アジア経済研究所について

アジ研いま何してる?(活動紹介)

広報担当のネタ探しの旅:アジ研いま何してる?(アジいま)

「アジいま」は、アジア経済研究所の広報担当者が、研究者を中心とする研究所職員を10分間インタビューし、「いま」取り組んでいることをわかりやすくお伝えする連載記事です。アジ研のいまと、新興国・途上国研究のいまを、のぞいてみませんか?

「菊池さん、いま何してますか?」(2023年11月16日)

菊池 啓一/地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ

菊池 啓一/地域研究センター ラテンアメリカ研究グループ

いまは、アルゼンチンの大統領選挙をウォッチしています。予想外の展開となった予備選挙と本選挙の結果を11月19日の決選投票前に分析し、解説記事としてまとめました。

同時に、ブラジルにおける候補者の肩書と投票行動に関する共同研究を進めています。ブラジルの選挙ではあだ名や肩書入りの名前で立候補することが可能ですが、近年増加しているキリスト教福音派の有権者は同派のPastor(牧師)という肩書がついている候補者を好意的に評価する傾向がみられます。今年の米国政治学会(APSA)での研究報告をもとに、今年度中に共著論文としてまとめ、海外ジャーナルに投稿する予定です。

もうひとつ、現代ラテンアメリカ政治に関する教科書作成プロジェクトにも参加しています。この本は入門者向けのものではなく、もっと知りたい人向けの副読本となる予定です。私は、弾劾の事例を取り上げる大統領・議会関係の章、そして、ジェンダークォーターについて解説する選挙制度の章を担当します。来年度以降、無料で閲覧可能な電子書籍として出版されます。

個人の科研費課題では、ペルーと日本を事例にリコール(公職者の解職を求めることができる制度)と市民社会組織に関する研究を進めています。この夏、初めてペルーでの現地調査を実施し、政治学者だけでなく選挙管理機関の担当者とも意見交換ができました。この研究では、リコールを求める署名活動に関するデータを使用し、リコールのプロセスがどのような状況で始まるかに焦点を当てて分析を行います。

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ラテンアメリカの現代政治の多様な側面を切り取って、学術研究と情報発信を続けている菊池さん。時には地域研究者として、時には政治学者として、さまざまな方法論を自在に駆使しながら活躍する菊池さんの姿に憧れる若い研究者は多いはずです。

(取材・構成:金信遇、2023年11月6日)

「藤田さん、いま何してますか?」(2023年10月30日)

藤田 麻衣/地域研究センター 東南アジアⅡ研究グループ

藤田 麻衣/地域研究センター 東南アジアⅡ研究グループ

いまは、ベトナムの新興企業(スタートアップ)に関する研究をしています。近年のベトナムでは、海外で学び帰国した若い世代が、デジタル分野などで起業することが増えています。ベンチャー企業データベースCrunchbaseに登録されている4,000以上のベトナム企業から、国内向けにデジタルサービスを提供している資金調達上位50社を抽出しました。各社の創業者の学歴、職歴等の情報の収集・分析と、インタビューを通じて、こうした企業の創業者には海外だけでなく国内経験も持ち合わせた人が多いことがわかりました。新分野における起業であっても、国内の市場や経営環境への対応が必要になるためだと考えられます。この研究の成果は和文電子書籍の一つの章として出版されます。ベトナムにおける新たな起業については今後も研究を続ける予定です。

もう一つ、ベトナムを代表する大企業の研究も進めています。ベトナムでは長らく国有企業が支配的で、民間企業は1990年代初頭に設立が認められ、2000年代から本格的に成長することができました。2010年代前半の上場企業から売上と利益の高い企業100社を抽出したところ、国有、元国有(民営化された企業)、民間企業の数がほぼ同程度であり、民間企業のプレゼンスの高まりが確認できます。ただ、経営者のプロファイルを整理・分析した結果、民間企業のトップにも国家セクター出身者・関係者が多いことが明らかになりました。この2010年代前半の状況に関する成果は既に発表しており、いまはそれ以降の情報の更新を進めています。新興企業の研究とも共通しますが、市場経済化とグローバル化のなかで企業セクターが変容していくさまを「人」に注目しながら描き出していきたいと思っています。

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伝統ある企業から新興企業まで、大企業からスタートアップまで、企業とその企業を担う人材に注目している藤田さん。藤田さんの研究から、変化し続けるベトナム経済と社会のダイナミズムを読み取ることができます。

(取材・構成:金信遇、2023年10月2日)

「向井さん、いま何してますか?」(2023年10月2日)

