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ラオス人民革命党第11回大会――人事と政治報告内容(速報)

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051934

2021年1月

(5,429字)

最高指導部の段階的な世代交代と「転換」を目指す党

2021年1月13日から15日にかけて、ラオス人民革命党第11回全国代表者大会(以下、党大会)が開催された。今大会での最大の注目点は党書記長を含めた指導部人事と、今後の国家建設方針が示される「政治報告」の内容であった。

書記長人事では、最高指導部である政治局の安定を目指し、段階的な世代交代という道が選択された。しかし党中央執行委員会には中堅・若手が多数登用され、世代交代が進んだ。

「政治報告」では、社会主義建設が党の目標であることが確認される一方で、全体的には社会に鬱積する不満を解消し、国民の信頼回復を意図した内容となった。以下、詳しくみてみよう。

写真:新書記長に就任したトーンルン・シースリット

新書記長に就任したトーンルン・シースリット
書記長人事

もっとも注目を集めた党書記長には、国民に人気の高いトーンルン首相が就任した。党大会前には書記長候補として、パンカム書記局常任・国家副主席とトーンルンの名前が取り沙汰されていた。しかし過去2回の党大会では、書記局常任・国家副主席が党書記長に就任していたため、パンカムの可能性が高いと思われた(山田2021)。今回トーンルンが書記長に就任したことで、書記長就任前のポストにさほど意味はなく、また書記長への道は必ずしも制度化されていないことが示されたといえる。

人事はいまだに党内長老たちの協議や彼らとの関係性で決まるとみてよいだろう。後述する党中央執行委員会人事をみてもその傾向は確認できる。人事に対してもっとも影響力を行使しているのはカムタイ・シーパンドーン元党書記長である。ただし96歳と高齢であるため、党内の安定を考えれば、今後は最高指導部人事の制度化が必要になるかもしれない。

トーンルンの書記長就任には2つの理由が考えられる。第1は、書記長の段階的な世代交代を行い、政治局内の安定を維持することである。トーンルンは1945年11月10日生まれの75歳であり、1962年5月に革命闘争に参加した革命第三世代1にあたる2。パンカムもトーンルンと同じ革命第三世代だが、革命闘争への参加は1968年3月とトーンルンよりも遅く、年齢も69歳と若い。83歳であるブンニャン・ウォーラチット前党書記長が革命闘争に参加したのは1954年3月であり、革命第二世代に位置付けられる。したがってパンカムに権力を委譲し一気に若返りを図るのではなく、ブンニャンに年齢も革命闘争参加年も比較的近いトーンルンが選ばれたと考えられる。つまり長老たちは、最高指導部である政治局の安定を維持するために段階的な世代交代という道を選択したのである。その意味で、書記長人事ではいまだに革命闘争経験が重要な要素となっている。

第2は、これまでの業績と国民による支持の高さである。トーンルンはこれまで計画・投資委員会委員長(現計画・投資省)や外務大臣などを務め、堅実かつ手堅い手腕を発揮してきた。しかし、2016年4月に首相に就任して以降、トーンルンは木材の不法伐採や輸出を取り締まり、公務員の汚職問題の解決に乗り出すなど矢継ぎ早に改革を進め、国民の高い支持を獲得してきた。さらにトーンルンは、自然災害や新型コロナウイルス感染症拡大に対しても断固たる対応をとり、強いリーダーシップを発揮している。この5年間の国民の高い支持が、トーンルンの書記長就任を後押ししたことは間違いないだろう。

なお、パンカムは序列2位に上がり次期首相となる可能性が出てきた。パンカムの能力は高く、教育・スポーツ大臣時代には高等教育改革を進めた改革志向の人物である。またパンカムはトーンルンと同じく革命拠点であったフアパン県サムヌアの出身であり、2人はソ連留学の時期も重なっている。トーンルン書記長の下で仮にパンカムが次期首相になれば、さまざまな分野で改革が進むと考えられる。

政治局、書記局、中央執行委員会人事

政治局は11人から13人に拡大された。ブンニャン前書記長とチャンシー党中央組織委員会委員長が退任し、新たに4人が加わっている(表1)。先述のようにパンカムは序列5位から3位のパニー、4位のブントーンを抜き、2位となった。パニーとブントーンの序列は前回と同じであり、2人以外の再任者は序列を2つずつ上げた。

