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コラム

文化ののぞき穴

 
第17回 「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」考――日本企業と台湾企業が手を組んで生み出した新しいエンターテイメント

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00052159

2021年6月

(8,724字)

4月からTOKYO MXなどで、「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」のTVシリーズ第3期を放送している。これは日台合作の人形劇だ。ゲーム等のコンテンツを制作する日本の株式会社ニトロプラス(以下、ニトロプラス社)の虚淵玄(敬称略、以下同じ)が原案・脚本・総監修を担当し、台湾の霹靂国際多媒体股份有限公司(以下、霹靂社)が操演と撮影を行っている。
台湾の布袋戯と日本のシナリオライターの出会い

霹靂社は、布袋戯(台湾語1でポテヒ。標準語ではプタイシ)2という台湾の伝統的な手遣い人形劇を制作している企業だ。侯孝賢監督の映画「悲情城市」を観たことがある方は少なくないと思うが、そのなかで独特の存在感を放っていた主人公の祖父を覚えているだろうか。演じていた李天禄は布袋戯の国宝級の名人であった。侯監督は次作の「戯夢人生」で、李の若き日を描いている。

布袋戯は元々、廟などで上演され、台湾で広く愛されていたが、テレビなど他の娯楽が普及すると、興業が商業的に成り立つのは難しくなっていった。楊力州監督が2018年に発表した「紅盒子」3は、李を継いだ息子の陳錫煌を10年にわたって追ったドキュメンタリー映画である。それは現在、布袋戯が置かれた困難な状況を伝えている。

しかし、新しい時代に適応した布袋戯もあった。それが霹靂社の制作する霹靂シリーズである。布袋戯のテレビ放送の始まりは、1962年の李天禄の「三国志」であった。1970年、雲林県虎尾鎮の真五洲掌中劇団を率いる黄俊雄が制作し、台湾テレビで放送された「雲州大儒俠」は、97%に達するという空前絶後の視聴率を獲得した。しかし、1973年に政府の命令によって放送は中止されることになった。生産活動に支障を来すということが中止の理由とされたが、黄自身によれば、「雲州大儒俠」は台湾語を用いていたため、中国語の使用を推進する政策、言い換えれば台湾語などの方言の使用を抑制する政策と矛盾するということから、政府はテレビ局に脚本を審査するように求めた。結局、脚本が審査を通ることはなく、やむなく放送の中止に至ったという4

1980年代になって規制は解除されたが、テレビの地上波放送ではなく、レンタルビデオと「第四台(第4チャネル)」と呼ばれた有線テレビが布袋戯の新たな舞台となった。黄俊雄の息子の強華・文擇兄弟は霹靂シリーズを制作し、多くのファンを獲得していった。素還真など主要な登場人物は、日本のウルトラマンやドラえもんのように、台湾では誰でもが知っているキャラクターとなっている。黄強華らは1996年に大智育楽社を設立し、2000年に霹靂国際多媒体に改名、2013年に株式を店頭公開した。

霹靂シリーズは布袋戯の伝統を継承しつつ、時代に合わせて新しい要素を加えていった。特にアクションの激しさが特徴になっている。火薬が炸裂し、砂塵が舞い、血飛沫が飛び交う。宙を飛ぶシーンでは、人形が放り投げられることもある。編集映像にCGも加えられる。ニトロプラス社の代表取締役の小坂崇氣(以下、でじたろう)は、特撮に近いと感じたという5。確かに激しいアクションシーンは、仮面ライダーなどを彷彿させるところがある。

一方、日本側の虚淵玄は現在、ゲームやアニメなどの分野で最も注目されるシナリオライターのひとりである。代表作のひとつである「魔法少女まどか☆マギカ」は、2000年以降の日本のアニメの頂点のひとつをなしている。なかでも神回と言われた第10話は、関東地区での放送予定が2011年3月12日の午前1時55分、つまり東日本大地震の直後であったことから延期となり、よりいっそう伝説的な作品となった。延期された最終回までの3話が同年4月25日に放送されるにあたって、4月21日の『読売新聞』には全面広告が載せられた。

