出版物

eBook

現代ラテンアメリカ政治を読み解く

ebook

研究会成果

一般書

CC BY

現代ラテンアメリカ政治を読み解く

著者/編者

出版年月

2025年3月

ISBNコード

978-4-258-04671-3

eBookをダウンロードする

一括版はリフロー型EPUB形式とPDF形式で提供します。

EPUBをお読みいただくには専用リーダーが必要です。

オンデマンド版(冊子版)を購入する(有料)

内容紹介

内容紹介

本書は、大学3、4年生や修士課程の学生を対象とした現代ラテンアメリカ政治の「アドバンスト」テキストである。ラテンアメリカ政治の基本的な概念や歴史に関しては最近出された他書籍でカバーされているため、本書はより専門的な議論に焦点を当てている。とくに21世紀、2010年代以降の主要な政治テーマを扱い、コモディティ・ブームの盛衰やコロナ禍などの紆余曲折を背景に変化する社会や人々の意識がもたらす新たな政治課題を分析する。本書の内容は8つのテーマから成り、各国政治の前提となる「国家」や再び影響力を増す「軍」、健全な民主政治を支える「司法」、民主政治の安定に影響する「大統領と議会の関係」などを取り上げる。また、国民の「投票行動」や「選挙制度」、人々に選択肢を提供する「政党」、さらに新たな役割を担い得る「抗議運動」についても詳述し、現代ラテンアメリカ政治を多角的に読み解くための視点を提供する。

目次

はじめに

PDF

第1章 国家――ラテンアメリカの諸国家は「張り子のリヴァイアサン」なのか?――

筆者:上谷 直克

PDF

第2章 軍――軍は兵舎に戻ったのか?――

筆者:宮地 隆廣

PDF

第3章 司法――「政治の司法化」は民主政治にいかなる影響を及ぼすのか?――

筆者:笛田 千容

PDF

第4章 大統領・議会関係――なぜ大統領が弾劾の対象となりやすい国とそうでない国があるのか?―― 

筆者:菊池 啓一、磯田 沙織

PDF

第5章 投票行動――なぜ有権者は「異端者」を選ぶのか?―― 

筆者:上谷 直克

PDF

第6章 選挙制度――選挙制度は女性議員比率の差にどう影響しているのか?――

筆者:菊池 啓一

PDF

第7章 政党――「代表性の危機」はなぜ起こり、どこへ向かうのか?――

筆者:馬場 香織、磯田 沙織

PDF

第8章 抗議運動――人々の抗議は政治を変えるのか?――

筆者:三浦 航太

PDF

はじめに

はじめに

本書は、現代のラテンアメリカ政治に関心をもつ大学の学部3~4年生や修士課程の大学院生をおもな読者として想定した「アドバンスト」レベルの政治学テキストです。ラテンアメリカ政治の基本的な内容については、すでに2023年3月に舛方周一郎氏と宮地隆廣氏の共著『世界の中のラテンアメリカ政治』(東京外国語大学出版会、2023年)が出版されており、このテキストが基本概念や歴史的な経緯を十分にカバーしています。そのため、本書では各テーマに焦点をあて、ラテンアメリカ政治を読み解くための、より専門的で高度な議論を紹介することをめざしました。

本書の特徴を挙げると以下の3点です。

1つ目は、21世紀、とくに2010年代以降のラテンアメリカ政治において主要なテーマを扱っている点です。ラテンアメリカでは2000年代半ばから約10年間、コモディティ・ブームによる経済成長が続きましたが、2013年頃からのポスト・コモディティ・ブーム期に入ると成長が鈍化し、その後のコロナ禍でマイナス成長に転じました。その一方で、こうした経済の浮き沈みにもかかわらず、社会は着実に発展を遂げ、人々の意識や行動にも変化がみられるようになりました。このような変化が政治のさまざまな場面で新しい現象や課題をもたらしています。

