文字サイズ

標準
国・テーマ インデックス
新興国・途上国のいまを知る

IDEスクエア

世界を見る眼

(混沌のウクライナと世界2022)第4回 ウクライナの港湾とロシア侵攻による海上輸送の影響

The Impact of Russia‘s Invasion on Ports and Marine Transportation in Ukraine

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00053027

2022年5月

(5,218字)

ロシア軍による港湾インフラへの攻撃

ロシア軍によるウクライナ侵攻が開始されたのは2022年2月24日であった。この侵攻の初期段階で、ロシア軍はウクライナの港湾や空港を攻撃した。港湾や空港を早い段階で攻撃した背景として、これらのインフラは人とモノの輸送拠点であることが挙げられる。とくに、物資輸送では船舶輸送は陸上輸送(自動車、鉄道)や航空輸送に比べても、大量かつ廉価に輸送することが可能である。そのため、基点になる港湾への攻撃はウクライナ側の物資の輸送を大幅に断つことを可能にする。また、港湾の周辺には原油の貯蔵施設や精製施設、製造業が集積して工業地帯を形成していることも多い。こうした施設への攻撃は国内の生活基盤や国内経済へ甚大な影響を与えることを可能にする。

ウクライナの港湾は海上港と河川港の2つに区別することができる。これらの港湾は4月25日現在、ウクライナ全土で戒厳令と夜間外出禁止令が発令されていることもあり、昼夜を問わずすべて機能が停止している状況である。商業ベースでの貨物輸送は現在のところ、再開の見込みはまったく立っていない。ここではウクライナにある港湾をとりあげるとともに、ロシア軍によるウクライナ侵攻が海上輸送にどのような影響を与えるかについて考える。

ウクライナ最大の港湾であるオデーサ港(2017年9月)

ウクライナ最大の港湾であるオデーサ港(2017年9月)
ウクライナにおける港湾

ウクライナにおける主だった港湾を概観するためには、Shipping Guides Ltd. (2020)が参考になろう。このなかで掲載されているウクライナの主な港湾は20港あり、それをまとめたものが表1である。ウクライナの海上港は、黒海とアゾフ海にそれぞれ面している。20港のうち、6港がクリミア半島にある港湾であり、2014年のロシアによる併合によって現在はロシアの支配下に置かれている。その6港のひとつであるヤルタ港のウェブサイトを見ると、URLの国別コードトップレベルドメインがruとなっていることから、ロシア側はヤルタ港を自国の港湾と位置付けていると考えてよいであろう。この6港を除くと、ウクライナの港湾は実質的には14港となる。

表1 ウクライナにおける港湾

表1 ウクライナにおける港湾

(注)バルクとは鉄や鉱石、石炭、穀物などを梱包せずに船に搭載する貨物のことを指す。また、Break Bulk
とはコンテナに搭載できない長尺貨物や超重量貨物、ROROとは貨物を積んだ車両をそのまま船に乗せて
移動して運ぶ貨物である。
(出所)Shipping Guides Ltd. (2020)より作成。

まず、海上港の位置関係について確認しておこう。アゾフ海はウクライナのほかに、ロシアが接している。また、アゾフ海はクリミア半島とロシアのタマン半島の間にあるケルチ海峡を通じて黒海とつながっている。ウクライナ侵攻後、アゾフ海はロシア軍によって封鎖されており、現在のところロシア側の管理下にあると言ってよい。世界有数の鉄工所があるマリウポリはアゾフ海に接しているウクライナの港湾のなかで、最大の取扱量を扱っている港湾である。

一方、黒海に面している国は南から時計回りで、トルコ、ブルガリア、ルーマニア、ウクライナ、ロシア、ジョージアの6カ国である。地中海から黒海に向かう場合、エーゲ海を経由し、ダーダネルス海峡を通ってマルマラ海に出て、トルコにあるボスポラス海峡(ヨーロッパとアジアを分岐する海峡)を通って黒海に向かう。

