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ライブラリアン・コラム

特集

ウェブ資料展:途上国と感染症

アフリカと感染症
 

岸 真由美

2020年9月

今回紹介する資料
末尾に「(※)」印が記載してある資料はアジア経済研究所図書館で所蔵しています。リンク先は図書の蔵書目録(OPAC)です。
アフリカにおける感染症の概況

国連が掲げる持続可能な開発目標(SDGs)の17の目標のひとつに「すべての人に健康と福祉を」がある。この目標に対して定められたターゲットのひとつは「2030年までに、エイズ、結核、マラリアおよび顧みられない熱帯病といった伝染病を根絶するとともに肝炎、水系感染症およびその他の感染症に対処する」というものである。エイズ、マラリア、結核は世界規模で長期にわたって流行し多数の感染者・死者を出している三大感染症である。「顧みられない熱帯病」はデング熱、狂犬病、トラコーマ、住血吸虫症、アフリカ睡眠病をはじめ20の疾患が含まれ、世界149カ国・地域で蔓延し、感染者数は約14億人にのぼる。

三大感染症の脅威は特にアフリカ地域で深刻である。マラリアは、2018年には世界の患者数の93%、死亡者の94%がアフリカ地域に集中している。HIV感染者は2019年には世界で約3800万人と推定されているが、その3分の2にあたる2500万人がアフリカ地域に暮らす。結核は2015年には、新規に感染した患者の61%がアジア圏、ついでアフリカが26%であった。ちなみに結核は日本でも近年再び流行しているが、アフリカではエイズとの重複感染の比率が高く、2014年の結核罹患者960万人のうち120万人がHIV感染者であり、その74%はアフリカ地域に居住している。顧みられない熱帯病は全感染者の約半分がアフリカで見られると言われる。しかし、三大感染症に比べて国際的に十分な対策はとられてこなかった。これらの対策に世界の関心が向けられるようになるのは、2008年のG8洞爺湖サミット首脳宣言以降である。

以下では、感染症、特にエイズをめぐるアフリカの状況を描いたノンフィクションと回顧録を紹介する。

図 人口に占めるHIV感染者の割合

エイズとアフリカをめぐる国際政治

『あなたがいるから、わたしがいる』は、エイズ孤児たちを引き取って育てるエチオピアの女性ハレグウォイン・タファッラの半生を綴ったノンフィクションである。2006年にアメリカで「ベスト・ブック・オブ・ザ・イヤー」に選ばれた本だ。当時、アフリカではエイズで親を亡くした孤児が約1200万人いたと言われている。ハレグウォインはアディスアベバに住む中流階級の女性で、夫と娘をそれぞれ事故と癌で亡くした後、数十人ものエイズ孤児の面倒をみた。しかし、本書は主人公の人道的な行動のみを描いたものではない。エチオピア女性の半生とともに、アフリカのエイズ災禍や孤児をめぐる国際養子縁組の現状、目標と乖離する先進国の国際援助の実態、知的財産の保護の名のもとに利益を追求する製薬会社の駆け引きが語られ、関係するさまざまなアクターのグローバルな動きが緻密に描き出されている。

『NO TIME TO LOSE』は、感染症の専門家で、国連合同エイズ計画(UNAIDS)初代事務局長を務めたピーター・ピオット氏の回顧録である。1970年代半ば、当時ベルギーの植民地だったザイール(現コンゴ民主共和国)でエボラ出血熱が流行したが、その原因となるウイルスを発見した研究チームのひとりがベルギー出身のピオット氏だ。彼は1980年代以降エイズ対策のために活動し、1995年に設立されたUNAIDSの事務局長となる。エイズをはじめ感染症は国境を易々と超えて広がるため、その対策にあたっては国際的な協力が不可欠だが、そこにかかわる国際機関や先進国・途上国の政府、NGO、製薬会社などはそれぞれの利害と思惑で行動している。本回顧録において、彼は事務局長として自らさまざまなアクターに働きかけ、高額なエイズ治療薬の価格引き下げやプロジェクト遂行の資金調達などに日々奔走している。

おわりに
紹介した2冊の本は、現場で活動する者の視点を通してアフリカの感染症の現状を描き出すとともに、そこに関わるさまざまなアクターたちのやりとりや駆け引きを浮き彫りにしている。人やモノの移動が進む今日の世界では、感染症対策は一国で完結することはない。国を超えた協力体制が不可欠だが、それを実現するためには、働きかけを諦めず協調を図ってゆくたゆみない努力が必要だろう。
図の出典
  • Max Roser and Hannah Ritchie (2018) "HIV / AIDS". Published online at OurWorldInData.org. [CC-BY 4.0]
著者プロフィール

岸真由美(きしまゆみ) アジア経済研究所研究推進部地域研究推進課。最近の著作に「ケニア――臓物を味わう」(『IDEスクエア』2020年)、「定期刊行物の電子出版:アジア経済研究所の事例」(『情報の科学と技術』69巻11号、2019年)など。