図書館
  • World Document Discovery蔵書検索
  • 蔵書検索(OPAC)
  • アジ研図書館の蔵書や電子ジャーナル、ウェブ上の学術情報を包括検索
  • アジ研図書館の蔵書を検索
    詳細検索

ライブラリアン・コラム

連載:途上国・新興国の2020年人口センサス

第9回 ペルー――2017年センサス(中):人口動態と民族統計

村井 友子

2022年10月

はじめに

本稿では、2017年人口・住居センサスの調査票の特徴と集計結果に基づくペルーの人口動態を概観したあと、2017年センサスで初めて明らかになった民族に関する統計を紹介する。

2017年センサスの調査票と特徴

センサスで各種統計データを集計するにあたり、その要となるのが調査票(cédula censal)である。2017年の人口・住居センサス調査票は、セクションI:住居の所在地と世帯数、II:住居の特徴と公共サービスへのアクセス、III:世帯の特徴、IV:世帯の構成員、Ⅴ:世帯の構成員の特徴という5つのセクションに分かれ、61の質問で構成されていた。その概要は表1のとおりである。

表1 2017年人口センサス・住居センサス調査票

表1 2017年人口センサス・住居センサス調査票
(出所)INEI(2018d)を基に筆者作成。

2017年人口センサスの特筆事項として、本調査票のセクションVで、「民族のアイデンティティ」に関する質問が初めて採り入れられたことがある。

ペルーでは、国内に多様な言語を話す先住民族コミュニティが存在することから、20世紀以降に実施された人口センサスの調査票には、質問方法にバリエーションはあるものの、言語に関する質問が常に採り入れられてきた。しかし、言語だけでは、スペイン植民地期の16世紀から18世紀にかけてアフリカから連れてこられた人々を祖先とするアフロ系ペルー人の人口は特定不可能であり、先住民が幼少期からスペイン語を学んでいる場合も多い。そのため民族統計の専門家たちは、「言語」と「民族への帰属の自己認識」の両方の観点から民族に関する調査を行う必要性を指摘していた(INEI 2018b)。

民族的帰属意識を問う質問は、2012年以降、全国世帯調査(Encuesta Nacional de Hogares : ENAHO)で採り入れられてきたが、先住民族やアフロ系ペルー人は特定地域に集住する傾向があるため、サンプル調査である世帯調査は全数を推計するうえで統計的有意性を持たないという課題があった。ペルー政府は2017年人口センサスの全数調査に民族統計を採り入れることを視野に入れて、2013年から2016年まで民族統計に関する省庁間技術委員会(CTIEE)を組織し、複数の政府機関や国際機関の専門家・代表を交えて準備を進めていた(INEI 2018b)。

その結果、調査票のセクションⅤ(世帯の構成員の特徴)に、以下の質問が採り入れられることになった。

民族的帰属の自己認識に関する質問(12歳以上対象)
「あなたの習慣と祖先から、あなたは以下のどの民族に帰属すると感じていますか? あるいは認識していますか?」
1.ケチュアですか? 2.アイマラですか? 3.アマゾンのナティーボ(nativo)または先住民族(indígena)ですか? (具体的な民族名を記載)4.その他の先住民族(otro pueblo indígena u originario) に帰属する、またはその一員と認識していますか?(具体的な民族名を記載)5.黒人、モレノ(浅黒い肌の人)、サンボ(黒人と先住民の混血)、ムラート(白人と黒人の混血)/アフロ系ペルー人、またはアフロ系子孫ですか? 6. 白人ですか? 7.メスチーソ(白人と先住民の混血)ですか? 8.これら以外ですか?(具体的に記載)

言語に関する質問は、先述のとおり、これまでも人口センサスの調査票に採り入れられてきたが、2017年人口センサスでは、調査票のセクションVで以下の質問がされた。

言語に関する質問(3歳以上対象)
「幼少期に母語として学び、話していた言語は以下のどれですか?」
1.ケチュア語  2.アイマラ語  3.アシャニンカ語  4.アワフン語/アグナルナ語  5.シピボ-コニボ語  6.シャウィ語/チャヤウィータ語
7.マチゲンカ語/マチゲンガ語  8.アチュアル語  9.その他の先住民言語(lengua nativa u originaria)3(具体的に記載)
10.スペイン語  11.ポルトガル語  12.その他の外国語  13.ペルー手話  14.聞こえない/話せない

実は、人口センサスで、言語に加え、人種・民族に関する統計調査を実施する傾向は、今世紀の初頭より他のラテンアメリカ諸国で始まっていた。早い国では2001年にエクアドルとアルゼンチンが、2010年にはベネズエラが人種・民族への帰属の自己認識に関する質問を採り入れている。この傾向は国内の人種と民族の多様性をとらえようとするラテンアメリカの多文化主義的潮流の一環と解釈することができる(遠藤2021)。