虚淵はほかにも、「PSYCHO-PASS サイコパス」や「翠星のガルガンティア」といった多くのアニメの原案や脚本を手掛けている。アニメだけではなく、特撮ドラマの「仮面ライダー鎧武/ガイム」の脚本を担当したり、TYPE-MOONのゲーム「Fate/stay night」の前日譚である小説『Fate/Zero』を執筆したりしている。その虚淵が布袋戯の脚本を書いたとなると、台湾に関心を持つものとして注目せずにはいられない。

虚淵と霹靂社が出会ったのは2014年である。サイン会のために台湾を訪れていた虚淵は、たまたま近くで開かれていた霹靂社のイベントで布袋戯を目にし、一目で魅了され、帰国後、霹靂社に連絡をとった。一方、霹靂社の側からも、新聞記事で虚淵がイベントを観たことを知ってアプローチがあった。霹靂社のなかに、虚淵のファンがいたのである。こうして両者は意気投合し、共同制作へと発展していった。

「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」の世界

物語は東離と西幽という2つの国からなる架空の世界で繰り広げられる。中国の武侠小説や武侠映画の雰囲気が色濃く漂うが、日本のアニメなどで描かれてきた世界とも通じるところが少なくない。

主人公は凜雪鴉(リンセツア)と殤不患(ショウフカン)の2人である。凜は幻術を操り、狡知に長け、常に優雅に振る舞う。その正体は悪党の驕りを打ち砕くことを喜びとする大怪盗だ。殤は皮肉や憎まれ口を叩きつつも、義に篤く、情にも厚い。腕っぷしは滅法強い。元々は西幽の人間だが、龍などが棲み、200年来、人の往来を阻んできた鬼歿之地を越えて東離にやってきた。

写真1 凜雪鴉(リンセツア)

写真1 凜雪鴉(リンセツア)
写真2 殤不患(ショウフカン)
写真2 殤不患(ショウフカン)

ネタバレにならない程度にこれまでのストーリーを紹介すると、2016年7月から9月に放送されたTVシリーズ第1期では、仙界から教えを授けられて造り出され、魔族を打ち破るほどの強い力を持つ天刑劍をめぐって、物語は繰り広げられる。話は玄鬼宗という無頼の衆を束ねる蔑天骸(ベツテンガイ)が、天刑劍を守る丹衡(タンコウ)を襲って殺害し、その柄を奪うところから始まる。鍔を守る丹衡の妹の丹翡(タンヒ)は危ういところを、凜と殤に助けられる。柄を取り戻すべく、2人は丹翡とともに蔑の拠点の七罪塔に向かう。

写真3 蔑天骸(ベツテンガイ)

写真3 蔑天骸(ベツテンガイ)

2018年10月から12月に放送されたTVシリーズ第2期は、殤が持つ、異能を秘めた劍を封じた魔剣目録の争奪劇だ。殤から目録を奪おうと、捕吏だが裏では私欲で動く嘯狂狷 (ショウキョウケン)や、邪教神蝗盟の教祖・禍世螟蝗(カセイメイコウ)の門弟の蠍瓔珞(カツエイラク)が、西幽から東離にやってくる。中盤では、人の精神を操り、殺人へと駆り立てる魔剣・七殺天凌(ナナサツテンリョウ)が目録から解き放たれ、それに魅せられた諦空(テイクウ)という僧は婁震戒(ロウシンカイ)という冷酷な剣鬼に変貌する。

現在、放送中のTVシリーズ第3期には、凜や殤はもちろん、七殺天凌や婁も引き続き登場する。さらに神蝗盟や魔界の新しいキャラクターが加わる。

日本と台湾の結合が創り出す新しいエンターテイメント

虚淵は霹靂社の布袋戯を観て、こんな面白いものを知らないのは「もったいない」と思い、はじめはそのまま日本に紹介したいと考えた。しかし、日本と台湾では、放送の枠組みや視聴者の好みに違いがある。そのため、まず布袋戯を「布教」しようと、日本のマーケットの性格を考慮に入れた新作を制作することになった。それが「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」である。

日本人には、「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」は武侠物の世界観を採り入れているようにみえるが、霹靂社の黄亮勛(インタビュー時副総経理、現総経理6。黄強華の子)によると、元来の布袋戯とはかなり違った物語になっているという7。布袋戯の物語は中華の伝統的な価値、特に「江湖的恩怨情仇(渡世の恩讐と愛憎)」の上に成り立っている。属する派閥や師弟関係が重要である。多数の人物が登場し、その多くには布袋戯を含む伝統的な芸能のなかに原形となる人物の類型がある。それに対して、「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」の物語はよりシンプルで、価値観や人間関係はより現代的になっている。