地図 アゾフ海、黒海沿いの港湾のある都市


ウクライナの黒海に面している港湾のうち、オデーサ(オデッサ)港はウクライナ最大の港湾であり、イリチェフ港とユージヌィ港と合わせて「大オデーサ港」と呼ばれている。ここでは、貨物はコンテナだけではなく、バルクや一般貨物も取り扱われており、総合的な港湾であると言える。このオデーサ港の運営を2001年から受託しているのがドイツのHHLA(Hamburger Hafen und Logistik AG)社である。HHLA社はオデーサ港で480人を雇用し、現在まで1億7000万ドルを投資している(HHLA社ウェブサイト)。オデーサ港におけるコンテナ取扱量は2020年で65万2200TEU1あり、ウクライナの港湾全体の7割を占めている(『日本海事新聞』 2022年2月28日付)。また、ウクライナは一部の穀物においては世界を代表する輸出国であり、ひまわり油は世界最大の輸出国で世界全体の輸出量の44%を占めている。このほかにも、トウモロコシは世界4位で14.5%、大麦は3位で13.3%、小麦は5位で9.1%をそれぞれ占めた(FAO、2020年値)。こうした穀物輸送ではコンテナ船よりもバルク船が用いられていると考えられ、オデーサ港をはじめとするウクライナの海上港ではコンテナ以外の貨物も多く輸送されていると言ってよい。

このほか、ウクライナでは海上港だけではなく、河川港も有している。表1からわかるように、ウクライナにはドニエプル川、南ブーフ川、ドナウ河の3河川に7つの河川港がある。ドニエプル川は上流からロシア、ベラルーシ、ウクライナを経て黒海に流れる国際河川である。南ブーフ川はウクライナの国内河川である。ドナウ河も国際河川であり、ドイツからウクライナまで10カ国にまたがり、最終的には黒海西部に流れる。また、ドナウ河はルーマニアとウクライナの国境でもあり、停戦が実施されれば、おそらくドナウ河にある港湾がもっとも早く再開される可能性がある2

ウクライナ侵攻による海上輸送への影響

ロシアのウクライナ侵攻後、ウクライナ当局は国内の港湾を2月24日に閉鎖した。これを受け、欧州系の船社であるマースク社(Maersk)、MSC社(Mediterranean Shipping Company)、CMA-CGM社などは同日からウクライナ発着の貨物引き受けを停止し、当局からの通知があるまで船舶のウクライナ寄港を中止する方針を明らかにした(『日本海事新聞』 2022年2月28日付)。また、他の主だったコンテナ船社もウクライナ発着の貨物を引き受けない状況にある。これらのコンテナ会社はオデーサ港などウクライナの港を抜港(寄港取りやめ)し、運航を続けている。オデーサ抜港に対応する方法として、ウクライナ側では黒海沿いにあるルーマニアのコンスタンツァ港を使っての輸出を検討しているとの報道がある(Williams 2022)。ルーマニア側も協力するようであるが、ウクライナからコンスタンツァ港までどのような輸送をするのかなどの課題もある。鉄道による輸送も考えられるが、一度に輸送できる量は船舶よりも少なく、船舶を代替するには本数や列車を増やす必要がある。陸上輸送体制を作る必要があることとロシア軍による攻撃の状況を考えると、開始するのは容易ではないと思われる3

また、今回の侵攻によって、侵攻開始時に黒海やアゾフ海を航行していた多くの船舶が動けない状況になるとともに、被害も受けている。侵攻が始まって1カ月が経った3月23日時点で5隻の商業船がウクライナの海岸で発射物に命中し、そのうち1隻が沈没した(Saul 2022)。一部の外国人乗務員が国外に退避することができた一方で、140隻の外国船籍がウクライナに残され、20カ国、1000人の船員が移動できなくなったという4。ウクライナ政府はロシア軍が黒海に機雷を浮遊させたことを発表し、批判している。戦闘が始まったこと、機雷が流れていることもあって移動のリスクが高まり、簡単にウクライナ領海から離れらないと考えられる。海上における人道回廊の設置を求める動きもあるが、実現していないのが現状である。

黒海に面しているロシアの港湾については、ウクライナ侵攻直後も寄港が可能であったが、3月22日時点でロシア側はアゾフ海、黒海北東海域、クリミア大橋付近を航行禁止地域に指定している(『日本船主責任相互保険組合ニュース』No.1158、2022年3月22日付)。これらの海域以外のロシア港湾は現在でも運航可能な状況である。しかし、欧米を中心に一部の国ではロシアに対する制裁措置を実施したため、一部の国・地域との海上輸送は停止することになり、ロシア発着の貨物取引は今後減少することになろう。ただし、制裁を実施している国は欧米や日本などであり、中国や中東各国では実施していない。そのため、一部の航路ではひきつづきロシア発着の貨物は移動している。

