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コラム

国際移動:アフターコロナをみすえて

 
第2回 マラウイ――コロナ禍での南アフリカからの移民の帰国

Return of Malawian Migrants from South Africa under Covid-19

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00053484

2022年9月
(4,871字)

マラウイから南アフリカへの移民労働

新型コロナウィルス感染症は南アフリカに大きな被害をもたらした。同国はアフリカ大陸で最も多くの感染者と死亡者を出したのみならず、感染拡大を防ぐために2020年3月末から5月末まで実施された厳格な行動制限により220万の雇用が失われるなど、経済的にも大きな打撃を受けた。経済悪化の影響は当然ながら移民労働者にも及び、南アフリカに多くの移民労働者を輩出しているマラウイも大きな影響を受けた。報道によれば、2020年3月末から12月末までの9カ月間に1万人のマラウイ人が南アフリカから帰国したという(Masina 2021)1。国境が再開した後の2021年にはおそらくこの数を上回る人びとが帰国したと考えられる。

南アフリカは1世紀以上にわたりマラウイ人にとって最も重要な移民労働先のひとつであった。20世紀は二国間協定を通じて南アフリカの金鉱山へ送られる契約移民労働が主流であったが、1980年代末に金鉱山への移民労働は終焉した。その後、1990年代半ばの南アフリカ、マラウイの民主化以降、両国の経済格差を背景に2、経済機会の多い南アフリカへ個人で移動して就労したり、インフォーマルな商売を始めたりするマラウイ人が増加した。南アフリカでは単純労働者向けの就労ビザが基本的には存在しない。そのため、南アフリカに入国したマラウイ人の多くは、超過滞在者となって就労し、仕送りを通じてマラウイに残る家族の生活を支えてきた。

そうしたマラウイ移民は、コロナ禍の南アフリカからどのような状況のもとで帰国し、帰国後はどのような生活をしているのか。本稿は、南アフリカでコロナ禍が始まった2020年3月以降に同国から帰国したマラウイ人30名に対して実施した聞き取り調査をもとに、コロナ禍での帰国をめぐる状況について報告する3

コロナ禍での国境閉鎖と帰国希望者支援

南アフリカ政府が2020年3月末に導入したロックダウン規制には、近隣諸国との陸路国境を閉鎖すること(ただし必需品輸送を担う大型トラックの往来は除く)、国際線旅客機の運航を停止することが含まれていた。この措置により、2020年10月に利用者の多い複数の陸路国境が再開されるまでの6カ月間、マラウイと南アフリカのあいだを行き来する人びとの多くが利用してきた国際旅客バスの運行が停止され、南アフリカへのマラウイ人の往来は途絶えることになった4

マラウイにおいても2020年3月下旬に全国的なロックダウンが実施され、生活必需品とサービスを運ぶ輸送業者を除き国境は閉鎖された。だが、マラウイのロックダウンは5月上旬には解除され、3つの主要な陸路国境が再開された。マラウイの陸路国境再開後、マラウイ政府は有料の帰国者用バスを手配し、南アフリカからの帰国を望むマラウイ人に対して帰国手段を提供した。

南アフリカからマラウイへ行く国際旅客バスは、通常、ジンバブウェとモザンビークを通過する必要がある(地図参照)。そのため、マラウイ人の帰国者用バスは、3カ国の大使館による調整の下で運行された。その第一陣がマラウイに到着したのは2020年5月下旬である。帰国者は、首都リロングウェないし南部にあるマラウイ最大の産業都市ブランタイアに到着した後、新型コロナの検査を受けて、結果が判明するまで検疫施設に留まることになっていた。しかしながら、結果を待たずに施設から逃亡する帰国者が相次いだ。そのなかには陽性者も含まれていたため、南アフリカからの帰国者は、5月下旬から6月にかけて、新型コロナの感染をマラウイに広げる媒介者となってしまった(Masina 2020)。

