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2019年インドネシアの十大ニュース

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051539

アジ研・インドネシアグループ

2020年1月

(5,003字)

アジア経済研究所では、インドネシアを研究対象とする研究者が毎週集まって「先週何が起きたか」を現地新聞・雑誌などの報道に基づいて議論する「インドネシア最新情報交換会」を1994年から続けています。毎年末には、その年のニュースを振り返って、私たち独自の「十大ニュース」を考えています。

今年も、アジ研・インドネシアグループの考える「2019年インドネシアの十大ニュース」を発表します。

1位 大統領・議会選同日選挙の実施

4月17日に5年に1度の国政選挙が行われた。大統領選、下院にあたる国会、上院にあたる地方代表議会、さらに地方議会の州議会、県・市議会の各議員選挙も同時に実施された。大統領選と議会選挙とが同日に行われたのは初めてのことである。

公式の選挙結果は5月22日に選管から発表され、前回2014年と同じ顔合わせとなった大統領選では、現職のジョコ・ウィドド(通称ジョコウィ)が得票率55.5%でプラボウォ・スビアントを破り再選を果たした。一方、国会議員選挙ではジョコウィの所属する闘争民主党(PDIP)が第1党を維持するなど、勢力図はほとんど変わらなかった。

今回も激しい選挙戦が展開されたが、投開票作業は平穏に進められた。しかし、「ジョコウィ当選」の選挙結果に対して、プラボウォ支持者は投開票で多数の不正があったとしてこれを認めず、ジャカルタ中心部の街頭で大規模なデモを組織し、暴徒化した一部の参加者と警察などが衝突して10人が死亡した。国政選挙の結果をめぐって暴動が発生し、死者が出たのは民主化後初めてである。(川村晃一

写真1 大統領選の開票作業は平穏に進められたのだが……

写真1 大統領選の開票作業は平穏に進められたのだが……
2位 ジョコ・ウィドド第2期政権の発足

10月20日、国民協議会(MPR)で正副大統領の就任式が行われ、ジョコウィ第2期政権(~2024年10月)がスタートした。就任演説でジョコウィ大統領は、建国100年目の2045年にインドネシアが世界5大経済国たる先進国になっていることを目標に掲げ、それに向けて懸命に迅速に働こう、人材開発と経済開発を進めよう、と呼びかけた。ジョコウィは10月23日に組閣を行い、これを「先進インドネシア内閣」と名づけた。2度にわたって大統領選を戦った宿敵プラボウォを国防大臣として政権に取り込んだことや、インドネシアのユニコーン第1号となったオンライン配車・配送サービス会社ゴジェック(GO-JEK)の創業者ナディム・マカリム(35歳)を教育・文化大臣に抜擢したことなどが話題を呼んだ。(佐藤百合)

写真2 第2期ジョコ・ウィドド政権の「先進インドネシア内閣」が発足

写真2 第2期ジョコ・ウィドド政権の「先進インドネシア内閣」が発足
3位 改正汚職撲滅委員会法の成立と学生デモの発生

9月17日、月末に2014年からの任期満了を迎える国会(DPR)で、汚職撲滅委員会(KPK)を弱体化させる内容を含む法案がわずか4日の審議だけで可決成立した。2003年に設立された汚職撲滅委員会は、高い独立性と強い権限を使って、現職の閣僚や政党のトップ、国会議員、地方首長など、汚職に関与した多くの政治家を逮捕し、有罪に追い込んできた。国会は、目の上のこぶのような存在だった汚職撲滅委員会の独立性と権限を弱める法案を、5年の任期満了直前になって議員立法で上程したのである。これに対してジョコウィ政権も、わずかな修正提案をしただけで同意したため、法案は実質的な審議がほとんどされないまま成立してしまった。