ウクライナ侵攻で、船籍をロシアから別の国に変更する事例も発生した。3月の1カ月間で18隻が別の国に船籍へ変更し、その変更数は月平均の3倍以上、かつ2020年1月以降初めて2桁を記録するものであった。18隻のうち、11隻がアラブ首長国連邦の会社が所有する貨物船、3隻はオイルタンカーであり、このほかヨットも含まれている(Ha 2022)。船籍変更自体は珍しいことではないが、ロシアから別の国に船籍を変更したのはウクライナ侵攻によって、ロシア船籍では入港ができなくなる港が増えるためであろう。

実際、イギリスとカナダは3月1日、EUは4月16日、アメリカは4月28日からそれぞれ人道目的などの例外を除いて、ロシア船舶の入港禁止を開始した。単なるロシア船籍の船舶だけではなく、ロシア人やロシア系企業が所有あるいは管理している船舶も入港禁止の対象となっている。また、EUではウクライナ侵攻以後に船籍をロシアから別の国に変更した船舶も入港禁止対象に指定した。

中国のCOSCO(中遠海運集装箱運輸)を除いた大手コンテナ船社はウクライナ侵攻によって、ウクライナ発着だけではなく、その後ロシア発着の運航も停止した。これらの運航停止によって、ウクライナやロシアに向かう(あるいは両国からの)新規貨物の受付は停止され、両国向け貨物ですでに出港した船舶に積載された貨物は荷主(あるいは依頼主)に返還され、欧米各国の税関ではロシア向け貨物の通関業務が停止した。情勢が改善するまで欧米や日本から商業ベースでの貨物をこの地域に出荷するのはかなり難しい状況であると言える。

ロシア軍高官の発言とウクライナの海上輸送

4月22日、ロシア中央軍管区のミネカエフ副司令官は「軍事作戦の第2段階では、任務のひとつとして東部ドンバス地方とウクライナ南部を支配下に置く」と発言し、同時にモルドバへの軍事介入を示唆したという(『時事ドットコムニュース』 2022年4月22日付)。 この発言を海上輸送の観点から見れば、ロシアはすでに管理下においているアゾフ海だけではなく、黒海沿いのウクライナの港湾を占領し、ウクライナの制海権を抑え込もうとしていることを意味する。この占領が実現すれば、黒海にあるウクライナの港湾はロシアに支配され、ウクライナの海上輸送が完全に途絶することになり、ウクライナ経済は大きな混乱に陥る可能性がある。また、ミネカエフ副司令官の発言が実現すると、ウクライナからの穀物類をはじめとする貨物の輸出がさらに滞ることになる。ルーマニアなど第三国に運んで海上輸送で輸送することも可能であるが、そのことによる運賃の上昇が穀物価格に転嫁され、世界市場にも影響を与えることになる。

ウクライナの状況が今後どうなるかはわからない。ただ今回のウクライナ侵攻はウクライナの港湾だけではなく、世界の海上輸送に大きな影響を与えている。状況が改善したとしてもウクライナの港湾の被害を把握し、その機能を回復させるのには相当の時間がかかることになるだろう。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
  • George Chernilevsky, Port of Odessa. (Own work)(Public Domain)
参考文献
著者プロフィール

池上寬(いけがみひろし) アジア経済研究所開発研究センター経済統合研究グループ長代理。専門は台湾経済、アジアにおける国際物流。おもな編著に、『アジアにおける海上輸送と中韓台の港湾』(2013年)、『アジアの航空貨物輸送と空港』(2017年)(いずれもアジア経済研究所)など。

  1. TEUとはコンテナ貨物の容量を示す単位であり、Twenty-feet Equivalent Unitを略したものである。20フィートコンテナ1個を1TEUという。
  2. Polityuk(2022)によれば、4月20日過ぎまでドナウ河にあるイズマイル港とレニ港はウクライナ産穀物を輸出するために稼働していたことが明らかになっている。しかし、ロシア軍が黒海に浮遊させた機雷がドナウ河口に流れてきたために閉鎖したとのことである。
  3. Durisin(2022)やIlie(2022)によれば、ウクライナから輸送されたトウモロコシ7万1000トンを積載した船が4月29日にルーマニアのコンスタンツァ港から出港した。ウクライナとルーマニアにおける鉄道のレール幅が異なっていることもあり、このような形での輸出を継続的に行うためにはさらなるインフラの整備が必要であろう。
  4. Farge (2022)には、船員の国籍としてロシアやウクライナのほかに、インド、シリア、エジプト、トルコ、フィリピン、バングラデシュが挙げられている。フィリピン労働省によれば、371人がフィリピンに戻り、68名がウクライナから脱出して別の国で業務を再開し、15名ほどがウクライナにとどまっている。