向井 祐貴/学術情報センター 成果出版課(編集制作・出版企画業務担当)

向井 祐貴/学術情報センター 成果出版課(編集制作・出版企画業務担当)

アジア経済研究所が発行する学術ジャーナルThe Developing Economiesの統括業務を担当しています。論文が投稿されたら、編集主幹の研究者に回す前の受付処理や内容確認を行います。投稿数が多い(年間300本以上)ため、日々論文を読んで内容をメモしています。受付後は査読状況など全体の進行を管理し、論文の掲載可否を決定する編集委員会を開催します。論文の掲載が決定すると、私たち編集者がかなり丁寧に編集作業を行います。参考文献と図表を整え、時には英語表現の修正提案も行います。筆者との確認が完了すると、ジャーナルを出版しているWiley社に入稿し、また何回かやり取りを経て、論文を公開することになります。これまでは、投稿受付や査読依頼、掲載可否の連絡をすべてメールで行っていましたが、今年の5月から投稿システムを導入し、効率的に進行状況を管理できるようになりました。

もうひとつは、英文書籍出版のサポートです。研究成果が海外の出版社から出版される際、原稿のやり取りや契約書の締結などの手続きを担当します。今後外部出版のサポートを強化したいと考えており、海外のブックフェアへの参加や出版社とのコネクション構築、英文出版に関する所内ワークショップの企画などに取り組んでいます。

編集業務とは別に、情報発信の仕事もしています。すでに発表された研究成果を専門外の読者にもわかりやすくまとめた英文研究コラム(IDE Research Columns)の編集委員として、執筆者の選定や一般読者目線からの原稿の検討、アクセス分析などを行っています。ローンチから約1年半が経ちましたが、既に世界180カ国以上からアクセスがあります。また、英文の研究成果を発信する英語のSNSアカウント(XLinkedIn)の運用も担当しており、さらには広報コンテンツを企画する所内分科会にも参加し、特に非日本語話者の研究者を紹介する動画の企画と制作にも参加しています。

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多くの工程を経て、品質の高いジャーナルを運営できることがわかりました。編集業務はもちろん、様々な形で英語での情報発信を続けている向井さん。アジ研の研究成果を世界に広めたいという向井さんの強い気持ちが感じられました。

(取材・構成:金信遇、2023年9月26日)

「佐藤さん、いま何してますか?」(2023年9月19日)

佐藤 章/地域研究センター

佐藤 章/地域研究センター

いまは、今年の7月に発生したニジェールのクーデターについて分析しています。報道では、反仏運動の激化やロシアの介入の可能性が指摘されていますが、現時点ではロシアの即時介入は考えにくいと思います。アフリカの軍事政権は、体制維持のために反仏言説を用いる傾向がありますが、ニジェールには米軍基地も存在し、安全保障の観点から米軍を追い出すことのリスクを考慮しているためです。地域研究者として、こうした出来事を国内の論理から分析する必要があると考えています。ニジェール情勢については、外部メディアに寄稿する予定です。また、ニジェールだけではなく、仏語圏西アフリカ8カ国(ギニア、コートジボワール、セネガル、トーゴ、ニジェール、ブルキナファソ、ベナン、マリ)については、何かが起こったときに情勢を把握するようにしています。

そして、アフリカの憲法と政治に関する共同研究も進めています。アフリカの国々では、ライバル政治家のけん制や自身の任期延長などに、政治の道具として憲法を使うことがあります。立憲主義とは異なる側面もありますが、これらの憲法がアフリカ政治のダイナミズムを形作るうえで何かしらの役割を果たしているのも事実です。アフリカの憲法と政治制度についてはまだ十分な研究が行われていないので、複数の国を事例として分析しています。来年度以降、日本語の研究書として出版する予定です。

私自身はコートジボワールを専門として、いくつかの個人研究も進めています。政治体制と経済発展の関係などに関心があり、数年前から国内の政治系学会で論文を発表してきました。昨年秋には、コートジボワールの経済発展とクライエンテリズムに関する論文が掲載され、最近では、コートジボワールの反乱軍地域での出来事について調べ、今年の日本政治学会の全国大会で報告する予定です。

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アジ研で仏語圏地域を研究対象としているのは佐藤さんが唯一です。事情の異なる西アフリカ諸国に対する深い理解があるのはもちろん、佐藤さんの論文を読むと、わかりやすい論理展開の裏にこれまでの研究成果が凝縮されていて地域研究ならではの重みを感じます。

(取材・構成:金信遇、2023年9月11日)

「新谷さん、いま何してますか?」(2023年9月4日)

