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BRICSと世界)第3回 アルジェリアの選択――エネルギー外交とBRICSとの関係

Algeria's diplomatic choices: Energy diplomacy and its relations with BRICS

PDF版ダウンロードページ:https://hdl.handle.net/2344/0002001388

2025年5月

(4,246字)

アルジェリアの政治・経済構造

アフリカ大陸の北端に位置するアルジェリアは、アフリカ諸国最大の約238万㎢の面積(日本の6.4倍)を擁する。16世紀にオスマン帝国の統治下に入った後、1830年からフランス植民地支配を受けたが、約7年半にわたるフランスとの激烈な独立戦争を経て、1962年に独立した。

政治体制は、大統領を元首とする共和制である。現職のタブーン大統領は、ブーテフリカ前政権(任期1999~2019年)崩壊後の政治的混乱が続いていた2019年12月に就任し、2024年9月の大統領選挙で再選を果たした。大統領を支えるのは、独立解放運動を牽引した現与党の民族解放戦線(FLN)とアルジェリア人民国軍(ANP)であり、両組織とも歴代政権の政策決定に影響力を及ぼしてきた。

アルジェリアの基幹産業は石油・天然ガス産業であり、アルジェリア経済における同産業は常時、輸出額の約9割、財政収入の約5割、GDPの約3割を占める。歴代政権は資源輸出から得た巨額の財政収入を、大規模なばらまき政策の財源に投入し、公務員数を増加させたり、食料・燃料補助金を充実させたりすることで、国民の支持獲得や社会不満の抑制を図ってきた。2011年の「アラブの春」に伴うデモ対応においても、基礎食料品に対する付加価値税の減税や公務員給与および年金の増額などを行い、拡大しつつあった国民の社会不満を抑え込んだ。

一方、資源収入の低迷は国の財政問題に直結し、そして財政問題はアルジェリアの政治体制の安定性にも影響を及ぼす。国民の不満の高まりを抑え込む懐柔政策を実施できないことは体制存続の危機を意味する(高橋 2019)。

欧米追従路線と一線を画すアルジェリア外交

1962年の独立後もフランスの影響力が根強く残るなか、アルジェリアは社会主義に基づく国家建設を開始し、一党体制や計画経済といったソ連を倣った政治経済体制の構築を目指した。外交方針は米ソ両陣営に属さない、非同盟主義の立場であったが、アルジェリアはフランスの影響力に対抗するため、ソ連への接近を図った。特に、ソ連のアルジェリア支援は軍事面で際立った。アルジェリアはソ連から戦闘機や戦車、戦艦などを購入して軍備拡大を進めた(Mokhefi 2015)。また、ソ連製兵器の運用やソ連の軍事戦術への知識を深めるため、アルジェリア軍将校の多くがソ連に派遣され、軍事研修を受けた。こうした軍関係者間の交流は、アルジェリア軍内で親ロシア勢力が誕生する素地となった。

その後、両国関係は1990年代にソ連崩壊(1991年)とアルジェリア内戦勃発(1992年)を契機に縮小傾向に転じたが、2000年代に入り、ブーテフリカ・プーチン両大統領の下、アルジェリア・ロシア関係は著しく進展した。2001年、両国は戦略的パートナーシップ協定を締結し、アルジェリアは、ロシアが同協定を締結した最初のアラブ諸国になった(高橋 2022)。

アルジェリアのタブーン大統領(左)とロシアのヴォロージン国家院(連邦議会下院)議長(2023年)

アルジェリアのタブーン大統領(左)とロシアのヴォロージン国家院(連邦議会下院)議長(2023年)

アルジェリアの対アフリカ政策については独立以来、外交政策の軸である「積極的な中立主義と非同盟」に基づいてきた。1970年代当時のブーメディエン大統領と当時外相であったブーテフリカはアフリカでの使命として、植民地統治が残るアフリカ諸国の解放や人種支配が続く南アフリカの人民への支持を表明した。そして、アルジェリアはモザンビークやギニアビサウ、西サハラの解放運動を支援することで、外交面での存在感を示そうと試みてきた。
アルジェリアのBRICS加盟とエネルギー戦略

欧米追従路線と一線を画す外交アプローチを追求するなかで、アルジェリアはBRICSへの加盟に向けて動き出した。2022年11月にBRICS加盟を申請した後、2023年には「BRICS開発銀行(後の新開発銀行、NDB)」に15億ドルの拠出を表明したり、タブーン大統領によるロシア(同年6月)および中国(同年7月)訪問を通じて加盟に向けた支持集めを行ったりするなど、BRICS加盟に強い意欲を見せた。NDB は2014年に設立されたBRICSの多国間開発銀行であり、新興市場や発展途上国における持続可能な開発プロジェクトへの融資を主な活動とする。

