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かつてないほど争点化する米国・イスラエル関係――イスラエル・ロビーと2026年中間選挙

The U.S.–Israel Relationship as a Political Battleground: The Israel Lobby and the 2026 Midterms

PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002002074

2026年10月

(8,130字)

史上最も高額な下院予備選が示したもの

2026年5月、普段なら全米の注目を集めることのないケンタッキー州のある選挙区で、米下院予備選史上、最も多額の資金が投じられた選挙が行われた。投票者が10万人余りに過ぎない選挙に、3000万ドルを超える広告費が流れ込んだのである。現職の共和党議員トーマス・マッシーは、エプスタイン文書の全面公開を求めたことでドナルド・トランプ大統領の怒りを買っていた。だが、理由はそれだけではない。非介入主義を掲げるマッシーは、イスラエルへの軍事支援や、米国による中東への軍事介入にも繰り返し反対してきた。そのマッシーを落選させるため、親イスラエル政治団体と、それに連なる大口献金者の支援を受けた政治団体が、合わせて1500万ドル近くを投じたのである。トランプが擁立した対立候補は、こうした圧倒的な外部支援を受けて勝利し、2012年の初当選以来議席を守り続けてきたマッシーは敗れた。

これまでイスラエル支援をめぐる党内対立は、主に民主党左派と党指導部の間で表面化してきた。しかし、この予備選は、同様の亀裂が「アメリカ・ファースト」を掲げる共和党の内部にも及んだことを象徴している。2023年10月以降のガザ戦争、そして2026年に始まったイラン戦争を経て、米国とイスラエルの関係は、米国国内政治における主要な対立軸の一つになりつつある。米政府による軍事支援や議会指導部のイスラエル支持は依然として強固である。その一方で、それを支えてきた国内の合意は、若い世代を中心に急速に揺らいでいる。この変化は2026年の中間選挙にどう表れ、長期的には米国の中東政策に何をもたらすのだろうか。本稿では、政治資金、選挙、世論という三つの側面から、その行方を考える。

写真:イスラエル系米国人評議会(IAC)の全国会議で、シェルドン、ミリアム・アデルソン夫妻からメノーラー(ユダヤ教の燭台)を贈られるトランプ大統領(2019年12月、フロリダ州)

イスラエル系米国人評議会(IAC)の全国会議で、シェルドン、ミリアム・アデルソン夫妻から
メノーラー(ユダヤ教の燭台)を贈られるトランプ大統領(2019年12月、フロリダ州)
変わる対イスラエル世論、変わらない政策

米国とイスラエルの二国間関係は、しばしば「特別な関係」と称される。米国は長年にわたってイスラエルに巨額の軍事支援を供与し、国連安全保障理事会でもイスラエルを非難する決議案に繰り返し拒否権を行使してきた。イスラエル支持は伝統的に超党派的性格を有し、激しい政治分断が続く民主党と共和党が共有してきた数少ない争点の一つである。その緊密さを象徴するように、イスラエルの歴代首相・大統領による米議会上下両院合同会議での演説は計10回と国別で最多であり、ベンヤミン・ネタニヤフ首相だけでも外国要人最多の4回に上る1。

この「特別な関係」を支えてきた背景として、米国社会に根付いた親イスラエル的な政治文化が指摘されてきた[Rynhold 2015; Kaplan 2018; 溝渕 2025; 佐藤 2026]。しかし、その社会的基盤はいま急速に変わりつつある。この変化はガザ戦争以前から始まっていたが、2023年10月以降、ガザで多数の民間人が死傷する映像がSNSを通じて日常的に流通し、とりわけ若年層でイスラエルに対する見方が悪化している。ギャラップ調査では2026年2月、「パレスチナ人により同情する」という回答が41%、「イスラエル人により同情する」という回答が36%となり、2001年の調査開始以来、初めて前者が後者を上回った。

ところが、こうした世論の変化は、政府の政策にほとんど反映されていない。2026年2月末に米国はイスラエルとともにイランを攻撃し、ホルムズ海峡の封鎖が世界経済に深刻な影響を及ぼしても、軍事作戦とイスラエル支援を継続している。また両国は、2028年に期限を迎える年間38億ドルの軍事支援協定に代わる、新たな安全保障協力の枠組みに関する正式交渉も開始した。

