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文化ののぞき穴

 
第2回 リメイク版「101回目のプロポーズ」にみる中国結婚事情

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050301

2018年3月

写真:林志玲(リン・チーリン)

映画紹介:「101次求婚」

監督・陳正道、主演・林志玲(リン・チーリン)、黄渤(ホアン・ボー)、武田鉄矢(友情出演)。2013年2月13日から中国、台湾、日本で順次公開。

1980年代以前生まれの読者ならば、1991年に大ヒットしたテレビドラマ「101回目のプロポーズ」をご記憶ではないだろうか。あるいは同ドラマの主題歌、CHAGE&ASKAの「SAY YES」なら知っているかもしれない。このドラマはバブル期に流行したトレンディ・ドラマの系譜上にありながら、若く美しいヒロインの矢吹薫(浅野温子・演)の相手役に、お見合い99連敗中の冴えない中年男性・星野達郎(武田鉄矢・演)を配することで、コメディの要素が加味されたやや異色の作品であった。これまでに韓国と中国でリメイク版のテレビドラマと映画が製作されており、日本と同様にお見合い文化のある東アジアで人気の作品となっている。本稿では2013年の日中合作映画「101次求婚」(以下、「リメイク版」)を題材に、中国の結婚事情について考えてみたい。

まずは原作のあらすじを簡単に振り返っておきたい。ヒロインの薫は都内のオーケストラのチェリストで、3年前に婚約者を交通事故で亡くしている。トラウマのせいで恋愛に消極的な薫をなんとか立ち直らせようと、母親が勝手に仕組んだお見合いで出会ったのが、建設会社の万年係長、達郎であった。達郎は地方(福岡)出身で早くに母親を亡くし、年の離れた大学生の弟・純平(江口洋介・演)の親代りを務めてきた苦労人である。薫に一目ぼれした達郎は猛烈にアプローチするが、元婚約者を忘れられない薫には最初全く相手にされない。やがて純平、薫の妹の千恵(田中律子・演)や友人の桃子(浅田美代子・演)の応援もあって二人の距離は徐々に縮まり、達郎の誠実な人柄と一途な愛情に薫も心を開くようになっていく。ところが、達郎の新しい上司として薫の元婚約者と瓜二つの男性・真壁(長谷川初範・演)が現れると、薫は彼に心を奪われてしまう。会社も辞め、全てを失った達郎は彼女をもう一度振り向かせるために最後の賭けに出る・・・。

リメイク版も基本的な設定と筋書きは同じだが、国情や時代背景を反映して細部が微妙に異なっている。ヒロインは上海のオーケストラのチェリスト、葉薫(林志玲・演)、相手役は上海で小さな内装会社を経営する山東省出身の中年男性・黄達(黄渤・演)である。葉薫は計画生育(いわゆる一人っ子政策)が始まった1979年以降生まれとみられ、兄弟姉妹は登場しない。おそらくは上海の裕福な家庭で育ち、日本に留学経験があり、お洒落な広いマンションで一人暮らしをしながら、ホワイトカラー層の友人たちと交際している。3年前に元婚約者が交通事故に遭った直後行方不明となっており、喪失感を抱えている。一方の黄達は、地方出身の内装工たちを束ねる「包工頭」と呼ばれる下請業者で、誠実で面倒見がよく仲間たちから慕われている。とはいえ、中国の大都市では彼のような地方出身の出稼ぎ者のおかれた立場は弱く、不安定である。このことは、黄達が発注元の建設会社に工事代を踏み倒されそうになる場面にも表現されている。中国のネット上では、葉薫をホワイトカラー、高収入、整った容姿と三拍子そろった典型的な「白富美」(かつて日本で言われた「三高」の女性版に相当)、黄達を「屌絲」(負け犬)と表現している。結婚市場におけるいわゆるスペックの差のみならず、二人の風貌も台湾のモデル出身でロングヘアの似合う都会的な林志玲と、中肉中背で地味な黄渤では、いかにも不釣り合いにみえる。ちなみに、黄渤は実際に山東省出身で、他の作品でもしばしば山東訛りを操って純朴で情に厚い田舎者の役を好演しており、中華圏で人気の高い俳優である。

