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サステナ台湾――環境・エネルギー政策の理想と現実――

 
第6回 気候変動とエネルギー・トランジションに関する市民・コミュニティの取り組み

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051893

2020年11月

(4,536字)

前回は2017年および2020年に実施された気候変動とエネルギー・トランジションに関する大規模な国民意識調査の結果から、台湾世論の変化を分析した。今回は、地域コミュニティレベルで取り組まれている気候変動への適応策と、地域が主体となって運営する発電事業の事例を紹介したい。
気候変動に対処するための「地域主体の適応策」――新北市の事例

「地域主体の適応策(Community Based Adaptation, 以下CBA)」とは、高温化や洪水といった気候変動に起因する災害に対処するための手段の一つであり、地域の人々の能力、優先事項、知恵に基づいて策定・実施される参加型の取り組みである(Reid et al. 2009)。台湾ではCBA推進のため、中央政府の環境保護署がパイロット・プロジェクト(デモンストレーションのためのプロジェクト)に対し直接、または地方自治体を通じて間接的に補助金を給付する制度がある。また、各地域のボランティアや関係者、地方自治体の担当者に対しセミナーやワークショップを開催することで、低炭素社会に関する知識の共有や、地域間での交流を図る取り組みもなされている。

一方、地方自治体のなかには、環境保護署の補助金に頼るだけでなく、自ら予算を捻出し独自の取り組みを進めているところもある。例えば人口が全国一位で北部に位置する新北市(New Taipei City)では、CBAの重点が「災害」「健康」「土地利用」「エネルギー供給と産業」の4つに置かれており、それぞれ消防局、衛生局、城郷局(総合計画課)、経済開発局が主担当となっている。おもな課題は、現在住民が最大の関心を寄せる夏季の高温化や集中豪雨・洪水に対する防災・減災である。

台湾では今年、観測史上最も暑い6月となった。摂氏37、38度以上が珍しくないなど夏季の高温化が年々深刻化しているだけでなく、梅雨や台風の時期には集中豪雨による川の氾濫や浸水の被害が全国的に繰り返されるようになっている。こうしたことから、新北市が取り組んでいるような適応策の推進は非常に重要視されており、CBAについては特に建物の遮熱・高温化防止を目的とした活動が多い。例えば新北市は、これまでに「参加型屋上農場」「クール屋上」などのミクロ・プロジェクトを、環境保護署の補助金を得て実施してきた。(画像1、写真1)。参加型屋上農場とは、その名のとおり地域コミュニティの住民がチームを作り、建物の屋上で農業を営むというものである。チームは小中学校や、地方自治体の最小単位「里」との協力関係を築きながら、マンションや小中学校の屋上スペースで農作物を育て、その計画から収穫まで責任を持つ。屋上の小型農場が直射日光を吸収し建物の高温化を和らげるだけでなく、収穫した農作物をチャリティーイベントで販売するなど、社会貢献性も高い(写真2)。実際に成果も上がっており、2018年までに107カ所の屋上農場が設置され、緑化面積の増加(約7000平方メートル)、節電(約200万KWh/年)、二酸化炭素の削減(1087トン/年)などが報告されている。

画像1 新北市の2020年「クール屋上」補助プロジェクト紹介パンフレット

画像1 新北市の2020年「クール屋上」補助プロジェクト紹介パンフレット

写真1 新北市政府環境保護局によって紹介される「クール屋上」の事例

写真1 新北市政府環境保護局によって紹介される「クール屋上」の事例

写真2 地域コミュニティが主催する参加型屋上農場販売イベント

写真2 地域コミュニティが主催する参加型屋上農場販売イベント

一方、クール屋上とは、同じく建物の屋上に遮熱網や遮熱タイルの敷設、遮熱塗料の塗装といった改造を加える適応策である。これも、コミュニティの住民たちがワークショップの開催や利害関係者との協議を経たうえで計画を立案し、市の補助金を受けて実施している。クール屋上は実績として、節電(3万KWh/年)と二酸化炭素の削減(16トン/年)につながっている。ただ、年々厳しさを増す猛暑はすでに異常な水準にあり、遮熱と高温化の軽減には限度があるといった切実な意見もある。

また、CBAには住民・地域コミュニティが主体となって取り組むプロジェクトが多く、住民の自発的な参加と密接なコミュニケーションが必要となる。参加する住民にとっては時間と労力の負担は小さくないうえ、ひとつのプロジェクトに支給される補助金は限られていることから、リソースの出し合いなど住民の高度な環境意識に依存せざるを得ないという側面もある。

さらに、補助金を交付する側の地方自治体にも課題はある。新北市のCBA担当部局ではプロジェクトの成果が人事評価に反映されるが、地域住民間のコミュニケーションや協力度、適応策への理解、能力の向上などは成果としての評価が難しい(台湾大学リスク社会研究センター2019)。こうした課題は、以下に紹介する地域レベルでの発電事業にもみられる。

地域主体の再生可能エネルギー発電事業――「公民電廠」

台湾では2009年に固定価格買取制度(FIT)が導入され、一般市民でも太陽光パネルを屋上などに設置して発電し、台湾電力会社(台電)などに売電することができるようになった。近年は郊外の比較的規模が大きい地面型の太陽光発電事業に加え、人口が密集する住宅街においても、地域住民主体の発電事業である「公民電廠(energy cooperative)」が全国的に展開されている(連載第1回を参照)。

