本書は、人・動物・環境の「健康」を統合的にとらえる「ワンヘルス」の課題について、新興感染症のホットスポットとされるアジアをフィールドに多角的に検討したものである。COVID-19のようなパンデミックを防ぐためには、自然資本への投資や多様なステークホルダーの協力など経済、社会、ガバナンスに関する取り組みが必要であり、そのための社会科学的な研究が求められている。本書ではとくに、森林保全、食肉のフードシステム、野生動物の生息地と近接する地域社会、野生・畜産動物の利用をめぐる国家の規制、国際的な野生動物取引などに注目して、人・動物・環境の関係のなかに潜むリスクとそれらの健康を統合的にとらえるためのガバナンスのあり方を論じている。アジアにおけるワンヘルス・アプローチの現状と課題を理解するための解説書として、研究者だけでなく、広く学生、政策担当者、企業家、市民活動家など既存の分野・領域を越えた多くの方々に手に取っていただけることを期待したい。