アルジェリアがBRICS加盟を推し進める背景には、経済的な動機があると考えられる。アルジェリアは、主要投資国である中国からさらなる投資を求めているほか、経済成長が目覚ましいインドとの貿易拡大を望んでいる。また、世界有数の小麦輸入国であるアルジェリアは、ウクライナ危機下で小麦調達競争が激化するなか、生産量世界第2位のインドや第3位のロシアからの輸入を試みている。加えて、アルジェリアは低い食料自給率をカバーするため、ブラジルから食肉やトウモロコシなどの追加輸入にも期待している。アルジェリアは経済協力や食料安全保障の観点から、BRICS加盟を通じて各国と関係強化を図れることに大きなメリットを見出している。

さらに、BRICS加盟国同士での強固な繋がりは、アルジェリアにとってエネルギー協力を拡大できる好機となる。アルジェリアの資源輸出相手国は主に、地中海を隔て隣接する欧州諸国である。2023年の欧州向け輸出額の割合は全体の約7割を占め、特にイタリア(資源輸出総額の31%)、フランス(13%)、スペイン(10%)の3カ国がアルジェリア産石油・ガスの重要な供給先である(ONS 2024)(図1)。しかし欧州諸国では、脱炭素化の流れにより石油・ガス需要の先行きが不透明である。このため、アルジェリアは最大の財政収入源である資源収入の維持・増加に向け、エネルギー消費大国である中国やインドにも販路を広げる必要が出てきた。

図1 アルジェリアの国別資源輸出額の割合(2023年)

図1 アルジェリアの国別資源輸出額の割合(2023年)

(出所)アルジェリア国家統計局(ONS)より筆者作成

アルジェリアが進めるクリーンエネルギーの導入においても、中国やロシアとの協力が重要になりつつある。アルジェリアでは、人口増加に伴う電力消費量の増加を受け、発電用ガス消費量の高まりが輸出割当て量を圧迫し、天然ガスの輸出率(国内生産量に占める輸出量の割合)を低下させている。ガス輸出率は2001年の77%から2023年には54%に減少した(Energy Institute 2024)(図2)。

アルジェリアは増加の一途を辿る電力需要に対応するため、発電所の新設を急務と捉える一方、温室効果ガスの排出削減を目的とした脱炭素化への取り組みも余儀なくされている。このため、温室効果ガスの大半を占める二酸化炭素(CO2)を排出しない太陽光発電を導入し、ガス火力依存(発電比率99%)の電源構成を多角化することで、発電用ガスの消費抑制に努めている。

そこで、中国の太陽光発電産業は、アルジェリアが目指す太陽光エネルギーの普及に貢献できるだろう。中国企業は大部分の太陽光関連部品(たとえばモジュール、セル、ウエハー、多結晶シリコン)の世界シェアで7割以上を占め(IEA 2023)、事業コストの抑制に成功し、価格競争で欧米企業を圧倒している。アルジェリアにとっては、中国企業の参入による低価格化が電気料金の引き下げにつながる利点となる。

また、アルジェリアはロシアとの原子力協力の進展も求めている。ロシアは燃料供給国としての強みを生かし、トルコやエジプトで原発建設を受注し、中東の原発輸出市場で存在感を強めている(高橋 2023)。近年、原子力発電もCO2を排出しないクリーンエネルギーとして重要性を帯びている。太陽光発電と異なる点として、昼夜問わず発電することも可能であるため、ロシア製の原発はアルジェリアの発電用ガス消費のさらなる抑制に寄与するだろう。このように、アルジェリアはクリーンエネルギー分野での中国とロシアの役割に大きな期待を寄せている。

図2 アルジェリアの天然ガス消費量および輸出量(2001~2023年)

図2 アルジェリアの天然ガス消費量および輸出量(2001~2023年)

(出所)エネルギー研究所(Energy Institute) より筆者作成

BRICS加盟見送りの背景

2023年8月に南アフリカで開催された第15回BRICS首脳会談で、アフリカ諸国のなかからエジプトやエチオピアを含む、6カ国が新規加盟に向けた招待を受けた。しかし、同じく加盟申請したアルジェリアの参加は見送られた。  

