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ラオス人民革命党第11回大会の見どころ

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051932

2021年1月

(5,821字)

党大会をみる4つのポイント

2021年1月13日から15日にかけて、ラオス人民革命党第11回全国代表者大会(以下、党大会)が開催される。党大会は、5年ごとに開催されるラオスでもっとも重要な政治イベントであり、指導部の交代、党・国家建設方針の提示、そして党規約の改正などが行われる。

今大会では、党指導部の世代交代と親から子への権力継承、若年層の管理・育成と取り込み、党支配の正当化と国民の信頼構築、そして低迷した経済の回復という4つのポイントがある。順番にみていこう。

写真:2016年1月、首都ビエンチャンの凱旋門に掲げられる第10回党大会を歓迎するバナー

2016年1月、首都ビエンチャンの凱旋門に掲げられる第10回党大会を歓迎するバナー
指導部の世代交代と親から子への権力継承

今大会ではブンニャン党書記長が退任し、新書記長が誕生する見込みである。2016年の書記長就任時点で78歳と高齢だったブンニャンは、建国を担った革命第一世代1から中堅・若手に権力を委譲するためのつなぎ役であり、一期5年での退任が既定路線であった。では、誰が新書記長に就任するのだろうか。

大方の予想では、パンカム党書記局常任・国家副主席が新書記長に就任するとみられている。ブンニャンも書記長就任前に書記局常任と国家副主席を務めた。書記局は書記長を補佐する機関であり、常任は複数いる局員のなかの筆頭格である。書記局は2001年に一度廃止され、2003年から2006年までは代替機関として、党の実質的な最高意思決定機関である政治局に常任ポストが置かれた。同ポストにはチュムマリー前党書記長が書記長就任前に就いていた。したがって過去2回の例に倣えば、パンカムが新書記長の最有力候補といえる。パンカムの能力は高く、党内の長老だけでなく若手からも一目置かれている。ただし人事は蓋を開けるまで何が起こるかわからない。国民に人気の高いトーンルン首相を推す声もある。

確実なのは、党指導部人事において革命闘争経験の重要性が薄れることである。歴代の4人の書記長には軍歴があり、彼らは同じ革命闘争を経験した同志、もしくは上官と部下という関係にあった。しかしパンカムもトーンルンも軍歴はない。軍歴を重視するなら、2018年にラオス人民軍3人目の大将に昇格したチャンサモーン国防大臣の書記長就任もあり得るが、その可能性は低いだろう。

ブンニャンの引退により、軍歴のある革命第二世代も政治局からいなくなる。政治局からはブンニャン以外にも数人の退任が見込まれている。したがって党の基本方針を審議する中央執行委員会を含め、党指導部は革命闘争経験は浅いが実務経験と専門知識が豊富な第三世代や第四世代、また革命闘争経験のない第五世代により構成されることになる。

世代交代が進むとはいえ、革命第一、第二世代の権力は彼らの子どもや弟子たちに継承される。今回の人事でも現在96歳であるカムタイ元党書記長が影響力を行使している。カムタイは2016年の前回大会で自身と関係の深いブンニャンを中堅・若手へのつなぎ役に選び、息子のソーンサイ副首相を政治局員に昇格させた2。ソーンサイは次期首相の最有力候補である。すでに2019~2020年に行われた地方要職の人事異動でも、カムタイの娘婿や弟子たちが要職に就いており、彼らの一部が党中央執行委員会に入ることは間違いない。また、チュムマリーやブンニャンなどその他指導者の子息・子女も党中央執行委員会に入るとみられている。

革命第一、第二世代指導者の子どもや弟子たちの一部は婚姻関係にある。したがって親たちが革命闘争を通じて培ったネットワークは子どもたちに継承されることになる。

若年層の管理・育成と取り込み

党大会で行われる「政治報告」では今後の党建設方針が示される。今大会のポイントの1つは、30代以下の若年層の管理・育成と取り込みである。

革命闘争経験の希薄化は社会も同じであり、人口の約8割以上は革命闘争が終結した1975年以降に生まれている。もちろん彼/彼女らも歴史教育を通じて党が革命闘争で果たした指導的役割を理解している。しかし、若年層はこれまでの世代と異なり、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)で簡単に体制批判を行うようになった。2020年にはTwitterを活用した新たな反体制運動も展開された(山田 2020)。特に現在は、「社会主義国家建設」を真に目指した時代とは異なり、生活を営むうえで経済的に党・国家に依存しない人々の方が多い。

