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サステナ台湾――環境・エネルギー政策の理想と現実――

 
第1回 過渡期にある温暖化・エネルギー転換対策

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051453

2019年8月

(7,221字)

「転換」していく温暖化・エネルギー政策

2019年5月17日、台湾の立法院(国会に相当)で同性カップルによる婚姻登記を認める「司法院釈字第748号解釈施行法」が可決され、アジア初となる同性婚合法化が実現した。この出来事に象徴されるように、近年台湾では、ラディカルなトランジション(転換)を求める現民進党政権が、強固な政治的支持を背景に両岸関係や年金など様々な問題に挑んできた。環境やエネルギー問題もその例外ではなく、大気汚染や気候変動・温暖化、脱原発、太陽光・風力発電などの再生可能エネルギーの推進政策に関する動向は注目に値する。そこで今回の連載企画では、台湾の政府・地方自治体レベルでの気候変動・温暖化対策と、これと密接に関わるエネルギー・トランジション(以下、エネルギー転換)政策をクローズアップし、関連する産業界、市民コミュニティやNGO等の活動にも目を向けていきたい。

2015年12月、気候変動問題に対応する画期的な国際的枠組みである国連の「パリ協定」が採択され、その後も国際交渉が積極的に展開されているが、実は台湾においても、温室効果ガス(以下GHGs)排出削減や異常気象対策などの課題は政治的に重要視されている。例えば馬英九前総統は「気候変動は生死に関わる問題であり、すでに台湾に大きな影響を与えている1 」として全国気候変動会議を開催した。また蔡英文現総統は「パリ協定の規定に基づき気候変動への対処行動には必ず参加する2 」と宣言し、頼清徳前行政院長(首相に相当)は「異常気象と気候変動も国土安全保障の範疇に入る3 」との認識を示しており、実際に中央政府から地方自治体まで様々なレベルで独自の対策が検討されている。

またエネルギー転換に関連して蔡政権は、全発電量に占める再生可能エネルギーの割合を「2025年までに20%」にするという、極めてチャレンジングな目標設定を2016年に打ち出した。これによって産業界をはじめとする国内の動きが活発になり、国際的な注目も浴びるようになっている。

脱原発も、今後台湾のエネルギー事情を大きく転換させるであろう重要な動きである。2011年の福島の原発事故を受け、それまで推進されてきた原発に対する国民の不安が一気に膨張し、2012年以降に脱原発運動の大きな流れが生まれた。その後2016年には電気事業法第95条の改正によって「非核家園」(原発のないふるさと)の実現を目指すなど、脱原発政策の推進は確実に進捗を見せている。

しかし、近年本格的に検討され始めたこれらの政策は、様々な課題に直面している。例えば気候変動・温暖化の「適応策」(高温化や集中豪雨など異常気象に対応する方法)の推進では、中央・地方政府が投じる予算とリソースが限られているだけでなく、環境教育による一般市民の意識向上も必要である。また脱原発に関しては、現役または廃炉予定の原発への対応に加えて、原発を補うための低炭素エネルギーとして発電量が拡大している天然ガス発電について、燃料コストの上昇に伴う貿易赤字の増加が問題視されている。さらには昨年(2018年)11月の国民投票により「非核家園」政策の要となる電気事業法第95条が廃止されるなど、脱原発は激しい政治対立の渦中にもあり、先の見通しは依然不透明なままである。

本連載「サステナ台湾」では、全7回にわたり、気候変動・温暖化及びエネルギー転換政策を立案・実行していくうえでの「理想」と「現実」を掘り下げていく。初回は近年の台湾における主な動向をレビューしながら、地方、企業、さらに地域のコミュニティによる取組みにも視野を広げていく。

温暖化対策を世界にアピール

台湾は、パリ協定に参加していないにもかかわらず、国連事務局へ自主的に自国の約束目標を提出するなど、GHGsの排出削減に積極的に取り組む姿勢を世界にアピールしている。国連などが主体となる国際交渉に正式に参加できない台湾にとって、気候変動は外交舞台における重要な活躍の場となるというのが一つの動機として考えられる。

