文字サイズ

標準
国・テーマ インデックス
途上国の今を知る

IDEスクエア

コラム

ベトナム改造農機傑作選

 
第1回 小さな農業機械化のはじまり――稲刈り機

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051496

2019年10月
(1,342字)

ベトナム中部、ビンディン省の農村へ行ってきた。ちょうど稲刈りの季節ののどかな農村風景を見ることができた。ビンディン省は、ベトナムの中でも工業化が遅れた地域であり、所得も低く、昔からの変わらぬ農村風景が残っているのは、経済発展の後れの裏返しでもある。

しかし、筆者には見慣れているはずの農村風景も、じっくり見てみるとちょっとした違和感を覚える。まず目を引いたのは、刈られた稲が作る不思議な幾何学模様である(写真1)。この地域特有の稲刈りの慣習でもあるのかと地元の人に聞いてみると、これは近年、稲刈り機の導入にともない見られるようになったものだという。

写真1 稲刈り直後に田んぼにできた模様。(2018年8月)

写真1 稲刈り直後に田んぼにできた模様。(2018年8月)

写真2がその稲刈り機である。見てのとおり、日本から輸入された中古の草刈り機(刈払機)に長い歯をつけた改造品である。さらに歯の周りにガードをつけ、刈った稲が一定方向に倒れるような工夫も施されている。ベトナムの他の多くの地域では、1台200万円以上するコンバインの導入が進んでいるが、貧しい中部のこの地方では、このようなローカルな発明品による農作業の機械化が行われていた(写真3は改造前の草刈り機)。

写真2 草刈り機を改造した稲刈り機。(2018年8月)

写真2 草刈り機を改造した稲刈り機。(2018年8月)

写真3 改造前の草刈り機。(2019年10月)

写真3 改造前の草刈り機。(2019年10月)

変化したのは稲を刈る方法だけではなかった。稲刈りはもはや家族や共同体単位で行う作業ではなく、お金を払って業者に委託する作業になっている。稲刈りの季節には、4~5 人で構成されるたくさんの稲刈りチームが、バイクであちらこちらの田んぼを回って稲刈りを請け負っているという。稲刈りの季節に農家が行うのは、脱穀(これも脱穀チームに委託 !)後の稲わらを運搬する作業のみである。

さらによく見ると、田んぼに若者の姿をほとんど見かけない。この村では、多くの若者がホーチミンに出稼ぎに行ってしまい、定住して戻って来ないのだという。ベトナムの製造業が出稼ぎの若者たちで支えられている一方で、農村では高齢化が確実に進行している。中古の草刈り機を改造したこの稲刈り機は、農村の高齢化による労働力不足を解決するためのローカルな知恵、イノベーションなのである。

今回から5回の掲載を予定している本連載では、本稿筆者がベトナムで見つけた、ローカルなイノベーションが詰まった改造農業機械と、それらが作られ使われている現場の風景を紹介していく。

(本稿は、『IDEニュース』2018年12月号に掲載された「ベトナム・ビンディン省の草刈り機」を加筆修正したものです。)

写真の出典
  • 写真1、2  筆者撮影
  • 写真3   坂田虎之介撮影
著者プロフィール

坂田正三(さかたしょうぞう)。アジア経済研究所バンコク研究センター次長。専門はベトナム地域研究。主な著作に、『ベトナムの「専業村」――経済発展と農村工業化のダイナミズム』研究双書No.628、アジア経済研究所 2017年、「ベトナムの農業機械普及における中古機械の役割」(小島道一編『国際リユースと発展途上国――越境する中古品取引』研究双書No.613、アジア経済研究所 2014年)、など。

書籍:ベトナムの「専業村」――経済発展と農村工業化のダイナミズム

書籍:国際リユースと発展途上国