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2055年に向けた体制の立て直し――ラオス人民革命党第12回大会
Rebuilding the Regime: The 12th National Congress of the Lao People’s Revolutionary Party
PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001728
2026年2月
(4,745字)
党大会の3つのポイント
2026年1月6~8日にかけて、ラオス人民革命党第12回全国代表者大会(党大会)が、全国の党員約42万人を代表する834名(女性123名)が参加して開催された。5年に一度開かれる党大会では、今後5年間の党路線や国家建設方針を定めた「政治報告」が提示され、その実施を担う新執行部が選出される。したがって党大会はラオスでもっとも重要な政治イベントである。
第12回党大会のポイントは大きく3つに整理できる。第1は、党支配や国家建設にとって重要な節目で開催されたことである。今大会は党にとってどのような位置づけにあったのか。第2は、1972年の第2回党大会以来54年ぶりに「政治綱領」が策定され、党創立100周年にあたる2055年までのビジョンが掲げられたことである。なぜいま党は「政治綱領」を国民に示す必要があったのか。またそれはどのような内容なのか。第3は、執行部人事である。国民の最大の関心は80歳と高齢のトーンルン党書記長の再任の有無と、執行部の世代交代にあった。今回の人事からはどのような特徴がみえるのか。
以下、第12回党大会の概説を通じてそれぞれの問いに答えていく。
党にとって節目の大会
第12回党大会は党支配と国家建設が大きな節目を迎えるなかで行われた。2025年は党創立70周年および建国50周年、2026年は1986年の本格的な市場経済化開始から40年目にあたる。またラオスは2026年11月に国連の後発開発途上国リストから卒業予定である(UNCDP 2025)1。つまりこれまでの国家建設や経済改革を総括し、新たな国家目標を国民に提示する時期に差し掛かった。
一方で、今大会は党支配の正統性低下が続くなかでの開催であった。新型コロナウイルス感染症の拡大、ロシア・ウクライナ戦争、主要先進国の政策金利の引き上げ、そして国内総生産(GDP)の94%(2024年末時点)に及ぶ公共・公的保証債務など複数の要因が重なり(PDMD 2025)、2020年以降のラオス経済は1990年代後半のアジア通貨危機以来最悪の状況に陥った。資源・原材料・輸送価格の高騰、通貨安、インフレ、物価高により国民生活は大打撃を受けたのである。2022年5月にはガソリン不足が発生した(山田健一郎 2022)。2023年2月のインフレ率(前年同月比)は41.26%を記録し、2000年3月以来もっとも高い水準となった2。党大会前の2025年12月には7.7%と落ち着きを取り戻したものの、一部食料品価格は高止まりし、公共料金も引き上げられている。政府発表によると経済格差は若干縮小したが、それは富裕層や中間層の消費の落ち込みに起因しており、貧困層の底上げがなされたわけではない3。党・国家幹部の汚職、麻薬問題なども拡大の一途をたどっている。経済的理由による公務員の離職や小中学生の退学率も増加傾向にある4。独裁体制という性格上デモなどが起きる可能性は低いが、国民の不満はくすぶり続けている。
党は党大会でも自らの支配に対する危機感を露わにした。すでに前回大会で「自覚がない党は自己改革を受け入れず、最後には遅れた党になり大衆からの信用をなくす」との認識が示されていた(Pathet Lao, January 14, 2021; 山田紀彦 2021, 27)。そして今回の「政治報告」では、経済問題が「党の指導や国家管理にとって挑戦や試練となり」「政治・社会の安定に影響を与えている」としたうえで、「自己を堅固に改善し人民から信頼および確信を得る」との決意を表明したのである(PPPL 2026b, 1, 9, 16)5。
だからこそ党は54年ぶりに「政治綱領」を策定し、2025年までの新たな国家ビジョンを示したのだろう。党の定義によると「政治綱領」とは革命理論かつ戦略の根幹であり(Kaysone 1972, 2-3)、「党や人民に方向を示す灯」と位置付けられている(PPPL 2026a, 29)。ただし1955年の党創立からこれまで2回しか策定されていない。「第1次政治綱領」は1955年の結党大会で示され6、王国政府との革命闘争方針を規定した7。1972年の第2回党大会で提示された「第2次政治綱領」では、「資本主義的段階を通らずに直接社会主義に至る」とする、勝利を見据えた国家建設方針を定めた。つまり「政治綱領」は、党の革命闘争や国家建設における重要な節目でしか策定されていない。第12回党大会はまさにその時期にあたる。
