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ライブラリアン・コラム

連載:途上国・新興国の2020年人口センサス

第8回 ペルー――2017年センサス(上):2017年センサスと人口調査実施の歴史
 

村井 友子

2022年10月

はじめに

本特集/途上国・新興国の2020年人口センサスでは、2020年ラウンド人口センサスの実施状況を国別に報告してきた。第8回ペルーでは、同国で2017年に実施された第12回人口センサス・第7回住居センサス・第3回先住民族コミュニティ・センサス(Censos Nacionales 2017:XII de Población, VII de Vivienda y III de Comunidades Indígenas)の概要と取り組みを上・中・下の3回に分けてお伝えする。

2017年センサスの実施

ペルーは、南米大陸の北西の太平洋岸に面した国であり、エクアドル、コロンビア、ブラジル、ボリビアおよびチリと国境を接している。日本の約3.4倍にあたる国土面積約128万5000平方キロメートルの中央にはアンデス山脈が走り、その東側には、世界一広い熱帯雨林地帯アマゾンが拡がっている。この変化に富んだ地勢は、大きく海岸地域(Costa)、山岳地域(Sierra)、密林地帯(Selva)の3つの地域に大別され、国土は、24県(Departamento)とカヤオ憲法特別郡1 、196郡(Provincia)、1874地区(Distrito)に行政区分されている。

2017年人口・住居センサスは、ペルー全土の全居住者を対象として実施された。実施期間は都市部と農村部 2で異なり、都市部は、2017年10月22日(日)をセンサス実施日とし、1日でセンサス調査を完了するため、この日は、午前8時から午後5時までの時間帯の外出を禁じて調査員による戸別訪問調査が行われた。これに対して、農村部は、ペルーの多様な地理的条件を考慮し、10月23日(月)から11月6日(月)までの15日間を実施期間として戸別訪問調査が実施された。一方、先住民族コミュニティ・センサスについては、先住民族コミュニティに調査対象を絞り、センサス実施期間中に各コミュニティへの訪問調査が実施された。

2017年センサス実施は、2015年9月に閣議決定され、センサス実施機関である国立統計情報庁(Instituto Nacional de Estadísitica e Informática, 以下INEI)は、事前に詳しいルールを定めて官報3で公示 し、マスメディア等での広報にも力を入れて国民に広く周知を図っていた(INEI2018a)。

2017年センサス実施にあたり動員された調査員の数は約62万5千人で、中等教育修了者、大学生、専門学校の学生などの若年層を主体とし(Semana económica 2018. 6.28)、なかにはベネズエラ人をはじめとする在ペルーの外国人も含まれていた(Perú 21 Online 2017.10.23)。全人口約3100万人に対してこの調査員数はいささか多く感じるが、これは、2017年人口センサスが現在地主義(de facto)で実施され、調査実施日に調査員が担当する地区の全住居を戸別訪問し、住居に実際にいる人から聞き取り調査を行うためである。都市部では一日で調査を完了する目標を掲げていたが、実際には住民が不在のため未集計のまま残った世帯などの戸別訪問が11月6日まで続いた。

2017年センサスの戸別訪問調査で訪問した全住居数は合計1010万2849戸、集計人口は2938万1884人であったが、住民が不在、事前の登録漏れなどの理由により、最終的に戸別訪問によって集計されなかった人口が185万5501人(全人口の5.94%)いると推計され、総人口は推計3123万7385人という結果になった(INEI 2018b)。

統計調査の長い歴史とセンサスの実施

本稿(上)ではまず、ペルーの人口統計調査の長い歴史を概観してみたい(表1参照)。

インカ帝国は、ペルー南部高原にあるクスコを中心に、15世紀から16世紀初めにかけて、アンデス一帯にケチュア族が打ち立てた大帝国である。インカ文明は文字を持たなかったが、王や役人は人民の統治と土地の分配に必要な情報をキープ(写真1参照)と呼ばれる結び目のある細い縦紐が何本もぶら下がった道具を用いて記録していた。キープの作成と解読はキープカマヨックと呼ばれる役人が司り、人口、農産物、家畜、武器など資源についての統計情報を記録していた。情報が記録されたキープはチャスキと呼ばれる飛脚たちによって中央政府に運ばれていた。このインカ帝国はピサロ率いるスペイン遠征軍により1532年に滅ぼされている。

1542年にペルー副王領が設立され、スペイン植民地政府による統治が始まった。この時、行政の中心地が山岳部のクスコから海岸部のリマに移されている。以降およそ280年にわたって植民地時代が続き、その間、植民地政府は人口センサスを5回実施している。植民地時代のセンサス実施の背景には、スペイン王室が征服した土地からできるだけ多くの利益を得るため、税金(貢物)を上納させる先住民の人数を把握する目的があったという説が有力である。