そこで、前回大会では民間・外国企業への党組織拡大方針が掲げられたが(山田 2017, 37)、組織化はさほど進んでいない。すべての国家機関には必ず党組織が設置され、また、職員は女性同盟、労働連盟、人民革命青年同盟など、党傘下のいずれかの大衆組織に加入することが求められる。そのためかつては、党が大多数の国民を管理することは比較的容易だった。しかし民間・外国企業が増える一方で、公務員の新規採用数は毎年のように削減されている。そして民間企業の従業員は必ずしも大衆組織に加入しなくてよい。つまり党の社会管理は一層難しくなっている。

したがって今大会では民間・外国企業への党組織の拡大に加え、若年層に対する新たな管理・育成方針が示されると考えられる。すでに2020年11月の国会では「青年法」が制定され、若者の育成と管理強化に向けて動き出している(KPL, November 10, 2020; November 17, 2020)。12月の第8回青年同盟大会では、ブンニャン党書記長が同盟員の拡大を課題のひとつとして取りあげた(KPL, December 25, 2020)。現在の党規約では、青年同盟が設置されている機関では同組織への加入が入党条件となっている(Phak pasason pativat lao 2016a, 7-8)。若年層の体制への取り込み、管理、育成は、今後の体制維持にとって重要性を帯びており、どのような方針が示されるか注目される。

党支配の正当化と国民の信頼構築

2010年代以降、党は支配の正当性の問題に直面してきた。経済成長とともに党・国家幹部の汚職が蔓延し、党に対する国民の信頼が低下したのである。すでに2011年の第9回党大会で汚職問題に対する危機感が示され、2016年の前回大会では「前衛性」「闘争性」「模範性」という言葉で党内の綱紀粛正を訴えた。「前衛性」とは党と国民の理想を実現するための犠牲心であり、敵や社会問題と断固闘う姿勢を意味する。「闘争性」とは「前衛性」を促進し党へのあらゆる危機に対抗する能力を指す。そして党員はすべての面で国民の模範となることを求められたのである(山田 2017, 34-36)。

今大会ではこれらの政策を踏襲したうえで、さらなる綱紀粛正方針が示されるだろう。例えば、2020年に行われた県・省庁級の党大会では、「個人的利益追求の禁止」「傲慢さの抑制」「人民の幸福への奉仕」などの文言がみられた。そして一部の県党大会では、官僚主義、汚職、(党員の)質の低下の解決とともに、党指導に対する人民の信頼と忠誠の構築が掲げられた(Pasason, July 28, 2020)。今大会の「政治報告」でも同様の文言が盛り込まれ、国民の信頼構築が目指されることは間違いない。

支配の正当化戦略で重要となるのが、「カイソーン・ポムヴィハーン思想」(以下、カイソーン思想)である。建国の父であり初代党書記長の名を冠した政治思想は、「マルクス・レーニン理論」とともに党の基本思想・理論として前回大会で初めて正式に提示された(Phak pasason pativat lao 2016b, 59)。革命闘争を経験していない若年層を含め、故カイソーンはラオスでもっとも尊敬を集める指導者である。党はカイソーン思想を体現する自分たちの指導は正しいとアピールすることで、支配の正当化を行っている。しかし前回大会では同思想の具体的内容は示されてない。

「カイソーン思想」研究は2030年までの長期プロジェクトであり、現在も研究が進められている最中だが、今大会では同思想に対する何らかの具体的言及がなされて然るべきである。党が「カイソーン思想」を活用しどのように自らの支配を正当化するかは、今後の党支配体制を占ううえでも重要なポイントといえる。また「カイソーン思想」に続き、その他革命第一世代指導者の名を冠した新たな政治思想や理論が提示される可能性もある。

経済開発方針

新型コロナイルス感染症(COVID-19)の世界的な拡大により、ラオス経済は1990年代後半のアジア経済危機のとき以上に低迷している。2020年には大手格付け会社によるラオスの長期債務格付けが引き下げられ、債務問題が取り沙汰された(Financial Times, September 3, 2020)。したがって今大会で提示される中・長期の経済方針には例年以上に国内外の注目が集まっている。