すなわち、米国とイスラエルの軍事協力は一段と深まっている。ピュー研究所の調査では、米国によるイラン攻撃を「正しい決定だった」と答えた人は、イスラエルでは75%に上ったのに対し、米国では38%にとどまり、約6割が「誤った決定だった」と回答した。この隔たりを背景に、米国国内では「これはアメリカのための戦争なのか、それともイスラエルのための戦争なのか」との疑念が生じている。なぜ、こうした世論の変化は政策に十分反映されないのだろうか。

「イスラエル・ロビー」とは何か

世論と政策の乖離を説明しうる仮説の一つに、「イスラエル・ロビー論」がある。米国政治では、医療、金融・保険、テクノロジー、エネルギー、軍需・航空などの業界団体が巨額の資金を投じ、政策への影響力を競い合っている。そのなかに、米国の対イスラエル支援を維持・強化しようとする、組織化された団体や献金者のネットワークも存在する、という考え方である。国際政治学者ジョン・ミアシャイマーとスティーヴン・ウォルトは、このような個人と組織の緩やかな連合体を「イスラエル・ロビー」と指摘し、2007年に論争を巻き起こした[Mearsheimer and Walt 2007]。

イスラエル・ロビーの中心的存在として最も広く知られているのが、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)である。1954年に設立されたAIPACは、議会への直接的な働きかけに加え、各選挙区の支持者と議員を結びつける草の根ネットワークを構築してきた。関連団体のアメリカ・イスラエル教育財団(AIEF)は、議員やその家族をイスラエルに招く視察旅行も実施している。

もっとも、イスラエル・ロビーはAIPACだけではない。共和党には共和党ユダヤ人連合(RJC)、民主党にはイスラエルのための民主党多数派(DMFI)があり、よりリベラルでイスラエル政府への批判も行うJ Streetも、自らを「親イスラエル、親和平」の団体と位置付ける。また、イスラエルのためのキリスト教徒連合(CUFI)のような福音派プロテスタント(エバンジェリカルズ)などの非ユダヤ教徒を主体とするイスラエル・ロビーも存在する。

こうした組織に加え、広義のイスラエル・ロビーには、親イスラエル候補や政治団体に巨額の資金を提供する大口献金者も含まれる。その代表例が、故シェルドン・アデルソンと妻ミリアムである。世界最大級のカジノ・リゾート企業ラスベガス・サンズ創業者であったシェルドンは2017年、「私が重視する争点は一つだけだ。それはイスラエルである」と公言するほどの親イスラエル強硬派である。ワシントン・ポスト紙の集計では、アデルソン夫妻の2015~2024年の選挙関連献金は約6億5800万ドルに上り、同期間における全米最大の政治献金者となった。アデルソン夫妻は、特にトランプと共和党への資金提供において重要な役割を果たしてきた。トランプ政権の一期目には、イラン核合意(JCPOA)からの離脱、エルサレムのイスラエル首都としての承認と米国大使館の移転、ゴラン高原に対するイスラエル主権の承認など、夫妻が長年支持してきた政策と一致する決定が相次いで実行された2。

「イスラエル・ロビー論」を批判する論者は、その影響力が過大評価されていると主張し、米国政府、とりわけ行政府がロビーの圧力を退け、イスラエル政府の意向に反する政策を実施した事例を挙げてきた。代表例として挙げられるのが、レーガン政権によるサウジアラビアへの早期警戒管制機(AWACS)売却、ブッシュ(父)政権による入植地建設を理由とした対イスラエル融資保証の延期、オバマ政権によるイラン核合意(JCPOA)の履行である[Rabinovich 2008; Lieberman 2009; Hochberg and Ross 2017; Garfinkle 2019; Rynhold 2021]3。これに対し、クリフトンとラスティックは、こうした事例を「ピュロスの勝利」、すなわち大きな政治的代償を払って得た限定的な勝利と評価する。ロビーの反対を押し切ることは、しばしば後々まで不利益をもたらし、実現した政策にも条件が付されたり、後に転換されたりしたためである[Clifton and Lustick 2026, 38]4 。2026年中間選挙では、イスラエルに批判的な立場の政治的コストを高めるこの力が、変化する世論にどこまで対抗できるかが問われている。

