事の持続性を高めることができた。ウガンダのような開発途上国においてデジタル経済は、その副次的効果により労働者の働く環境を改善し、彼らの能力の向上を助け、ひいては持続可能なビジネスに必要な働き方を推進することが期待できるのではないだろうか。

写真の出典
  • すべて著者撮影。
著者プロフィール

井上直美(いのうえなおみ) 東京外国語大学現代アフリカ地域研究センター特別研究員。専門は持続可能な経済開発と企業行動、ビジネスと人権、アフリカ地域。主な著作は、"Digital economy and development: An empirical study on motorcycle driver jobs in Uganda," IDE Discussion Papers. No.753. March 2019. 「ダイアモンドの利益はどこに――シエラレオネで弱者の声に耳を傾ける」『国際開発ジャーナル』750号(2019年)など。

  1. 数値の出典はILOおよびウガンダ統計局。