気候変動・温暖化の「緩和策」と言われるように、対策の世界的な潮流は、GHGsを排出せずにエネルギーを作る、いわゆる従来からのエネルギー転換である。台湾もこれに倣い、馬英九前政権はグリーン・エネルギー・ビジネスによる再生可能エネルギーの拡大を唱えつつ、GHGsの排出削減に関する法整備を積極的に行ってきた。2009年に「エネルギー管理法」の改正や「再生エネルギー開発条例」の制定により再生可能エネルギーの普及のための固定価格買取制度(Feed-in Tariff: FIT)が導入された。FITとは、電力会社をはじめとする民間設備が再生可能エネルギーのみを使用して発電した電気について、一定期間中に同じ価格で買い取られるよう政府が保証する制度である。2015年には「温室効果ガス排出量削減管理法」も可決され、さらにパリ協定の採択を受け、同年に「2005年の排出量から20%程度を削減する」といった2030年の排出目標を国連に提出するなど、活発な動きは前政権から始まったと言える。

また、気候変動の深刻化が引き起こすと予想される被害も強調されるようになり、馬政権下では2012年に「気候変動適応政策綱要」が公表され、2014年に「2013-2017年適応行動計画」を承認、2015年に「海岸管理法」、2016年に「国土計画法」が成立した。蔡英文現政権も引き続き法整備を進めており、2017年に「気候変動適応適応のための行動綱要」を承認、2018年に「水利法」を改正し、「2018‐2022年適応行動計画」をスタートさせている。また、環境保護署(環境省に相当)が地方自治体の推薦を受けて地域コミュニティによる適応パイロット・プロジェクトに対し補助金を出したり、住民のトレーニングを提供したりするなど、ローカルでの適応策を進める試みも始まっており、今後も拡大が見込まれている。

政権交代に伴う「エネルギー転換」政策
民進党の蔡英文総統は、総統選中に脱原発、発電効率の改善、再生可能エネルギーの推進などを中心とするエネルギー転換や、省エネ、発電・蓄電などのエネルギー技術革新などを包括する「持続可能なエネルギー政策」を打ち出しており、前述の「非核家園」政策の推進についても就任以来一貫して強調している(写真1)。2016年の政権発足後、行政院の下に関係省庁間の調整を行う組織「能源及減碳弁公室」(Office of Energy and Carbon Reduction: OCER)を設置し、同年1月には電気事業法を改正した。「2025年までにすべての原発を停止させる」(第95条)ことを定めたこの法改正によって、脱原発を実現しようとしたのである。

写真1 蔡英文総統は「非核家園」政策の実現を一貫して訴えている(2016年5月20日)。

写真1 蔡英文総統は「非核家園」政策の実現を一貫して訴えている(2016年5月20日)。
蔡政権では2025年までの目標として、原子力の割合をゼロにしつつ、再生可能エネルギーが国内総発電量に占める割合を20%まで引き上げるとしている。2018年の総発電量の内訳を見てみると、火力84.1%、水力2.8%に対し原子力10.0%(2008年比41%減)、再生可能エネルギーは3.0%(2008年比75%増)であり、台湾では実際に原子力発電が削減され、再生可能エネルギーは増加してきたことがわかる(図1)。

図1 台湾の全発電量に対する各発電量の割合の推移(2008年~2018年)

図1 台湾の全発電量に対する各発電量の割合の推移(2008年~2018年)

再生可能エネルギーが総発電量に占める割合は非常に小さいことから、原子力発電を代替する発電量は到底賄えず、脱原発は今のところ化石燃料に頼らざるを得ない。そこで台湾ではCO2の電力排出係数(kgCO2/kWh)が石炭の約半分の低炭素化石燃料である天然ガスの比率を高めてきた。事実2008年には石炭65.8%、石油8.1%、天然ガス26.1%だった台湾における火力発電の燃料構成が2018年には石炭54.1%、石油5.2%、天然ガス40.7%に変化しており、この10年余りで石炭から天然ガスへの大幅な切り替えが進んできたことがわかる。近年同じく脱原発を掲げた日本やドイツでも天然ガスへの切り替えが行われたが、日本では石炭に比べ割高な液化天然ガス(LNG)の輸入増加が貿易収支の赤字要因として問題視され、ドイツでは天然ガスの4割ほどをロシアから輸入しており、エネルギー供給が政治情勢から直接的な影響を受けるといった安全保障上の懸念に直面するなど、両国とも大きな問題を抱えている4 。台湾も例外ではなく、貿易収支や安全保障上の懸念に対し、効果的な対応をしていく必要に迫られている。