ペルーの人口動態

それでは、まず、ペルーの人口動態を概観してみたい。

図1は、1940年から2017年までに実施された人口センサスの結果に基づいた総人口と人口増加率の年平均値をグラフ化したものである。ペルーの人口増加率は1972年の2.8%をピークとし、それ以降徐々に鈍化してきた。2007年から2017年にかけての人口増加率の年平均値は1.0%であった。

図1 ペルーの総人口と人口増加率/年の推移(1940年~2017年)

図1 ペルーの総人口と人口増加率/年の推移(1940年~2017年)
(出所)  INEI (2018d)を基に筆者作成。

図2は海岸地域(Costa)、山岳地域(Sierra)、熱帯低地地域(Selva)の1940年から2017年までの人口の推移を示したグラフである。ペルーでは、1940年代から山岳地域の先住民族コミュニティを離れて海岸地域の都市に移住する先住民の数が拡大していった(Pajuelo 2007)。この継続的な国内人口移動の結果、図2が示すとおり、1972年に山岳地域の人口と海岸地域の人口が逆転している。その後も都市部が多い海岸地域に人口が集中していき現在に至っている。2007年から2017年にかけて海岸地域の年平均人口増加率は1.3%、山岳地域は-0.6%、熱帯低地地域は1.0%であった。

表2のとおり、都市と農村の人口比率は、2007年の都市部72.5%、農村部27.5%に対して2017年は都市部79.3%、農村部20.7%であり、2007年から2017年にかけての人口増加率の年平均値は都市部1.6%に対し、農村部は-2.1%であった。この都市と農村の人口比率の変化と人口増加率からも、近年の農村から都市への人口移動の傾向を読み取ることができる。

図2 海岸地域、山岳地域、熱帯低地地域の人口の推移 (1940年~2017年)

図2 海岸地域、山岳地域、熱帯低地地域の人口の推移 (1940年~2017年)
(出所)INEI (2018d)を基に筆者作成。

表2のとおり、ペルーの性比は、女性100に対して男性が96.8(2017年)で、ペルーは女性比率が高い国である。

合計特殊出生率は、2007年の1.7から2017年は1.5に低下しており、ペルーでは近年少子化の傾向が強まっている。都市部と農村部の両方で低下しているが、都市部より農村部の出生率が高い。

識字率は、全般的に2007年と比べ2017年に上昇しているが、農村部の女性の識字率が他と比べて著しく低い点が注目される。

表2 ペルーの人口動態と社会統計(2007年、2017年)

表2 ペルーの人口動態と社会統計(2007年、2017年)
(出所)INEI のウェブサイトで公開されている Censos Nacionales 2017 の集計結果を基に筆者作成。
 *ただし、平均寿命はWorld Bank Open Dataによる。

図3はペルーの年齢別人口構成を年少人口(0歳から14歳まで)、生産年齢人口(15歳から64歳まで)、老年人口(65歳以上)の比率で示したグラフである。ペルーでは、生産年齢人口が全人口に占める割合が、1993年から2017年にかけて増加し、それに伴って従属人口指数(生産年齢人口に対する従属人口[年少人口+老年人口]の比率)が低下してきた。これは、豊かな労働力が経済成長を促すといわれる人口ボーナス期にあることを意味しており、この傾向は2050年まで続くと予測されている(INEI 2018b)。

しかしその一方で、生産年齢人口の増加と同時に出生率の低下による年少人口の減少と平均寿命の上昇による老年人口の拡大が進行しているため、低い出生率がこのまま続くと、ペルーもいずれは日本と同じ高齢化社会の問題に直面していくことが予想される(INEI 2018b)。

図3 ペルーの年齢別人口構成と従属人口指数(1993年、2007年、2017年)

図3 ペルーの年齢別人口構成と従属人口指数(1993年、2007年、2017年)
(出所)INEI (2018b)を基に筆者作成。
ペルーの民族統計

最後に、2017年の人口センサスで初めて明らかになったペルーの民族統計の一端を紹介したい。

まず表3をご覧いただきたい。これは、先述の人口センサスの調査票のなかの、民族的帰属の自己認識の質問(12歳以上対象)に対する回答の集計結果である。

全国レベルでみると、メスチーソが60.2%と最も多く、2番目がケチュア22.3%、3番目が白人5.9%、4番目がアフロ系ペルー人3.6%、5番目がアイマラ2.4%、6番目がアマゾン熱帯低地地域の先住民族(ナティーボ)0.9%、7番目がケチュアとアイマラ以外のアンデス山岳地域の先住民族0.2%、その他1.2%という結果になっている。

都市部と農村部で比較すると、都市部におけるメスチーソの比率が63.9%であるのに対して、農村部のその比率は45.1%、また、都市部における先住民族 (ケチュア、アイマラ、その他のアンデス地域の先住民族、アマゾン地域の先住民族の合計)の比率が21.1%であるのに対して、農村部のその比率は44.7%と、民族の構成が都市部と農村部では大きく異なることがわかる。その要因のひとつには、アンデス地域とアマゾン地域を中心に独自のコミュニティを形成して集住する先住民族の存在がある。