これまでの党大会では野心的な目標が掲げられる傾向にあった。例えば、1996年の第6回大会では「2020年の後発開発途上国脱却」が、前回大会では2030年までに上位中所得国3入りを目指すという「ビジョン2030」が目標として掲げられた。前者の目標は2024年に達成見込みであったが、COVID-19の影響により先延ばしとなる可能性が高い。後者については現状を考えればほぼ達成不可能である。

今大会で提示される第9次5カ年(2021〜2025年)計画では、後発開発途上国脱却や「ビジョン2030」を維持しつつ、より現実的な目標設定が行われると考えられる。2020年11月に開催された国会報告をみると、2020年7月の段階で5〜6%とされていた年間平均経済成長率は4〜5%に下方修正されている。外貨準備高、公共投資や国内外の民間投資額も前5カ年計画よりも低い設定である。一方、財政赤字は11月の段階で対GDP比2%を設定しており現実的とはいい難い。COVID-19の影響により国家収入の低下は必至である。

経済開発方針が電力・資源開発と大規模インフラプロジェクトを軸とすることに変わりはないだろう。現状では製造業への新規外国投資の大幅増は期待できない。電力はCOVID-19の影響を受けることなく近隣諸国に輸出でき、確実に経済成長への貢献が期待できるセクターである。すでにメコン川本流へのダム建設を複数カ所で進めている。電力資源への依存がさらに高まることが予想される。また党は、鉄道や高速道路建設などの大規模インフラプロジェクトを経済の牽引役と考えており、これまで以上に中国への依存を深める可能性が高い。どのような対中政策が示されるのか注目される。

経済の最大の課題は失業対策である。COVID-19の拡大以前から高かった失業率は、近隣諸国への出稼ぎ労働者が大量帰国したため20%まで拡大した。党は今後5年間で失業率を毎年1%ずつ減らす方針のようだが、具体策はみえてこない(Phutaen pasason, November 26-30, 2020)。汚職問題もあり、失業率の高止まりが続けば社会の不満はこれまで以上に大きくなる。国民の不満解消のためにも、党は経済回復の明確なビジョンを示す必要がある。

新指導部の厳しい船出

誰が新書記長になり、どのような指導部が形成されようとも、厳しい船出となることは間違いない。特に低迷した経済の回復は喫緊の課題である。実務は2月の国民議会選挙後に誕生する新内閣に任されるが、基本方針を決定するのは党である。政治では、党支配の正当化と国民の信頼回復が鍵となる。先述のように世代交代が行われ、新指導部にも革命闘争経験が浅い幹部が多くなる。したがって革命闘争に依拠した体制の正当化はますます難しくなる。だからこそ「カイソーン思想」の早期具体化が求められるが、若年層への効果は薄いだろう。若年層が求めているのは効率的な統治であり、社会の平等や公平、また雇用の創出などである。実務経験と専門知識を備えた新指導部が革命闘争を知らない若い世代の要望を汲み、どう応えていくのか、その能力が試されることになる。

なお、第11回党大会の人事や内容については、党大会終了後に改めて本ウェブサイトで報告する予定である。

写真の出典
  • 筆者撮影(2016年1月14日)。
参考文献
著者プロフィール

山田紀彦(やまだのりひこ) アジア経済研究所地域研究センター動向分析研究グループ長。専門はラオス地域研究、権威主義体制研究。主な著作は『ラオスの基礎知識』めこん(2018年)、『独裁体制における議会と正当性――中国、ラオス、ベトナム、カンボジア』(編著)アジア経済研究所(2015年)等。


  1. 本稿では便宜的に、1930年代から40年代に革命運動を開始し、1955年のラオス人民党(1972年に人民革命党に改称)創立にかかわった指導者たちを革命第一世代、1950年代に革命運動に参加した世代を第二世代、1960年代に参加した世代を第三世代、1970年代に参加した世代を第四世代、そして革命経験を持たない世代を第五世代とする。
  2. ソーンサイは2016年4月に副首相に就任し、1月の政治局入局時は政府官房長官であった。
  3. 世銀は2021年の分類として、2019年の1人当たり国民総所得(GNI)が4046ドル~1万2535ドルの国を上位中所得国としている(世界銀行ホームページ)。
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