新谷 春乃/地域研究センター 東南アジアⅡ研究グループ

新谷 春乃/地域研究センター 東南アジアⅡ研究グループ

今年7月に実施されたカンボジアの総選挙に関する共同研究を行っています。総選挙直後にフン・セン前首相が38年間にわたる在任の後、予想よりも早く長男のフン・マネット氏に首相職を移譲しました。そのため、総選挙よりも世襲への注目が高まっていますが、世襲を考える上で今回の総選挙が果たした役割は大きいことから、選挙やそれを取り巻く政治の詳細な分析を進め、その成果を日本語の書籍として出版する予定です。

また、選挙分析とは別の共同研究プロジェクトにおいて、カンボジア人民党が1990年代末に連立政権の主導権を握って以降、権威主義体制をどのように持続、強化してきたかについて研究しています。体制維持のための最も重要な手段である選挙に焦点をあてながら、政治制度や司法制度、正統性戦略について分析を進めています。現在カンボジアでは次世代への権力継承が進みつつありますが、そのことを考える上で、人民党がいかに体制を強化してきたのかという理解は不可欠です。この二つの研究を通じて人民党体制のこれまで、そしてこれからを考察できるような内容にまとめたいと思っています。

私のもともとの研究関心は、カンボジアにおける国家と社会の関係についてです。カンボジアでは独立以降の政権やその対抗勢力が、歴史認識をめぐる様々な言説を利用してナショナリズムを喚起し、国民の支持獲得と動員を図ってきました。例えば、過去の体制の批判や、ベトナムやタイといった隣国への敵対心を煽る言説などです。現在は、カンボジアが現行体制となった1993年以降、メディアがいかなる政治的役割を担ってきたのか、特にナショナリズムとの関係から、科研費課題の研究を進めています。

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カンボジアの政治舞台で用いられる歴史認識、境界、隣国関係といったキーワードは東アジアの状況にも通ずるところがあると感じました。学部時代にカンボジア語を専攻し、現地の文脈にコミットして研究を進めてきた新谷さん。カンボジア政治が大きく動いているいま、新谷さんのさらなる活躍が楽しみです。

(取材・構成:金信遇、2023年8月29日)

「植田さん、いま何してますか?」(2023年8月21日)

植田 暁/新領域研究センター グローバル研究グループ

植田 暁/新領域研究センター グローバル研究グループ

今年度から、「2014年ウクライナ危機後の旧ソ連中央アジアの人口移動」という研究プロジェクトを始めました。中央アジア5カ国(ウズベキスタン、カザフスタン、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン)では、ロシアでの出稼ぎ労働による収入がGDPに占める割合が高いのですが、2022年のロシアによるウクライナ侵攻以降、一部の出稼ぎ労働者が本国に帰国しました。同時に、自国に居づらくなったロシアの人々が中央アジアの都市に移住したために、サマルカンド市などでアパートの賃料が跳ね上がったという報道もありました。この地域で、人口の動きに変化が見られるのです。現在、統計資料、リモートセンシング、現地調査などを組み合わせて、現代中央アジアにおける人の移動の実態を調べています。今後、GIS(地理情報システム)を用いて人口移動の空間的展開を明らかにしていく予定です。

このプロジェクトとは全く異なるアプローチで、およそ100年前のロシア帝国時代の中央アジアにおける匪賊に関する研究も進めています。中央アジア5カ国は、多くのアジア・アフリカ諸国と同じく、植民地支配から国民国家として独立を果たす過程でナショナルアイデンティティをどのように形成するかという問題に直面しました。現地社会と植民地政府による統治の間の「隙間」で活動していた匪賊や盗賊を歴史的にどのように評価すべきか、これを明らかにすることは、現代の中央アジアの人々の歴史観やアイデンティティを解明する一助となると考えています。いまは、「トルキスタン集成」など、日本国内で入手できる一次史料を用いて当時の出来事を整理しています。現在の人の動きを理解するためにも、植民地期を知ることは重要です。

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中央アジアの現在と過去、さらにその連続性について研究している植田さん。古いものでは100年以上前のロシア語やウズベク語の史料を読み解き、GISやリモートセンシングといった現代的手法を用いて説明していく植田さんの研究にどこかロマンを感じます。

(取材・構成:金信遇、2023年8月15日)

「箭内さん、いま何してますか?」(2023年8月7日)