アルジェリアのBRICS加盟が却下された背景には、人口規模や経済多角化の面でアルジェリアがエジプトおよびエチオピアよりも劣っていることがある1。アルジェリアの人口が2023年時点で4616万人2に留まるのに対し、エジプトやエチオピアの人口は倍の1億人以上であるため、アルジェリアの経済市場は両国よりも小さい。また、アルジェリア経済の過度な石油・ガス依存や市場参入への規制といった側面も、地域経済枠組み参加への障害となった。その他、アルジェリアがロシアや中国、南アフリカとの関係を深化させてきたのと対照的に、アルジェリアの対インド・対ブラジル関係は特段進展していなかった点もBRICS加盟への足かせとなった可能性がある。

アルジェリアのBRICS 加盟が遠のいた一方、2024年8月に南アフリカで開催されたNDB第9回理事会では、アルジェリアのNDB加盟が正式に承認された。アルジェリアとしては、ウクライナ危機に伴う資源高で得た莫大な石油・ガス収入をNBDの資金源に提供することで、経済力をアピールする狙いがあると考えられる。資源輸出額は2020年の202億ドルから2022年には589億ドルまで急増し、2023年も504億ドルを記録した(図3)。こうした余剰資金はこれまで、ばらまき政策で生じた財政赤字の補填に利用されてきたが、今後は外交上のプレゼンス向上を目的に、諸外国への開発援助にも活用されることが予想される。

図3 アルジェリアの石油・天然ガス輸出額の推移(2016~2023年)

図3 アルジェリアの石油・天然ガス輸出額の推移(2016~2023年)

(出所)アルジェリア銀行(Banque d’Algérie)より筆者作成

アルジェリアが目指す上海協力機構への加盟

アルジェリアがBRICSと同じく、加盟を目指す地域機構は、上海協力機構(SCO: Shanghai Cooperation Organization)である。SCOは2001年に設立され、近年に加盟国が増加傾向にあり、中東諸国ではイランが2023年に仲間入りした。アルジェリアは2024年5月、将来の加盟を視野に入れたSCO対話パートナー国への資格申請を行った3

SCO加盟国にはBRICS と同じく、中国やロシア、インドが含まれることから、仮にアルジェリアがBRICS 加盟を実現できなくとも、SCOを通じて各国との経済・エネルギー関係を強化できることを念頭に置いていると考えられる。アルジェリアにとって、新興国を中心とした多国間地域枠組みへの参加は、現政治体制の命運を握るエネルギー収入の行方にも関係するため、この先も外交上の優先課題となるだろう。

(2025年3月31日脱稿)

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
参考文献
  • 高橋雅英2019.「ポスト・ブーテフリカ体制期の混乱――反ブーテフリカ抗議デモの長期化と軍部の台頭」『中東研究』第536号、27~41ページ。
  • 高橋雅英2022.「アルジェリアの対ロシア・対フランス関係――ウクライナ危機でのエネルギー供給国の役割」『中東研究』第544号、49~59ページ。
  • 高橋雅英2023.「中東の原子力発電市場におけるロシア――燃料供給国としての強み」『中東研究』第547号、94~104ページ。
  • Banque d’Algérie 2024. “Rapport annuel 2023,” août.
  • Energy Institute 2024. Statistical Review of World Energy 2024, June.(2025 年1月30日閲覧)
  • International Energy Agency (IEA) 2023. “Energy Technology Perspectives 2023,” January.(2025 年1月30日閲覧)
  • Mokhefi, Mansouria 2015. “Alger-Moscou: évolution et limites d’une relation privilégiée,” Politique étrangère, 2015/3, pp.57-70.
  • Office National des Statistiques (ONS) 2024. Evolution des échanges extérieurs de marchandises de 2018 à 2023, décembre.
著者プロフィール

高橋雅英(たかはしまさひで) 公益財団法人中東調査会主任研究員。修士(地域研究、国際経済学)。専門は北アフリカ地域研究、エネルギー経済学、フランスの中東政策。おもな論文に、「フランスの中東政策――湾岸諸国との関係強化と対マグリブ関係の展望」(『中東協力センターニュース』47(7)、2022年)、「UAE のクリーンエネルギー政策と天然ガス産業」(『中東研究』551、2024年)など。


  1. Yara Rizk, “Pourquoi, sur le papier, l’Algérie aurait pu intégrer les Brics,Jeune Afrique, septembre 1, 2023.(2025年2月1日閲覧)
  2. World Bank, “Population, total - Algeria.”(2025年2月1日閲覧)
  3. Algeria Applies to Join the Shanghai Cooperation Organization,” Russia's Pivot to Asia, May 23, 2024.(2025年2月1日閲覧)