AIPACと選挙資金の動員

AIPACの影響力は以前から専門家には知られていたが、その具体的な活動が一般社会で広く議論されるようになったのは比較的新しい。そもそも2010年代末までは、AIPACの資金力や政治的影響力を公然と批判的に論じることは、「反ユダヤ主義」との非難を招きかねない一種のタブーであったと指摘される5。こうした状況が大きく変化したのは、ガザ戦争後である。AIPACの選挙介入に注目が集まるなか、非介入主義を掲げるマッシー議員は、元FOXニュース司会者タッカー・カールソンとの対談で、AIPACと共和党議員との密接な関係について赤裸々に語った。マッシーによれば、自分を除くほぼすべての共和党議員には、地元の有力なAIPAC支持者がついており、議員と定期的に会食したり、直接電話で連絡を取ったりしているという。マッシーは皮肉を込めてこれを「AIPAC世話役(AIPAC babysitter)」と表現した。

議員との個人的な関係に加え、AIPACはワシントンの政策コミュニティにも広範な人的基盤を持つ。中東の人権団体DAWNが2026年に公開した調査は、LinkedIn上の自己申告情報をもとに、AIPACの現職・元職員3020人の職歴と人的つながりを分析した。それによると、AIPACの元職員66人が米国政府機関に勤務し、そのうち40人は連邦議会で働いている。また、AIPACの現職職員23人が米国政府での勤務経験を持ち、うち17人は議会勤務経験者だった。イスラエル政府機関や親イスラエル系シンクタンク、イスラエルメディアとの間にも、多数の人材移動や人的つながりが確認された。これは、AIPACの活動が組織内部だけで完結するものではなく、政府、議会、シンクタンク、政治団体、メディアにまたがる人的ネットワークに支えられていることを示している。

AIPACの活動は2021年末、大きな転換点を迎えた6。それ以前のAIPACは候補者への直接献金を行わず、会員による個人献金や議員への働きかけを通じて影響力を行使していた。しかし、民主党左派を中心に無条件のイスラエル支援を疑問視する動きが強まると、AIPACは選挙資金の動員を自らの組織に集約した。2021年12月に候補者へ直接献金できる政治活動委員会(PAC)としてAIPAC PACを、翌2022年1月には無制限の独立支出が可能な特別政治活動委員会(スーパーPAC)として、「United Democracy Project(統一民主主義プロジェクト、UDP)」を設立した。

PACは候補者に直接献金できる一方、献金額には法定上限がある。これに対してスーパーPACは、候補者陣営との正式な連携を禁じられる代わりに、広告、郵送物、デジタル広告などに上限なく資金を投入できる。この二つを組み合わせることで、AIPACは多数の親イスラエル候補を広く支援すると同時に、重点選挙区では特定候補を当選、あるいは落選させるために資金を集中投入できるようになった。連邦選挙委員会(FEC)の2023~2024年選挙周期データによれば、AIPAC PACが約5370万ドルを提供し、会員団体系PACの献金額ランキングで第1位となった7。このランキングの上位5団体のうち三つを、AIPAC PAC、JStreetPAC、RJC PACと親イスラエル系団体のPACが占めており、候補者への資金動員においてイスラエル・ロビーが圧倒的に強い組織力を持つことを示している。

AIPACの資金は、具体的にどのような人々が提供しているのだろうか。政治資金を専門に扱う調査報道メディアSludgeは、FECの公開資料をもとに、2023年1月1日から2024年1月31日までにAIPAC PACとUDP、およびAIPACと協調して活動してきたDMFI PACへ資金を提供した大口献金者を集計した。上位には、WhatsApp共同創業者ジャン・コウム、投資運用会社HighSage Ventures創業者ジョナソン・ジェイコブソン、フィンテック企業GreenSky創業者デビッド・ザリック、ホーム・デポ共同創業者バーナード・マーカス、投資運用会社エリオット・マネジメント創業者ポール・シンガーらが並ぶ。注目すべきは、これら上位献金者の多くが共和党候補や共和党系スーパーPACに巨額を投じてきた大口献金者であり、その資金がUDPを通じて民主党予備選への介入にも用いられている点である。

