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サステナ台湾――環境・エネルギー政策の理想と現実――

 
第5回 気候変動とエネルギー・トランジションに対する国民意識の変化

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051813

2020年8月

(4,820字)

前回は、台湾の太陽光発電の開発状況を報告するとともに、再生エネルギーの拡大と環境保護の両立に際しての課題である「クリーン・クリーン・コンフリクト」について、桃園市の事例を紹介した。今回は、気候変動とエネルギー・トランジションに関して2018年と2020年に台湾大学が実施した大規模な国民意識調査の結果から、世論の変化を分析する。
大学が実施した大規模意識調査——気候変動の深刻化に関して

2018年6月から7月にかけて、国立台湾大学の「リスク社会と政策研究センター」(Risk Society Policy Research Center, RSPRC)により「エネルギー・トランジションの国民認知度」に関して初の大規模意識調査が行われた。その内容は、層化抽出法1による電話調査で、項目は「政策の認知」「省エネ生活」「参加型エネルギー・ガバナンス」「外部費用の内部化」「自治体によるエネルギー・ガバナンス」「電力市場改革」「グリーン・ファイナンス」の7つである。

その後RSPRCは2020年の4月中旬、調査内容に違いはあるが2018年と同様の趣旨の大規模調査を行った。これは同年1月の選挙で圧勝し5月より始動する蔡英文政権の2期目を控えた時期で、調査では2018年とは違なる結果が出るなど、興味深い点もある。本稿ではこの大規模調査のうち「政策の感知」に関する結果から、気候変動問題に対する国民の認識について見ていくことにする。

2018年の調査では、「台湾での気候変動の影響レベル」についての設問に対し、合わせて95%の回答者が、「気候変動が相当な、または一定の影響をもたらしている」と回答した(図1)。一方2020年の調査でも、「気候変動の影響を自身で感じるレベル」については、合わせて85%の回答者が「非常に感じる、または感じる」と回答しており(図2)、さらにこのうち政府の「再生可能エネルギーの2025年目標」に賛同する人は81.7%に上った。国民の大多数が気候変動の深刻化と影響を強く意識している状況に大きな変化はなく、現政府の方針は危機意識の高い多くの人々から厚い支持を得ている状況が明らかとなった。

図1 「台湾での気候変動の影響レベル」について(2018年)

図1 「台湾での気候変動の影響レベル」について(2018年)

(出所)RCPRC「エネルギー・トランジションの国民感知度」に関する2018年の調査結果より筆者作成。

図2 「気候変動の影響を自身で感じるレベル」について(2020年)

図2 「気候変動の影響を自身で感じるレベル」について(2020年)

(出所)RCPRC「エネルギー・トランジションの国民感知度」に関する2020年の調査結果より筆者作成。

実際に、「エネルギー・トランジションを積極的に推進することで将来の世代が直面する気候災害を防ぐ」という設問では82.4%の回答者が「とても同意、またはある程度同意する」としている(図3)。台湾では深刻化する気候変動の影響を肌で感じる国民が多く、積極的にエネルギー・トランジションを推進することが気候変動問題の解決にもつながるという考えがかなり浸透していることが示されたと言えるだろう。

図3 「エネルギー・トランジションを積極的に推進することで
将来の世代が臨む気候災害を防ぐ」について(2020年)

図3 「エネルギー・トランジションを積極的に推進することで将来の世代が臨む気候災害を防ぐ」について(2020年)

(出所)RCPRC「エネルギー・トランジションの国民感知度」に関する2020年の調査結果より筆者作成。
エネルギー・トランジションに関して国民意識の変化

エネルギー問題に関しても、国民の強い関心が調査結果に表れている。2018年の調査では、回答者の80%以上が「エネルギー問題に対し非常に、あるいは一定の関心を持っている」とした。しかし「現行の2025年エネルギー政策(脱原発、エネルギー・ミックスの数値目標など)」を「まったく理解していない」「理解していない」とした人は57%に上り、「とても理解している」「理解している」の40.7%を上回っていたことから、国民の間では関心の高さとは裏腹に政策への理解が浸透していなかったことがわかる。

