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2025年インドネシアの十大ニュース
Indonesia’s Top 10 News of 2025
PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001837
アジ研・インドネシアグループ
Indonesia Study Group, IDE
2026年3月
(6,283字)
アジア経済研究所では、インドネシアを研究対象とする研究者が毎週集まって「先週何が起きたか」を現地新聞・雑誌などの報道に基づいて議論する「インドネシア最新情報交換会」を1994年から続けています。毎年末には、その年のニュースを振り返って、私たち独自の「十大ニュース」を考えています。
今年も、アジ研・インドネシアグループの考える「2025年インドネシアの十大ニュース」を発表します。
1位 政府系ファンド「ダナンタラ」創設
2月24日、国営企業の配当を原資に戦略的な開発投資を行う政府系ファンド(SWF)として、投資運用庁ダヤ・アナガタ・ヌサンタラ(略称ダナンタラ)が創設された。これはプラボウォ大統領肝いりの構想で、「群島の未来の力」を意味する名称も自身が付けた。同日付で国営企業法が改正され、ダナンタラは最低資本金が1000兆ルピアで、国営企業の配当金の投資・運用、国営企業の経営監視という二つの機能を持つと規定された。
ダナンタラの発足にあたり大統領は、最高経営責任者(CEO)にロサン・ルスラニ投資・川下化大臣を兼任させ、政府が1月に国家予算を削減して捻出した750兆ルピア(約440億ドル)のうちの200億ドルをダナンタラの当初の資金に充てると発表した。4月末までに国営企業とその子会社・孫会社844社がダナンタラの下に編入され、傘下の総資産は9820億ドルに達した。
ダナンタラは早速、大統領が重視する全国各地のゴミ発電所建設のために低利回り「愛国債」を発行し、国営電力会社による30年間電力買取り保証付きでゴミ発電所の事業者選定と投資を行うと発表した。ダナンタラに対しては国内外から、政府の監視が不十分、情報開示が不十分、投資先の選定が不透明、傘下に財務の不健全な国営企業が多いなど、ガバナンス・リスクが指摘されている。ダナンタラ発足にともない国営企業省から改組された国営企業規制庁は、ダナンタラ傘下の国営企業各社の株式1%を保有し役員解任などの特別権をもつが、同庁によるダナンタラ監視の効力は未知数である。(佐藤百合)
ダナンタラの庁舎ビル(2025年8月25日)
2位 暴動とその直後の内閣改造
8月29日から9月1日にかけて、インドネシア各地で大規模な暴動が発生した。これに先立つ8月25日から、国会議員の高額な住宅手当などに抗議する学生デモが発生していた。事態を悪化させたのは、28日夜、デモとは無関係のオンラインバイクタクシーの運転手が警察機動隊の装甲車に轢き殺された事件であった。翌29日には同運転手の葬儀と追悼式が行われ、プラボウォ大統領も哀悼の意を表する声明を出した。
しかし、庶民の怒りは収まらず、抗議デモは暴徒化した。ジャカルタでは警察施設や公共インフラが放火され、複数の地方都市では地方議会の建物が放火された。また、複数の議員の私邸に対して暴徒が略奪行為を行い、予算策定を担うスリ・ムルヤニ財務相の私邸までもが略奪の対象となった。プラボウォは住宅手当の見直しなどを約束すると同時に、暴動を「外国勢力の煽動」によるものと主張し、警察や国軍を動員して強硬な取り締まりを行った。市民社会の側からは、強硬な取り締まりを停止することや国会・警察の改革を求める「17+8項目の国民の要求」が掲げられた。
暴動の余波が残るなか、9月8日に突然の内閣改造が行われ、規律ある財政運営で国際的に高い評価と信頼を得ていたスリ財務相が交代した。プラボウォが事実上解任したとする見方と、略奪に深く傷ついたスリが辞意を表明したとする見方があり、理由は定かではない。後任には預金保険機構理事長のプルバヤ・ユディ・サデワが就任したが、スリの交代により、プラボウォが財政運営に一層直接関与する可能性が懸念されている。(水野祐地)