AIPACのようなイスラエル・ロビーによる選挙支出は、米国で禁じられている外国政府や外国人による選挙資金の提供に該当しないのだろうか。これは論争となっているが、結論から言えば、現行法上は該当しない。AIPACは米国の団体であり、同団体によれば、その資金は米国市民から提供されているからである。また、AIPACは「イスラエル政府の資金や指示を受けてその代理で活動している」とも認定されていないため、外国代理人登録法(FARA)に基づく登録を義務付けられていない。これに対し、AIPACの批判者は、AIPACとイスラエル政府との綿密な関係を理由に、FARAに基づく登録を義務付けるべきだと主張している。

戦場となる2026年中間選挙――議員予備選をめぐる攻防

2020年代に入り、イスラエルをめぐる対立が民主党予備選の争点となるなか、AIPACは独自のPACを通じて、選挙に大規模な資金を投入するようになった。AIPACにとっての「成功モデル」となったのが、2024年のニューヨーク州第16区とミズーリ州第1区の下院民主党予備選である。ともに進歩派議員グループ「スクアッド」のメンバーで、イスラエルによるガザでの軍事作戦を厳しく批判していたジャマール・ボウマンとコリ・ブッシュに対し、UDPはそれぞれ約1450万ドル、約860万ドルを投じて対立候補を支援した。両議員は敗北し、二つの選挙は下院予備選として史上最高額級の争いとなった。

しかし、2026年中間選挙を迎える政治情勢は、2024年当時から大きく変化している。ガザ戦争の長期化を経て、とりわけ民主党支持者の間では、イスラエル政府への無条件の支持を公然と掲げることが難しくなった8。さらに、イラン戦争と原油価格の上昇は、海外での軍事介入と国内の生活費高騰を結びつける議論を強めている。こうした不満を背景に、アメリカ民主社会主義者(DSA)などに連なる民主党左派の存在感も増している。

その象徴がゾーラン・マムダニである。イスラエル政府を公然と批判してきたマムダニは、2025年のニューヨーク市長選で、親イスラエル派を含む大口献金者の支援を受けたアンドリュー・クオモ元ニューヨーク州知事を、民主党予備選と本選の双方で破った。マムダニはアレクサンドリア・オカシオ=コルテスと並ぶDSA系政治家の「顔」となり、その勝利は、巨額の政治資金に対抗する進歩派候補の新たな成功例となった。

こうしたなか、AIPACは、同団体が反イスラエル的とみなす候補を敗北させるため、各地の予備選に多額の選挙資金を投入してきた。ただし、結果は一様ではない。2026年3月のイリノイ州下院予備選では、AIPACと関係する団体が複数の選挙区に合計2000万ドル以上を投じたが、支援候補が勝利した選挙区もあれば、敗北した選挙区もあった。資金力は依然として強大であるものの、それだけで勝敗を決められるとは限らなくなっている。

イスラエルをめぐる対立は、民主党だけでなく、トランプ支持運動「MAGA」の内部にも及んでいる。イラン戦争を契機に、親イスラエル・対イラン強硬派と、「終わりなき戦争」を避けるべきだとする非介入主義的な「アメリカ・ファースト」派との亀裂が表面化した。後者には、白人ナショナリズムや反移民思想と結びつく勢力も含まれる。冒頭で取り上げたマッシーの予備選は、その亀裂が選挙として現れた代表例である。

2026年11月の中間選挙では、下院の全435議席と、上院100議席のうち35議席が争われる。共和党が僅差で多数を握る下院では、イラン戦争や生活費の高騰が逆風となり過半数を失う可能性が指摘される。一方、上院でも共和党が多数を維持できるかが焦点となっている。仮に共和党が両院で過半数を失えば、トランプ政権のレームダック化が一気に進む可能性がある。

その行方を左右するミシガン州で8月、イスラエルとAIPACを批判してきたアブドゥル・エル・サイードと、AIPACの支援を受けたヘイリー・スティーブンスが民主党候補の座を争った。スティーブンスを支援する外部団体は総額6000万ドル以上を投じ、そのうちAIPACと関連団体による支出は3000万ドルを超えた。民主党の上院予備選として史上最高額と評された争いだったが、勝利したのはエル・サイードだった。AIPACが過去最大規模の資金を投入しながら敗れた、最も注目度の高い選挙となったのである。

もっとも、対決はこれで終わらない。AIPACはエル・サイードの勝利後、11月の本選でも同候補を敗北させるために活動すると表明した。共和党候補マイク・ロジャースへの大規模な支援も検討されていると報じられている。イスラエルをめぐる対立は、民主党内部の予備選だけではなく、上院の多数派を決める本選そのものへと移りつつある。

