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サステナ台湾――環境・エネルギー政策の理想と現実――

 
第7回 太陽光発電、石炭火力、そして脱原発をめぐる諸課題

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051975

2021年2月

(6,347字)

前回の連載では、地域コミュニティレベルの取り組みに目を向け、気候変動適応策への対応や、再生可能エネルギー開発事業の推進事例を紹介した。今回は、①全国の小規模な地面型太陽光発電の拡大と環境破壊の懸念、②石炭火力発電をめぐる中央政府・地方自治体・台湾電力会社・市民団体の根深い対立、③「脱原発」の進捗と課題、という三つの「現実」から、エネルギー・トランジションを目指す台湾の問題点を指摘していきたい。

太陽光発電の普及がもたらす環境破壊の懸念

台湾において、エネルギー・トランジションの成否は太陽光発電にかかっていると言っても過言ではない。確かに政府は洋上風力の導入にも積極的ではあるが、台湾には既に太陽光発電に関する成熟した技術とサプライチェーンがあり、洋上風力と違って海外勢への依存度は小さくて済む。実際、太陽光発電は洋上風力が注目されるようになる以前から、そして現在も政策としてより大きな役割が期待されており、それは数値目標にも表れている。例えば、政府目標では2025年に発電装置容量全体の20%を再生可能エネルギーにすることになっており、これは27GW程度に相当する。政府の方針ではその27GWのうち20GW、つまり75%近くを太陽光発電で賄うことになっている。

太陽光発電は大きく陸上タイプと水上タイプに分かれ、設置する場所や面積によりさらに細かく分類できる。陸上タイプには地面型と屋上型があり、地面型にはメガソーラーなど大規模な装置容量・設置面積のものと、小型太陽光発電所に区別される。小型太陽光発電所は面積が2ヘクタール以下で、「小光電」とも称される。一方屋上型は、規模というよりは設置する建物によって、それぞれ工場型や、ビル・住宅に設置されるタイプの住宅型などがある。

また水上タイプも同様に設置場所によって地面型と屋上型に分けられ、さらに設置規模(面積)によって、大規模なダム・遊水池などと、小規模な灌漑用水源・ため池等の間で区別がなされている。

陸上・水上両タイプに加え、陸上、水上両方に展開されている「ソーラーシェアリング」もある。「ソーラーシェアリング」とは、農地の上に太陽光発電設備を設置し、1つの土地を二階建てで活用することで、農家の収益の安定化を目指すビジネスモデルである1。日本では「営農型」とも呼ばれているが、台湾では陸上タイプのソーラーシェアリングが「農電共生」「蓄電共生」、水上タイプが「漁電共生」と呼ばれており、太陽光発電拡大の打開策として期待されている。

ただし、前述した2025年に太陽光発電20GWという政府目標の達成には、さらに約2万ヘクタールもの太陽光パネル設置面積が必要となる。これは、太陽光20GWのうち14〜15GWについては陸上地面型で賄う方針を政府が採っているためである。その背景には、現段階で陸上地面型の普及が比較的進んでおり、特に近年は小規模な「小光電」が急速に拡大するなど、目標の達成に寄与できる水準まで広がりを見せていることがある。

「小光電」が開発不可に
太陽光発電の急速な拡大の一方で、山林の乱開発や無計画な農地転用に対し、メディアや環境団体、地域コミュニティからは、耕作放棄地の増加や野生動物の生息地の消失に対する強い懸念が表明されている(写真1)。原因の一つは、太陽光発電所を建設する際、湿地など国の指定保有地以外であれば環境影響評価などが適用されないこと、もう一つは2ヘクタール以下の農耕地は行政手続きなしで土地用途の変更ができるという法的な問題である。特に後者を利用し、例えば太陽光発電事業者が相場よりはるかに高い賃料で農家から農業用地を借りて発電事業を営むといった例が多く見受けられる。

写真1 苗栗県通霄鎮に位置する「小光電」

写真1 苗栗県通霄鎮に位置する「小光電」

小光電の乱開発を食い止めるため、昨年2020年の7月、主管の農業委員会(日本の農林水産省に相当)は、特段の事情がある場合を除いて2ヘクタール以下の農業地は土地用途の変更を不可とし、2ヘクタール以上の農地についても用途変更をする場合は同委員会が審査するという新たな規定を施行した。しかしこの政令によって太陽光発電事業者から「太陽光発電の目標達成が困難になる」と激しい反発を受けただけでなく、実際に土地調達が難航したことにより、政府の太陽光発電設備容量2020年中期目標(6.5GW)の達成を見合わせる事態になるなど、混乱が生じた。

そこで行政院は、統括する経済部や農業委員会など部門間で調整し、農耕作に不向きな土地(農業委員会が管轄する塩害や地盤沈下などの問題がある区域など)2万ヘクタールを開発業者に貸し出す準備を進めている。またその他にも政府は現在、開発業者や環境保護団体などとの協議をもち事態の鎮静化を図るとともに、2025年の目標達成に向け、国有地や自治体が管理する土地、公営事業の所有地などを精査するという緊急の対応に追われている。

