ライブラリアン・コラム

アジア経済研究所図書館の請求記号事情

狩野 修二

2023年3月

はじめに

筆者は、アジア経済研究所(以下アジ研)を訪問する方や図書館を利用する方に、図書館案内をすることがある。その時に必ず口にしてしまうのが、「アジ研図書館の排架は少し複雑なんです」という台詞である。当館は、ある時期を境に請求記号の付与の仕方を変更したことがあるのと、統計資料については、まったく異なった独自の請求記号を採用しているというのがその主な原因である。そのため(だけでありませんが)、1階から5階まである図書館の各フロアで、それぞれ異なる請求記号を見ることができる。請求記号が異なると、資料の並べ方も異なるので、排架が複雑になるというわけである。

図書館を利用したことのある方なら「請求記号」が何であるかはおそらく知っているかと思うが、念のため簡単に説明すると、本などの資料が図書館のどこに並べられているかを示す記号のことである。例えば、「33/Ta1」といったように数字とアルファベットを組み合わせて作られているのが一般的である。請求記号は、小さな紙のラベルに印刷されて、大体は資料の背表紙の下の方に貼ってある。OPACなどの図書館の蔵書検索システムで資料を検索したあとは、この請求記号を頼りに図書館の書架から該当の資料を探し出すことになるため、図書館を利用するうえでは欠かせない存在である。

さて、はじめに書いた、排架が複雑、なぜなら請求記号が複数あるから、という話に戻るが、アジ研図書館では、数え方にもよるが、現在11種類の請求記号が使われている(表1参照)。このうち2種類は、閉架書庫に置かれているため、利用者の目に留まることはあまりないが、それぞれに、それなりの理由があり現在の状況になっている。「請求記号」とは、結局のところ、図書館のなかのどこに置いてあるのかを示す記号に過ぎないが、そこには、図書館が資料をよりよく利用してもらうための工夫やその変遷、あるいはやむにやまれぬ事情などが込められている。ここでは、そんなアジ研図書館の請求記号導入事情をざっくり3タイプに分けて紹介したいと思う。

表1 アジ研図書館の請求記号

(出所)筆者作成
資料特性・利用の便を考え作成タイプ

アジ研図書館で最も多く使われているのが、「アジア経済研究所図書館分類」を利用して作られている請求記号である。表1で言うと、No.1~No.5までがこれに該当する。5種類にわざわざ分けてはいるが、基本的には同じ構造で作られていると考えて差し支えない(ただし同じ場所に排架されることはないため別種類とした)。

「分類」は、その資料の内容をおおまかに表しているので、利用者が直接資料を手に取れる開架式の書架の請求記号としてよく採用される。探している資料の場所に行くと、その周りに同じ内容の資料が置かれているため、関連資料の発見に役立つという利点がある。表1のNo.2の請求記号「Ja/33/Ta10」を例にとると、「33」の部分が分類に該当し、経済関係の資料であることを示す。その前についているアルファベット記号は、その資料が書かれた言語やその資料が扱う国・地域を表しており、全体としては、「Ja(日本語)/33(経済)/Ta10(受入順番号)」となる。

アジ研図書館では、もともと、分類を請求記号のコアとしつつ、言語別に資料を排架していた。「33/Ta1」は、英語をはじめとするヨーロッパ系言語で書かれた資料であり、「Ja/33/Ta10」は、日本語で書かれた資料、「Ch/33/Ta10」は中国語で書かれた資料である。このうち、ヨーロッパ系言語と日本語資料については、その資料が対象とする国・地域別の排架順に変えると決定したのが、アジ研が東京から千葉に移転した1999年である。No.4の例「AECC/33/T1」は、「AECC(中国)/33(経済)/T1(受入順番号)」を表しているが、これがアジ研図書館千葉移転以降の請求記号である。この変更の理由としては、地域研究を行う研究機関として、国・地域別に資料を排架したほうが利用者にとってよいだろう、という判断があったためである。ただしアジア系言語の資料(表1のNo.3)は、利用者が限定されるとの考えから、そのままの請求記号が維持された。さらに、1998年以前に受入をしたヨーロッパ系言語と日本語資料については、以前の請求記号のまま別置されたため、排架の複雑性が増すことになった。

資料の形態の違いにより別途作成タイプ

図書館には、図書や雑誌のほかに、CD-ROMやマイクロフィルム、地図資料など形態上の理由から別置して管理している資料も所蔵している。表1で言うと、No.7の地図、No.9の特殊資料がこれに該当する。この2つは、閉架書庫に保管しているため、利用者の目にはあまり触れない。ただ、利用者の請求に応じて、出納し閲覧に供するため、利用者が個別に目にすることはある。少し話がそれるが、閉架書庫の資料を利用する際は、各資料に付与された「記号」を職員に伝え、資料の出納を「請求」してもらう。これが「請求記号」という言葉の由来である。

