ライブラリアン・コラム
韓国の社史・団体史:アジ研図書館と国内の所蔵状況
狩野 修二
2026年6月
アジア経済研究所(以下、アジ研)図書館は、開発途上地域・新興国等の経済、政治、社会等に関する資料を収集・所蔵する専門図書館である。所蔵資料全体が一つの特徴あるコレクション、と言うこともできるが、地域ごとにも特徴のあるコレクションを有している。それらコレクションはアジ研図書館ウェブサイトの「コレクション」ページにある程度まとめられており、そのうち、筆者の担当地域である朝鮮半島では、韓国の官報、社史・団体史、北朝鮮資料などが特徴ある資料として挙げられる。
図書館案内で朝鮮半島関連資料を紹介する際にも、これら3つを特徴あるコレクションとして紹介しているが、国内の図書館のなかでも独自性のあるコレクションと言えるのか、ほかの図書館ではどれくらい韓国の社史・団体史を所蔵しているのかが気になるところである。というわけで、本コラムでは当館の特徴あるコレクションのひとつである、韓国の社史・団体史について、国内の大学図書館の所蔵状況を中心に調べた結果をご紹介したい。
社史・団体史は、ある会社や団体が創業・創立してからの沿革や事業内容等を記述した資料で、10周年、20周年などの区切りのいいタイミングで刊行されることが多い。紙の図書として出版されることが多く、企業によっては豪華な装丁のものもあるが、基本的には非売品で関係者等のみに配布されるため直接入手することは難しい。当館所蔵の韓国の社史・団体史の収集は、韓国の経済発展や企業研究のための資料として研究者の協力のもと1990年代半ばから始められた。収集の経緯については、当研究所の研究者である中川雅彦による「韓国社史・地誌の宝庫」(『アジ研ワールド・トレンド』No.217. 2013.10)に詳しいが、それによると収集初期は韓国の古本屋から購入していたが、のちに国内の韓国語書籍専門店が取り扱うようになり、そこから購入することが多くなったようである。
そのような経緯で収集した社史・団体史であるが、当館でどれくらい、何を所蔵しているのか把握するのは容易ではない。一般に、図書館では本の内容をもとに分類を行い、書架に並べていることが多い。当館でも、社史であればその会社の業種などにより、分類を行い排架している。このため、あちこちの書架に分散して排架されることになる。また当館独自に作成された「アジア経済研究所図書館分類・件名表」を利用して分類しているが、このなかに「社史」あるいは「団体史」といった分類や件名がないため、社史・団体史を一括で検索して抽出することができない(フリーワードとして独自に「社史」などのキーワードをデータに記載しておくことも可能ではあるが、諸々の理由により実施されなかった)。
そこで当館では、2007年に韓国語資料の棚を1冊1冊確認し、社史・団体史のリストを作成した。目視で作業を行ったため見落としの可能性はあるが、2007年以降社史・団体史の受入はあまりなかったので現在利用できるものとしてある程度網羅的と言えるだろう。このリストによれば、当館所蔵の韓国社史・団体史は606点あり、分野別にみると全体の約20%が金融業界、7%が新聞業界、5%が機械工業業界といった所蔵状況である(図1)。
さらにこのリストをもとに全国の大学等図書館の所蔵資料を検索できるCiNii Researchを利用し、他の図書館の所蔵状況についても確認した。その結果、アジ研図書館が所蔵する606点のうち、約58%に当たる350点がアジ研図書館のみ所蔵している資料で、残りの256点は国内の81の図書館のいずれかもしくは複数館で所蔵していることがわかった。81館のうち、所蔵数が多かった上位3館は明治大学中央図書館(143点)、京都大学経済学部図書室(52点)、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部図書室韓国朝鮮研究室(39点)であった(図2)。複数の図書館を持つ大学の場合、所蔵が分散してしまうので機関ごとに集計し直すと、明治大学(143点)、東京大学(83点)、一橋大学(61点)の順になる(図3)。
さて、ここまでは、アジ研図書館が所蔵する社史・団体史に基づいて調査を行ってきたが、アジ研図書館が所蔵していない社史・団体史の他の図書館の所蔵状況についても調査を実施した。前述のとおり社史・団体史を網羅的に検索することは難しいのだが、書名に「년사」(年史)が入っていることが多い(例えば『朝鮮日報60年史』)。そのため今回はCiNii Researchで「本」を選択し、タイトルに「년사」、言語種別を「韓国・朝鮮語(kor)」に指定して図書検索を行いおおまかな状況を把握することにした。検索の結果1669点がヒットしたが、そこからアジ研図書館所蔵分を除くため、別途前述の条件で検索したアジ研図書館所蔵資料を抽出し該当するものを除外した。さらに、社史・団体史以外にも「년사(年史)」や同音異義語の「년사」(「新年辞」の「年辞」など)がタイトルに入っている資料があるため(例えば『韓露關係100年史』)、これらを除外し、最終的に399点となった。
このリストによれば、所蔵数が多い図書館は、明治大学中央図書館(90点)、東京大学大学院人文社会系研究科・文学部図書室韓国朝鮮研究室(56点)、九大中央(52点)であった(図4)。先ほどと同様複数の図書館を持つ大学があるので、機関ごとにまとめると、東京大学(111点)、明治大学(90点)、九州大学中央図書館(53点)となる(図5)。いずれの場合もアジ研図書館が所蔵している資料について調べた場合と同じような顔ぶれとなっている。
今回の調査で興味深かったのは明治大学図書館の存在である。同じく所蔵点数の多かった東京大学や九州大学、京都大学、一橋大学には韓国を対象とする研究センターや研究室などがあるため韓国語資料の所蔵が多いことはあらかじめ予想していたのだが、明治大学については寡聞にして状況を把握していなかった。そこで明治大学図書館に問い合わせをしたところ、明治大学図書館では現在に至るまで日本の社史の収集を継続しており、過去の一時期、韓国の社史も収集していたことがあったとのことであった。
今回の調査を通じて、アジ研図書館所蔵の社史・団体史は国内有数のコレクションであることを改めて確認することができた。また、調べる過程で国内でも相当数の図書館が少なくとも1冊以上の韓国の社史・団体史を所蔵していることや、これまで所蔵状況を認識できていなかった図書館に多くの社史があることがわかったのも大きな発見であった。国内全体での韓国の社史・団体史の所蔵状況を把握できたことにより、今後これらの資料を探している利用者に当館だけでなく、他の図書館を紹介することも可能になったことも大きな収穫であった。
一方、国立国会図書館にも韓国の社史・団体史のコレクションがあることがわかっており、最低でも240点以上を所蔵している。ただしこちらも網羅的に抽出することが難しいため、今回は対象としなかった(「会社情報の調べ方(韓国) 3.社史」)。今後国立国会図書館での所蔵状況についても調査を実施できればと思う。
※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
※図はすべて筆者作成
※本稿執筆にあたり、資料事情についてご教示くださった明治大学中央図書館ご担当者に深謝申し上げます。
著者プロフィール
狩野修二(かのうしゅうじ) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課。担当は朝鮮半島と中華圏。著作に「第3章 香港──多様な研究成果の受容と「国際」基準による評価──」(佐藤幸人編『東アジアの人文・社会科学における研究評価──制度とその変化──』アジア経済研究所、2020年)。
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