では、党はどのような国家ビジョンを掲げたのだろうか。
党の現状認識と新たな国家ビジョン
「第3次政治綱領」では2055年までに国家を上位中所得国に引き上げ、高所得国に極力近づけるとの目標が示された(PPPL 2026a, 12-13; 2026b, 15)8。人民革命党はすでに2016年の第10回党大会において、2030年までに1人当たりGDPと1人当たり国民総所得(GNI)を2015年比で4倍とし、上位中所得国入りを果たすとする「ビジョン2030」を掲げていた(ケオラ 2017)。つまり今回の2055年目標は、近年の経済状況を踏まえた同ビジョンの焼き直しである。とはいえ「高所得国に極力近づく」という新たな文言を加えたことでより高い目標を示し、国民にアピールしたといえる。
党が目標到達時期を引き延ばした背景には、近年の経済状況の悪化とともに前回大会で変化した党の現状認識がある。党は前回、経済開発最優先から安定や持続を重視する姿勢に転換したうえで、あたかもそれまでの時間を巻き戻すかのようにラオスは社会主義建設の初期段階にあるとの認識を示した(山田紀彦 2021, 26-31)。そして今回の「政治綱領」と「政治報告」からは、それを継承する形で現状を「人民民主主義体制の修復期」と捉えていることがわかる。2つの文書では「人民民主主義体制の修復」という文言が頻出する。同文言はこれまでも使用されており、決して新しい言葉ではない。しかし「第3次政治綱領」のタイトルそのものが、「人民民主主義体制を修復し社会主義に前進する」となっていることは、その重要性を裏付ける(PPPL 2026a)。「政治報告」でも2026~2030年のあいだに、「人民民主主義体制を修復して堅固にするための主要な基礎要素を構築し、かつ改善して向上させる」と記されている(PPPL 2026b, 15)。党はラオスが社会主義の初期段階だけでなく人民民主主義体制の修復期にあると位置づけ、その基礎固めには相応の時間を要すると示唆することで、目標到達時期の先延ばしを正当化しているのである。
一方で「人民民主主義体制の修復」には、党・国家の指導力を再び強化し、支配の正統性を回復するとの意味合いも込められている。独裁体制下のラオスで党・国家の指導は当たり前であり珍しいことではない。しかし今回の「政治報告」では「法による統治」「国家管理」「経済管理運営」に、前回はみられなかった「党の指導下で」という文言が付随している。また「党の指導と国家の管理・調整を伴う市場経済」という表現もみられる。さらに商工会議所への党指導を強化する方針を示し、国有企業を中心とする国家経済部門を国民経済基盤の力と位置付けている(PPPL 2026b)。元々ラオスの市場経済化は党の指導下で国家の調整を伴い、国家経済部門が主導する形で始まった。しかし今大会ではその強調度合いがこれまでよりも強く感じられる。体制を立て直すなか、今後はあらゆる面で党・国家の指導や役割が強化される可能性がある。
書記長の再任と進む次世代への集団的権力移譲
新執行部人事の特徴は党書記長の再任と世代交代の2つに整理できる。まず、党書記長には80歳のトーンルン・シースリットが再任された。80歳での就任はこれまでの最高齢である9。トーンルンは書記長に就任して以来、自らの政策を全分野で積極的に実施してきた。なかでも2023年には「独立自主経済」(セータキット・ペンチャオ・トンエーン)という新たな経済思想を提示し、2025年には国家機構を再編するだけでなく憲法改正も行った。現在は大幅な地方行政改革に取り組んでいる。健康面に不安はないため、政策の実現に向けて道半ばで引退するわけにいかなかったのだろう。
一方、適切な後継者がいなかったことも続投理由のひとつである。トーンルンの後継者と目されていたパンカム・ウィパーワン前首相は、2023年に女性問題で政界を引退した。パンカムはトーンルンと同郷で2人は同時期にソ連に留学しており、関係性も良好であった。パンカムは能力が高く年齢はトーンルンより6歳若いため、後継には適任だった。パンカムを除くと年齢や経験から適した人材はみあたらない。2025年2月に亡くなった最大権力者カムタイ・シーパンドーンの長男で、現首相のソーンサイ・シーパンドーンは59歳とまだ若い10。初代党書記長の息子であるサイソムポーン・ポムヴィハーン国会議長の党書記長への就任は、カムタイ家やトーンルンが同意しない。トップの座をめぐる権力闘争を避け党内の安定を優先するならば、トーンルンの続投は最適な選択肢だったといえる。