写真:林志玲(リン・チーリン)

リメイク版主演女優の林志玲(リン・チーリン)

主人公は最初ヒロインの美貌に魅了されるが、やがて彼女が抱えている心の傷の深さや内に秘めた純粋さに気づく。そのきっかけとなるのが、彼女からの核心をついた、厳しい一言である。リメイク版では、物語の序盤で黄達が葉薫を行きつけの労働者向け屋台に連れて行く。そこで彼は、「あなたのように全てに恵まれた人にはわからないだろうけれど、自分の婚活がうまくいかないのは経済的な条件が悪いせいだ」とぼやく。そのあまりのふがいなさに、葉薫は思わず「今の私が持っているものは、すべて私が努力して手に入れたものよ。あなたは物質的な満足を与えられないから結婚できないというけれど、相手のために心から努力したことがあるの?お金で愛情が手に入るというなら、宝くじでも買えばいいのよ!」と一喝し、怒って立ち去ってしまう。黄達はこの一言によって、自分がこれまでの人生で何ひとつ主体的に挑戦してこなかったことに気づかされ、今度こそ自分を変えようと奮起する。葉薫も最初は黄達が自分と違う世界の人間だと思っているが、正面から向き合ううちにお互いに支え合っていける相手だと気づき始める。

原作もリメイク版も結末はハッピーエンドである。どちらの主人公も絶世の美女を振り向かせるため、次々と立ちはだかる困難に立ち向かい、最後はライバルに打ち勝つ。しかし、野暮は百も承知のうえで中国の現実に即して考えてみるならば、筆者の見るところリメイク版の主人公が乗り越えなければならない壁は原作の比ではない。収入やルックスの差以外に、中国独特の要因として二人が結婚を決意した後に直面するであろう(日本より強い)親の介入、結婚に際して男性側が新居(地域によっては多額の結納金も)を準備する伝統的な習慣、戸籍制度に起因する様々な不利益1、などを覚悟しておかねばなるまい。上海の住宅価格はいまや東京よりも高い。結婚後に子供を持つことへの周囲のプレッシャーは日本よりはるかに強く、大都市では子供の養育コストも高い。以上を考慮すると、この二人が結婚する(さらにいえば結婚後も上海で末永く幸せに暮らす)ためには、もうひとつふたつ黄達に有利な材料、たとえば黄達の事業が大成功して上場企業になるくらいの条件があったほうが説得的ではないか、とさえ思えてしまう。黄達の故郷に引っ越すというのも手だが、葉薫の演奏活動に支障が出るかもしれない。なお、日本版では結末の説得力を高めるためか、実は達郎の亡き父は弁護士で本人も法学部卒であったり、薫は地方出身で素朴な家庭で育った、などの設定上の工夫がみられる。リメイク版ではこのようなフォローはない。

中国では、黄達のように100回以上お見合いをしたことのある男性は実際に少なくないようで(筆者の知人にもいる)、「婚活中の男性」というキャラクターは他の映画やドラマにもしばしば登場する。その背景には人口構成の歪みと、その結果としての男性の深刻な結婚難がある。中国の都市部では女性の社会進出が進んでいるが、一方で(農村を中心に)男児が好まれる伝統的な価値観があり、40年近くにおよぶ計画生育のもとで男性の人口が過剰となった。35-59歳の未婚男性が2020年には1500万人、2050年には3000万人に達するという恐ろしい予測もあり、その多くは学歴や収入の低い層になると考えられている2。先に述べた男性側が新居を準備する習慣と不動産バブルの影響もあり、相対的に希少な若い女性がまさに不動産を買うときのようにシビアに相手の(主に経済的)条件を値踏みするという状況は普遍的にみられる。結婚は必ずしなければならない、という固定観念が強く残る中国社会では、日々結婚をめぐる熾烈な競争が繰り広げられているのである。

