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ライブラリアン・コラム

連載:途上国・新興国の2020年人口センサス

第11回 ペルー――2017年人口センサス(下): 先住民族コミュニティ・センサスからみる先住民族の姿

村井 友子

2022年11月

「ペルー――2017年人口センサス」の最後となる本稿では、人口・住居センサスと並行して、2017年10月23日~11月6日に実施された第3回先住民族コミュニティ・センサスの取り組みと調査結果からみた先住民族の姿をお伝えする。

先住民族コミュニティ・センサスとは?

先住民族コミュニティ・センサスは、ペルー国内でコミュニティ(共同体)を形成し集住する先住民族に焦点を絞り、コミュニティ単位で実施する統計調査で、主な目的は、先住民族コミュニティの現状を把握し、支援政策に活かすことにある。このセンサスは、1993年に第1回、2007年に第2回が実施されているが、過去2回の調査は、アマゾン地域のコミュニティに限定して実施され、アンデス山岳地域や海岸地域のコミュニティは対象外になっていた。これに対し、2017年の第3回先住民族コミュニティ・センサス(Censos Nacionales 2017 de III de Comunidades Indígenas)では、従来のアマゾン地域に加えて、山岳地域と海岸地域のコミュニティも対象となり、ペルーの先住民族コミュニティ全体を包括するコミュニティ・センサスが初めて実現した。調査の名称は、アマゾン地域が第3回コムニダ・ナティーバ・センサス(III Censo de Comunidades Nativas)、山岳地域と海岸地域が第1回コムニダ・カンペシーナ・センサス(I Censo de Comunidades Campesinas)である。ちなみに、コムニダはスペイン語でコミュニティを意味する。

ペルーの先住民族コミュニティ――「カンペシーナ」と「ナティーバ」

ペルーでは先住民族をその居住区によって呼び分けており、アマゾンの熱帯低地地域(Selva)とアンデス山脈の東側のアマゾン地域に繋がる傾斜地(Ceja de Selva)に住んでいる先住民族集団を“Comunidad Nativa”(コムニダ・ナティーバ)と呼び、アンデスの山岳地域(Sierra)と海岸地域(Costa)に住む先住民族集団を“Comunidad Campesina”(コムニダ・カンペシーナ) と呼んでいる。

このカンペシーナという先住民族の呼称はペルー独特のものであり、1960年代末に始まったベラスコ軍事政権(1968-1975)が先住民文化の再評価を積極的に行い、差別的な語感のあるインディオ(indio)やインディヘナ(indígena)を、農民を意味するカンペシーナに置き換えたことにはじまる。一方、ナティーバは「原住民・先住民」を意味し、インディヘナ(「先住民」)とほぼ同義であるが、同じくべラスコ政権よりアマゾン地域に住む先住民族コミュニティ集団の名称に位置付けられた(Pajuelo 2007; 清水2009)。

表1は、第1回から第3回までの先住民族コミュニティ・センサスの実績をまとめたものである。第3回先住民族コミュニティ・センサスの対象になった全コミュニティ数は9385で、対象人口は343万8866人であった。ペルーの先住民族コミュニティの規模は、コムニダ・カンペシーナの方が、コムニダ・ナティーバより圧倒的に大きく、2017年の実績では、コミュニティ数ベースで2.5倍、人口ベースで7.2倍であった。

表1 先住民族コミュティ・センサスの実施状況
(第1回1993年、第2回2007年、第3回2017年)

表1 先住民族コミュティ・センサスの実施状況(第1回1993年、第2回2007年、第3回2017年)
(出所)INEI(2018a)より筆者作成
2017年先住民族コミュニティ・センサスの調査票/span>

2017年センサスは、人口・住居センサス調査票と先住民族コミュニティ・センサス調査票の2種類が用いられた。

人口・住居センサスが、ペルー国内の全住居への調査員による戸別訪問調査により実施されたのに対し、先住民族コミュニティ・センサスは、コミュニティへの調査員の訪問調査により実施された。センサスの質問には、アプ(Apu)1、プレジデント、または首長と呼ばれるコミュニティの代表が回答した。

2017年先住民族コミュニティ・センサスの調査票は、コムニダ・ナティーバとコムニダ・カンペシーナ共通で、調査票の冒頭でどちらに属するか選択する形式になっている。調査票は以下の12のセクションに分かれ、108の質問で構成されている(表2)。

表2 2017年先住民族コミュニティ・センサスの調査票

表2 2017年先住民族コミュニティ・センサスの調査票
(出所)INEI(2018c; 2018d)をもとに筆者作成

拙稿(中)で2017年人口センサスの調査票にペルー人の民族的帰属意識と幼少期に母語として学んだ言語に関する質問が設けられたことを報告したが、先住民族コミュニティ・センサスの調査票では、セクションIIIでコミュニティの民族への帰属意識と使用言語を問う以下の質問が設けられた。

□「あなたのコミュニティはどの先住民族に属していますか?(具体的に記載)」
□「あなたのコミュニティで最も頻繁に話されている言語、または先住民言語は何ですか?(具体的に記載)」

先住民族コミュニティの民族と言語

表3はコムニダ・カンペシーナが帰属すると回答した民族の内訳である。コムニダ・カンペシーナの民族集団の地理的分布については図1をご覧いただきたい。民族の種類は20種類で、ケチュアのコミュニティが全体の54.56%を占め、これにアイマラのコミュニティ8.62%が続く。なお、この20種類の民族のうち、アンデス系の先住民族はケチュア、アイマラ、ハカル、ウロの4種類のみで、残りの16種類は、アマゾン系の先住民族である。これは地理的にはコムニダ・カンペシーナに区分される地域に、アマゾン系の先住民族コミュニティが存在することを意味している。