企業・産業界から見た「ビジネス・チャンス」
台湾の産業界では、前述のグリーン・エネルギーがビジネス・チャンスとして前向きに受け止められている。政策のバックアップもあって近年は太陽光と風力発電で著しい発展を見せており、2018年にはこれらの再生可能エネルギーの発電設備容量は全体の7.9%に達し、10年前の約4倍となった(図2)。

図2 再生可能エネルギー発電設備容量の推移(2008年~2018年)

図2 再生可能エネルギー発電設備容量の推移(2008年~2018年)

(出所)経済部能源局資料より筆者作成。
(注)発電設備容量とは、設備の定格(最大)の発電能力を意味し、実際の発電量は設備容量よりも小さくなる。

太陽光発電では屋上パネルによる発電が大いに進められており、また台湾海峡は世界屈指の洋上風力発電ポテンシャルを持つことから、2025年までの投資規模は風力だけで9000億台湾ドル(約300億米ドル)に達するとの試算もある5

ただ、その投資の内容を見ると、デンマークやカナダなど外資系企業勢の投資額が拡大しつつあり、国外の経験と技術に頼る状況が浮き彫りになっている。この問題はすでに台湾政府内で注目されており、国内のサプライヤーへの建設事業の発注や部品の国内調達などを義務づける風力発電の「国産化」が、経済部(経済産業省に相当)による選抜審査の必要条件となっている。今後国内需要の拡大も予想されるが、この国産化をめぐって政府、国内外の企業間で新たな緊張関係が生じる懸念も否定できない。

なお、適応策の推進に関しては、技術のイノベーションなどを伴う企業の努力も注目に値する。例えば、電源システム部品の製造で知られる台達電子株式会社(デルタ電子)は2006年に「緑建築」(Delta Green Building)プログラムを立ち上げ、台北の本社ビルの改築を含めてオフィスビルや工場の節電や省エネの高効率化をデモンストレーションするとともに、新たなビジネス・チャンスも探っている(写真2)。その他にも様々な例があるので、今後の連載で紹介したい。

写真2 節電や省エネの高効率化とされるデルタ電子台北本社。

写真2 節電や省エネの高効率化とされるデルタ電子台北本社。
地方自治体による取組み

地方自治体においても、エネルギー転換と気候変動の適応策は優先度の高い政策として取り組まれている。特に北部に位置する新北市と桃園市(どちらも行政院直轄市)は、それぞれ地域の特性に応じてプログラムを開発し、節電や省エネ、地域の温暖化適応を進めようとしている。とはいえ、常設の担当組織、経常予算と担当スタッフがなければガバナンスが困難となるため、近年それぞれの市では専門の部局を設置するなどの組織改革も併せて行われている。  

居住者人口が最も多い新北市では、2014年に「緑色産業科」(Green Industry Division)という部署を市の経済発展局の下で新たに設置し、NGO、市民団体や産業界を巻き込んで新たな取組みを試みてきた。例えば、2015年から毎年「省エネ賞」を発表するなど、市民教育を目的としながら、競技感覚での意識向上に取り組んでいる。  

また、桃園市は台湾最大の工業都市であることから、2018年に「緑能専案推進弁公室」(Green Energy Promotion Office)を設置し、大型工場による節電・省エネの取組みや、浮上式太陽光発電を含むメガーソーラーの設置、陸上及び洋上風力発電の拡大を進めている(写真3)。

写真3 ため池での浮上式太陽光発電(桃園市)

写真3 ため池での浮上式太陽光発電(桃園市)

一方、適応策については、新北市では市の環境保護局が所管し、高温化への対策として「屋上農場」や「クール屋根」といったプログラムを住民、コミュニティと学校などを通じて広げている。また、桃園市では同じく市の環境保護局の持続可能な環境開発科が担当し、住民が集中する都会区については集中豪雨や浸水の早期警戒など急務とされる防災・減災措置を中心に取り組んでいる。

地方自治体による取組みは、議会との関係、人事・業績評価への反映、データや情報の入手、資金調達、人材採用などで課題があり、これらについても今後の事例分析で詳細に検討したい。