そして今後はトーンルンの権力がさらに強まるに違いない。カムタイ一族はいまだに党内で最大グループを形成している。しかしカムタイの死により、この5年間で影響力を拡大してきたトーンルンにとってより権力を行使しやすい状況となった。党規約は3選を禁じている。したがってトーンルンは今後5年間で自らの支配をできるだけ強化し、党への影響力を保持したまま引退するつもりだろう。
トーンルンが続投した一方で、党中央執行委員会は一定の若返りが図られた。委員会の枠は現行の委員71名(予備委員10名)から、委員73名(予備委員15名)へと若干拡大した(表1)。前期執行部からは28名が引退し、中堅や若手がその枠を埋めた。なかには党や国家の職位がそれほど高くない者もいる。新規メンバーの特徴は、序列61位でトーンルンの息子であるトーンリー・シースリット・ラオス人民革命青年団書記を筆頭に、元・現高級幹部の子息や関係者が多いことである11。彼/彼女らの中央執行委員会入りは前回大会から顕著となり、親から子への集団的権力移譲がさらに進んだことになる。
表1 ラオス人民革命党第12期中央執行委員会名簿
(注)*は女性。党中央執行委員は通常、党・国家の複数の役職を
兼任しているが主要なものだけを記載している
(出所)Pasaxon, January 12, 2026、山田紀彦(2021, 40-41)、各種報道に基づき筆者作成
目に見える成果が求められている
以上で示した問いへの回答をまとめると次のような見通しが成り立つ。すなわち、今後5年間は影響力を拡大するトーンルン書記長の強い指揮の下、党・国家が指導や役割を強化しながら政治改革や経済建設を進め、低下した正統性の回復に努めていくとことになる。
そうであれば新執行部には、国民が実感できる成果が求められる。低迷した経済は底を脱した感はあるが、国民生活が大きく改善されたとは言い難い。党・国家幹部の汚職も拡大が止まらない。また地方行政改革は始まったばかりであり、いかに混乱を最小限に抑えて効率的に行政サービスを提供するかが課題となっている。トーンルンが自らの権力を強化して影響力を高めるためにも、あらゆる面で成果を出す必要がある。それは同時に党支配の正統性回復にもつながる。トーンルンの指導下で党が体制を立て直し、2055年の目標達成に向けて国民が期待を抱けるようにすることが、第12期党指導部に課せられた課題である。
なお今大会の詳細に加え、2月の第10期国会選挙と第5期県人民議会選挙 、そして3月末に発表予定の国家の新指導部人事を含めた一連の分析結果は、2026年度内に当研究所ウェブサイトにて無料公開される電子単行書をご覧いただきたい。
写真の出典
- 写真1 筆者撮影
- 写真2 首相官邸ホームページ(公共データ利用規約[第1.0版][PDL1.0]、CC BY 4.0)
参考文献
- スックニラン・ケオラ 2017. 「『ビジョン2030』――達成できるか所得4倍増計画――」山田紀彦編『ラオス人民革命党第10回大会と「ビジョン2030」』アジア経済研究所、 73-96ページ。
- 山田健一郎 2022. 「ラオス、ガソリン不足が深刻化」ジェトロ・ビジネス短信、5月12日。
- 山田紀彦 2021. 「新たな国家建設方針と世代交代を果たした新指導部」『ラオス人民革命党第11回大会――転換期を迎える国家建設』アジア経済研究所、23-51ページ。
- Kaysone Phomvihane 1972. Bot laigan laiat kiaw kap khongkan kan meuang [政治綱領に関する詳細報告]. N/A: Phak pasaxon pativat lao [ラオス人民革命党].
- Ministry of Finance Lao Statistics Bureau (MFLSB) 2025. Poverty Profile of the Lao PDR: Preliminary Findings from the Lao Expenditure and Consumption Survey, 2024/2025. Vientiane Capital: MFLSB.
- Ministry of Finance Public Debt Management Department (PDMD) 2025. 2024 Public and Publicly Guaranteed Debt Bulletin of Lao PDR. Vol. 06, Vientiane Capital: PDMD.
- Phak pasaxon pativat lao (PPPL) [ラオス人民革命党] 2026a. (Hang) Khongkan kan meuang bulana labop pasathipatai pasaxon kao khun su sangkhomninyom [(案)政治綱領 人民民主主義体制を修復し社会主義に前進する]. Vientiane Capital: PPPL.