広大な土地を必要とする太陽光発電の拡大には、緻密な国土開発計画や政府各部門間の緊密な連携が欠かせないが、残念ながら政府の対応はまだ十分とは言えない。さらに、生態環境、伝統的な生活様式の維持など、ローカルな環境とのバランスを取ることに関する指針も早急に打ち出す必要がある。

「脱石炭」と電気の安定供給が課題

台湾では近年、「脱石炭」に対する国民の関心が非常に高い。従来から問題視されてきた大気汚染だけでなく、夏季の高温化や集中豪雨といった異常気象の頻発など、気候変動が人々の生活に明確な影響を及ぼすようになったことが背景にある。前回紹介したように、エネルギー・トランジションに関する最新の大規模意識調査にもその傾向は表れており、台湾世論は政府の脱石炭政策を支持し、経済的な負担増さえも容認する傾向にある。

しかし脱石炭は容易ではない。蔡英文政権は2016年の発足後から、「脱原発」「再生可能エネルギーの拡大」「石炭火力から天然ガスへの転換」の三つを掲げてエネルギー・トランジションを推進してきたが、現在も石炭火力への依存は続いている。これは、①脱原発の維持、②夏場の安定な電力供給を確実にすること、そして③石炭から天然ガスへの切り替えが貿易収支を大きく悪化させるという事情から、現状では石炭火力に頼らざるを得ないのである。

特に②夏場の安定な電力供給に関し、政府は苦しい立場にある。それを端的に表しているのが、蔡英文総統一期目の2017年8月に台北市、台中市、高雄市など全国主要17都市で起こった大規模停電(ブラックアウト)である。この時最大で約668万戸が停電し、市民生活は大混乱に陥った。原因は、桃園にある大潭発電所へのガス供給システムにおいて、台湾中国石油公司の作業員が部品交換で作業ミスをしたことであるとの報告がなされているが、ブラックアウトは電力の過負荷によっても十分起こり得る。近年台湾では夏季の高温化だけでなく猛暑日・酷暑日も増加しており、蔡英文政権は脱石炭を掲げながらも、ブラックアウト回避を優先するという姿勢である。

ただこうした政府の方針と相容れないのが台中市政府である。台中市政府は台湾最大の石炭火力発電所である台中火力発電所(以下、中火)(写真2)を管轄しているが、中火の所有者は国営の台湾電力会社(以下、台電)である。台電を所有する台湾政府と台電を管轄する台中市政府は、中火の石炭火力発電をめぐって熾烈な政治闘争を繰り広げており、以下にこの紛争事例を詳細に解説する。

写真2 台湾最大の石炭火力発電所――台中火力発電所

写真2 台湾最大の石炭火力発電所――台中火力発電所
石炭火力発電をめぐる紛糾

中火をめぐる紛争の発端は、台中市において、市長と議会多数派を国民党が占める市政府が、民進党政権の管轄する台電・中火に対し石炭使用量の上限超過で巨額の罰金を科したことである。その経緯は次のようなものであった。

2018年、国民投票と統一地方選挙が同時に行われた。国民投票では、争点の一つに、野党・国民党が提案した「火力発電所の発電量を『毎年少なくとも平均1%引き下げる』」という議題があり、これは有権者の賛成多数で成立した。大気汚染や気候変動に対する台湾国民の意識の高さが反映された結果となり、政府は対応を迫られることとなった。そもそも国民党がこの議題を設定した背景には、夏場の電力需要が高まるにつれて石炭火力発電量が増加していたことに加え、2016年の民進党への政権交代後、原子力発電が事実上制限されていたことで石炭火力への依存に拍車がかかっていた状況がある。

一方、統一地方選挙では、野党・国民党が躍進するなか、台中市でも国民党の盧秀燕(ルー・ショウイェン)氏が選挙公約の優先事項に「大気汚染の改善」を据え、与党民進党の現職を破って市長に当選し、また議会でも国民党が第一党となった。台中市では、長年にわたり深刻な大気汚染が社会問題となっており、台湾最大の石炭火力発電所である中火に対し抗議するデモが組織されるなど、市民の不満は小さくなかったと言える(写真3)。

写真3 台中火力発電所に向けた座り込みデモ活動

写真3 台中火力発電所に向けた座り込みデモ活動

盧市長就任後の台中市政府は中火に対し、石炭使用量超過を主たる理由として、これまで複数回にわたり総額1億500万台湾ドル(約3.7億日本円)以上という凄まじい額の罰金を科している。特に2019年12月には、3度の罰金に加え、規定の期限内に使用量の改善が見られなかったとして、2号機と3号機の発電装置操作許可証を失効させる行政処分まで下されている。この厳罰措置に対し、台電は翌2020年2月、罰金を全額支払ったにもかかわらず操業許可が取り消されたことを不服として、国の環境保護署に助けを求めた。

台中市は行政処分の根拠として、同市の「石炭の使用管理に関する自治条例(2016年1月より実施)」を示している。「条例発効後4年以内に石炭使用量を40%削減する」と定められており、市は中火が「実際の使用量」比での40%削減が未達であると主張している。