「コミュニティ・パワー」と地域適応策の推進

台湾で近年進められている、「公民電廠」(energy cooperative)の開発も興味深い。公民電廠とは、地域やコミュニティが主体となり、人や資金などのリソースを投入して建設し、一定の所有権を取得して運営まで行う発電所のことである。日本では、「コミュニティ・パワー6 」とも言われているが、その「パワー」とは、単に電気のことだけを指すのではなく、化石燃料を大量生産・大量消費して生成した電気に頼らず地元の自然資源に依拠してエネルギー消費の自立を目指すという意味で、人々の「力」という意味にも取れそうである。

台湾の中央、地方政府も積極的にコミュニティ・パワーの拡大を後押ししようとしており、例えば経済部や環境保護署が現在国内外の経験を調査していながらパイロット・プロジェクトの準備作業をしている。また地方自治体では、桃園市が公立小学校などで太陽光パネルを設置、発電するなどの取組みを始めている。ただ、開発の初期段階では発電規模が限られるうえ、資金集めのハードルが高く、住民間のコミュニケーションに時間を要するなど、乗り越えなければならない壁が多くあるとされる。  

一方、コミュニティによる適応策の推進、いわゆるCommunity Based Adaptation(CBA)は、地域NGO、小中学校、コミュニティ・カレッジ、マンション管理組合などを通じてプログラムを実施している。

次回の連載に向けて
連載の初回となる本稿では、台湾における気候変動・温暖化対策の二本柱である緩和策関連のエネルギー転換と適応策の推進について、中央政府から地方自治体、民間組織まで様々なレベルをレビューしながら、全体的な状況を紹介した。次回は、中央政府が主導した政策立案と立法・法改正の過程に焦点を当て、具体的な事例分析を行っていく。
参考文献
  • 台湾大学リスク社会研究センター(2019)「《日常生活的能源革命》――八個台灣能源轉型先驅者的故事」「(日常生活のエネルギー革命:台湾エネルギー転換におけるパイオニアたちのストーリー)台北市:春山出版。
  • 周桂田、張國暉編著(2018)「轉給你看:開啟臺灣能源轉型」(台湾のエネルギー転換)台北市:秀威資訊。
  • 陳泰然編著(2012)「氣候變遷對臺灣總體安全之衝擊」「(気候変動が台湾の安全保障に与えるインパクト)」台北市:国立台湾大学出版センター。
写真の出典
  • 写真1 總統府、TAIWAN’s 14th-term President Tsai Ing-wen attend the inaugural ceremony activities. via Wikimedia Commoms[CC-BY-2.0 (https://creativecommons.org/licenses/by/2.0/deed.en )]
  • 写真2 Hendrywu, Delta Electronics headquarters in Neihu District, Taipei City. via Wikimedia Commoms[CC-BY-SA-4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)].
  • 写真3 台湾桃園農田水利会。
著者プロフィール

鄭方婷(チェンファンティン)。アジア経済研究所海外研究員(台湾・台北市)。2014年4月~2019年4月アジア経済研究所新領域研究センター法・制度研究グループ研究員。博士(法学)。専門は国際関係論、国際政治学、国際環境問題(気候変動)、グローバル・ガバナンス論。主な著作に、『京都議定書後の日本環境外交』三重大学出版会(2013年)、『重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ』現代図書(2017年)など。2019年4月より国立台湾大学にて客員研究員として勤務。

書籍:京都議定書後の環境外交

書籍:重複レジームと気候変動交渉

  1. 總統主持因應氣候變遷對策作為會議」(気候変動対策と行動のための会議にて総統が総括)総統府、2010年5月26日。
  2. 蔡英文総統が就任演説で言及。台北駐日経済文化代表処、2016年5月20日。
  3. 賴清德:召開氣候變遷國是會議 以大辯論方式到各地說明」(頼氏:全国気候変動会議を開催、ディベート方式にて各地で説明)『民報』2019年5月24日。
  4. 経済産業省資源エネルギー庁「エネルギー白書2019」(2019年6月)、環境省「ドイツのエネルギー変革に関する動向調査」(2017年8月)。
  5. 経済部「我國風力發電產業發展現況與未來展望」(我が国の風力発電産業の開発状況と未来の展望)2018年11月12日。
  6. 環境エネルギー政策研究所ウェブサイト「【特集】コニュニティー・パワー」2012年5月22日。
【連載目次】

(世界を見る眼)サステナ台湾――環境・エネルギー政策の理想と現実――