そこで本書では、現代ラテンアメリカの政治を理解するために、以下の8つの重要なテーマに焦点をあてて章を構成しています。まず、各国の政治を語る上で大前提となる『国家』(第1章)のあり方をとりあげ、続いて、20世紀後半の「民主化の波」により表舞台から一度は退いたものの、再び影響力を強める『軍』(第2章)について論じます。そして、健全な民主政治の実現において重要な役割を果たす『司法』(第3章)と、民主政治の質や安定性に影響を与える『大統領・議会関係』(第4章)を論じます。また、代議制民主主義の核心が政治への国民の声や利害の反映にあることから、現在の人々が『投票行動』(第5章)を通じてどのような声を上げているのか、その声がどのような『選挙制度』(第6章)を通じて表現されているのかをみていきます。さらに、『政党』(第7章)が人々にどれだけ有意義な選択肢を提供できているか、『抗議運動』(第8章)が既存の代表制のなかでどのように新たな役割を担い得るのかについてもとりあげています。

また、第2・3・6・7・8章では、メインテーマに関連しつつ本文では詳述できなかった重要な論点を補足するため、「コラム①〜⑤」を設けて説明しています。

本書の特徴の2つ目は、上記のとおり、具体的なテーマごとに章を構成し、各章においてその最新の状況や学術的研究の紹介に重点をおいている点です。そのため、各章はそれぞれのテーマに関連する具体的な事件や出来事から議論をはじめ、その背景や経緯に触れつつ、こうした事象をより政治学的に深く理解するための手がかりを示しています。

これに関連して、以下2点の但し書きがあります。第1に、この種のテキストに必須と考えられる「政治体制」を独立の章として扱っていないこと。第2に、2000年代から2010年代の政治において頻繁に言及されてきた「左傾化・右傾化」について、ことさらそれとしてとりあげていない点です。

前者の「政治体制」に関しては、近年の「民主主義の後退」や「権威主義化」といった問題が、とくに比較政治学の分野で注目されています。しかし、第2章で述べるように、かつてのようなクーデターが発生しない現代のラテンアメリカでは、民主主義が後退したとされる前後(または権威主義化の前後)に、社会や経済はもちろん、政治のあり方さえ必ずしも明確に断絶しているわけではありません。そのため、ラテンアメリカの政治を「政治体制」の観点だけで捉えてしまうと、重要な論点がみおとされる可能性があります。本書では、民主主義の重要な指標である「選挙」を軸に、その前後のプロセスに焦点をあてました。具体的には、選挙で競われる「代表性」の実態や、選挙で正統性を得た者たちの間での権力闘争、また選挙後に形成された公的なルールが、どの程度国民や社会全体に対して有意に執行されているか、といった点に注目しています。

また、後者の「左傾化・右傾化」については、確かに2000年代の左傾化(ピンクタイド)が政治・経済・社会の各面である程度の包摂を進めた点に意義がみいだせます。しかし現在、その影響は当初期待されていたほど大きくなかったという認識が広がりつつあります。また、イデオロギーの変動を大統領や与党などの政治エリートではなく、市民社会の視点でみると、この20年で左右に大きな揺れはみられません。多くの国では、左右の一定の幅はあるものの、おおむね中央付近に位置しているのが実情です。実際、左傾化や右傾化による政権交代も、各国の政権が当時の課題に適切に対応できなかったことへの反発にすぎないと考えられるようになっています。

3つ目の特徴は、オンライン出版の利点を生かしている点です。本書はオープンアクセスの電子書籍として、アジア経済研究所のHPから、どなたでも無料で閲覧・ダウンロードができます。また、各章に記載された出典や参考文献にはハイパーリンクが付いており(下線が引かれている語句)、これにより元の情報や文献に簡単にアクセスできます(ただし、EPUB版では図表中のリンク先には飛べません)。プリント・オン・デマンド版をご利用の方は、ぜひアジア経済研究所のHPからPDF版またはEPUB版を入手し、併用してください。このリンクを活用し、さらなる情報や文献に触れることで、ラテンアメリカ政治への理解を深め、関心を広げていただければと思います。

本書は「アドバンスト」という特性をもつため、各章を講義の進度にあわせて順に読んでいただくことを想定していません。むしろ、特定の政治テーマに触れる際の副読本や、さらに一歩踏み込んだ参考文献(further reading)として活用していただければ幸いです。本書を通じて、より多くの皆さんが現代のラテンアメリカ政治への理解を深め、より一層関心を広げていただけることを願っております。

2025年3月 編者