一方、台電は「空気汚染防制法(大気汚染防止法)」に基づき、「台中市が条例発効の翌年に決定した中火の石炭使用量の上限は2100万トンであり、この上限を40%引き下げた1260万トンが現在の使用量の上限である」ため、市の条例違反にはあたらないと主張している。

結局、環境保護署は台中市の行政処分を無効とする判断を下したが、台中市は行政手続法を持ち出し、行政処分の取消権者は「環境保護署ではなく、環境保護署を管轄する行政院でなくてはならない」と反論した。また同法の「取り消しによって公共の福祉に重大な危害が及ぶ場合は、処分の取り消しはできない」という規定も盾に行政院へ不服申し立てを行ったが、行政院はこれを却下し、中火2号機、3号機は操業可能な状態に戻された。

そうこうしているうちに2020年も「過去最も暑くなった6月」に入り、全国で連日猛烈な暑さが続いたため、台電は中火2号機を再稼働した。すると台中市はすかさず台電に対し、大気汚染防止法に基づいて200万元(約700万円)の罰金を科したうえで稼働停止を命じたが、台電はどちらも従わず無視した。そこで台中市は、今度は800万元~2000万元(約2800万円~7000万円)の罰金を科したうえに「責任者を書類送検する」という声明まで出し、台電を牽制したのである。

台電はこの声明を受けて行政救済手続きを行い国に賠償請求する意向を示したが、結局台中市は最高額2000万元の罰金を決定し、台電トップが実際に台中地方裁判所に書類送検される事態となった。一方環境保護署は、台中市の罰金処分を無効として対決姿勢を崩していない。

この紛争事例の根本的な原因の一つは、台中市の条例において石炭使用量の削減基準が曖昧になっていたことであり、早急に条例改正して明示する必要がある。また、中火の紛争事例は諸外国にとっても他人事ではない。「脱・石炭火力」が世界的な潮流となってはいるが、特に夏季の高温化に対応し安定に電力を供給するために、現時点では石炭火力への依存を断ち切るのはたやすいことではないからである。

「脱原発」と「カーボン・ニュートラル」は同時になし得るのか?

与党・民進党のもう一つの看板政策は、「脱原発」である。民進党は電業法(電気事業法)第95条に「2025年までにすべての原発を停止させる」という内容を盛り込む法改正を狙っていたが、前述の2018年の国民投票によって95条は事実上廃止となり、脱原発は法的な根拠を失った。とはいえ蔡政権は脱原発の方針を崩していない。第三原発二号機が2025年に廃炉になる予定に合わせて全原発利用を停止するという目標を維持しており、第四原発に置かれていた燃料棒も2020年10月下旬を以てアメリカへの移転が完了し買い手を待つ状態になっている。今後民進党は電業法の再改正に着手すると予想される。

一方で東アジアでは、中国、日本、韓国が「カーボン・ニュートラル」宣言を続々と打ち出している。カーボン・ニュートラルとは、「気候危機(Climate Crisis)」や「気候緊急事態(Climate Emergency)」を避けるため、温室効果ガス(GHGs)の一つである二酸化炭素の排出量を実質的にゼロにするということである。

世界的な潮流となりつつあるカーボン・ニュートラルの優先順位が非常に高いことから、GHGsを放出しない原子力発電は、各国において割合の差こそあれ、しばらくは主要電源の一つであり続けると思われる。そのようななかで前述のように脱原発を目指す台湾は、カーボン・ニュートラルへのハードルは非常に高く、必ずしも宣言する必要があるわけでもない。しかし、いずれはカーボン・ニュートラルと同レベルの、より野心的なGHGs削減目標を設定する必要に迫られることは避けられないだろう。将来を見据えて今対策を講じる先見性が、政府には求められている。

今後の連載に向けて

今回は、小規模太陽光発電の乱開発、台電・台中火力発電所をめぐる政治闘争、そして脱原発の推進状況を解説した。法律をはじめとする制度上の整備不足や与野党の政治対立等の壁は、台湾のエネルギー・ミックス目標達成という理想の前に立ちはだかる。しかしこの壁がいかに高くても乗り越えていかなくては、決して理想が現実になることはない。

これまでの連載では、政府、地方自治体、企業、地域コミュニティ、国民意識などに目を向け、台湾のエネルギー・環境政策の実施状況および課題を紹介してきた。その他の様々な事例や、金融、NGO、業者団体など異なる利害関係者による取組みがあり、これらについては今後紹介していきたい。

写真の出典
著者プロフィール

鄭方婷(チェンファンティン) アジア経済研究所海外研究員(台湾・台北市)。2014年4月~2019年4月アジア経済研究所新領域研究センター法・制度研究グループ研究員。博士(法学)。専門は国際関係論、国際政治学、国際環境問題(気候変動)、グローバル・ガバナンス論。主な著作に、『「京都議定書」後の環境外交』三重大学出版会(2013年)、『重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ』現代図書(2017年)など。2019年4月より国立台湾大学にて客員研究員として勤務。

書籍:京都議定書後の環境外交

書籍:重複レジームと気候変動交渉

  1. ソーラーシェアリングとは?」EnergyShift Navi,2020年8月3日。

(2021年3月3日文字修正)