ひとくちに公民電廠といっても、ステークホルダー(太陽光発電システムの建設事業者、協会やNGOなど開発業者、住民・コミュニティ、地方自治体、銀行・融資事業者など)もビジネスモデルも多様である。例えば、NGO組織の主婦連盟生活合作社(日本の生活協同組合に類似する組織)と主婦連盟環境保護基金会が設立した「緑主張緑電合作社(Green Advocated Energy Cooperative)」は、会員の住宅の屋上スペースを利用して売電事業を展開している。屋上スペースを提供するには、一口1万台湾ドル(約3万5000円)から最大100口を初期投資として拠出し合作社の会員となるだけでよい。屋上スペースの使用が決まれば、合作社が発電設備事業者との契約や自治体と台湾電力会社での行政手続きまですべて行い、20年間にわたり売電収益を得る。一方スペース提供者の住民は合作社から賃料収入を得るが、それ以外にも太陽光パネルの設置によって建物の温度が下がったり、直射日光による屋上の劣化を防いだりといったメリットがある(画像2)。

画像2 緑電合作社の発電事例をホームページにて紹介

画像2 緑電合作社の発電事例をホームページにて紹介

主婦連盟と合作社は屋上スペースを提供する住民や所有者と直接やり取りするため、住民が自身の発電体験を経て環境保護・再生可能エネルギーへの意識が一段と高まると好評である。一方で、環境面で積極的に貢献しようとする住民は限られており、事業(発電)規模も大きくない。

これとは対照的に、一般市民に広く再生可能エネルギーの発電事業への参加を促すビジネスモデルもあり、その好例がサニー・ファウンダー(陽光伏特家)である。サニー・ファウンダーは一般市民が太陽光パネルを一枚1万5000元(約5万円)から購入できるプラットフォームを提供しており、資金が集まれば家主から屋上スペースを借りて発電し収益を得、そのなかからスペース賃料の支払や出資者への還元がなされる。またそれだけでなく、企業が社会的責任(CSR)をアピールするための寄付金も受け付けている。

このビジネスは参加方法と利益の回収が簡単なことから広く反響を呼び、2016年の開始から4年も経たないうちに200件近くの運営実績を積み上げている。公式ホームページによるとこれまでの取引金額は4億台湾ドル(約14億円)を超え、参加者も1万8000人以上に及んでいることから、成功事例としてメディアで大きく取り上げられており、今後も成長が見込まれている(画像3)。とはいえ出資者は太陽光パネル設置場所のオーナーである必要はないことから、サニー・ファウンダーがコミュニティレベルで人々の環境・エネルギー意識を高め、地域への愛着を深められるかどうかについては未知数である。

画像3 ホームページからでも簡単に購入申込できるサニー・ファウンダー実績などがわかりやすく書かれている

画像3 ホームページからでも簡単に購入申込できるサニー・ファウンダー 実績などがわかりやすく書かれている
緑電合作社とサニー・ファウンダーという二つの例を見てきたが、公民電廠はビジネスモデルや理念によってその姿が大きく異なる。今後再生可能エネルギーの拡大が続くなかで、一般市民の生活と再生可能エネルギーの関係をより深めていくには、さらなる発想力と実践力が必要となるだろう。
次回の連載に向けて

今回は地域コミュニティレベルでの気候変動適応策への取り組みと、再生可能エネルギー開発事業の推進事例について紹介した。台湾では夏季の高温化や集中豪雨の頻発などを背景に気候変動に対する国民の意識は総じて高く、市民が中心となって活躍する地域レベルのプロジェクトが次々と現れ、積極的にサポートする地方自治体も多い。理念やビジネスモデルの違いによってメリット・デメリットどちらもあるが、事業や市民参加の規模は、今後も拡大を続けていくだろう。

次回以降は全国にある地面型の小型太陽光発電を推進するにあたっての課題や、長年にわたり政治論争の渦中にある原発問題、さらには石炭火力発電をめぐって近年過熱している中央政府、地方自治体、台湾電力会社、市民団体間の熾烈な争いについて掘り下げていく予定である。

写真の出典
参考文献
  • Reid, Hannah, Mozaharul Alam, Rachel Berger, Terry Cannon, Saleemul Huq, and Angela Milligan. 2009. "Community-based Adaptation to Climate Change: An Overview," Participatory Learning and Action, No. 60, pp. 11-33.
  • 台湾大学リスク社会研究センター(2019)「《日常生活的能源革命》――八個台灣能源轉型先驅者的故事」(日常生活のエネルギー革命:台湾エネルギー転換におけるパイオニアたちのストーリー)台北市:春山出版。
著者プロフィール

鄭方婷(チェンファンティン) アジア経済研究所海外研究員(台湾・台北市)。2014年4月~2019年4月アジア経済研究所新領域研究センター法・制度研究グループ研究員。博士(法学)。専門は国際関係論、国際政治学、国際環境問題(気候変動)、グローバル・ガバナンス論。主な著作に、『京都議定書後の日本環境外交』三重大学出版会(2013年)、『重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ』現代図書(2017年)など。2019年4月より国立台湾大学にて客員研究員として勤務。

書籍:京都議定書後の環境外交

書籍:重複レジームと気候変動交渉