- Phak pasaxon pativat lao (PPPL) [ラオス人民革命党] 2026b. (Hang) Bot laigan kan meuang khong khana bolihangan sun kang phak samai XI to kongpasum nyai phu thaen thua pathet khang thi XII khong phak pasaxon pativat lao [(案)ラオス人民革命党第12回全国代表者大会に対する第11期党中央執行委員会の政治報告]. Vientiane Capital: PPPL.
- Sapha haeng sat khana pacham (SHSKHP) [国会常務委員会] 2025. Mati khana pacham sapha haeng sat kiaw kap kan kamnot van sang tang sapha pasaxon thongthin lae kan kamnot kan chatsut sapha sapha pasaxon thongthin, lek thi 204 [地方議会設立日と地方議会の期を定めることに関する国会常務委員会決議]. Vientiane Capital: SHSKHP.
- United Nations Committee for Development Policy (UNCDP) 2025. 2025 Monitoring Report Lao People’s Democratic Republic. February, UNCDP.
著者プロフィール
山田紀彦(やまだのりひこ) アジア経済研究所地域研究センター長補佐。専門はラオス地域研究、権威主義体制研究。主な著作は『権威市議体制にとって選挙とは何か――独裁者のジレンマと試行錯誤――』(編著)ミネルヴァ書房(2024)、『ラオスの基礎知識』めこん(2018年)、『独裁体制における議会と正当性――中国、ラオス、ベトナム、カンボジア』(編著)(2015年)等。
注
- 2026~2029年は移行準備期間として位置づけられ、2030年と2033年に国連開発政策委員会(Committee for Development Policy)による評価が行われる(UNCDP 2025, 6)
- インフレ率はラオス銀行ウェブサイトを参照。2026年1月26日閲覧。
- 世界銀行のデータによると、所得の不平等の程度を示すジニ係数は(0~1の間をとり1に近ければ格差が大きい)、0.343(1992年)、0.349(1997年)、0.326(2002年)、0.354(2007年)、0.36(2012年)、0.388(2018年)と上昇傾向にあった。しかしラオス政府が発表した2024/2025年度の数値では0.347と低下している。これは指標変更後の数値だが、以前の指標を使用して算出した場合でも0.36となっている(MFLSB 2025, iii, 5)。これは本文でも述べたように、経済状況の悪化により富裕層や中間層の消費が落ち込んだことに起因する。とはいえ依然として所得の不平等は大きく、富裕層や中間層の消費が回復すれば再び格差が拡大する可能性は高い。世界銀行ウェブサイトを参照。2026年1月24日閲覧。
- 例えば教育・スポーツ省の統計に基づき筆者が算出したところ、小学性の退学率は2020/21年度の4.1%から2021/22年度には約5%以上と上昇し、実数では6000人以上増加した。2022/23年度以降、退学率は若干低下したもののコロナ禍以前よりは高い状況が続いている。党や政府はさまざまな会議で小中高生の退学問題に触れており、深刻さがうかがえる。教育・スポーツ省ウェブサイトを参照。2026年1月24日閲覧。
- 党は「第3次政治綱領」でも国家が多くの困難で挑戦的な問題に直面しているとの認識に立ち、「大衆業務活動を刷新し(中略)大衆の間に党と国家への指導に対する信頼を構築する」「人民を核心とみなし(中略)党、国家、社会主義の理想に対する人民の無限の信頼を改善し強化する」との意思を示している(PPPL 2026a, 11, 27-28)。
- 結党時はラオス人民党であり、1972年に現在のラオス人民革命党に改称された。
- ラオスでは1940年代からラオ・イサラ(自由ラオス戦線)と呼ばれるグループが、フランスに対する独立闘争を行っていた。1954年にフランスから完全独立を果たしてラオス王国が誕生するが、ラオ・イサラの左派勢力は王国政府をアメリカの傀儡と位置付け革命闘争を展開した。後に革命勢力は「パテート・ラオ」と呼ばれるようになり、人民党/人民革命党が率いていた。
- 世界銀行によると現在(2026財政年度)の国別所得分類は2024年基準で以下のようになっている。低所得国は1人当たり国民総所得(GNI)が1135ドル以下、低位中所得国は1136~4495ドル(現在ラオスはここに位置する)、上位中所得国は4496~1万3935ドル、高所得国は1万3936ドル超である。世界銀行ウェブサイトを参照。2026年1月26日閲覧。
- これまでは2016年の第10回大会において78歳で書記長に選出されたブンニャン・ウォラチットが最高齢であった。
- 年齢は党大会時であり、ソーンサイは2026年1月26日に60歳となった。
- 例えば表1の序列67位、73位、予備1位、2位、3位、7位、8位、10位、11位、14位などである。
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