箭内 彰子/新領域研究センター 法・制度研究グループ

箭内 彰子/新領域研究センター 法・制度研究グループ

いまは、二つの研究テーマに取り組んでいます。一つ目は、海洋プラスチック問題に関する研究です。もともとは、「違法・無報告・無規制(IUU)漁業」を規制するための法的枠組みに興味を持って研究してきました。このIUU漁業については、民間部門が自主的な取り組みで解決しようとしたところ、その過程で公的規制が不可欠であるという認識が関係者間で大きくなり、国際条約の締結に至ったという経緯があります。現在、海洋プラスチックの問題においても同じような動きがみられます。民間、国家、国際社会が協力し、ソフトロー、各国の法律、国際条約などを組み合わせて、この問題に網羅的に対応するための仕組みを作っているのです。この規範の発展過程を分析するために、市民社会や国際機関の報告書を読み込んだり、関係者へのインタビューをおこなったりしています。この研究の成果は、来年以降、日本語での出版を予定しています。

二つ目は、地域機構に関する研究です。私の研究関心のおおもとは、開発途上国の発展における貿易制度の役割についてです。これまでアフリカでの貿易自由化をリードしてきたのは、域内に数多くある地域経済共同体でした。一方で、最近は、アフリカ大陸全体での自由貿易圏作りが進んでいます。時代の変化とともに、海外からの支援や貿易のあり方も変化しており、それにともない地域機構の役割と機能も変容しています。アフリカの地域機構の現状と今後の展望について分析し、英語の学術論文としてまとめる予定です。

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法律と聞くとなんだか難しそうなイメージがありますが、私たちの生活と密接に関係していることがわかりました。箭内さんの研究は、地球規模の課題に取り組むための国際社会の動きを制度面から描く野心的なものだと感じました。

(取材・構成:金信遇、2023年7月21日)

「安倍さん、いま何してますか?」(2023年7月24日)

安倍 誠/新領域研究センター

安倍 誠/新領域研究センター

韓国経済と韓国企業について研究しています。ひとつは韓国の技術発展について、具体的には、韓国企業がどのように海外の技術を導入・学習し、技術能力を向上させてきたかについてです。主な研究対象は、1970年代から急成長を遂げた韓国初の一貫鉄鋼メーカーであるポスコです。日本企業からの技術協力とポスコの成長の関係について製鉄所建設にかかわる資料をもとに分析し、学術論文として発表しました。今後は、ポスコが成長の途中に直面した試行錯誤について論文としてまとめる予定です。

もうひとつは、科研費課題として進めている韓国のファミリービジネス、つまり、韓国財閥に関する研究です。2000年代の韓国財閥の継承パターンとそれにともなうオーナー支配のあり方について研究成果を出したことがありますが、しばらく手をつけられずにいました。それから20年近く経過し、第三世代、第四世代への継承が続いているいま、韓国の財閥企業にどのような変化がみられるかについて調べています。企業の財務諸表や産業統計、報道などの資料調査を中心に、関係者へのインタビューもおこなっています。

最後に、私が常に意識している韓国経済の重要な出来事があります。それは1997年に発生したいわゆる「IMF通貨危機」です。当時のことが映画やドラマの素材にもなるほど、韓国の人びとにとっては重要な事件として記憶されています。私自身、在外研究のために1996年から98年までソウルに滞在し、通貨危機前後の急激な変化の過程を目の当たりにした経験があります。この出来事が韓国の経済社会に与えたインパクトについても今後考えていきたいと思っています。

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韓国経済を専門とする日本国内の研究者が少なくなっているなか、アジ研の伝統的な企業研究の手法を用いて韓国の企業・産業を見続けている安倍さんの研究成果はとても貴重なものです。日本人だからこそ語れることもあると感じました。

(取材・構成:金信遇、2023年6月2日)

「山岡さん、いま何してますか?」(2023年7月10日)

山岡 加奈子/新領域研究センター グローバル研究グループ

山岡 加奈子/新領域研究センター グローバル研究グループ

いまは、日本とラテンアメリカ・カリブ諸国の関係について研究しています。本来ならもう少しあとで取り組みたいテーマでしたが、コロナ禍で実施可能な研究を模索していたところ、米中対立や国際社会の秩序の変化によりラテンアメリカとの関係に再び注目が集まっていることから、このテーマを選びました。研究成果は、一般向けの英文単行書として出版する予定です。共同研究者のガブリエル・ガルシア氏と私のそれぞれの専門である国際経済法、国際関係論の観点から両地域の関係について論じたあと、日本と深いかかわりを持つメキシコ、キューバ、ブラジル、チリ、ペルーを個別事例として取り上げます。これまであまり議論されてこなかった安全保障の観点からも両地域の関係を説明したいと考えています。

