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コラム

ベトナム改造農機傑作選

 
第3回 旅する日本の中古農業機械

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051532

2019年12月
(1,763字)

ベトナムでは、主に日本から輸入された中古農業機械が修理・改造され、農村で使われている。今回は、これら中古農業機械が日本で集められベトナムの農村で販売されるまでの流れを見ていくことにしよう。

Global Trade Atlasというオンライン貿易データベースによると、過去10年間、ほぼ毎年日本から2万台以上、多い年で3万台ものトラクター(耕耘機も含む)がベトナムに輸出されている。そのほとんどは中古品である。日本の輸出業者によると、最も売れているのは1990年代あるいはそれ以前に製造された中古品であるという。日本では一般的に農業機械の年間使用時間が短いため、10年以上使用したものでも新品とほぼ同じ機能が保たれており、安価で、ベトナムで修理が困難な電子部品も装備されていないからである。

日本でベトナムへの農業機械の輸出を始めたのは、難民として日本にやってきた定住者たちであったという。群馬県の伊勢崎市や大阪府の八尾市といった、ベトナムからの定住者が数多く居住する地域に中古農業機械の買取り・輸出業者が今でも多いのは、そのためである。近年は、ベトナム出身者以外にも、インターネットを通した買取りを行いベトナムに輸出する業者も増えている。

日本では、全国各地の農業機械が横浜や神戸などのいくつかの大きな港から輸出されているが、ベトナム側では、そのほとんどがホーチミンの港で荷揚げされる。ホーチミンからメコンデルタ地域に向かう国道1号線沿い、ロンアン省のベンルック県からタイアン市にかけて、中古農業機械の輸入業者が軒を連ねるエリアがある(写真1)。国道1号線沿いの輸入業者は、単に輸入した中古農業機械をそのまま販売するのではなく、修理・整備をし、さらに分解して部品取りを行ったりもする(写真2)。

写真1(左)日本から輸入された耕耘機、写真2(右)耕耘機からエンジンだけを取り出し販売する業者。

写真1(左)日本から輸入された耕耘機(ロンアン省タイアン市、2019年8月)。
写真2(右)耕耘機からエンジンだけを取り出し販売する業者。耕耘機のエンジンは、
船外機やポンプなど幅広い用途で使われる(ロンアン省ベンルック県、2018年5月)。

これら国道1号線沿いの輸入業者では、農業機械の改造はほとんど行われない。改造をするのはこれらの店に買い付けに来る農村の農業機械販売店である。改造といってもさまざまなレベルのものがあり、トラクターに取り付けるロータリーの爪のピッチや形状を変えるという小さな改造から、耕耘機のエンジンの船外機などへの転用、さらにはコンバインの籾運搬車への改造といった大掛かりなものまである。なかには、エンジン、ギアボックス、シャーシなどをそれぞれ別々に調達し、自作の耕耘機を作ってしまうDIY系販売店もある(写真3)。

写真3 ほぼ手作りの代掻き用耕耘機

写真3 ほぼ手作りの代掻き用耕耘機(アンザン省トアイソン県、2017年8月)。
日本の中古コンバインは、主に前回紹介した籾の運搬車への改造を目的として輸入されてきた。メコンデルタ地域を中心とする南部のコメ生産地では、田植えではなく籾の直播が一般的であり、条植え条刈り仕様の日本の一般的なコンバインが使えないためである。しかしこの2年ほどの間に、比較的新しいモデルの中古コンバインが、稲刈り用として輸入されはじめている(写真4)。輸入業者に聞くと、田植えをする北部や中部で輸入中古コンバインの需要が拡大しているという。水田面積が小さく機械導入には不向きとされてきた北部、貧困世帯が多く農業機械を購入できる農家が少なかった中部でも、いよいよ農業機械化の波が押し寄せてきているようである。

写真4 ベトナム北部、中部で売れ始めている日本の中古コンバイン

写真4 ベトナム北部、中部で売れ始めている日本の中古コンバイン (ロンアン省タイアン市、2019年8月)。
写真の出典
  • すべて筆者撮影
著者プロフィール

坂田正三(さかたしょうぞう)。アジア経済研究所バンコク研究センター次長。専門はベトナム地域研究。主な著作に、『ベトナムの「専業村」――経済発展と農村工業化のダイナミズム』研究双書No.628、アジア経済研究所 2017年、「ベトナムの農業機械普及における中古機械の役割」(小島道一編『国際リユースと発展途上国――越境する中古品取引』研究双書No.613、アジア経済研究所 2014年)、など。

書籍:ベトナムの「専業村」――経済発展と農村工業化のダイナミズム

書籍:国際リユースと発展途上国