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海外研究員レポート

2018年

  • 貿易戦争の勝者 / 佐藤 仁志 トランプ政権の関税政策に対し、相手国からはおおまかに二つの対応が見られるようだ。ひとつは、米国と貿易協議に入ることによって関税を棚上げすることである。鉄鋼やアルミなど一部では関税の応酬となっているが、メキシコ、カナダ、欧州、日本などはこの対話路線を採っている。もうひとつは、本格的な報復関税措置によって米国にダメージを与えることで政策を変えさせようとする対決路線で、言うまでもなく、中国がこの路線にある。 2018/12/26
  • 民族衣装が見せるもの――インドネシア独立記念式典より―― / 土佐 美菜実 毎年8月17日に行われるインドネシア独立記念式典は国民にとって最も重要な行事のひとつである。 2018/12/20
  • 新「人的資本指数」をめぐるフィリピンのポリティカル・エコノミー / 岡部 正義 インドネシア・バリで10月11日に開催された世界銀行(世銀)・国際通貨基金(IMF)年次総会では、昨年から進められてきた「Human Capital Project」というプロジェクトの一環として、新しく作成された「人的資本指数(human capital index: HCI)」が公開された 。HCIの対象国は世界157カ国という。これに関連して、1990年に国連開発計画(UNDP)が発表した人間開発(human development)という概念を想起した読者がいるのではないだろうか。UNDPは各国について、経済的な生活水準、教育水準、保健水準の三分野を総合的に評価して、人間開発指数(human development index: HDI)を作成・公表している。 2018/12/12
  • 南北の兵力引き離し――朝鮮半島の緊張緩和へ / 中川 雅彦 2018年9月18~20日に韓国の文在寅大統領は平壌を訪問し、北側の最高指導者である金正恩国務委員長と会談した。文在寅と金正恩の会談はこれまで4月27日と5月26日に板門店で行われたが、緊急会談であった2回目は別として、最初の会談と同様に今回の会談は演出が凝ったものとなった。 2018/11/27
  • ワシントンにある国際関係シンクタンクの潮流・系譜 / 浜中 慎太郎 ワシントンには数多くのシンクタンクが集積する(しかしながら後述するように、ワシントンにシンクタンクが集積し始めたのは、1970年代以降であることは見逃すべきでない)。これらのシンクタンクは、レポート等の作成により政策立案を支援するための知識・知恵を生み出す場となっているとともに、政府幹部経験者を抱え込み、再登用に備える場にもなっている。 2018/11/19
  • 南北首脳会談および米朝首脳会談後の日朝経済関係 / 中川 雅彦  2018年4月27日に板門店で開催された南北首脳会談と6月12日にシンガポールで開催された米朝首脳会談は、朝鮮半島での南北の和解と核問題の解決に向けた工程の開始を宣言したものである。南北の和解と核問題の解決は日本の安全保障上有益なものであり、日本政府がこの工程の進展に協力するのは当然のことである。南北首脳会談で板門店宣言が採択されたことに関してすぐに安倍総理はこれを「称賛」すると発表した。米朝首脳会談で共同声明が採択されたことに関してもすぐに安倍総理は「トランプ大統領のリーダーシップと努力」に対する「心からの敬意」と、「北朝鮮をめぐる諸懸案の包括的な解決に向けた一歩」としての支持を表明した。また、安倍総理はこれらの会談の開催前に、韓国の文在寅大統領とアメリカのトランプ大統領に、日本で日朝間の最大の懸念事項である拉致問題の解決に関して助力を要請し、日朝交渉の再開に向けた準備をすすめることになった。 2018/10/24
  • モザンビークの前途多難な移民管理 / 網中 昭世 筆者が2018年6月末から赴任しているモザンビークは、アフリカ諸国の中でも、今後著しい経済成長が見込まれる国の一つである。その期待の背景には、2009年に世界有数の埋蔵量が確認されたモザンビーク北部沖合の天然ガスがある。現在、天然ガス開発は2023年の生産開始に向けて準備が進められているほか、直近でも新たな動きがある。2017年3月には鉱区Area 1のオペレーターであるイタリアの石油・ガス会社Eniが権益の一部を石油メジャー最大手のExxonMobilに販売し、今年7月にはExxonMobilが第1期の開発計画をモザンビーク政府に提出した。また、8月以降、隣接する鉱区Area 4のオペレーターであるAnadarkoとモザンビーク政府との共催で地元企業のためのセミナーを開催した。 2018/10/12
