ライブラリアン・コラム
“OPEN”で“CLOSE”な韓国の「公共ヌリ」
狩野 修二
2024年9月
出版物に印刷された“OPEN”の文字
数年前から当館で受け入れている『韓国統計年鑑』の表紙に“OPEN”という文字の入ったマークが記載されるようになった(画像参照)。OPENという単語から、資料に掲載されている統計データを自由に利用できるという意味なのだろうな、とあまり気に留めずにいたのだが、先ごろ、このマークを改めてよくみると、“OPEN”の文字だけでなく、いくつかの図案や文字が一緒になって一つのマークになっていることに気がついた。そこで、本コラムでは、このマーク、「공공누리」(公共ヌリ)について簡単に紹介したいと思う。
「公共ヌリ」とは
「공공누리」(公共ヌリ)は、直訳すると「公共世界」といった意味になる(以後「公共ヌリ」と表記)。国や地方自治体、公的機関が作成した著作物を提供するサービス、およびその利用条件を示すライセンスのことである。韓国の文化体育観光部により作成され、国民による公的機関が作成した著作物の利用活性化を目的として2014年から利用が開始された。名称的には、韓国語名の「公共ヌリ」が前者の提供するサービスを、英語名の“Korea Open Government License”(KOGL)が後者のライセンスをよりよく表しているように思う。
サービス提供は、公共ヌリのウェブサイトに掲載されている出版物や画像、音声、フォントなどを自由にダウンロードして利用できるというもので、2024年8月13日時点で、2700万件以上の著作物が利用できる(公共ヌリのサイトを見る)。ただし公共ヌリのマークがついた著作物すべてがこのサイトに登録されているわけではないようだ。例えば冒頭で挙げた『韓国統計年鑑』はここには登録されておらず、統計庁が作成している国家統計ポータルサイトのKOSISで閲覧、ダウンロードが可能になっている(KOSISのサイトを見る)。
ライセンスは、利用条件に従って規格化された4種類のマークのうちのいずれかが各著作物に付されており、それぞれの利用条件は次のとおりである(日本語の後ろは韓国語原文)
- ①出処を表示する。출처표시.
- ②出処を表示する。かつ商業利用は禁止。출처표시+상업적이용금지.
- ③出処を表示する。かつ改変は禁止。출처표시+변경금지.
- ④出処を表示する。かつ商業利用は禁止。かつ改変も禁止。출처표시+상업적이용금지+변경금지.
具体的なマークについては、リンク先ウェブサイトの一番下に4種類合わせて掲載されているのでそちらをご覧いただきたい(「公共ヌリ」のマークを見る)。
著作物の自由な利用について少し詳しい方であれば、このライセンスがクリエイティブ・コモンズ・ライセンス(以下CCLと表記)とよく似ていることに気づくかもしれない。CCLは、クリエイティブ・コモンズという国際的非営利組織が提供しているライセンスで、作品を公開する作者が一定の条件のもとに、作品の自由な利用を許可するためのツールであり、広く世界で利用されている(CCLについての詳細はリンク先のウェブサイトを参照。「CCLのサイトを見る」)。CCLには6つのライセンスがあり、上述①~④の公共ヌリは、それぞれ①CC BY、②CC BY-NC、③CC BY-ND、④CC BY-NC-NDとほぼ同じ意味合いである。
一方で公共ヌリにはCCLにはある「SA(継承)」(Share Alike)がない。SAは、CCLが適用された作品を利用して作成した著作物(二次著作物)に、元の作品に付されたのと同じ種類のCCLで公開することを要求するライセンスである。公共ヌリは、国や地方自治体、公的機関が作成した著作物にのみ付与されるマークなので、SAと同等のライセンスは公共ヌリにはない。つまり公共ヌリにおける二次著作物の作者は民間の個人か機関が想定されている。
韓国外にいる外国人には“CLOSE”?
公的機関の作成した著作物の利活用を促進するために作られた公共ヌリだが、残念なことに、公共ヌリのウェブサイトは、韓国人もしくは韓国国内に居住している外国人しか使えないようだ。正確には、公共ヌリのウェブサイトで著作物を検索して閲覧することは可能だが、いざダウンロードしようとするとログインを求められてしまう。それでは、と会員登録のページへ行くと、そこで初めて韓国国外に居住する外国人は会員登録できないことがわかる。
公共ヌリが適用された著作物の利用は、国籍や居住地を問うていないと考えられる。さきほど紹介した『韓国統計年鑑』は、公共ヌリのマークはついているが、統計庁作成の統計ポータルサイトに掲載されており誰でもダウンロードが可能だ。これと同様に公共ヌリウェブサイトに登録されている著作物が韓国外に居住している外国人にも“OPEN”になり、今後利用可能になればうれしい。
画像の出典
- インデックス画像 “Traped Science” by Dasaptaerwin (Public Domain)
- 本文画像 韓国統計庁、KOSIS(https://kosis.kr/publication/publicationThema.do)
参考文献
- 공공누리(公共ヌリウェブサイト)(最終アクセス2024年8月14日)
- 강윤지 2014.「7월부터 전면 공개된 공공저작물…다양한 응용사례 나올 듯」(7月から全面公開された公共著作物…多様な応用事例がでるように)(最終アクセス2024年8月14日)
- 통계청(統計庁)2024.『한국통계연감2023(韓国統計年鑑2023)』통계청(統計庁)
- クリエイティブ・コモンズ・ジャパンウェブサイト(最終アクセス2024年8月14日)
著者プロフィール
狩野修二(かのうしゅうじ) アジア経済研究所学術情報センター主査。担当は朝鮮半島と中華圏。著作に「第3章 香港──多様な研究成果の受容と「国際」基準による評価──」(佐藤幸人編『東アジアの人文・社会科学における研究評価──制度とその変化──』アジア経済研究所、2020年)。
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