表1 政治局リスト

表1 政治局リスト

(注)*は女性、●は軍、公安幹部。役職は主要なもののみ記している。
(出所)Pathet Lao, January 16, 2021や内部資料を基に筆者作成。

新たに入局した4人の特徴は以下のとおりである。キケーオ情報・文化・観光大臣は国家政治・行政学院院長、党中央宣伝・訓練委員会委員長などを務め、長らく党内で経歴を築いてきた。2019年からは情報・文化・観光大臣を務めている。情報・文化・観光省は、党や国家の正当化作業、また、インターネットやソーシャルネットワーキングサービスの活用や規制に加え、観光産業の育成などでその重要性を増している。ウィライ公安大臣は2016年の第10回党大会で新たに序列15位として党中央執行委員会に入った。2017年の国防副大臣時代には中将に昇格し、2018年に公安大臣に就任した治安部門畑の幹部である。シーサイは少数民族(カタン族)出身の女性である。地方勤務時代からラオス女性同盟に勤務し、中央の女性同盟議長も務めた。現在は国会副議長である。序列3位のパニー国会議長も少数民族(モン族)出身の女性であり、「象徴的」存在となっている。シーサイの入局は将来的なパニーの引退を考えた人事といえるが、パニーほどの資質はないとみられている。

そして今回もっとも躍進したのがサルームサイ外務大臣である。52歳と若いサルームサイは、前回大会で序列50位として党中央執行委員会に入り、今大会で一気に政治局まで登りつめた。ロシアで国際関係を学び、オーストラリアのモナシュ大学で社会開発も学んだ新進気鋭の若手である3。父親は革命闘争の英雄トーンライ・コマシット将軍である。家柄だけでなく本人の能力も至って高い。今大会ではチャンパーサック県党副書記である弟のマライトーンも予備委員に選出された。後述するように、党中央執行委員会には革命第一、第二世代の子息・子女が多く入った。

書記長を補佐する書記局は9人と前回から人数変更はない(表2)。筆頭格の常任ポストには序列4位のブントーンが就任した。その他7人の役職は党中央宣伝・訓練委員会委員長、国会副議長、ウドムサイ県知事、首都ヴィエンチャン党副書記・人民議会議長、党中央事務局長、党中央対外関係委員会委員長、国家会計監査機構長である。これまでと異なり国防省や公安省の現役大臣や副大臣が入っていない。今後、新局員数人が役職を異動する可能性はあるが、これまでの経歴から彼らが国防や公安部門に異動するとは考えられない。新たに入局したカムパン・ウドムサイ県知事はカムタイ元党書記長の側近であり、ヴィアントーン会計監査機構長はカムタイの娘である。彼らの入局にカムタイの影響力が働いたことは間違いないだろう。

表2 書記局リスト

表2 書記局リスト

(注)*は女性。役職は主要なもののみ記している。
(出所)Pathet Lao, January 16, 2021や内部資料を基に筆者作成。

党中央執行委員会(表3)には中堅・若手ともに、革命第一、第二世代指導者の子息・子女や弟子たちが数多く入った。もっとも多いのが、カムタイ元党書記長の子供、弟子、女婿、そして関係の深い中堅・若手幹部である。すでに委員となっている兄2人に続き、カイソーン・ポムヴィハーン初代党書記長の四男も序列62位に入った。シーパンドーンやポムヴィハーン家の他、ウォーラチット、ウィニャケート、カッティニャ、サイニャソーン、ウォンヴィチット、コマシット、ブッダーカム、ラーオリーなどの有力家系から新たに委員や予備委員が誕生した。

また、一部有力幹部の降格もあった。前期序列16位のブンポーン国会副議長、22位のナム前アッタプー県知事、62位のヴィドーン前ヴィエンチャン県知事が中央執行委員会から外れた。彼らは将来を期待された有力な中堅幹部であり、ナムとヴィドーンは革命第一、第二世代の指導者を父にもつ。3人はいずれも前回大会以降に汚職問題で異動しており、汚職問題に取り組む党の厳しい姿勢が示されたといえる。