  • オーストラリア首相交代劇の顛末――突然のターンブル降ろし / 岡田 雅浩 オーストラリアの与党・自由党は8月24日、臨時の議員総会を開き、モリソン財務相(50歳)を新党首(新首相)に選んだ。モリソン首相は2010年以降6人目の首相であり、過去5人の首相はみな任期を全うできず、短命に終わっている。かつての日本もそうだったが、首相が頻繁に変わるせいもあり、オーストラリアでも政治に対する不信感は強い(ただ、同時に期待感も強いともいわれる) 。今年発表されたエデルマン信頼バロメーターによると、2017年時点で、政府を信頼していると答えたオーストラリア人は国民の35%にすぎない(1年前と比べて2ポイント下落。ちなみに日本は1年前と変わらず37%、アメリカは14ポイント減の33%) 。OECDの調査によると2016年の信頼度は、オーストラリアが45%、日本が36%、アメリカが30%とされている 。 2018/10/04
  • 雄安新区訪問記――自動運転、無人スーパー、そして巨大新空港 / 岩永 正嗣 雄安新区は、深圳経済特区や上海浦東地区に続き、中国習近平国家主席が自ら推進する新都市開発プロジェクトである。 2018/09/18
  • Women and Men FactSheet 2018を読む(2) / 岡部 正義 フィリピン国家統計局(PSA: Philippine Statistics Authority)から2018年3月、Women and Men FactSheet(以下FSという)の最新版「FS2018」が公開された。FSは、基礎的な経済指標・社会指標・教育指標・健康指標等の男女間関係について、PSAが実施する各種の個票統計調査・人口センサスや、教育省、農業省などのPSA以外の関連省庁が発行する情報をまとめた統計資料である。国レベルの統計数値を集約したもの(aggregated data)であるとはいえ、FSはフィリピンのジェンダー社会経済関係を概観するのに有用である。 2018/08/10
  • ラオス・中国高速鉄道プロジェクト――これまでの経緯、進捗状況、問題点 / 山田 紀彦 現在、ラオスの首都ヴィエンチャンから中国国境沿いのルアンナムター県ボーテンまで、ラオス・中国高速鉄道プロジェクトの工事が進められている。建設総額は約60億ドルであり、ラオスにおけるこれまでで最大のプロジェクトである。また東南アジアで中国と結ばれる初の鉄道でもあり、同プロジェクトへの国内外の関心は高い 。 2018/08/10
  • セビリアの公共交通機関について / 磯野 生茂 観光地でありアンダルシア州の州都であるセビリアでは、公共交通機関が発達している。周辺の郊外都市を含めた都市圏人口は100万人を超えるため、バスや鉄道は通勤にも広く使われている。一方、セビリアの公共交通機関は観光地としてはけっしてわかりやすいとはいえない。ここでは、この公共交通機関の「わかりにくさ」と「使いにくさ」について、いくつかの背景となりうる事象とともに説明する。 2018/08/02
  • インドネシアの配車アプリGO-JEKが展開するラマダン向けサービス / 土佐 美菜実 筆者が暮らすインドネシア・ジョグジャカルタは、ジャワ島の南岸に位置するのどかな街である。近郊に世界遺産のボロブドゥール遺跡などがあることから観光地としても有名だ。近年では巨大なショッピングモールやホテルの建設が盛んだが、一方で赤茶色の瓦屋根が特徴の、昔ながらの家屋が立ち並ぶところも多く残っており、その牧歌的な雰囲気が訪れる人を和ませてくれる。 2018/07/10
  • オーストラリア高等教育機関の研究評価 / 岡田 雅浩 イギリスは世界に先駆けて約30年前から6回にわたり研究評価プログラムを積極的に実施してきた(今の名称はREF [Research Excellence Framework])。一部の研究予算の配分に直接関係する場合とそうでない場合もあるものの、ヨーロッパ各国、スカンジナビア諸国、オーストラリア、ニュージーランドでも国レベルで試行錯誤を重ねながら同様のプログラムを実施している。 2018/07/09
  • スーザン・シュヴェイクの歴史研究が明らかにしてきた「ふつう」の正体――障害をもたらす「ふつう」とは何だったのか / 森 壮也 1880年代から1970年代にかけて、アメリカのあちこちの都市で「見た目の悪い物乞いたち」が出現したという。彼らを取り締まるために各自治体が制定した法律は後に障害活動家らによって通称「醜陋法」(Ugly Law)と呼ばれることになるが、この対象となった人たちは要するに障害者や病者でもあった。こうした障害者・病者を公衆の面前から見えないようにするために制定されたのが「醜陋法」である。つまり、これは障害者の社会的隔離をもたらした制度の一例ということになる。開発途上国の貧困について語る時に出てくる物乞い、そしてこの物乞いたちの中に必ずといっていいほど存在する障害者を考える時、治療のための医学的隔離だけでなく、この「社会的隔離」の持つ意味を考えることは重要である。 2018/06/12
