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2018年インドネシアの十大ニュース

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00050671

アジ研・インドネシアグループ

2019年1月

(3874字)

アジア経済研究所では、インドネシアを研究対象とする研究者が毎週集まって、最新の出来事を現地新聞・雑誌などの報道に基づいて報告・議論する「インドネシア最新情報交換会」を1994年から続けています。毎年末には、その年のニュースを振り返って、私たち独自の「十大ニュース」を考えています(参考:「2017年インドネシアの十大ニュース」)。

それでは、アジ研・インドネシアグループの考える「2018年インドネシアの十大ニュース」を発表します。

1位 アジア競技大会を成功裏に開催

8月18日から9月2日までアジア競技大会がジャカルタとパレンバンを会場として開催され、アジア45カ国・地域の選手1万1000人、関係者5500人が参加した。インドネシアでは56年ぶり2度目の開催である。最終的なメダル獲得数は、金31個、銀24個、銅43個の計98個で総合4位と、史上最高の成績を残した(総合順位では1962年に日本に続く2位になったことがある)。チケットの発券ミスや施設建設の遅れなど混乱も多かったが、ジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)大統領自身が開会式にバイクで登場したり(写真1)、頻繁に競技会場での応援に出向いたりするなど、大会の盛り上げに一役買った。大会の開催にあわせて会場周辺の道路やアクセス交通も整備された。引き続き、アジアパラ競技大会も10月6日から13日までジャカルタで開催され、アジア42カ国・地域の選手2800人余が参加した。(川村晃一

写真1 アジア競技大会の開会式にバイクに乗って登場したジョコウィ大統領

写真1 アジア競技大会の開会式にバイクに乗って登場したジョコウィ大統領
2位 大きな災害が相次いで発生――ロンボク地震、パル地震・津波、スンダ海峡津波――

2018年後半は地震や火山活動に伴う津波が各地に甚大な被害をもたらした。  まず、7月29日、ロンボク島でマグニチュード6.4の地震が発生し20人が死亡したが、その1週間後の8月5日にも再びマグニチュード7の地震が同島を襲い、483人が死亡、1413人が負傷した。同地からは約43万人が避難したとされる(国家災害対策庁による8月17日付報告)。  

次いで9月28日、中スラウェシ州パルでマグニチュード7.4の地震が発生した(写真2)。津波や液状化による地滑りにより、死者・行方不明者数は2860人、負傷者は4000人以上にのぼり、海外からの支援も相次いだ(同10月9日付報告)。  

最後に、12月22日、スンダ海峡にあるアナック・クラカタウ火山の噴火・山体崩壊が津波を引き起こし、ジャワ島西岸(バンテン州)およびスマトラ島南端(ランプン州)で437人が死亡、1万4千人以上が負傷した(同12月31日付報告)。(東方孝之

写真2 中スラウェシ州パルの被災後の様子

写真2 中スラウェシ州パルの被災後の様子
3位 スラバヤで同時多発爆弾テロ事件が発生

5月13日に東ジャワ州の州都スラバヤ市で自爆テロ事件が発生した。日曜日朝のミサで多くの信者が集まっていた3つのキリスト教会を狙った同時多発テロで、一般人の死者7人、負傷者40人以上を出す惨事となった。さらにショッキングだったのは、この自爆テロの犯人が、子供を含む一家族だったことである。17歳と15歳の兄弟、12歳と8歳の姉妹と42歳の母親、そして46歳の父親がそれぞれ爆弾を抱えて、3つの教会を襲撃した。女性が自爆テロを起こしたのはインドネシアでは初めてであるばかりでなく、子供4人までもがテロの加害者となったことは国民に衝撃を与えた。しかも、このスラバヤでの同時多発テロ事件を挟む1週間の間に、イスラーム過激派によるテロ事件が国内各地で相次いで発生した。(川村晃一

4位 2019年大統領選挙の立候補者が決定

8月10日にジョコウィ大統領と元陸軍将校プラボウォ・スビアントが2019年大統領選挙への立候補を届け出て、選挙戦の火ぶたが切って落とされた(写真3)。5年前の2014年大統領選と同じ顔合わせだが、ペアを組む副大統領候補は前回と異なる人物が選ばれた。  

ジョコウィは、自分よりも18歳年上、75歳のマアルフ・アミンを選んだ。マアルフは、同国最大のイスラーム組織ナフダトゥル・ウラマー(NU)の総裁や、半官半民組織のインドネシア・ウラマー評議会(MUI)議長などの要職も務めたイスラーム教指導者だが、その保守的言動で知られている。ジョコウィは、自身に対する支持が最も低い、敬虔なイスラーム教徒からの票獲得を狙ったのである。  

