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コラム

新型コロナと中国国境貿易:溜まるアジアの『生もの』たち

 
第4回 ベトナムのドラゴンフルーツ ――サプライチェーンの「中国化」が輸出回復の秘密?

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051974

2021年2月
(3,613字)

新型コロナウィルス感染拡大は、ベトナムの果物輸出にも大きな影響をもたらした。特に、中国向けの輸出が一時的に大幅に減少したことは、中国の市場に大きく依存するベトナムの果物生産者にとっては大きな打撃であった。感染拡大前の2019年のデータによれば、中国がベトナムからの輸入を許可している8種類の果物(バナナ、マンゴ、スイカ、ドラゴンフルーツ、ライチ、ロンガン、ジャックフルーツ、ランブータン)の輸出額の実に91.3%が中国向けであった(UN Comtradeデータ)。

中国への果物輸出の手段としては、ランソン省(中国側は広西チワン族自治区)、ラオカイ省(中国側は雲南省)の国境ゲートを通る陸上輸送がその大半を占めている。感染拡大防止のため、2020年1月中旬から陸路による人の往来に制限がかかり、さらに1月31日には国境ゲートが閉鎖され、陸路による輸出はその後しばらく完全にストップした。新聞等では、足止めされた数百台のトラックが国境付近で待機を余儀なくされる様子が報じられていた1。ベトナムで「国際国境」と呼ばれる大規模なコンテナ積み替えヤードを備えた国境ゲートの閉鎖は、3日間から2週間ほどで解除になったものの、多くの農産物が経由する、「第2級国境」と呼ばれる小規模な国境ゲートの多くは1カ月以上閉鎖されていた。国境ゲート閉鎖が解除された後も、通常の通関・検疫手続きに加え、通過する車両の消毒など時間のかかる作業が必要となり、1日あたりの通過台数が著しく減少したとも伝えられている2

国境ゲート閉鎖の解除後、いち早く輸出が回復したのは、中国へ輸出される果物のなかで最も輸出額が多いドラゴンフルーツであった。図1は、中国の過去3年間の月別のドラゴンフルーツの輸入量を見たものである。ベトナムの月別の輸出データが入手できないため、ここでは中国側の輸入データを用いる。また、感染が拡大した時期の動きを見やすくするために各年の10月を起点としている。中国のドラゴンフルーツ輸入は1月〜2月の停滞ののち、3月〜4月は前年の倍近くにまで急増している。ただし、この図からは、報道されているような1月〜2月の輸入量の大きな落ち込みは見られない。これは、この時期の中国税関の輸入データに問題があるからと考えられる。筆者が確認しうる限り、輸入額、輸入数量ともに、果物に限らずすべての品目で1月と2月に同じ値が記載されており、将来的に修正されるかもしれないが、執筆時点では、この2カ月の数値が実態を反映しているかどうかは疑問が残る。いずれにせよ、注目すべきは前年を大幅に上回る3月〜4月の急激な輸入量の増加である。

例えばスイカと比べるとその違いが鮮明にわかる。図2は同じく月別のスイカの輸入量であるが、スイカの輸入は回復しないまま2020年の出荷シーズンを終えてしまった。ベトナムから中国へのスイカ輸出は12月から4月までの年間5カ月間に集中しており、運悪く、ちょうどその時期に新型コロナの感染が襲ったことがわかる。

図1 中国のベトナムからの月別ドラゴンフルーツ輸入量(2017年10月〜2020年9月)

図1 中国のベトナムからの月別ドラゴンフルーツ輸入量(2017年10月〜2020年9月)

(出所)Global Trade Atlasデータベースより筆者作成。

図2 中国のベトナムからの月別スイカ輸入量(2017年10月〜2020年9月)

図2 中国のベトナムからの月別スイカ輸入量(2017年10月〜2020年9月)

(出所)Global Trade Atlasデータベースより筆者作成。

腐りやすく単価が高いドラゴンフルーツは、収穫後冷蔵庫で保管され、冷蔵コンテナで輸出される(写真1、写真2)。国境ゲート閉鎖から解除までの期間に冷蔵庫、冷蔵コンテナの中で保存が効いた(1カ月ほどの保存が可能である)ことも輸出の急回復の要因であったと考えられる。ただし、国境ゲート閉鎖期間中は価格が大幅に下落し、輸送費が払えず収穫をせずに大量廃棄した農家も多かった3。さらに、近年、ドラゴンフルーツの海上輸送による上海を仕向地とする輸出も増加しているが4、コンテナ船の輸送網もいち早く回復していた。