そこで思い出すのが、中国のある地方都市の足裏マッサージ店で会った、20歳そこそこのマッサージ師の青年の言葉だ。とりとめもない世間話をするうち、青年が最近彼女に振られたという話になった。彼女は青年と同じようにその町の郊外の農村から出稼ぎに来ている同年代の女性で、振られた理由は彼の収入の少なさや将来性にあったという。青年は「中国で男が生きるのは、とってもつらいことなんだ・・・」とつぶやくと、沈んだ表情のまま足を洗ったたらいを下げに行ってしまった。また、地方都市で卒業を間近に控えたある男子大学院生は、筆者に「日本の女性が結婚相手に求める最も重要な条件はなんでしょうか」と真剣な表情で尋ねた。「経済的な条件も大事だが、やはり最後は人柄ではないか」というようなことを答えたら、彼は心底嬉しそうに「僕、いつか日本に行きたいな」と言った。このように、学歴や職業にかかわらず、多くの若い男性にとって将来結婚できるかどうかは大きな心配事なのである。

写真:結婚写真撮影の順番待ちをしている花嫁

結婚写真撮影の順番待ちをしている花嫁

では中国の女性は結婚相手探しに全く困っていないかといえば、必ずしもそうではない。特に都市部の高学歴の女性からは、しばしば結婚に関する悩みを耳にする。中国でも自分より高学歴の女性を敬遠する保守的な男性は多く、「女性博士は男でも女でもない、第三の性である」などという失礼極まりないジョークすらあるそうだ。適齢期を過ぎても結婚していない独身者は「剰男」、「剰女」(売れ残り)と呼ばれ、毎年11月11日の「光棍節」(独身者の日)には毎年商店がセールを開催し、独身者たちは男女問わず自虐的なノリで盛り上がる。

以上のように、現在の中国では歴史の負の遺産ともいえる男女比の歪みに加え、都市部では各社会階層の男女が自分に相応しい(と思い込んでいる)相手を見つけられないという深刻なマッチングの問題が起こっている。その結果多くの人が、結婚したいのに結婚できない。この映画は、色々なことに縛られて身動きが取れなくなってしまっている「剰男」・「剰女」たちに、「戦う前から諦めるな」、「条件ではなく相手をよく見よ」という厳しくも温かい声援を送っている。とはいえ、彼らの前に横たわる現実は厳しい。悩める中国の男女に思いを馳せながら、エンディングでSAY YESを歌う李代沫の甘い歌声を聴いていると、なんだか切ない気分になってくる。

著者プロフィール

山田七絵(やまだななえ)。ジェトロ・アジア経済研究所新領域研究センター研究員。農学博士。専門は中国農業・農村研究。最近の著作に、岡本信広編『中国の都市化と制度改革』(第5章担当。アジア経済研究所、2018年)、「中国農村における集団所有型資源経営モデルの再検討――西北オアシス農業地域の事例」(『アジア経済』第56巻第1号、2015年)。

書籍:中国の都市化と制度改革

書籍:アジア経済


  1. 中国の戸籍制度では出生地によって都市と農村の戸籍が区別されており、社会保障、就業、教育などにおいて待遇が大きく異なる。都市戸籍のなかでも上海のような主要都市では外来者の流入が厳しく制限されており、戸籍の移転には地元の大学への入学、公的機関への就業、住宅の購入などの要件を満たす必要がある。
  2. 「30年後に中国の『剩男』は3000万人に? 男女比のアンバランスが深刻化」『人民日報海外版』2017年2月13日付記事(中国語)。
写真の出典
  • リメイク版主演女優の林志玲(リン・チーリン):By 中央社 [CC BY 3.0 (http://creativecommons.org/licenses/by/3.0)], via Wikimedia Commons.
  • 結婚写真撮影の順番待ちをしている花嫁:山東省青島市にて筆者撮影。
【連載目次】

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