しかし2020年の調査では、「2025年に再生可能エネルギー発電設備装置を全体の20%以上にする目標」への賛否について問われ、賛成78.5%、反対12.1%であった(図4)。2018年の調査でこの目標を理解しているとした回答者が40%程度だったことを踏まえると、政府の再生可能エネルギー政策が国民の理解を得て支持されるようになったことが示唆される。

図4 「2025年再生可能エネルギー目標」について(2020年)

図4 「2025年再生可能エネルギー目標」について(2020年)

(出所)RCPRC「エネルギー・トランジションの国民感知度」に関する2020年の調査結果より筆者作成。

今回の意識調査では政党支持の立場を問わずエネルギー改革を支持する国民が多いこともわかった。前述の「2025年に再生可能エネルギー発電設備装置を全体の20%以上にする目標」については、与党民進党支持者である回答者の87%が賛同しているだけでなく、最大野党国民党支持者である回答者の63%も賛同しており、支持政党により政策への賛否も明確に分かれていた従来とは明らかに異なる構図が見られる。

従来から原子力や石炭火力発電を推進してきた国民党に対し、民進党は一貫して脱原発を掲げ、2015年の政権奪取後は再生エネルギーの拡大路線を進んでいる。このようにエネルギー問題に関する両党の立場はかなり異なるが、最近の世論の傾向を鑑みれば、現在のエネルギー政策は当面継続される可能性が高いと思われる(写真1、2)。

写真1 2020年3月に高雄で開かれた「アジア太平洋風力発電展示会」(Wind Energy Asia 2020)の会場に設置された、再生可能エネルギー政策に関する紹介パネル(高雄国際展示場)。

写真1 2020年3月に高雄で開かれた「アジア太平洋風力発電展示会」(Wind Energy Asia 2020)の会場に設置された、
再生可能エネルギー政策に関する紹介パネル(高雄国際展示場)。

写真2 洋上風力発電所のための作業船が展示会の開催に合わせて高雄の港に停泊(高雄国際展示場)。

写真2 洋上風力発電所のための作業船が展示会の開催に合わせて高雄の港に停泊(高雄国際展示場)。
一方で、エネルギー問題に高い関心を寄せる世論の傾向は、政策の優先度に関する調査結果にも表れている(図5)。「長期的発展のための政府施政の優先順位」については、新型コロナウイルス感染症の影響から1位は「経済成長」、2位は「感染症問題の解決」となっているが、第3位が「排出削減とエネルギー・トランジションの積極的推進」である。4位の「貧富の格差の是正」、5位の「両岸関係の改善」よりも優先度が高いという結果となった。

図5 「長期的発展のため政府施政の優先順位」について(2つ選択可)(2020年)

図5 「長期的発展のため政府施政の優先順位」について(2つ選択可)(2020年)

(出所)RCPRC「エネルギー・トランジションの国民感知度」に関する2020年の調査結果より筆者作成。

また、2018年と2020年の調査結果において、前述の7つの調査項目のうち「外部費用の内部化」に関する国民の意識には、興味深い変化が確認できる。

「外部費用の内部化」では、「エネルギー・トランジションのため納得できる電気代の値上げ」について調査が行われた。すると2018年の結果に比べ、2020年には1kWhあたり 3台湾ドル(約10.5日本円)未満であれば値上げを容認するという回答者が21.3ポイント減少し、代わりに4台湾ドル以上の値上げを容認する回答者が6.7ポイント増加したのである。一方で値上げ反対派はほぼ変わらず、無回答が14.4ポイント増加したのも注目すべき変化である(図6)。

この結果から、エネルギー・トランジションによる電気代については、2年前に少額なら値上げを容認していた人のうち、意識が変わりより高額の負担増を容認する人も増えたが、コロナ禍による経済的ダメージが予測できず、回答を避ける人も増えたとみるのが自然だろう。なお、値上げに賛同する理由としては「大気汚染の改善(57.8%)」「排出削減(45.4%)」「原発事故リスクの軽減(34.9%)」(2つ選択可)が上位3つに挙げられている。