それでは、AIPACは米国社会からどのように見られているのだろうか。2026年6月にAP通信とシカゴ大学の非営利調査機関NORCが実施した全国調査では、米国成人3040人のうち、AIPACを好意的に見る人は15%、否定的に見る人は25%、判断できるほどよく知らない人は59%だった。ユダヤ系米国人1022人では、好意的が34%、否定的が28%、よく知らないが38%だった。つまり、米国全体では肯定より否定が上回ると同時に、依然として大多数はAIPACをよく知らない。また、ユダヤ系米国人の間でも好意的な見方と否定的な見方はともに3割前後であり、AIPACへの評価は一様ではない。AIPACへの評価は党派によっても異なる。民主党予備選有権者の間ではAIPAC資金を拒否する候補が好まれる一方、共和党のMAGA派ではAIPACの献金を受けた親イスラエルの立場がなお一定の支持につながっている。

表2 AIPACおよび関連団体が多額の資金を投じた2026年の主要予備選

表2:AIPACおよび関連団体が多額の資金を投じた2026年の主要予備選

(出所)AP通信(ニュージャージー州、ミシガン州)、WTTW Chicago(イリノイ州)、アクシオス(ケンタッキー州、
メリーランド州、ニューヨーク州、ミズーリ州)などの報道をもとに筆者作成(2026年9月14日現在)
米国・イスラエル関係の今後

ネタニヤフ首相は2026年5月、CBSニュースの報道番組『60 Minutes』で、現在年間約38億ドルに上る米国の軍事支援を、今後10年間で段階的にゼロにしたいと明言した。同じインタビューでは、SNSを通じた情報戦をイスラエルにとっての「第8の戦線」と呼び、米国、とりわけ若年層でイスラエル支持が低下していることへの危機感も示している9。こうした認識は、米国の政治家からも語られるようになった。共和党のJ・D・ヴァンス副大統領は6月、イランとの停戦合意を批判するイスラエル政府関係者に対し、米国はイスラエルに残された「唯一の強力な同盟国」であると警告した。民主党の次期大統領候補に取り沙汰されるラーム・エマニュエル元駐日大使も7月、米国による「無条件の支持」は持続不可能であり、米国の納税者がイスラエルの国防費を補助する仕組みを終えるべきだと主張した。

これらの発言は、イスラエル・ロビーが超党派的な支持を維持してきた従来の政治手法が、次第に高いコストを伴うようになった現状を意識したものとみることができる。米国世論の変化に選挙資金によって対抗し続けるのか。それとも、世論の変動に左右されにくい関係へと「特別な関係」そのものを作り替えるのか。そして、米国の対イスラエル政策の見直しを求める勢力は、どこまで躍進できるのか。2026年中間選挙とその後の政策決定は、その行方を占う試金石となるだろう。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
参考文献
  • 佐藤雅哉 2026.『アメリカはなぜイスラエルを支援するのか――揺れ動くまなざしの歴史』名古屋大学出版会.
  • 溝渕正季 2025.『アメリカの中東戦略とはなにか――石油・戦争・同盟』慶應義塾大学出版会.
  • Ben-Ephraim, S. 2022. “The Israel lobby and relations between the American Jewish community and Israel.” In Routledge companion to the Israeli-Palestinian conflict, ed. A. Siniver. New York: Routledge, 433–448.
  • Clifton, E., and I. Lustik 2026. Israel’s lobby: America in the grip of a foreign power. New York: One Signal Publisher.
  • Garfinkle, A. 2019. “An underdog’s plaint and the limits of romantic geopolitics in the Middle East.” Foreign Policy Research Institute, July 18.
  • Hochberg, M., and D. Ross 2017. “Stephen Walt is walking back his Israel lobby theory beyond recognition.” The Washington Institute for Near East Policy, October 10.
  • Kaplan, A. 2018. Our American Israel: The story of an entangled alliance. Cambridge: Harvard University Press.
  • Lieberman, R. C. 2009. “The ‘Israel lobby’ and American politics.” Perspectives on Politics 7(2): 235–257.
  • Mearsheimer, J. J., and S. M. Walt 2007. The Israel lobby and U.S. foreign policy. New York: Farrar, Straus and Giroux.
  • Obama, B. 2020. A promised land. New York: Crown.
  • Rabinovich, I. 2008. “Testing the ‘Israel lobby’ thesis.” Brookings Institution, March 1.
  • Rynhold, J. 2015. The Arab-Israeli conflict in American political culture. New York: Cambridge University Press.
  • ――― 2021. “Divide and rule: Discursive authority, identity dissonance, ethnic lobbies, and US foreign policy, or how President Obama defeated AIPAC over the 2015 Iran deal.” Foreign Policy Analysis 17(2): orab005.
著者プロフィール