写真4 霹靂社の黄亮勛総経理(2019年3月)

写真4 霹靂社の黄亮勛総経理(2019年3月)

また、ニトロプラス社のでじたろうによると、霹靂社が元々つくっていた布袋戯とは視聴の枠組み、科白の語り手、キャラクターデザインに違いがある。日本では地上波のテレビ放送が基本になる。通常、1週間に1話30分ずつ、3カ月間に12~13話あるいは半年間に24~25話、放送される。一方、霹靂社の布袋戯はレンタルビデオや有線テレビを通して視聴され、1話が70分と長く、全体も長編だ。日本で放送する以上は、そのフォーマットに合わせる必要があった。上で述べたような物語のつくりが元々の布袋戯と異なることになったのも、ひとつには日本の放送枠に合わせるためである。

写真5 ニトロプラス社のでじたろうこと小坂崇氣代表取締役と凛雪鴉󠄀(2018年8月)

写真5 ニトロプラス社のでじたろうこと小坂崇氣代表取締役と凛雪鴉󠄀(2018年8月)

布袋戯では、1人の「口白師」がすべての登場人物の科白を担当する。それに対し、「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」ではアニメと同じように、人物ごとに異なる声優が演じている。凜役と殤役は、鳥海浩輔と諏訪部順一という経験と実力を備えた中堅声優だ。2人の演技によって、凜の飄々として捉えどころのないところや、殤の武辺者として質朴ともいえる性格がよく伝わってくる。

ほかにも第一線の声優が並ぶ。蔑を演じるのは、「ドラえもん」のスネ夫役や「のだめカンタービレ」の千秋真一役で知られる関智一だ。関は虚淵作品のひとつ、「PSYCHO-PASS サイコパス」では、主人公の狡噛慎也を演じた。「まどマギ」で愛らしく、泣いてばかりいるまどかを演じた悠木碧は七殺天凌の声を当てている。婁の鬼気迫る狂気を表現するのは、「エヴァンゲリオン」で謎めいた少年・渚カヲルを演じた個性派の石田彰だ。「鬼滅の刃」で主人公の竈門炭治郎を演じた花江夏樹は、神蝗盟の一員で、尊大に振る舞うが軽薄なところもある異飄渺(イヒョウビョウ)役で出演している。

キャラクターデザインは、ニトロプラス社のグラフィッカーの面々が、霹靂社のこれまでのデザインに「インスパイアされながら」(でじたろう)行った。布袋戯の人形のデザインは、日本人の目からすると、少々、恐ろしげで、すぐには親しみにくいところがある。そのため、日本人向けにやや丸みを帯びたデザインに直している。人形の制作は霹靂社が行った。フィギアなどを制作しているグッドスマイルカンパニーも、造形アドバイザーとして監修に加わっている。武器は霹靂社側がデザインしている。

そのほか、音楽も日本のアニメの要素が加えられた部分だ。澤野弘之がTVシリーズ第1期から担当している(第2期から和田貴史が、第3期からKOHTA YAMAMOTOが加わる)。澤野は「進撃の巨人」をはじめ、多くのアニメに楽曲を提供している売れっ子だ。澤野らの音楽は物語に独特の奥行きを与えている。

すべての主題歌は、T.M.Revolution名義を含め、西川貴教が歌っている。布袋戯の画像と西川の歌唱が合体したオープニングは、それ自体、見応えがある。西川の起用は虚淵のたっての希望からだった8。西川は大のアニメ好きとして知られ、これまでも「機動戦士ガンダムSEED DESTINY」や「革命機ヴァルヴレイヴ」(水樹奈々とのデュエット)など多くのアニメの主題歌、いわゆるアニソンを歌ってきた。西川はTVシリーズ第2期から登場する、殤が西幽で相棒としていた浪巫謠(ロウフヨウ)の声も当てている。浪は劇場上映作品の第2弾となる、西幽時代の前日譚を描いた「Thunderbolt Fantasy 西幽玹歌」の主人公でもある。

このように日本のアニメから種々の要素が加えられているが、土台は布袋戯の演技やそのほかの演出だ。人形の巧みな操作から生まれる微妙な感情の動き、激しいアクションが生み出す躍動感こそが、「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」の魅力にほかならない。CGも演出の一体性を考慮し、霹靂社側が担当した。