表3 ラオス人民革命党第11期党中央執行委員会リスト

表3 ラオス人民革命党第11期党中央執行委員会リスト

(注)*は女性、●は軍、公安幹部。役職は主要なもののみ記している。
(出所)Pathet Lao, January 16, 2021や内部資料を基に筆者作成。
「政治報告」の内容

「政治報告」4では、社会主義建設が党の目標であることが再確認されるとともに、国民の不満解消に最大限取り組む姿勢が示された。

今大会のスローガンでは前回大会と同様に、党の領導能力の向上、刷新路線5の発展、国民の団結強化、社会主義の目的への到達が謳われた一方で、経済・社会開発の転換や国民の生活レベル向上という新たな文言が加わった。

特に「政治報告」ではさまざまな分野における「転換」の必要性が強調された。例えば、これまでと同様に生産基盤の強化や工業化などが目標として掲げられているが、今後は科学技術やイノベーションの活用も必要との認識が示されている。そのためには、自分たちの思考や政治思想から、人材配置計画、人材育成政策、投資誘致政策、予算まで、あらゆる分野の転換が必要となる。要約すれば、現在の経済・社会開発状況から一段レベルを引き上げるには、現状を転換する必要があるということである。

「転換」の必要性は政治でも指摘されている。「政治報告」では党が政治制度の中核であり、国家の運命に直接の責任があることが確認された一方で、党員や党組織の政治的資質の低下が党の領導的役割や党支配体制に危機をもたらしていると、前回大会以上に強い危機感も示された。その危機感は、「自覚に欠け、自己改革を受け入れられない党は、最終的に時代遅れとなり、国民の信頼や支持を失うだろう」(Pathet Lao, January 14, 2021)、との文言にも表れている。その問題解決のためには、人民民主主義体制や政治制度の「転換」が必要とされている。具体的な内容は明らかになっていないが、今後どのような政治改革が行われるかが注目される。

特筆すべきは、社会における不平等や不公平の解消、そして社会的弱者への特別な配慮が示された点である。前回大会でも、貧困問題の解決や国民の生活レベルの改善、また社会的平等の実現が目標に掲げられてきた。しかし今大会では、国民に利益や幸福をもたらすことが党の最高の目標と位置づけられた。また、すべてのラオス人が開発の成果を公平に享受できるようにし、特別政策を通じて農村や少数民族地域における機会の平等や雇用の創出を行うとしている。このような方針が示された背景には、経済格差や社会の不平等に対して国民の不満が鬱積していることがある。

新指導部への期待

指導力があるトーンルンが書記長に就任したことで、新指導部に対する国民の期待は高い。しかし新型コロナウイルス感染症の世界的な拡大により、ラオス経済はアジア経済危機のとき以上に落ち込んでいる。また、綱紀粛正が図られているとはいえ汚職問題の根は深い。経済・社会開発における現状を「転換」し、政治改革を通じて国民の信頼を回復できるのか。厳しい環境のなか、新指導部には国民の目にみえる成果が求められる。

*人事の詳細や政治、経済、社会、外交方針などの全体の分析については、今後、アジア経済研究所から出版予定である電子単行書のなかで行う。

写真の出典
  • Thongloun_Sisoulith_with_Obamas.jpg: Official White House Photo by Lawrence Jacksonderivative work: Entheta, Public domain, via Wikimedia Commons.
参考文献
著者プロフィール

山田紀彦(やまだのりひこ) アジア経済研究所地域研究センター動向分析研究グループ長。専門はラオス地域研究、権威主義体制研究。主な著作は『ラオスの基礎知識』めこん(2018年)、『独裁体制における議会と正当性――中国、ラオス、ベトナム、カンボジア』(編著)アジア経済研究所(2015年)等。

  1. 革命闘争の世代区分について山田(2021, 注1)を参照されたい。
  2. 本稿における指導者の経歴や属性などはすべて党内部資料や各種報道に依拠している。
  3. サルームサイの経歴についてはラオス外務省ホームページを参照。
  4. 分析は2021年1月14日付の新聞Pathet Laoに掲載された「政治報告」(案)に依拠している。今後、政治報告(案)は文言や文章などが一部修正される予定である。
  5. ラオスは1986年の第4回党大会で「チンタナカーン・マイ」(新思考)というスローガンを掲げ、市場経済化を含む包括的な改革を本格化した。「刷新」とはこの包括的な改革を指す言葉である。
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