水野祐地(みずのゆうじ) アジア経済研究所地域研究センター研究員。修士(地域研究)。専門はイスラーム地域研究。最近の著作に、“Digital Anti-Islamist Activism at the Forefront of Political Polarization in Indonesia,” Trending Islam: Cases from Southeast Asia. Singapore: ISEAS – Yusof Ishak Institute (2023) など。


注
  1. ネタニヤフは1996年、2011年、2015年、2024年の計4回、米議会で演説しており、外国要人として最多である。これは英国のウィンストン・チャーチル元首相の3回を上回る。なお、日本の首相による上下両院合同会議での演説は、安倍晋三首相(2015年)と岸田文雄首相(2024年)の2回である。
  2. 2025年12月には、ミリアムがホワイトハウスの行事で、憲法上認められていない三期目への出馬をトランプに促した。トランプは、出馬すればアデルソンから「さらに2億5000万ドルを提供する」と告げられたと、冗談を交えながら明かしている。
  3. このほか、アイゼンハワー政権がスエズ危機後、イスラエルに占領地からの撤退を迫った事例を挙げる論者もいる。しかし、当時は米国内のイスラエル・ロビーの黎明期であり、後年に確立されたロビーの影響力を否定する材料としては限定的である。
  4. AWACS売却は実施されたものの、イスラエルとAIPACの強い反対を受け、運用上の制限やイスラエルの安全保障に配慮した措置が伴った。さらに、当時上院外交委員長を務め、売却を支持していた共和党上院議員チャールズ・パーシーは、イスラエル・ロビーによる大規模な落選運動を受け、1984年の選挙で敗北した[Clifton and Lustick 2026, 23]。融資保証も恒久的に拒否されたわけではなく、ラビン政権が入植政策を抑制した後、入植地関連支出を保証額から差し引く条件で承認された。JCPOAについても、トランプが2016年のAIPAC演説でその撤廃を公約し、2018年には米国を合意から離脱させたことで、前政権の政策が転換された。
  5. バラク・オバマ元大統領も回顧録で、民主・共和両党の政治家がAIPACとの対立を恐れていたと記している。イスラエル政府の政策を強く批判した政治家は、「反イスラエル」、場合によっては「反ユダヤ主義」とみなされ、次の選挙で資金力のある対立候補を立てられる危険があったという[Obama 2020, 628-629]。
  6. より広い制度上の転換点は2010年である。連邦最高裁の Citizens United v. FEC 判決と連邦控訴裁判所の SpeechNow.org v. FEC 判決によって、スーパーPACが無制限の献金を集め、候補者から独立して選挙支出を行う法的基盤が形成された。これにより、アデルソン夫妻をはじめとする大口献金者も、スーパーPACへの巨額の資金提供を通じて選挙への影響力を急速に拡大した[Clifton and Lustick 2026, 132-133]。アデルソン夫妻が主要な資金提供者となったスーパーPACである「Preserve America PAC」の2023~2024年選挙周期の総支出額は1億1300万ドルに上る。
  7. FECは、企業や労働組合などを母体とするPACを、その母体を企業、労働組合、業界団体、会員団体、協同組合、非株式法人の6種類に分類している。AIPAC PAC、RJC PAC、JStreetPACはいずれも、このうち会員団体系PACに分類される。
  8. 2024年4月には、AIPACや関連する親イスラエル団体の選挙資金を可視化する監視プロジェクト「Track AIPAC」が、まずX(旧ツイッター)上で活動を開始した。同年12月にはウェブサイトも開設され、FECの公開資料などをもとに、候補者への献金や独立支出を公表している。
  9. ここでいう「7つの戦線」とは、ガザ、西岸地区、レバノン(ヒズブッラー)、シリア、イエメン(フーシ派)、イラク(人民動員隊)、そしてイランを指す。
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