虚淵らも布袋戯独特の表現に対して、アニメなどとは違う新鮮な面白さを覚えたのである。でじたろうによれば、例えば布袋戯はパペットにもかかわらず、足があるかのような映像がつくられている。それは「人形の限界」に挑んだ「攻めた映像」だと感じている。

同時に、「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」は霹靂社の革新的な部分だけでなく、布袋戯の伝統も大切にしている。それは「念白」を採り入れていることに現れている。念白とは、布袋戯で人物の登場時に行われる詩の詠唱である。例えば、凜の登場では次のような念白が行われた9


「幽夜匿形不謂隱,明光伏影是迷觀。虛實由來如一紙,誰識幻中吾真顏?」

日本語訳――闇に潜っての画策は忍びの技とは言えぬ、光の中で人の目を惑わせてこそ真の力なり。虚実の境は紙一重、幻惑の裏の我が素顔を誰が見抜けるだろうか?


台湾の布袋戯同様、台湾語で唱えられる。台湾語なので、日本の視聴者に対しては人物の紹介としては役に立たないが、布袋戯の趣を醸し出すには欠かせない。日本のエンターテイメントの一部で台湾語が使われていることに、ちょっとした小気味よさを感じる。

コンテンツ産業における日本と台湾のアライアンスの可能性

「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」は、コンテンツを制作し、運営するというビジネスにおける日本と台湾のアライアンスの成果である。最後にこの面から考察を試みる。

上で述べたように、現在は「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」の第3期を放送している。ニトロプラス社と霹靂社のプロジェクトでは、これまでテレビ版の本編のほかに、劇場上映作品として、第1シーズンの東離における前日譚と後日譚を描いた「Thunderbolt Fantasy 生死一劍」と、前述の「Thunderbolt Fantasy 西幽玹歌」が公開されている。また、コミカライズやノベライズも行われ、グッドスマイルカンパニーのねんどろいどなど種々のキャラクターグッズがつくられている。興味深いところでは、2018年に宝塚歌劇によって舞台化され、台湾でも上演された。

黄によれば、日本のアニメの要素を取り入れた新しい試みは、台湾でも受け入れられ、評判は上々だということだ。中国大陸やアメリカでも配信されている。中国ではアニメの愛好者に視聴され、日本や台湾以上に好評だという。

TVシリーズ第3期が放映・配信されていることから、「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」はビジネスとしても成り立っているとみてよいだろう。オリジナルのアニメ作品が第3期まで制作されることはさほど多いことではない。また、台湾での報道によれば、第1期は製作費6000万元(2億円あまり)を回収し、霹靂社の株価の上昇にも貢献している10

今まで日台間のビジネスアライアンスの議論は、主に製造業や流通業を対象としてきた。それはコンテンツ産業にも当てはまるのかどうか、以下では考えてみたい。

日本と台湾に限ったことではないが、ビジネスアライアンスが成立し、成功するための重要な要素は、パートナー間の補完関係と信頼である。例えば1990年代以降、中国における日台間のビジネスアライアンスが注目されるようになったが、日本企業からみると、台湾企業は言語をはじめとする特有のアドバンテージを持っていた。一方、台湾企業が日本企業に対して期待したのは技術である。また、多くの場合、日本企業と台湾企業は中国進出に先立って、台湾において長く共同で事業を営み、それを通して強い信頼を育んでいた。それが中国での共同事業を営むうえでも、重要な役割を果たしたと考えられている。

「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」の場合、補完というよりも、日本と台湾の文化が互いの違いを認識し、尊重しながら結合することで、新しいスタイルのエンターテイメントが創造されたということができよう。まず土台として台湾の伝統的な布袋戯があり、それはさらに霹靂社によって時代に合わせた革新が行われていた。それに虚淵の脚本、声優の演技、キャラクターデザイン、音楽とアニソンといった、日本のゲームやアニメの発展のなかで蓄積されてきたリソースが注入された。はじめは日本の視聴者を布袋戯に誘うためのポータルという位置づけだったかもしれないが、結果として生み出されたのは新鮮な魅力を持ったコンテンツである。でじたろうも、ほかの誰もつくれない、「唯一無二の」作品になったと自負している。