「汚職撲滅」は、1998年の民主化運動がスハルト独裁政権を倒す際に掲げた重要なテーマのひとつだっただけに、全国の学生らは今回の法律改正を「民主化に逆行する」ものだとして強く反発し、各地で大規模なデモを組織した。9月23〜24日にかけて全国で行われたデモでは、デモ隊と警察が衝突し、2人が死亡している。これに対して政府は、各大学の学長を通じて学生らがデモを行うことを禁じるよう圧力をかけるなど、強権的な対応をみせた。(川村晃一

4位 パプアで大規模なデモが発生

8月から9月にかけて、パプア出身者への差別に対して抗議したり、パプア独立の要求を掲げたりするデモがパプア州や西パプア州の各地で頻発した。デモの一部が暴徒化する事態も多数発生し、9月23日にはワメナでの暴動で32人が死亡している。きっかけは、パプア地域のインドネシアへの編入が決定されたニューヨーク協定の締結日である8月15日にあわせて複数の都市で例年のようにデモが行われたが、これを治安当局が厳しく取り締まったうえに、さらに軍関係者が東ジャワ州スラバヤでパプア出身学生に対して差別的な発言をしたことがインターネットで拡散したことであった。政府は、国軍部隊や警察をパプアに派遣して取り締まりを強化したほか、デマ拡散を防止する目的で現地におけるインターネットへのアクセスを制限する措置をとったが、パプアでは現地出身者ではない住民に対するヘイトが広まり、一時は移住者ら約1万人が避難した。10月、ジョコウィ大統領は第2期就任式後初めてとなる地方視察として同地域を訪問しており、さらなる分権化やインフラ整備など特別な配慮を表明して融和に努めている。(東方孝之

5位 首都移転計画の発表

8月26日、ジョコウィ大統領が首都をジャカルタから東カリマンタン州の北プナジャム・パスル県とクタイ・カルタヌガラ県の2県にまたがる地域に移転する方針を発表した。同地が選択された理由としては、地理的にインドネシアの中央に位置していること、ジャワ島と外島(ジャワ島以外の地域)の間の経済格差を解消すること、自然災害のリスクが低いことなどが挙げられている。2024年には政府機能の一部移転が開始される予定である。総費用は466兆ルピア(約3.5兆円)と見込まれているが、政府予算からの支出は74.4兆ルピア(約19%)ほどに抑えられ、官民連携事業方式(PPP)の枠組みなど民間資金を積極的に活用する計画である。(東方孝之

6位 ジャカルタで初の地下区間を含むMRT(都市高速鉄道)が開業

3月24日、ジャカルタ都市高速鉄道(MRT)の南北線第1区間の開業式典が開催され、翌25日から営業運転が開始された。ジャカルタ南部のルバック・ブルス(Lebak Bulus)からスナヤン(Senayan)までの高架区間7駅と、スナヤンから中心部ブンダラン・ホテル・インドネシア(Bundaran Hotel Indonesia)までメインストリートのタムリン、スディルマン通りの地下に建設された区間6駅からなる全長15.7kmを約30分で走る。運賃は初乗りが4000ルピア(約32円)、全区間1万4000ルピア(約110円)である。費用総額16兆ルピア(約1250億円)には円借款が活用され、中央政府およびジャカルタ首都特別州の予算が充てられた。南北線を8.1km北に延伸する第2区間もすでに着工され、2024年の開業を目指している。総延長31km、総額4320億円とされる東西線(第3区間)も2020年には着工予定である。(濱田美紀