ジャカルタ州警察本部前バス停(2025年8月30日)
3位 貧困撲滅重視のプラボウォ優先政策
プラボウォ大統領の政策は貧困緩和と極度の貧困の撲滅に重点がおかれた。1月6日に開始された無料栄養給食の受益者は1年後の2026年1月7日には5613万人に達した。衛生基準を満たしていない調理場で作られた食事によって約2万人が食中毒を起こすなど問題が多いにもかかわらず、大統領は「99.99%成功した」と主張した。当プログラムにかかる財政負担は重く、71兆ルピアを充当し、51.5兆ルピアが執行された。貧困・極貧困層の子どもたちを対象とする大衆学校は、貧困の連鎖を断ち切り、中退率を低減することを目的とした無償の寄宿学校である。目標500校のうち166校が設立され、極貧家庭の生徒1万5895人が学んでいる。
7月には地方の町村レベルでの経済成長を促し、貧困を軽減するために8万81の紅白村落協同組合が設置された。約13万ある既存の共同組合の活動は停滞しているとして、既存組合からの転換は185にとどまった。新たな組合は生産・流通拠点としての機能を持ち、地区によっては薬局、診療所、貯蓄貸付などの事業も行う。施設の建設は、アグリナス・パンガン・ヌサンタラ社が一手に引き受ける。同社は、2025年に大統領によって建設関連の国営企業3社がそれぞれ食品・プランテーション・水産業を手がける国営企業へ転換されたうちの1社である。また紅白協同組合は国営銀行からそれぞれ30億ルピアの低利融資を受けることが可能となり、さらに最大2500ヘクタールの鉱山を経営できるようになるなど、従来の協同組合の範囲を超えた機能が付与される。(濱田美紀)
4位 軍の政治経済分野への進出が拡大
国軍の役割を拡大する動きが止まらなかった。政権発足前の段階では市民社会などからの反対で採決に至らなかった国軍法改正案は、3月20日、現役軍人が出向できる政府機関を10から14へ拡大するという内容で可決・成立した。今回も学生や市民社会組織らによる抗議行動をうけて出向可能な政府機関の範囲は当初案から大幅に縮小されたが、わずか2週間の審議で法案は成立した。
国軍法の改正とは関係なく、現役・退役軍人が文民ポストに就任する動きも目立った。主なものだけでも、食糧調達公社社長、農業省監察総監、運輸省監察総監、国営兵器製造会社Pindat監査役、国営造船会社PAL監査役代表、国営ガルーダ航空社長などが挙げられる。
8月には国軍組織の大規模な拡大が実行された。このなかには、対外防衛ではなく国内治安を主要な任務とする陸軍軍管区6カ所の増設や、食料安全保障や無料栄養食プログラムなど、プラボウォ政権が進める優先政策の実行部隊となることを想定した開発領域部隊の新設が含まれている。こうした軍の役割拡大はスハルト時代を彷彿とさせるものである。国軍を対外的防衛機能に集中する専門組織へと変革していくことは民主化改革の柱のひとつだったが、そうした流れに逆行する動きが続いている。(川村晃一)
5位 重点政策への優先的な配分を目的とした予算効率化策の実施と混乱
1月22日、プラボウォ大統領は、無料栄養食プログラム(3位の項参照)といった目玉政策へ優先的に予算を充当すべく、国家・地方予算の執行における支出効率化に関する大統領訓令(2025年第1号)を発令した。これにより政府は国家予算の1割近くに相当する306.7兆ルピアを捻出したが、その裏では、出張費や事務用品など非優先的・非生産的とみなされた項目の支出や地方交付金が凍結されたため、大きな混乱が生じた。予算額でみて最大の影響を受けたのが公共事業省であった。同省は当初予算110.95兆ルピアの約7割が凍結され、幹線道路の補修といったインフラ事業の中断・縮小に追い込まれた。