信頼という点では、虚淵をはじめとする日本側と台湾の霹靂社はお互いを強くリスペクトしている。このような相互のリスペクトが成り立つのは、共通の基盤があるからだ。霹靂社が布袋戯を時代に合わせたものに作り変えていくとき、海外の大衆文化の影響を受けている。そのなかにはハリウッド映画のように、日本のアニメに影響を与えたものもある。同時に、日本のアニメなどもまた影響を与えている。霹靂社の布袋戯のなかには、「スラムダンク」の桜木花道を模した人物もいる。こういったバックグラウンドの共有があるので、お互いに相手の面白さを理解することができるのである。

もちろんすべてがスムーズだったわけではない。「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」の制作は、様々な次元での違いを相互に理解していく過程でもあった。例えば、日本のアニメの多くは、関係する企業等によって製作委員会が組織され、制作を含むコンテンツの運営の主体となるが、これは日本のアニメ特有の方式で、台湾にはない。そのため、霹靂社側はそれを理解するのに苦労したという。

また、でじたろうによれば、霹靂社とニトロプラス社では宣伝の考え方が異なっていた。霹靂社は宣伝のイベントで、その場のインパクトを重視し、参加者に作品の多くの部分を見せようとする。一方、ニトロプラス社は実際に作品を観た時のインパクトをより重要と考え、イベントではある程度、伏せようとする。異文化を結びつけようと試みる以上、こういった衝突は避けられない。「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」が示しているのは、むしろ違いがあってもそれは乗り越えられることである。

このように、「Thunderbolt Fantasy 東離劍遊紀」から、コンテンツ産業において日本と台湾の共同制作の可能性が広がっていることがみえてくる。さらに言えば、東アジアや東南アジアにおいて、異なる文化の伝統が映画、テレビ、ネットなどなどを通して共有された経験に基づきながら融合し、新しいエンターテイメント・コンテンツが生まれうることを示唆しているともいえよう。

写真の出典
  • 写真1~3 ニトロプラス社提供。
  • 写真4、5 筆者撮影。
参考文献

(日本語 五十音順)

  • 佐藤幸人(2014)「東アジア経済の変動と日台ビジネスアライアンス」『東洋文化』(94): 121-145。
  • 志田英邦(2017)「ロングインタビュー 虚淵玄」『ダ・ヴィンチ』24 (12): 170-177/184-189。
  • 太秦 (2019) 『台湾、街かどの人形劇』(パンフレット)。

(中国語 ピンイン・アルファベット順)

  • 劉時泳ほか(2009)「霹靂布袋戯之文化産業研究」『聯大學報』6 (2): 165-188。
  • 呉明徳(1999)「開創布袋戯新紀元――論『霹靂布袋戯』的藝術成就――」『中國工商學報』(21): 39-71。
  • 葉嘉中(2015)「臺灣布袋戯的發展現況與未來展望」『有鳳初鳴年刊』(10): 273-295。

(ウェブサイト)

著者プロフィール

佐藤幸人(さとうゆきひと) 新領域研究センター上席主任調査研究員。経済学博士。主な研究テーマは台湾および東アジアの産業発展と台湾の経済社会。著書は『韓国・台湾の発展メカニズム』(服部民夫との共編著/アジア経済研究所 1996年)、『台湾ハイテク産業の生成と発展』(岩波書店 2007年)、『蔡英文再選――2020年台湾総統選挙と第2期蔡政権の課題――』(小笠原欣幸らとの共著/アジア経済研究所 2020年)など。

  1. 台湾語は元々、福建省南部の方言。「福佬語」「閩南語」とも言われる。
  2. 「Thunderbolt Fantasy Project」総合公式サイトでは、「布袋劇(ほていげき)」としている。
  3. 日本では2019年に「台湾、街かどの人形劇」のタイトルで公開された。英語のタイトルは「Father」。
  4. 『自由時報』2009年7月9日。
  5. 2018年8月14日のニトロプラス社でのインタビュー。
  6. 総経理は日本の社長、副総経理は副社長に相当する。
  7. 2019年3月12日の霹靂社でのインタビュー。
  8. 「Thunderbolt Fantasy Project」総合公式サイト。
  9. 「Thunderbolt Fantasy Project」総合公式サイト。
  10. 『經濟日報』2020年1月2日。
【連載目次】

文化ののぞき穴