閉架書架に置かれる資料は、資料の内容を表す「分類」を請求記号に採用しない場合が多い。利用者が直接資料を見て探すわけではないので、受入順に詰めて並べていき、書架スペースを有効に利用できるような請求記号が採用される場合が多い。アジ研図書館では、地図を除くと、請求記号の頭に、その資料の形態を表す記号を付している。表1、No.9の例「Micro/MA100」は、「Micro(マイクロフィルム)/MA100(受入順番号)」を表している。一方、地図は閉架書庫にあるが、各資料の内容を示す独自の分類記号を持っている。表1、No.7の例「5/AS/2」は、「5(アジア)/A(地形図)S(百万分の一以上の地図)/2(受入順番号)」を表している。請求記号の構造としては、「資料特性・利用の便を考え作成タイプ」と同じと言えるが、資料形態の違いにより、別途請求記号が作成された。

よその請求記号をそのまま利用タイプ

請求記号は、資料を受け入れる図書館が資料の特性や利用の便により定め、各資料に付与していくのが一般的だが、別の機関・部署が作成した請求記号をそのまま利用するケースもある。図書館のなかでは、比較的珍しいケースのように思う。それが、表1、No.6の統計資料とNo.8の旧ビジネスライブラリー所蔵JETRO出版物である。

アジ研にはもともと図書資料部と統計調査部という部署があり、統計資料については統計調査部が中心となり、収集を行っていた。統計調査部では、統計資料に付与する請求記号を独自に作成し付与していたが、1998年の組織改編で、図書資料部と統計調査部が統合することになった。この際、図書資料部が所蔵していた資料とは別に統計資料を配置することが、利用者の便にとっても、管理上の都合にもよいと判断され、当時使われていた統計資料用の請求記号がそのまま維持されることとなった。表1のNo.6にある「CHINA/0A1/2022」がその例である。「CHINA(中国)/0(総合統計)A(年刊)1(受入順番号)/2022(年)」といった意味が含まれており、こちらも構造としては「資料特性・利用の便を考え作成タイプ」と同じであるが、別の部署が考案したものをそのまま採用しているという点が独特であるといえる。

アジ研は、1998年に、日本貿易振興会(現在の日本貿易振興機構。以下ジェトロ)と統合した。アジ研にも図書館があるように、ジェトロにもビジネスライブラリー(以下BL)と呼ばれる図書館が存在していた。残念ながら2018年に閉館となったが、その際、アジ研図書館に大量の資料が移管された。一般の資料や統計資料は、アジ研図書館の既存の資料群のなかへと組み込まれていったが、2万点を超えるジェトロ刊行物については、別置をし、BLが使用していた独自の請求記号をそのまま利用することとした。これには、ジェトロの出版物をまとめて置いておくという利用の便もさることながら、あまりに大量の移管のため、再度アジ研図書館の請求記号を付与しなおすという手間をかけられないという事情もあった。BLの請求記号にもいくつか種類があるが、No.8の例「B-434/VI-F/051-07/NBAR-18」で言うと、「B(単行書)-434(アルゼンチン)/VI-F(機械工業)/051-07(自動車部品)/NBAR-18(受入順番号)」となっており、ジェトロの業務、利用の便に適った請求記号であるといえる。

おわりに

以上、排架状況と同様、説明も若干複雑になってしまったような気もするが、アジ研図書館には、様々な請求記号の種類が様々な理由により存在する。シンプル・イズ・ベストでいければよいのだが、多機能な商品は操作が複雑なように、資料の量や種類が増えるとなかなかシンプルなだけでは対応が難しい、というのが実情である。

一方、資料を管理する職員の立場としては、それぞれにどのような目的と意味があるのかについては、把握しておきたい。こうした情報は、断片的にどこかに記載されているだけの場合や、職員の記憶にしか残っていないケースが多い。サービス提供の観点や、今後の改善の際の重要な情報として、まとめて記録しておくようにしたい。

アジ研図書館の請求記号(筆者撮影)

アジ研図書館の請求記号(筆者撮影)
参考文献
  • 図書館情報学ハンドブック編集委員会編 1999.『図書館情報学ハンドブック』第2版 丸善株式会社
  • 図書館情報学会用語辞典編集委員会編 2020.『図書館情報学用語辞典』第5版 丸善出版
  • 日本貿易振興会アジア経済研究所[編] 2000.『アジア経済研究所年報1999-2000』 日本貿易振興会アジア経済研究所
  • 東川繁 2010.「蔵書構築/統計資料の構築──他のコレクションとの相違点 (特集 アジ研図書館50年の足跡と未来──蔵書構築・情報発信の課題)」『アジ研ワールド・トレンド』No.174 (2010.3)
  • 丸山昭二郎・岡田靖・渋谷嘉彦著 1986.『主題組織法概論──情報社会の分類/件名』 紀伊國屋書店
著者プロフィール

狩野修二(かのうしゅうじ) アジア経済研究所学術情報センター主査。担当は中華圏。著作に「第3章 香港──多様な研究成果の受容と「国際」基準による評価──」(佐藤幸人編『東アジアの人文・社会科学における研究評価──制度とその変化──』アジア経済研究所、2020年)。

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