ライブラリアン・コラム

中国では何歳から結婚できますか?

狩野 修二

2023年10月

統計項目への違和感

発端は、中国での結婚に関するレファレンスであった。中国における年齢別の婚姻状況についての統計データがほしい、とのことだったので、『中国人口和就業統計年鑑』や『中国人口普査年鑑2020』を紹介したのだが、掲載されている内容に若干の違和感があった。既婚者の年齢が15歳から掲載されているのだ。世界には15歳で結婚可能な国もあると思うが、中国でも15歳で結婚することができるのだろうか?

そこで、中国の法律検索サイト「北大法宝」で結婚可能年齢を確認すると、男性は22歳、女性は20歳からであることがわかった。

では、なぜ15歳でも結婚しているケースがあるのだろうか。レファレンスとしては、ひとまず質問の回答に適した資料を紹介するだけ、でもよいのだが、今後のために、もう少し調べてみることにした。

自己申告に基づく結婚

統計データは、項目と数値で成り立っているので、その内容は一目瞭然という印象があるが、データの定義が意外と重要な場合がある。今回のように気になる点がある場合は、資料の初めや終わりの方のページに載っている(ことが多い)解説が参考になる。たとえば上述の資料『中国人口普査年鑑2020』では、下巻の終わりの方に「指標解釈」のページがあり、ここに各項目の解説が記載されている。それによると、「人口センサスにおける婚姻は事実上の婚姻を指しており、法律上の婚姻のみを指しているわけではない。法律上結婚可能な年齢に達していない、あるいは婚姻の手続きをしていないが同居しているなどで、事実上婚姻状態にある者についても、(中略)、回答者が選択した回答に基づくべきである」(筆者訳)、となっている。

そういうわけで、センサス上は、男性であれば15歳~21歳、女性であれば15歳~19歳でも結婚、という状況が発生しているのである。

ちなみに、結婚可能年齢以下の「早婚」については、特に農村地区などで多くみられると、崔(2014)の論文等でも報告されている。

少数民族自治地域での結婚

これで解決、と言いたいところだが、婚姻法を読んでいると、必ずしも自己申告だけが結婚可能年齢以下の結婚ではないことがわかる。「中華人民共和国婚姻法(2001修正)」第六章附則第五十条によれば、「民族自治をおこなっている地方の人民代表大会は、現地民族の婚姻家庭の具体的状況と結び合わせて、弾力的な規定を制定する権利を有する」とある(訳は『中国経済六法2015年版』)。承認を受けた少数民族自治州・自治県・自治区では、これにより合法的に結婚可能年齢以下での結婚が可能となっていた。

「なっていた」というのは、「中華人民共和国婚姻法(2001修正)」が現在では失効しているためである。結婚に関する法律は、2021年1月1日施行の「中華人民共和国民法典」に統合されているが、実はここには上述の第六章附則第五十条のような条文は存在しない。

それでは、これまでこの条文を根拠として独自の規定を制定していた民族自治地域ではどのようにこの問題について対応しているのであろうか。

たとえば、四川省人民代表大会常務委員会のウェブサイトには、「伝承変化順応 護航民族婚姻」(継承・変化・適応 民族の結婚を守る」(筆者訳)と題した文章が掲載されており、同省にある涼山イ族自治州が、上述の法律変更に対応するための手段を模索している内容を掲載している。その結果、新しい法律においても以前と同様に結婚可能年齢以下での結婚が可能であることが「涼山イ族自治州施行《中華人民共和国民法典》婚姻家庭変通規定」にて報告されている(2022年3月31日批准)。この規定によれば、涼山イ族自治州の住民であれば、少数民族同士あるいは少数民族と結婚する漢族であっても、男性は20歳、女性は18歳で結婚が可能となる。

外国居住地での結婚

さて、「自己申告」、「少数民族自治地域」で終わりかと思いきや、最後にもう一つ結婚可能年齢以下での結婚が可能となるケースがある。それが経常的な居住地が外国であり、そこで結婚する場合である(ここでいう外国とは、中国以外ということである)。

中国での結婚については、基本的に上述の「中華人民共和国民法典」で定められているが、中国国外で結婚をする際は、「中華人民共和国渉外民事関係法律適用法」が関連してくる場合がある。本法律の第二十一条によれば「結婚条件には、当事者の共同の経常的居住地の法律を適用する」とある。これにより、たとえば日本に経常的に居住する中国人であれば、18歳での結婚が可能となるようである。

おわりに

ということで、中国での結婚可能年齢は、基本的には男性22歳、女性20歳であるが、場合によってこれ以下の年齢でも結婚できる、あるいは結婚している状態と認識される、ということが分かった。

一見単純な統計データのなかに、センサスの回答方法、少数民族地域に関連する法律や規定、海外在住の場合の法律の適用など複数の状況が関わっており、興味深くも一筋縄ではいかないと感じる。統計データの数値に違和感がある場合、もう一歩すすんだ調査が必要な場合があることに留意したい。

1984年頃発行の中国の結婚証(Public Domain)

1984年頃発行の中国の結婚証(Public Domain)
参考文献
著者プロフィール

狩野修二(かのうしゅうじ) アジア経済研究所学術情報センター主査。担当は朝鮮半島と中華圏。著作に「第3章 香港──多様な研究成果の受容と「国際」基準による評価──」(佐藤幸人編『東アジアの人文・社会科学における研究評価──制度とその変化──』アジア経済研究所、2020年)。

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