地図

地図

(出所)筆者作成。
(注)マプト経由の新ルートについては実際の走行道路を示すものではない。
帰国者用バスでの帰国と検疫施設での状況

検疫施設から逃亡する帰国者が相次いだのは、帰国者用バスを利用しての帰国が困難を伴い、検疫施設の衛生状態などに問題があったからである。同バスを利用した帰国者は次のように語っている。

帰国の旅路はとても大変だった。……[南アフリカ・ジンバブウェ間の]バイトブリッジ国境に早朝に到着するために、バスは夜に出発した。しかし国境には長蛇の列ができていて、結局、通過するのに3日もかかり、腹が減って辛かった。ブランタイアに到着するまでに7日かかった。カメザ・センターで検疫となったが、衛生状態はひどく、水道水もなかった。自由に歩くことは認められていたし、食料もなかったから、結局、ほとんどの人がセンターから逃亡した。

検疫施設によっては食事や衛生状態に問題がなかったところもあったが、検疫のための強制隔離に対する不満は年が明けてからも続き、2021年1月には南アフリカからの帰国者がブランタイアの検疫施設で暴動を起こしている。

陸路移動にかかる日数の増加と帰国費用の高騰

南アフリカが2020年10月1日、ジンバブウェが12月1日に陸路国境を再開した後には、マラウイ政府が手配した帰国者用バス以外の手段での陸路帰国が可能となった。帰国者への聞き取り調査から知りうる情報では、2020年12月以降の帰国者は必ずしも検疫施設に収容されたわけではなく、多くの回答者が国境での検温もしくは新型コロナ検査のみが行われたと述べた。検疫施設での隔離がなかったとはいえ、コロナ禍が続くなかでの帰国は、コロナ前とは大きく変わっていた。特に顕著だったのが、陸路移動にかかる日数の増加と帰国費用の高騰である。

陸路移動にかかる日数が増加した最大の理由は、上の証言にもあるように、検温や新型コロナ検査など国境を通過するための手続きに要する時間が増えたため、交通量の多いバイトブリッジ国境を中心に、国境で足止めを食らうことが多発したためである。バス会社によっては、バイトブリッジ国境を避けて南アフリカからモザンビークに入国し、マラウイへ向かうルートを使用するようになったところもあった。回答者が「マプト経由」と呼ぶこの新ルートが、モザンビーク国内のどの道路を走行するのか正確には不明だが、総日数の短縮にはつながらなかったようである(地図参照)5。以前ならば2日で済んだところ、回答者の帰国には3日から10日もかかっていた6

帰国費用の高騰には2つの要因がかかわっていた。ひとつは、マラウイ政府が手配した帰国者用バスを含めて、国際旅客バスのチケット代が値上がりしたことである。帰国者用バスの利用者が支払ったチケット代は2700~5000ランド、2021年に通常の国際旅客バスを利用して帰国した回答者のチケット代は2500~6000ランドで、ロックダウン前の2020年3月中旬に帰国した回答者のチケット代(1300ランド)の2倍から4倍以上に跳ね上がっていた7

もうひとつの要因は、国境を通過する際や路上の検問で止められた際に要求される公式・非公式の「罰金」も値上がりしたことである。すでに述べたように、今日、南アフリカで就労するマラウイ人の多くは、超過滞在などの非正規移民である。そのため、コロナ禍前から、国際旅客バスのチケット代とは別に、国境通過や路上検問の際に、4カ国すべてにおいて、役人や警官から現金を求められることがたびたびあった。コロナ禍で新型コロナの陰性証明などの携帯すべき書類が増え、かつ検問が実施される場所も増加したため、必要な渡航書類を持たずに国境を越えて移動する人びとに課されるペナルティが以前よりも大きくなったのである。

