ライブラリアン・コラム

ミャンマーの一次資料を調べる

小林 磨理恵

2025年5月

ミャンマー中部を震源として2025年3月28日に発生した大地震は、少なくとも3700人の死者を出すなど甚大な被害をもたらした。内戦状態が深刻化するなかで、ミャンマーの人々はさらなる苦境に追い込まれている。一方、地震発生から1カ月を経て、ミャンマーに関する報道は減少している。本稿は、ミャンマーの社会状況に関心を持つ人が、その関心を調査研究につなげていく際の案内役となることを目指し、一次資料として統計資料と新聞の調べ方を紹介する。ミャンマーを調べる上で不明な点があれば、レファレンスサービスも併せて活用してほしい。

統計資料の調べ方

ミャンマーの代表的な統計資料を4つ紹介する。

Myanmar Statistical Yearbook

中央統計局(CSO)が発行する総合統計年鑑。掲載項目は、人口、労働・雇用、保健、農林水産業、貿易、投資、運輸・通信、国民経済計算、教育、家計など広範な分野にわたる。当館では1961年版以降を所蔵(請求記号(以下、同様):BURMA/0A1)。またCSOは、最新版を除いてオンラインで無料公開しており、2025年5月現在、2010年~2023年の各年版をCSOウェブサイトにて閲覧できる。最新の2024年冊子版は、当館でもなるべく早く入手する予定である。

Selected Monthly Economic Indicators

CSOによる統計月報。貿易、製造、物価、金融、投資、運輸といった、経済分野の月次データを収録している。当館では1961年~2020年4月号までを所蔵(BURMA/0M1)。また、CSOウェブサイトにて、2013年3月号~2022年8月号までを閲覧できる。

Population and Housing Census

国勢調査に当たるミャンマーの「人口・住宅センサス」の最新実施年は、2024年である。現在、その暫定報告書が入国管理・人口省のウェブサイトに公開されている。過去のセンサスは、同ウェブサイトにて、1983年、2014年、2019年(中間年人口調査)の各報告書を閲覧できる。当館では、1973年(BURMA/1I1)、1983年(BURMA/1I3/)、2014年(BURMA/1Ir1/)を所蔵するほか、イギリス統治期にインドの人口センサスにおいて公刊された1911年(INDIA/1I10/9-2)および1921年(INDIA/1I11/10)の一部を所蔵している。膨大な調査項目をもとに実施された2019年中間年人口調査については、過去のライブラリアン・コラムも参考にしてほしい((連載:途上国・新興国の2020年人口センサス)第4回ミャンマー――揺れる社会の静かな痕跡)。

Myanmar Agricultural Statistics

CSOによる農業統計年鑑。総合統計年鑑と並んで長期的に発行される、数少ない統計資料の一つ。当館では1962/63年版~2016/17年版を所蔵(BURMA/2An1)。またCSOウェブサイトにて、2015/16年版~2022/23年版までを閲覧できる。誌名変更あり(Agricultural Abstract of Burma → Agricultural Statistics → Myanmar Agricultural Statistics)。 なお、同資料のうち、大変貴重な1962/63年版~1967/68年版までの5点と1974/77年版の計6点は、ミャンマーの農村経済を長年研究してこられた髙橋昭雄氏(東京大学名誉教授、アジ研名誉研究員)の寄贈によるものである。この他にも、髙橋氏から数百点に上る現地刊行資料を寄贈いただいた。順次整理を進めているので、大いに活用してほしい。

髙橋氏寄贈の農業統計年鑑が並ぶ書架 資料の状態に応じて、補強製本や和紙による補修を施した

髙橋氏寄贈の農業統計年鑑が並ぶ書架
資料の状態に応じて、補強製本や和紙による補修を施した
新聞の調べ方

当館所蔵の新聞は、当館の調べ方案内ページのうち、「所蔵新聞一覧(Excel版・PDF版)」で確認できる。Excel版リストで出版地をミャンマーに絞り込むと、16紙のミャンマーの新聞を所蔵していることが分かる。紙名を押下すると蔵書目録(OPAC)の書誌・所蔵データにリンクされ、詳しい所蔵期間を確認できる。以下では、継続購読中の3紙を紹介したい。

မြန်မာ့အလင်း = Myanma Alinn

ビルマ語の国営日刊紙。紙名の意味は、「ミャンマーの光」。Myanma Alinnとして創刊した本紙は、一時期လုပ်သားပြည်သူ့နေ့စဉ် (Lou'tha Pyidhu Neizin)の紙名で発行されていたが、1993年4月以降は再びMyanma Alinnとして発行されている。当館の所蔵状況について、Myanma Alinn1945年5月~1962年4月、1993年4月~現在Lou'tha Pyidhu Neizin1988年10月~1993年4月までを所蔵している。また、ミャンマー政府のMyanmar National Portalにて最新号と過去数年分のPDF版を閲覧できるほか、Online Burma/Myanmar Libraryに2003年~最新号のPDF版が保存されている。

The Global New Light of Myanmar

国営日刊紙。Myanma Alinnの英語版の位置づけにある。本紙は3度紙名変更されている(New Light of Burma → The Working People's Daily → New Light of Myanmar → The Global New Light of Myanmar)。当館の所蔵期間について、New Light of Burma1948年~1952年、次のThe Working People's Daily1967年2月~1967年12月、1981年1月~1993年4月、その次のNew Light of Myanmar1994年1月~2014年9月、現在のThe Global New Light of Myanmar2014年10月~現在である。ただし、マイクロフィルムの劣化により、一部閲覧できない期間がある。

同紙ウェブサイトのE-PAPERページでは、2021年2月2日~現在のPDF版を閲覧できる(一部、閲覧できない号もある)。また、Online Burma/Myanmar Libraryに、2003年~最新号のPDF版が保存されている。

2025年大地震発生翌日から3日間のThe Global New Light of Myanmar

2025年大地震発生翌日から3日間のThe Global New Light of Myanmar
Weekly Eleven News

タブロイド判のビルマ語週刊新聞。Eleven Media Groupが発行する。当館では、事前検閲が緩和された直後、週刊新聞(現地ではジャーネーと呼ばれる)が急増した2013年に、The Voice WeeklyWeekly Eleven Newsの購読を開始した。前者を2021年まで、後者を現在も収集している。民間メディアによる貴重な情報源なので、国営紙と併せて活用してほしい。

新聞調べのお供に

以上3紙を紹介したが、特に過去のニュースを調べる際には、アジア動向年報重要日誌検索システムの併用もお勧めしたい。これは、アジ研が毎年刊行する『アジア動向年報』(1970年~現在)に掲載される「重要日誌」をデータベース化した検索システムである。現在、1969年~2023年のニュースが収録されており、ミャンマーも対象である。 また、同システムには収録されていないが、『アジア動向年報』の前身に当たる『アジアの動向』も、機関リポジトリ(ARRIDE)にて全文閲覧できる。『アジアの動向』では、現地新聞をフル活用した「日誌」が主体である。ビルマについても1963年1964年1965年1966年1967年1968年の各年版があり、現地の日々の動向が極めて詳細に綴られている。新聞検索を手助けするはずだ。■

[注]
本稿で引用したURLの最終閲覧日は、すべて2025年5月8日である。

画像の出典
  • すべて筆者撮影。
著者プロフィール

小林磨理恵(こばやしまりえ) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課。担当は東南アジア(2011年~現在)。2016~2018年海外派遣員(バンコク)。

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