その一方で、ケチュアの都市人口が農村人口の2倍以上になっている。山岳地域から海岸地域の都市へ移住する傾向があることは図2でみたとおりだが、本集計結果においてアンデス地域を出自とする先住民族の89.6%を占めるケチュアについても、農村から都市への人口移動があったと推察される。他方でアマゾン地域を出自とする先住民族の人口規模は小さく、現在も全体の約4分の3がアマゾン熱帯低地地域のコミュニティで生活している。

アンデス地域を出自とする先住民族(ケチュア、アイマラ、その他の先住民)が最も多く居住する県はリマ県(133万894人)で、ここから、多くのアンデス系先住民が首都リマに居住していることがわかる。これにアンデス山岳部が拡がるプーノ県(85万7312人)、クスコ県(71万6013人)が続いている。アマゾン地域の先住民族が多く居住している県は、ロレート県(5万1722人)、ウカヤリ県(3万6774人)、フニン県(3万5920人)、アマソナス県(3万4958人)である(図4参照)。

アフロ系ペルー人は、ペルー全土に居住しているが、太平洋に面したリマ県(22万795人)、ピウラ県(12万4964人)、ラ・リベルタド県(10万2035人)に多い。
このペルー国土における民族の人口分布は、2017年人口センサスによって初めて明らかになったものである。

表3 ペルー人の民族的帰属意識からみた民族別人口:全国、都市部、農村部(12歳以上)

表3 ペルー人の民族的帰属意識からみた民族別人口:全国、都市部、農村部(12歳以上)
(注)アフロ系ペルー人は、黒人、モレノ、サンボ、ムラート/アフロ系ペルー人、またはアフロ系子孫を含む。
(出所)INEI(2018c)を基に筆者作成。

図4 ペルーの県地図

図4 ペルーの県地図
(出所)Alexis Eco (CC BY-SA 4.0)

表4の幼少期の母語の内訳の全国結果では、スペイン語が82.6%、ケチュア語13.9%、アイマラ語が1.7%であった。

表3と表4の結果を総合していえることは、多民族国家ペルーでは、様々な民族集団を出自とし、異なる民族的帰属意識を持ちながら、幼少期よりスペイン語を学び、スペイン語を母語として生活しているペルー人が数多く存在することである。

例えば、国立統計情報庁(INEI)の分析結果によると、アンデス地域を出自とする先住民族に民族的帰属意識を持つと回答したペルー人が年少期に母語として学んだ言語の内訳は、ケチュア語が50.1%、スペイン語が42.9%、アイマラ語が6.8%、その他の先住民言語が0.2%であった(INEI 2018a)。

表4 幼少期の母語の内訳:全国、都市部、農村部 (5歳以上)

表4 幼少期の母語の内訳:全国、都市部、農村部 (5歳以上)
(注)その他の先住民言語は、アシャニンカ、アワフン/アグナルナ、シピボ-コニボ、シャウィ/チャヤ
ウィータ、マチゲンガ(マチゲンカ)、アチュアル、その他の先住民言語を含む。
(出所)INEI (2018c)を基に筆者作成。
おわりに

INEIは、2017年人口センサスの集計結果をもとに、文化省(Ministerio de Cultura)と共同で、『民族への帰属の自己認識:先住民族とアフロ系ペルー人の人口』(INEI 2018a)と題する調査報告書をまとめ、2018年12月に刊行した。この報告書では、アンデス系先住民族、アマゾン系先住民族、アフロ系ペルー人について、民族集団別にセンサスの集計結果をまとめ、比較分析を行っている。2017年人口センサスを起点としてペルーの民族統計が今後さらに整備され、充実していくことを期待したい。

次回(下)「第3回先住民族コミュニティ・センサスからみる先住民族の姿」では、アンデス山岳地域、海岸地域、アマゾン熱帯低地地域で実施された先住民族コミュニティ・センサスの調査結果を報告する。

参考文献
著者プロフィール

村井友子(むらいともこ) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課。担当はラテンアメリカ。1998年~2000年海外派遣員(メキシコ・グァダラハラ)。主な著作に 「ラテンアメリカの学術情報プラットフォームの活動」(『ラテンアメリカ・レポート』38(2)、2022)。

  1. アマゾンのナティーボ(nativo)または先住民(indígenas)とは、どちらもアマゾン熱帯低地地域を出自とする先住民族を意味する。ペルーではアマゾン地域の先住民族を総称してナティーボと呼んでいる(INEI 2018a)。
  2. その他の先住民族(pueblo indígena u originario)とは、アンデス山岳地域を出自とするケチュアとアイマラ以外の先住民族を意味する (INEI 2018a)。
  3. 先住民言語(lengua nativa u originaria)とは、プレヒスパニック期から話されている言語を意味する。調査票の質問では、1から8に挙げられた言語以外の先住民言語が該当する場合は、9と回答し、具体的な言語名を記述することが求められている。