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ラージャパクサ一族体制の形成
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内容紹介
内容紹介
スリランカでは、2005年に大統領に就任したマヒンダ・ラージャパクサとその一族が政治的な意思決定権を独占し、スリランカの民主主義は崩壊寸前と評された。途中で選挙に敗れ下野したものの、露骨な一族支配は2022年の反政府運動により辞任を余儀なくされるまで続いた。
本書では、この特異な政治構造と展開に焦点を当て、スリランカ政治を理解するために多角的な分析を提供する。ラージャパクサ一族の権力基盤構築プロセス、彼らを取り巻く政治環境、権限を強化するために実施された憲法改正を検証する。さらに彼らの台頭を支えたシンハラ・ナショナリズムの役割や、選挙において決定的影響力を持つ、村に居住するシンハラ人の政治意識の変化、ラージャパクサ政権下の財政運営の特徴、そして同政権と中国との関係性について詳細に論考する。
はしがき
はしがき
本書は、2022年度から2023年にかけてアジア経済研究所の基礎的総合的研究事業の一環として実施された「ラージャパクサ一族政治の成り立ち」研究会の成果である。
本研究会を提案したのは2021年秋であった。当時、ゴタバヤ・ラージャパクサが大統領を務め、内戦終結の英雄として知られる兄のマヒンダが首相の座にあった。さらに、ラージャパクサ一族からは国会議長、財務大臣、その他の閣僚、国務大臣が任命され、国家の意思決定権を一族が掌握しているように見えた。このような露骨な一族支配は南アジアでも稀有な現象であった。
この特異な政治構造に注目し、スリランカ政治を理解するために彼らの体制構築プロセスや、彼らを取り巻く政治環境、国際社会の動向を分析することには大きな意義があると判断した。特に注目すべきは、2015年に一度政権を失ったラージャパクサ一族、2019年に権力を奪還して再び強固な基盤を築いた点であり、有権者も彼らの統治を望んでいるように見受けられた。彼らのロジックや言動を分析し解釈することはスリランカ研究者としての責務であるとさえ考えていた。
ところが、研究会が2022年春に始動する頃には、我々の研究対象であるラージャパクサ政権は崩壊の兆しを見せ始めていた。深刻な外貨不足による経済危機をきっかけに全国各地からコロンボのゴールフェイスに人々が集結し、長期にわたる反政府運動を展開した。その結果、首相と大統領は相次いで辞任に追い込まれたのである。そのため、本研究会では当初は計画に含まれていなかった、一族支配の弱点や崩壊の要因についても研究対象に加えることとなった。本書では、スリランカの人々が示した政治的変革への意思を紹介でき、これは当初の想定を超える貴重な機会となった。
その後も、スリランカ政治は、予想を超えるスピードで変化を続けた。2024年の大統領選挙と国会議員選挙では、伝統的な二大政党ではなく、小規模な左翼政党を中心とする政党連合の代表者が大統領に選出され、国会でも単独過半数を獲得するに至ったのである。これらの展開については、また別の機会に論じることとしたい。
編者