この予算効率化策は2025年第1四半期の経済成長の鈍化の一因になったとみられる。前年同期比でみて政府最終消費支出が減少したほか、総固定資本形成(投資)の7割ほどを占める建物・構築物部門の成長率の落ち込みがあった。その後、2025年末にかけて予算の凍結解除が進み、公共事業省の予算も当初予算を上回る水準にまで引き上げられた。その一方で、無料栄養食プログラムは年末時点で当初予算の約7割しか執行されておらず、予算効率化策の効果には疑問が残る結果に終わった。(東方孝之)
6位 スマトラ島で甚大な豪雨被害
11月25日に発生した熱帯低気圧セニャールによる豪雨の影響でアチェ州、北スマトラ州、西スマトラ州で多数の洪水や地滑りが起こり甚大な被害をもたらした。12月1日にはプラボウォ大統領が被災地を視察した。住民らが緊急の支援を必要としている一方でインフラの寸断によって復旧が遅れており、国家非常事態宣言を求める声があがっていた。しかし、プラボウォは「最悪の事態は過ぎた」として、すでに出されている州レベルの非常事態宣言で十分であるとの見解を示した。さらに、プラボウォは各国政府から寄せられている支援の申し出を断る意向を明らかにした。その後、12月19日に政府は国際組織を通じた特定の支援のみ受け入れる方針へ改めた。
また、洪水や土砂崩れのほか、鉄砲水によって大量の丸太や木材が押し流され被害を拡大させたことから、これまでスマトラ島で行われてきた大規模な森林伐採が今回の惨禍の大きな要因であると指摘された。これにより、政府は翌年1月に同地域で林業や鉱業に従事する企業28社の事業許可を取り消した。気候変動による自然災害の増加だけでなく、政府の不十分な災害対策や森林伐採の杜撰な管理の問題を浮き彫りにさせた。
国家災害対策庁のデータによると、死者数は約1200人、2026年2月8日現在も8万人以上が避難を続けており、140人の住民が行方不明となっている。(土佐美菜実)
7位 BRICS加盟と全方位積極外交の継続
1月6日にインドネシアはBRICSに正式加盟し、東南アジア初の加盟国となった。ジョコウィ前政権はBRICS加盟を見送っていたため、プラボウォ新政権は大きな方向転換を行ったと言える。12月1日には、BRICSの新開発銀行(NDB)への加盟に向けて、インドネシアが10億米ドルを拠出することが発表された。
2025年はBRICSの主要国である中国およびロシアとの関係を強化する動きが目立った。4月21日には中国との初の外務・防衛閣僚協議(2+2)が北京で開催された。6月19日にはプラボウォがロシアを公式訪問してプーチン大統領と会談し、両首脳は戦略的パートナーシップを構築する宣言を採択した。9月3日には中国の戦勝80周年記念式典にプラボウォ大統領が参列し、金正恩・習近平・プーチンと並んで軍事パレードを観覧する姿が注目された。
とはいえ、プラボウォ政権は全方位外交を続けており、西側諸国から距離を置いているわけではない。プラボウォは7月14日にフランスを訪問し、バスティーユ祭の軍事パレードに主賓として出席した。米国との首脳会談は先送りとなったが、プラボウォは9月23日の国連総会において就任後初の一般討論演説を行い、同日にトランプ大統領が主催したガザ情勢をめぐる会合に招待されて参加した。対日関係においては、1月11日に石破茂首相が来訪して首脳会談が行われた。9月上旬に予定されていたプラボウォの訪日は国内の暴動の影響で実現しなかったが、11月17日には第三回日イ外務・防衛閣僚協議(2+2)が東京で開催された。(水野祐地)
(7月6日)に出席したプラボウォ大統領(左から3番目)
8位 「相互関税」後に進む他地域との経済連携
2025年、米国トランプ政権は貿易赤字削減を理由に「相互関税」政策を打ち出し、各国は突然の関税引き上げに直面した。米国はインドネシアに対して4月に関税率を32%とすることを通知した。インドネシアは米国からの輸入品に対し、品目数ベースで99%以上に対する関税と出荷前検査などの非関税障壁も撤廃した。これを受けて、米国は7月には関税を19%に引き下げることを発表した。その後も両国間では鉱物資源やパーム油の扱いなどをめぐって交渉が続いている。