1810年から1824年まで続いた長い独立戦争の末、1824年に解放軍がスペイン軍に勝利し、ペルー共和国が創設された。現在に至るペルー共和国は、これまで人口センサスを通算12回実施してきたが、実施年は不定期で、第4回人口センサスの1876年の実施から1940年の第5回実施までに64年間にわたる長い空白の歴史も存在する。1959年に法令第13248号「センサス法」が公布され、1960年から人口・住居センサスを10年に一度実施し、経済、農業、工業、商業、サービス業のセンサスは5年に一度実施することが定められた。しかし、その後もセンサスの実施年にはばらつきが見られる(INEI 2018a)。

なお、先住民族コミュニティ・センサスは、第1回目が1993年、第2回目が2007年に実施され、2017年に第3回目が実施された。

ペルーの人口センサスは、センサス期間中の現在地主義による戸別訪問調査により実施されてきたが、2005年に実施された人口センサスは、現在地主義を常住している場所の居住者をセンサス調査で把握する常住地主義(de jure)に変更し、フランスが2004年から開始した連続ローリング・センサスの手法と組み合わせて実施した。その実施方法は、まず初年度の2005年にショートフォームによる全国的な人口センサスを実施し、次年度以降にロングフォームによるサンプル調査を順次実施していくというものである。INEIは、当初ローリング期間を2006年から2013年までの8年間で設計し、2006年にこの計画を4年に短縮してサンプル調査を開始した(藤田 2006)。しかし、この方式は、サンプル調査の不備やローリング・センサスのローテーションが一巡し、ペルー全体の人口統計データの集計ができるようになるまでに多大な時間とコストを要することなどが指摘され、議論になった。結局、INEIはこの連続ローリング・センサスを打ち切り、2007年に従来の現在地主義に戻して人口・住居センサスを実施している。

写真1 インカ帝国時代のキープ

写真1 インカ帝国時代のキープ
クスコのマチュピチュ博物館収蔵のキープ 2018年5月28日撮影
(出所)Pi3,124 (CC BY-SA 3.0

表1 人口調査実施の歴史

表1 人口調査実施の歴史
(出所)INEI(2018b)を基に筆者作成。
おわりに

先述のとおり、2017年センサスの未集計人口は約185万人(全人口の5.94%)で、この未集計人口とその全人口比は過去最大であった。センサスの実施・運営上のロジスティックスの不備に対する不満・批判の声も聞かれ、2017年センサス実施後、INEIに対する世論の風当たりは強かった(Semana económica 2018. 6.28)。

ペルーの長い人口調査の歴史を振り返ると、センサス実施の目的が歴史的変遷のなかで変化しており、センサスの実施手法についても試行錯誤の跡が窺われる。

変化に富んだ地理的条件のもとで多様な民族集団が集住する多民族国家ペルーにとって、人口センサスの精度の向上は大きな課題のひとつである。次回、(中)「人口動態と民族統計」では2017年人口センサスの具体的な取り組みと集計結果を報告する。

著者プロフィール

村井友子(むらいともこ) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課。担当はラテンアメリカ。1998年~2000年海外派遣員(メキシコ・グァダラハラ)。主な著作に「ラテンアメリカの学術情報プラットフォームの活動」(『ラテンアメリカ・レポート』38(2)、2022)。

  1. カヤオ憲法特別郡(La Provincia constitucional del Callao)は、憲法で、県(Departamento)レベルに位置づけられている特別郡である。独自の地方政府を持っており、州都は植民地時代に建設されたカヤオ市で、港湾インフラ、国内最大級の工業施設、ホルヘ・チャベス国際空港などが所在する。
  2. INEIは、都市部と農村部を主として以下の2つの基準により区分している。 基準1――100戸以上の連続した住居が集まる地区を都市部、連続して100以上の住居が集まっていない地区、または100以上の住居がありながらブロックを形成せずに散在または分散している地区を農村部とする。
    基準2――1つまたは複数の都市人口集中地区。2000 人以上の人口を有し、住居が連続したブロックや道路に集合 している地区を都市部、人口2000人未満の人口集中地で構成され、住居がブロックを形成せずに散在または分散している地区を農村部とする(INEI 2018b)。
  3. El Peruano (官報)で、2015年9月24日に閣僚委員会議長名で第12回人口センサス・第7回住居センサス・第3回先住民族コミュニティ・センサスを2017年に実施する方針が宣言されている(最高決議No.066-2015-PCM)。2017年には、INEIにより、5月27日にセンサス調査事務所の設置とセンサス調査業務の実施・運営を担当するセンサス調査官の任命(INEI決議番号No.169-2017)、6月2日にセンサス実施規則の詳細(最高決議No.062-2017-PCM)が公布されている(INEI 2018a)。