もうひとつは、科研費課題として、キューバとベトナムの外交戦略を比較しています。キューバは、「アメリカという脅威」と戦うことを革命の正当性の根拠としてきましたが、最近では、一時的な対米関係の改善やプーチン政権の勢力拡大、中国の経済成長など、国際環境の変化に応じて各国から利益を享受しつつも依存はしないという戦略を取っています。リスクをうまく利用して利益を最大化していくキューバの外交戦略を、国際関係論のヘッジング理論を用いて説明したいと考えています。一方、ベトナムは周辺国とのバランスを取りながらリスク分散型の戦略を取っているようにみえます。共産党政権が続いている国々が、軍事力以外の手段で対外関係をどのようにマネージして生き残っているのかを明らかにすることが大きなリサーチクエスチョンです。

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30年以上にわたりキューバを中心としたラテンアメリカ諸国の研究に取り組んできた山岡さん。一国を定点観測し、学術的手法を用いて分析する研究者が多数在籍していることは、アジ研の強みのひとつです。

(取材・構成:金信遇、2023年5月18日)

「小林さん、いま何してますか?」(2023年6月26日)

小林 磨理恵/学術情報センター 図書館情報課(ライブラリアン)

小林 磨理恵/学術情報センター 図書館情報課(ライブラリアン)

いまの中心業務は、図書館が新たに受け入れた資料を公開することです。資料を利用してもらうためには、単にバーコードを貼って書架に並べるだけでなく、資料の情報を図書管理システムに登録して、インタ―ネット上で公開することが必要です。そのために、「文法」のような目録規則にのっとって、目録(書誌データ)を作成しています。

新着資料の目録作成は、他の図書館と協力しておこなっています。日本国内で資料を最初に受け入れた図書館が、国立情報学研究所のデータベースNACSIS-CATに書誌データを入力し、同じ資料を受け入れた他の図書館がそれをダウンロードして、各館のOPACでも検索できるようにします。これを共同分担目録方式といいます。日本全国には約1,300に上るNACSIS参加館があり、毎年各館の書誌作成件数が公開されていますが、アジ研図書館は、2022年度において図書書誌データの作成件数で12位(3,220件)、雑誌書誌データでは1位(286件)を記録しました。これは、アジ研図書館が他の図書館では取り扱っていない資料をたくさん受け入れていることを意味します。

アジ研図書館のライブラリアンはそれぞれ特定の地域と言語を担当しています。図書館の運営やレファレンス対応、資料の調達など、個々の担当業務とバランスを取りながら、担当地域の資料整理を進めています。私自身はタイ語、ラオ語、ビルマ語、クメール語の資料を担当するとともに、目録作成業務全体を統括しています。

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アジ研が誇る図書館ですが、資料が公開されるまでのプロセスについてはあまり理解していませんでした。小林さんの仕事が新興国・途上国研究の発展に不可欠な役割を果たしていることがよくわかりました。

(取材・構成:金信遇、2023年5月16日)

「川村さん、いま何してますか?」(2023年6月12日)

川村 晃一/地域研究センター

川村 晃一/地域研究センター

ひとつは、来年2月に控えているインドネシアの選挙に関する研究です。大統領選挙や議会選挙で有権者がどのような「投票行動」を取るのか、投票行動を決める一番の要素は何かという視点からこの20年以上ずっと選挙をみてきました。政党支持、社会階層、地域など色々な要素がありますが、インドネシアの場合、「イスラーム」か「世俗」かという宗教的な亀裂が投票行動を決定すると私は考えています。自治体レベルの選挙データとその地域のイスラーム色の濃淡(イスラーム教徒の割合、モスクの数、過去の投票行動など)を表すデータを使いながら、2024年選挙でもこれまでと同じ傾向がみられるか観察する予定です。

もうひとつは、これから数年かけてやりたいと思っている議会研究です。特に関心があるのは「立法過程」です。年間何本法律が通るのか、法律を通すのにどのくらいの時間がかかるのか、誰が提案するのか、野党の修正はどのくらい入るのか、最終的な採決のための議会内での投票行動はどうなのかなど、立法過程の全体像を見ていきたいと思います。これまでインドネシアの執政制度である大統領制と、司法制度の憲法裁判所の研究をしてきたので、三権のうち最後に残った研究テーマが立法です。立法の研究が完成したら三権すべてを研究したことになるので、できればそれをインドネシアの憲政システムという観点から一冊の本にまとめたいと考えています。

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長年インドネシア選挙研究を引っ張ってきた川村さん。2024年選挙も腕の見せ所です。立法に関する研究が進み、これまでの研究生活の集大成が発表される日も楽しみです。

(取材・構成:金信遇、2023年5月16日)