  • Women and Men FactSheet 2018を読む(1) / 岡部 正義 フィリピン国家統計局(PSA: Philippine Statistics Authority)から、Women and Men FactSheet(以下FSという)の最新版FS2018が2018年3月に公開された。FSは、基礎的な経済指標・社会指標・教育指標・健康指標等の男女間関係について、PSAが実施する各種の個票統計調査・人口センサスや、教育省、農業省などのPSA以外の関連省庁が発行する情報をまとめた統計資料である。国レベルの統計数値を集約したもの(aggregated data)であるとはいえ、FSはフィリピンのジェンダー社会経済関係を概観するのに有用である。 2018/05/31
  • 南北対話の再開 / 中川 雅彦 2017年5月に就任した韓国の文在寅大統領は朝鮮民主主義人民共和国(以下、「北側」)に対して7月17日に軍事当局会談と赤十字会談の開催を提案し、8月15日に平昌オリンピックへの参加を呼びかけた。2017年が終わるまで平壌からは何の反応も返ってこなかったため、韓国側の人々は、核実験とミサイル試験発射を繰り返す北側の指導者が文在寅政権との対話にまったく興味を持っていないものと思っていた。ところが、2018年1月1日に、北側の最高指導者金正恩が韓国江原道平昌で開かれる第23回冬季オリンピックを「民族的大事」と修辞してこれに参加する意向を表明し、南北関係改善への意欲も見せたことは、韓国側の人々を驚かした。 2018/04/24
  • オーストラリア――多民族社会の証? / 岡田 雅浩 2017年10月に赴任して以来これまでを振り返ると、オーストラリアで巷間をにぎわせた大きな話題は三つあります。具体的には、連邦議会議員の二重国籍問題、同性婚の合法化、そして(個人的な関心ですが)ビクトリア州における重病で余命がかぎられた患者の安楽死幇助合法化です。これらを簡単に紹介します。
    2018/04/19
  • 日中のスマート製造分野の官民交流の模索 / 岩永 正嗣 近年、中国は「中国製造2025」や「Internet+」といった戦略の下、製造業の構造転換と高度化を政策目標に掲げ、製造業の「大国」から「強国」への転換を急いでいる。その中でも、イノベーション促進、ハイエンド化などと並んで、ICTの発展、労働コストの上昇が進む中で、製品の品質向上の要請の高まりをも受けて、足元で特に力を入れているのが、「智能製造」(スマート製造)である。 2018/04/11
  • 米国で根付きつつある市民権としての障害権 / 森 壮也 1/12(金)に大学があるBARTのDowntown Berkeley駅から一駅のAsby駅の上にあるエド・ロバーツ・キャンパス(Ed Roberts Campus: ERC)にて、「障害者の権利を法的・社会的歴史の側面から見る」("Legal and Social History of Disability Rights")と題する一日がかりのシンポジウムが開催された。カリフォルニア大学バークリー校の法学部で障害法を担当する教員のほか、障害学の研究者等も集まった非常に興味深い内容のシンポジウムであった。2回目となる今回のレポートでは、そのシンポジウムの報告をしたい。 2018/03/16
  • 現地調査研究を行う際の古くも大切な問題――クリスマス・イブに想う / 岡部 正義 "sir can i have a favor? gusto po ng kapatid ko mag aral pero ang lola ko cant afford the tuition so i need sponsor po para sa financial assistance nya" (原文ママ)
    2018/03/01
  • THAAD配置をめぐる韓中間の妥協 / 中川 雅彦 THAAD(終末高高度防衛ミサイル)とは、発射された敵の弾道ミサイルを大気圏に再突入した段階で迎撃、撃破するミサイルである。2016年7月8日に、在韓米軍にTHAADが配置されることが韓米で合意され、2017年4月26日に慶尚北道星州にレーダーと発射台2基導入、続いて9月7日に発射台4基が導入され、レーダー1個、発射台6基の1個THAAD砲台の配置が完了した。
    2018/01/23