図6 「エネルギー・トランジションのため納得できる電気代の値上げ」について(2018年、2020年比較)

図6 「エネルギー・トランジションのため納得できる電気代の値上げ」について(2018年、2020年比較)

(出所)RCPRC「エネルギー・トランジションの国民感知度」に関する2018年、2020年の調査結果より筆者作成。
経済的負担という点では大口排出企業に対する炭素税課税に伴うガソリン代の値上げに対しても、同様の調査が行われている。2018年には「1リットル当たり2台湾ドル(約7円)以上の値上げ」を容認する人が21.4%、「2台湾ドル未満の値上げ」のみ容認する人が53.1%であった。これに対し、2020年には「2台湾ドル以上の値上げ」容認が38.9%と17.5ポイントも増加している。逆に「2台湾ドル未満の値上げ」のみ容認する人は17.8%となり、2018年から35.3ポイントの減少となった(図7)。また、「値上げに同意しない」人も20.3%から16.6%に減少するなど、2018年からの2年間で、環境問題改善に対する負担増を受容する傾向が国民の間に生まれていることがわかる。

図7 「炭素税課税によるガソリン代値上げの許容範囲」について(2018年、2020年比較)

図7 「炭素税課税によるガソリン代値上げの許容範囲」について(2018年、2020年比較)

(出所)RCPRC「エネルギー・トランジションの国民感知度」に関する2018年、2020年の調査結果より筆者作成。
なお、補足として、2018年の調査では電力会社の多様化に関する「電力市場の改革」についても設問があり、「自由に電力会社を選択する意思」について、約61%の回答者が自由に選択したいと答えている。また、将来的に電力市場が自由化された場合、全体の60%が価格を最優先に考えるとした。このことも踏まえると、2020年の意識調査によってエネルギー・トランジションおよび再生可能エネルギーの拡大を歓迎する傾向にあることが分かった台湾では、一定の値上げが容認される環境にありながらも、電力を割安に(または割安感を出して)提供することが成功に必要な要素の一つとなるかもしれない。
次回の連載に向けて

今回は気候変動やエネルギー・トランジションに対する国民の意識変化を、2018年と2020年の大規模調査の結果から分析した。台湾では、夏季が高温化し集中豪雨も頻発していることなどから国民の気候変動に対する意識が高まりを見せており、エネルギー・トランジション政策に対しても国民の理解が進んでいることが窺える。

次回は、気候変動対策やエネルギー・トランジションを進めていくためのコミュニティレベルでの活動について、代表的な事例から実績や課題を紹介する。

写真の出典
  • すべて著者撮影
参考文献
  • 国立台湾大学社会リスク政策研究センター(2018年)「エネルギー・トランジションの国民感知度に関する調査結果」2018年12月5日の記者会見にて発表。
  • 国立台湾大学社会リスク政策研究センター(2020年)「エネルギー・トランジションの国民感知度に関する調査結果」2020年5月13日の記者会見にて発表。
著者プロフィール

鄭方婷(チェンファンティン) アジア経済研究所海外研究員(台湾・台北市)。2014年4月~2019年4月アジア経済研究所新領域研究センター法・制度研究グループ研究員。博士(法学)。専門は国際関係論、国際政治学、国際環境問題(気候変動)、グローバル・ガバナンス論。主な著作に、『京都議定書後の日本環境外交』三重大学出版会(2013年)、『重複レジームと気候変動交渉:米中対立から協調、そして「パリ協定」へ』現代図書(2017年)など。2019年4月より国立台湾大学にて客員研究員として勤務。

書籍:京都議定書後の環境外交

書籍:重複レジームと気候変動交渉

  1. 層化抽出法とは、統計学における母集団からの標本調査の方法の一つである。具体的には、母集団をその特性に応じていくつかの相互排他的な層に分類できる場合に、その母集団を層化し、各層からランダムに標本を抽出して調査することを指している。