トランプ関税の圧力を受け、各国はサプライチェーンの多角化を急いでいるが、インドネシアの経済外交にも影響が及んだ。インドネシアは8月にはペルーとの間で、また9月にはカナダとの間で包括的経済連携協定(CEPA)に署名した。さらに9月にはEUとのCEPAの交渉も最終合意に達した。EUとの交渉は2016年に開始されたものの、長年合意に至っていなかった。しかし今回相互に輸入額ベースで99%の関税撤廃を行い、対立していたパーム油の関税も撤廃されるなど、EU側にも一定の柔軟化がみられた。
さらにインドネシアは西側諸国以外とも貿易交渉を進め、12月にはロシアやカザフスタンなど中央アジア諸国を含むユーラシア経済同盟(EAEU)との自由貿易協定(I-EAEU FTA)を締結した。ロシアを含む経済圏との貿易拡大を目指す動きであり、インドネシアのバランス外交の傾向を映し出すものともいえる。(道田悦代)
9位 刑事訴訟法典の改正
国会は11月18日、刑事訴訟法典(KUHAP)改正案を可決した。同法典は、2023年に成立した改正刑法典(KUHP)とともに2026年1月2日から施行されている。2004年から検討されてきた同法典の改正により、捜査権限や刑事手続の在り方が大きく変わることになった。
最大の特徴は、捜査機関の権限拡大である。盗聴や通信の遮断、資産の押収・差押えなどの強制措置が、緊急の場合は裁判所の許可なしに行えることになった。また、警察が逮捕権限を唯一行使できる「筆頭捜査機関」に位置付けられ、他の省庁(林業省、環境省、海洋・漁業省、入国管理局)にある捜査機関は警察の捜査官の調整下に入る(ただし最高検察庁、汚職撲滅委員会、国軍の捜査官は警察との調整の義務を負わない)。こうした警察の捜査権限の強化に対しては、当局による権限濫用につながりうるとして市民社会組織から強い懸念が示されている。
もうひとつの特徴は、法人の刑事責任を明確化し、企業犯罪への対応を強化した点である。対話を通じた正義の確立を目指す修復的司法(restorative justice)や、自主的な犯罪の認定と被害回復・再発防止の実行を重視する訴追延期合意(Deferred Prosecution Agreement: DPA)といった新たな枠組みも取り入れられている。多様な証拠の採用を認めたり、被疑者・被告人の権利保護の強化も図られた。(川村晃一)
10位 国営石油会社プルタミナの汚職事件
2月、補助金付き燃料の配給を担当するプルタミナ・パトラ・ニアガ(PPN)社の社長をはじめ、国営石油会社プルタミナの複数の子会社幹部や民間企業幹部ら9人が汚職容疑で逮捕された。その後、容疑者数はプルタミナ本社幹部を含む18人にまで膨らんでいる。容疑者には石油ビジネスに長年関与してきたリザ・ハリッドも含まれているが、海外に逃亡中のため国際指名手配がされている。プルタミナ側の容疑者らは2018年以降、民間企業と結託して、不要な石油製品の輸入、船舶レンタル費用の上乗せ、補助金付き低品質ガソリンの混入による品質詐欺などに関与した疑いがもたれている。これにより、国家財政の損失は約45兆ルピアに、また割高な燃料調達価格がもたらした経済的な損失は約172兆ルピアに達したとも指摘されている。なお、9月にはGojek創業者のナディム・マカリム元教育・文化・研究・技術相も、在任中に実施したクロームブック調達が国家に2兆ルピアの損失をもたらした背任行為にあたるとして、汚職容疑で逮捕された。(東方孝之)
写真の出典
- 写真1、2 川村晃一撮影
- 写真3 国家災害対策庁(BNPB)Facebook
- 写真4 Prime Minister’s Office(GODL-India)
執筆者(執筆順)
佐藤百合(さとうゆり) アジア経済研究所名誉研究員、国際交流基金参与
水野祐地(みずのゆうじ) アジア経済研究所地域研究センター
濱田美紀(はまだみき) アジア経済研究所開発研究センター
川村晃一(かわむらこういち) アジア経済研究所海外調査員
東方孝之(ひがしかたたかゆき) アジア経済研究所地域研究センター
土佐美菜実(とさみなみ) 京都大学東南アジア地域研究研究所 社会共生研究部門 助教
道田悦代(みちだえつよ) 南山大学国際教養学部国際教養学科 教授