帰国理由と再出稼ぎの意思

帰国費用の高騰や日数の増加にもかかわらず、人びとが帰国を決意したのは、南アフリカでの生活が立ち行かなくなったからだった。コロナ禍で収入がなくなったり、大幅に減少したりしたにもかかわらず、家賃や食費の支出は続いた。聞き取り調査の回答者30人のうち3分の2以上の21人が、コロナ禍での失業、労働日減少、雇用主の倒産、給与不払いなどの雇用環境の悪化を帰国理由として挙げた。さらに2人が夫の暴力を帰国理由として挙げたが、その背景にロックダウン下での外出制限や雇用環境の悪化が関係していた可能性は大いにある。

コロナ禍前の2018年から2019年に南アフリカで筆者が実施したマラウイ人の移民労働者に対する聞き取り調査では、出稼ぎに来た当初の意図として、家の新築やマラウイで商売を始めるなどの特定の目的のための2年から3年程度の出稼ぎ計画を語る人が多かった。しかしながら、非正規移民であるために南アフリカで得られる賃金が少なかったり、高い住居費のために思うように貯金や仕送りができなかったりして、聞き取り調査時にはすでに10年以上南アフリカで働いているというケースが頻繁に見られた。それに対して、コロナ禍での帰国者に対する聞き取り調査では、19人の回答者が4年以下という比較的短い滞在期間で、出稼ぎを決意した当初の目的を達成しないまま帰国していた。なかには、住宅の基礎と壁までは建立したものの、屋根をかける資金がないまま放置せざるを得ない状態の人もいた。失意のなかでの帰国を強いられた回答者の苦悩は、次のような語りにも表れている。

南アフリカに仕事を探しに行って、手ぶらで帰ってきた俺たちのような人間を、村人みんなが笑いものにする。だから、あまり人に会わなくて済むように、田んぼで多くの時間を過ごすことにしている。

帰国後の生計活動については、携帯電話関連商品の販売や個人での両替商、個人商店などの零細な商売を始めた人が数人いたが、回答者の6割は自給農業のみで他に現金収入はないと答えた。それでも、この度の帰国が永久的なものなのか、それとも一時的なものなのかという問いに対しては23人が永久帰国とし、南アフリカへ再び出稼ぎに行くつもりはないと回答した。さらに、一時帰国とした回答者のなかでも、具体的な計画を持つのは3人のみで、4人は旅費やパスポート代の工面がついてからという決して簡単にはクリアできない条件つきであった。

アフターコロナの時代の南アフリカへの移民労働

南部アフリカは国境を越えた移民労働が歴史的に盛んに行われてきた地域であり、マラウイ人にとって南アフリカは常に最も重要な出稼ぎ先のひとつであった。コロナ禍が始まってから2年3カ月たった2022年6月23日、南アフリカ政府保健省は、重症者と感染者数の減少を鑑みて、新型コロナに関するすべての行動規制の撤廃を発表した。南アフリカはすでにアフターコロナの時代に突入したといえるが、コロナ禍に由来する経済的停滞から脱出したわけではなく、失業率はコロナ前よりも高い8。さらに2022年初頭から外国人排斥グループの活動が活発化し、街頭でのデモや外国人が経営する個人商店を標的とする略奪が頻繁に行われるようになった。6月にはアフリカ諸国出身者が多く住む地区の屋内市場が放火される事件も発生した。

本稿では、そうした南アフリカから、コロナ禍での生活苦のために帰国を選択したマラウイ移民について報告した。聞き取り調査の結果からは、帰国者の多くが南アフリカに再び出稼ぎに行く意思を有してはいないことが明らかになった。2022年の南アフリカにおいて、国外からの移民労働者を取り巻く環境が、2020年や2021年よりも悪化していることを考えると、帰国を選択するマラウイ移民はこれからも増えていく可能性がある。

その一方で、国境再開後の2021年には、南アフリカを目指すマラウイ人の出稼ぎがすでに再開されてもいる9。南アフリカの状況が悪化しても、両国のあいだに経済格差が存在する限り、より良い生活を夢見てマラウイから南アフリカへ出稼ぎに行く人びとが絶えることはないのかもしれない。