写真3 2019年3月に開業したジャカルタMRT

写真3 2019年3月に開業したジャカルタMRT
7位 インドネシア提唱の「インド太平洋構想」がASEAN首脳会議で採択

バンコクで開催された第34回東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議は、6月23日「インド太平洋に関するASEAN見解(ASEAN Outlook on the Indo-Pacific: AOIP)」を採択した。このASEAN版インド太平洋構想は、1年前にジョコウィ大統領が提唱した「インド太平洋協力」が基になっている。「ASEANこそがインド太平洋協力に中心性を発揮しなければならない」と訴えた2018年4月のASEAN首脳会議での大統領演説は、外交にあまり関心がないといわれてきたジョコウィの印象を一変させた。1年間の議論を経て採択された「ASEAN見解」は、インド太平洋に平和、安定、繁栄をもたらし地域協力の指針となることを目的とし、ASEANの中心性、誰をも排除しない包摂性、競合ならぬ対話の重視、海洋・連結性・持続可能な開発目標(SDGs)分野での協力などを旨としている。実はインドネシアは、第2期ユドヨノ政権期にもインド太平洋協力を唱えていた。その後中国が一帯一路(BRI)を推進し、アメリカ、日本、オーストラリア、インドの4カ国が「自由で開かれたインド太平洋(FOIP)」を掲げるなかで、地政学的戦略とは一線を画したインドネシア主導の包摂的協力構想がASEAN採択への機運を高めることになった。(佐藤百合)

8位 2つの二国間包括的経済連携協定が調印・発効へ

3月4日、インドネシアとオーストラリア両国政府が包括的経済連携協定(CEPA)の調印を行った。2010年に両国がCEPAの交渉開始を宣言した後、外交問題で交渉が中断するなどの紆余曲折を経て、9年後の調印となった。インドネシアにとって二国間協定の調印は2008年の日本インドネシア経済連携協定(EPA)以来となる。インドネシアの対豪貿易収支は赤字だが、インドネシアのオーストラリア向け輸出額は2018年28億ドルで、オーストラリアはインドネシアにとって13番目の輸出相手国である。

8月10日には、インドネシア・チリCEPAが発効した。インドネシアのチリ向け輸出額は2018年に1.6億ドルで、対チリの貿易収支は黒字である。チリは、ラテンアメリカ各国のなかでインドネシアが経済連携協定を締結した初めての国となった。チリは世界人口の6割を擁する国々と貿易協定を結んでおり、インドネシアは、チリとのCEPAがラテンアメリカやその他の市場開拓の第一歩となることを期待している。(道田悦代

9位 全国高速通信網パラパ・リングが完成

3万5280キロメートルの海底光ファイバーケーブルと2万1708キロメートルの地上ネットワークによってインドネシア全土に高速通信網を敷設する「パラパ・リング・プロジェクト(Palapa Ring Project)」が、10年の建設期間を経て10月14日に完成した。これにより高速通信規格4G・LTEは全国34州514県・市の97%をカバーすることになり、人口の約9割が高速通信サービスを利用できることになる。

このプロジェクトは、2005年にスシロ・バンバン・ユドヨノ政権が策定したインフラ・ロードマップで公表され、2009年11月から西部、中部、東部の3事業体に分けられて個別に建設が進められてきた。電気通信部門においてはインドネシア初の官民連携方式(PPP)が採用された。また、財源は公的資金としつつ、運営・管理にかかわる成果に応じて民間事業者に対価が支払われるアベイラビリティ支払い方式が採用されている。(濱田美紀

10位 ジョコ・ウィドド大統領、マアルフ・アミン副大統領が来日

2019年は、インドネシアの正副大統領が来日した年となった。6月28日、大阪で開催されたG20大阪サミット出席のため、ジョコウィ大統領が来日した。G20前日に、憲法裁判所での選挙結果に対する不服申立て審査が終了して再選が確定したことから、ジョコウィ大統領はサミット会場で各国首脳や国際機関代表から祝福を受けた。安倍首相とは、日本インドネシア経済連携協定に関わる一般見直し作業の完了と、改正に向けた交渉の継続を確認した。マアルフ・アミン副大統領も、10月20日の就任式翌日に最初の外遊先として日本を訪問し、22日の即位礼に参加した。どちらも国内政治日程の合間を縫っての1泊だけの訪日となった。(道田悦代

写真の出典
  • 写真1、3 川村晃一撮影。
  • 写真2  Press, Media and Information Bureau of the Secretariat of the President of the Republic of Indonesia (BPMI Setpres / Muchlis Jr), Group photo after the inauguration of the Onward Indonesian Cabinet at the Merdeka Palace on October 23, 2019 (Public Domain).