一方、「帰属する民族なし」と回答したコミュニティが36.01%も存在する点が注目される。INEIは、先住民族コミュニティの民族の帰属について、各コミュニティの自己認識を尊重していること、および、本センサスが、コミュニティの民族を確定することを目的とせず、また、この集計結果に基づいて、ILO第169号2(ペルー批准1994年)が定める先住民族の権利の対象となるコミュニティの線引きが行われることはないと述べている(INEI 2018c)。

表4のとおり、コムニダ・カンペシーナのコミュニティで日常的に使われている先住民言語(スペイン語を除く)は19種類であった。コムニダ・カンペシーナのコミュニティにおける使用言語のトップはケチュア語で全体の68.86%、次いでスペイン語の21.04%、3番目がアイマラ語の9.35%であった。

表3 コムニダ・カンペシーナが帰属すると回答した民族

表3 コムニダ・カンペシーナが帰属すると回答した民族
(出所)INEI (2018c)をもとに筆者作成

図1 コムニダ・カンペシーナの民族分布図

図1 コムニダ・カンペシーナの民族分布図

表4 コムニダ・カンペシーナで主に話されている言語

表4 コムニダ・カンペシーナで主に話されている言語
(出所)INEI (2018c)をもとに筆者作成

表5のとおり、第3回コムニダ・ナティーバ・センサスでは44種類の民族が集計された。コミュニティ数が多いのは、アシャニンカ(19.24%)、アワフン(15.50%)、キチュワ(11.65%)であった。コムニダ・ナティーバの民族集団の地理的分布については図2を参照されたい。

また、表6のとおり、コムニダ・ナティーバにおける使用言語は40言語におよぶ。ここから、アマゾン地域には、使用言語が異なる小規模コミュニティが多数混在していることが読み取れる。

表5 コムニダ・ナティーバが帰属すると回答した民族

表5 コムニダ・ナティーバが帰属すると回答した民族
(出所)INEI(2018d)をもとに筆者作成

図2 コムニダ・ナティーバの民族分布図

図2 コムニダ・ナティーバの民族分布図

表6 コムニダ・ナティーバの言語

表6 コムニダ・ナティーバの言語
(出所)INEI (2018d)をもとに筆者作成
集計結果からみた先住民族コミュニティの土地問題

2017年先住民族コミュニティ・センサスの各種集計結果は、INEIのウェブサイトで詳しく報告されているので、ご覧いただきたい。

本稿では、集計結果のなかで特に問題視された、先住民族コミュニティの土地問題について言及したい。ペルーの先住民族コミュニティでは、各コミュニティが共有地を持ち、そのなかで構成員の世帯が生活を営んでいる。ILO第169号は、先住民族が生存を続けるためには、土地への権利が根本にあり、土地と資源は、先住民族の暮らし、社会文化的なまとまり、精神的な健全さの淵源である(トメイ・スウェプストン 2002)と定めている。ペルーの先住民族コミュニティの土地所有権の認証は、主として農業灌漑省、土地所有権特別プロジェクト(PETT)、州政府(Gobierno Regional)、インフォーマル財産正式化庁(COFOPRI)の4機関が行い、土地所有の証書を発行している。今回の調査で、コムニダ・カンペシーナの19.8%(1277)、コムニダ・ナティーバの22.8%(552)がコミュニティの土地所有権を証明する証書を取得しておらず、コムニダ・カンペシーナの36.7%(2449)、コムニダ・ナティーバの29.9%(808)がなんらかの土地紛争を抱えていることが明らかになった。

この土地問題をはじめ、ペルーの先住民族コミュニティは様々な問題に直面している。集計結果の分析が、問題解決に向けた支援政策へと結びついていくことを期待したい。

ペルーの人口センサスの今後に向けて

ペルーの2017年人口センサスでは、民族への帰属に関する自己認識に関する質問が取り入れられ、先住民族コミュニティ全体を対象とした先住民族コミュニティ・センサスが初めて実施された。民族への帰属の自己認識だけで個人や先住民族コミュニティの民族を特定する手法には限界があり、改善の必要性が指摘されている。しかし、これらの取り組みがペルーの民族統計の整備に向けた大きな一歩であったことは疑う余地がない。

多様な自然環境と複雑な民族構成を持つ国ペルーでの人口センサスの実施には、今後も大きな課題が残されている。筆者は、今回の執筆にあたり、ペルーの人口センサスに関する一連の報告書を紐解きながら、国家統計は、地道な統計調査の実施、集計、分析、試行錯誤の繰り返しにより発展していくことを実感した。今後のペルーの統計制度の発展と統計データの充実化を願いつつ、筆を置きたい。

参考文献
著者プロフィール

村井友子(むらいともこ) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課。担当はラテンアメリカ。1998~2000年海外派遣員(メキシコ・グァダラハラ)。主な著作に 「ラテンアメリカの学術情報プラットフォームの活動」(『ラテンアメリカ・レポート』38(2): 2022)。

  1. 「アプ(Apu)」は、ケチュア語で「神・領主」を意味し、アンデス高地の山岳信仰では、地域の人々や家畜、作物を見守る山の神・守護神とみなされている。先住民族コミュニティ・センサスの質問票では、コミュニティの構成員からリーダーと認められている人物であるアプ(Apu)、プレジデント、または首長を、コミュニティの代表として調査票に記録し、この人物がコミュニティを代表して聞き取り調査に回答した。
  2. ILO第169号の正式な条約名は、独立国における原住民及び種族民に関する条約(第76回総会で1989年6月27日採択。条約発効日1991年9月5日。)である。詳しくはILO駐日事務所ウェブサイトを参照。