一方、プラボウォが副大統領候補に選んだのは、若手実業家のサンディアガ・ウノ(通称サンディ)であった。1969年生まれのサンディは、自ら投資会社を設立するなど若手有望企業家として注目されている。2015年に政界入りし、2017年のジャカルタ州知事選で若手知識人アニス・バスウェダンの副州知事候補として当選を果たした。プラボウォは、有権者の過半数を占める10〜30歳代の若者の支持獲得を狙ったと考えられる。(川村晃一

写真3 大統領選挙の立候補者番号抽選会

写真3 大統領選挙の立候補者番号抽選会でのプラボウォ=サンディ候補(左)と ジョコウィ=マアルフ候補(右)
5位 歴史的なルピア安を記録

アメリカの金利引き上げを受けて、ルピアの下落が加速した。中銀はアメリカの利上げに先駆け、小刻みに6回の利上げと積極的な為替介入を実施したが、8月のトルコ・リラショックと経常収支赤字拡大が影響し、10月にはアジア通貨危機後の1998年の記録に迫る1ドル=1万5000ルピア台が続き、歴史的なルピア安となった。そのため政府は、経常収支赤字の削減のために輸入制限を実施したり、軽油にバイオディーゼルを混ぜた燃料B-20の利用を義務付けたりするなど、金融政策以外にも様々な手段でルピア安の影響を回避することを試みた。(濱田美紀

6位 フリーポート社の株式譲渡が完了

12月21日、アメリカの鉱業会社フリーポート・マクモランの子会社フリーポート・インドネシア社(PTFI)の株式のインドネシアへの譲渡が完了した。これによりインドネシア側の持ち株は9.4%から51.2%となり、PTFIの経営権を握った。PTFIの株式はフリーポート・マクモラン社が48.8%、国営鉱業持株会社のイナルム社(元国営アルミニウム会社)が26.2%、イナルム社とパプア州政府の合弁企業インドネシア・パプア・メタル&ミネラル社が25%となった。今回株式取得のためにイナルム社が支払った金額は38.5億ドルであった。(濱田美紀

7位 IMF・世界銀行年次総会、バリで開催

10月12~14日、IMF・世界銀行の年次総会がバリ島で開催された。年次総会は3年に1度、アメリカ以外の加盟国で開催される。アジアでは香港、シンガポール、日本で開催されたことがあるのみだった。インドネシアにとってはアジア競技大会と並ぶ国際的イベントのホスト役となった。会議への参加者総数は予想を上回る3万6000人以上に達した。外国要人を前にした開会演説でジョコウィ大統領は、人気ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」になぞらえて気候変動などへの国際協調をないがしろにした大国の覇権争いを暗に批判し、話題を呼んだ。(佐藤百合)

8位 ライオン・エア機墜落

10月29日、ジャカルタ発パンカル・ピナン(バンカ・ブリトゥン州)行きのボーイング737型機が離陸13分後にジャワ島沖で墜落し、乗員乗客あわせて189名全員が死亡した(写真4)。これまでに直前のフライトでの機材の不具合などが報告されているが、墜落原因の解明には時間を要するとみられている。(東方孝之

写真4 2018年9月に撮影された事故機

写真4 2018年9月に撮影された事故機
9位 オンライン事業認可システム「OSS」が稼働

7月9日、「オンライン・シングル・サブミッション(OSS)」と呼ばれるオンライン事業認可システムがサービスを開始した。政府は、2017年8月の経済政策パッケージ第16弾で事業認可の迅速化と簡素化を目的にOSSの導入を決めていた。サービス運用から半年足らずの2018年末までにOSSの登録件数は22万6000件を超え、実際の事業認可件数は17万3000件に達した。OSSサービスは2019年1月から中央・地方政府の事業認可を統合し、窓口は投資調整庁(BKPM)となる。(佐藤百合)

10位 欧州自由貿易連合(EFTA)と包括的経済連携協定(CEPA)に調印

インドネシアは12月、アイスランド、リヒテンシュタイン、ノルウェー、スイスが加盟するEFTAとのCEPAに調印した。EFTAはEU関税同盟には参加していないが、シェンゲン協定や単一市場を通じた欧州市場への高いアクセスがある。EFTAとのCEPAを通じて欧州へのパーム油などのインドネシア産品輸出の拡大を狙う。(道田悦代

写真の出典
  • 写真1 アジア競技大会の開会式にバイクに乗って登場したジョコウィ大統領:by Tasnim News Agency.
  • 写真2 中スラウェシ州パルの被災後の様子:国家捜索救助庁マカッサル市支部Twitter.
  • 写真3 大統領選挙の立候補者番号抽選会でのプラボウォ=サンディ候補(左)とジョコウィ=マアルフ候補(右):総選挙委員会(KPU)ウェブサイト
  • 写真4 2018年9月に撮影された事故機:PK-REN from Jakarta, Indonesia [CC BY-SA 2.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0)], via Wikimedia Commons.