写真1 収穫前(左)と収穫直後(右)のドラゴンフルーツ (ビントゥアン省ハムトゥアンナム県、2019年10月)。

写真1 収穫前(左)と収穫直後(右)のドラゴンフルーツ (ビントゥアン省ハムトゥアンナム県、2019年10月)。

写真2 ドラゴンフルーツを保管している冷蔵庫の中 (ビントゥアン省ハムトゥアンナム県、2019年10月)。

写真2 ドラゴンフルーツを保管している冷蔵庫の中 (ビントゥアン省ハムトゥアンナム県、2019年10月)。

ドラゴンフルーツ輸出の急回復は中国国内の高い需要を反映した現象であるが、現在は、市場だけでなく、ベトナム国内のサプライチェーンまで中国依存が進行しつつある。ベトナム国内のドラゴンフルーツの取引の大部分は中国の企業、個人により担われており、彼らがそのネットワークを通して情報収集を行ない取引も迅速に再開したことが、国境ゲート再開後の輸出の急回復のひとつの要因であったと考えられる。ベトナム最大のドラゴンフルーツ産地ビントゥアン省の農業・農村開発局の幹部に確認したところ、ビントゥアン省に常駐している中国人のほとんどは、中国のコロナウィルス感染拡大のため、1月末の旧正月に帰国できず、ベトナムに留まり、商売を続けていたとのことである。

ドラゴンフルーツは収穫後、地元の商人が小型トラックやバイクで集荷し、集荷業者に売られるが、そこから先が「中国化」された世界になる。ドラゴンフルーツは、その多くが中国人により経営されている集荷業者のヤードで洗浄、選別され、中国語がプリントされたフィルムに包装され中国語がプリントされた段ボール箱に詰められ、冷蔵庫に保管される(写真3)。そして中国資本の輸出業者が仕立てた冷蔵コンテナ車で国境ゲートまで運ばれてゆく(コンテナにも中国企業のロゴが描かれている)。

写真3 中国向け輸出用の段ボール箱 (ビントゥアン省ハムトゥアンナム県、2019年10月)。

写真3 中国向け輸出用の段ボール箱 (ビントゥアン省ハムトゥアンナム県、2019年10月)。

ビントゥアン省における筆者の2019年の調査によると、集荷業者を経営するのは、以前はすべてベトナム人であったが、中国の企業や個人に「貸し出す」という形態で実質的に経営を手渡すケースが2017年から急増しているという。これは、ASEAN・中国貿易協定で定められた原産地証明を中国側が厳しく求めるようになり、また、段ボール箱の表示や必要書類の記入に新たに煩雑なルールが設けられたため、勝手のわかる中国人にそれらの仕事を任せ、中国人ネットワークを通して輸出手続きを行う方が効率的だからという理由によるものである。

今回のコロナウィルス感染拡大という出来事を通して、ベトナム国内の果物のサプライチェーンを「中国化」することが、取引費用を軽減するだけでなく、中国への輸出に伴う予期せぬリスクに対応する有効な手段であることが明らかにされた。中国向けの輸出に特化するならば、とても効率の良いシステムであるが、もちろんこのサプライチェーンの中で発生する付加価値のほとんどはベトナムに残らない。また、中国で生産が急増し5、2020年5月にはインドネシアからの輸入解禁も発表された6ことから、中国の市場でのベトナム産ドラゴンフルーツの需要減も予想され、今後は輸出先の多角化に向けた努力が必要とされる。サプライチェーンの新たな担い手の確保が課題となるだろう。

写真の出典
  • すべて筆者撮影
著者プロフィール

坂田正三(さかたしょうぞう) アジア経済研究所バンコク研究センター研究員。専門はベトナム地域研究。主な著作に、『ベトナムの「専業村」――経済発展と農村工業化のダイナミズム』(研究双書No.628)アジア経済研究所 2017年、「ベトナムの農業機械普及における中古機械の役割」小島道一編『国際リユースと発展途上国――越境する中古品取引』(研究双書No.613)アジア経済研究所 2014年、など。

  1. BBC Newsベトナム語版、2020年2月4日付(2020年11月18日閲覧)。
  2. Dau Tu online, 2020年3月24日付(2020年11月18日閲覧)。
  3. 農家からの買取り価格は、国境封鎖後に1キロ当たり4万ドン(約180円)から1万ドン(約45円)以下まで下落したという。Lao Dong online, 2020年4月30日付(2020年11月18日閲覧)。
  4. 2017年までは南寧税関管区(主にソンラ省国境ゲートからの輸入)の輸入額が最も多かったが、2018年以降は上海税関管区の輸入額が南寧を上回っている(Global Trade Atlasデータベースより)。
  5. 中国のドラゴンフルーツ生産面積が過去数年で10倍に増加し、ベトナム国内の総栽培面積とほぼ同程度になったという報道もある。Vietnamnet, 2020年12月17日付(2021年1月28日閲覧)。
  6. Vietnam Times, 2020年6月9日付(2020年11月18日閲覧)。