コロナ禍でのマラウイ移民の大量帰国は、南アフリカへの移民労働の長い歴史のなかのひとつのくぼみに過ぎないのだろうか。それともコロナ禍をきっかけに、出稼ぎ先としての南アフリカの重要性は低下していくことになるのか。アフターコロナの時代に南部アフリカの域内移動がどうなるのか、これからも目が離せない。

(付記)本記事はアジア経済研究所「現代アフリカの政治経済」研究会、同「人の移動に関する総合研究・発信プロジェクト」、JSPS科研費17K02064および21K12399の成果の一部です。

(謝辞)聞き取り調査は、調査協力者を通じて、2022年2月にマラウイ北部のカロンガ県で実施しました。調査協力者と回答者の皆さんのご協力に心より感謝申し上げます。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。

参考文献
著者プロフィール

佐藤千鶴子(さとうちづこ) アジア経済研究所地域研究センター主任調査研究員。DPhil(政治学)。専門は南部アフリカ地域研究。主な著者に『南アフリカの土地改革』日本経済評論社(2009年)、『アフリカ女性の国際移動』(共著)アジア経済研究所(2020年)、African Land Reform under Economic Liberalisation: States, Chiefs, and Rural Communities(共著)Springer(2021年)など。

  1. 国連社会経済局は2020年の南アフリカ在住マラウイ人を9万4119人と推計し(UNDESA 2020)、2011年の南アフリカ国勢調査では8万6606人のマラウイ人がカウントされている(Statistics South Africa 2015)。いずれも実際よりも少ない人数であると思われる。
  2. 2021年の南アフリカの一人当たりGDPはマラウイの約11倍である(The World Bank Data, GDP per capita, 2022/8/28アクセス)。
  3. すべてのマラウイ移民が帰国を選んだわけではない。コロナ禍1年目の南アフリカで、マラウイを含むアフリカ諸国出身の移民や難民が生計活動に大きな影響を受けながらも、知恵を絞り、個人のネットワークを活用してサバイバルを試みている様子については拙稿(佐藤 2021)を参照。
  4. 国境閉鎖は、南アフリカでの就労を目的に移動するマラウイ人に加えて、両国のあいだを頻繁に行き来して交易業を営んでいるマラウイ人にも大きな打撃を与えた。越境交易人は、南アフリカで衣料品や電化製品などを仕入れてマラウイで販売し、マラウイからはキャッサバ芋や干し魚などを輸入して南アフリカのマラウイ人コミュニティに販売する人びとである。
  5. マラウイへのバスが出発する南アフリカのジョハネスバーグからリロングウェまでは通常のルートで1935キロメートル、ブランタイアまでは1730キロメートルの距離がある。
  6. ただし、コロナ禍前から国際旅客バスが途中で故障したために帰国日数が長期化することがあった。コロナ禍で帰国した回答者のなかにも、帰国日数が長期化した理由として、国境通過に加えて、バスの故障を挙げた人が複数いた。
  7. チケット代はバスの運行会社により異なるが、総じて値上がりした原因としては、コロナ禍での乗客人数制限や運行本数の削減といった経営上の理由が考えられる。
  8. 2022年第1四半期(1月~3月)の失業率は34.5%でコロナ前よりも4ポイント以上高かった(Statistics South Africa 2022)。
  9. 2021年3月から7月の5カ月間において、国際移住機関(IOM)は、南アフリカを目指しながら、同国に入国できずにジンバブウェ側のバイトブリッジ国境付近で滞留していた273人のマラウイ人の帰国を支援したという(IOM 2021)。これは南アフリカへ入国することができなかったマラウイ人の事例であるが、ジョハネスバーグ在住のマラウイ移民からは、2021年に新たに到来したマラウイ人がいることを聞いている。

今回と同じテーマの関連コラム『新型コロナと移民』(2020-2021年)もぜひお読みください。