BOPレポート(Bottom of the Pyramid)

アフリカ成長企業ファイルは2008年度~2009年度に実施した調査事業の成果です。

9. 各地域のニーズへの対応

新たな世紀に入り、世界のMNC上位200社の生産量は、世界全体のGDPの約30%近くを占めるようになった。だが、それらの企業が抱える労働者の数は世界の労働力の1%にも満たない。世界の100大経済単位のうち、51は企業である。開発途上諸国は、依然として絶対的経済停滞や経済低迷にある。

もしMNCが21世紀も繁栄したいのならば、その経済基盤を広げ、より多くの人々と共有すべきである。MNCは、貧富の格差の縮小にもっと積極的な役割を果たさなければならない。これらMNCが第1層の消費者を主要ターゲットとした世界製品と呼ばれるものを生産し続けるならば、この目標は達成できない。地域の市場、文化を助成し、地域ソリューションを活用しながら、最貧困層の富を構築していく必要がある。富を搾取するのではなく、これらの貧困諸国で富を生産するということが、指標とすべき原則となるであろう。

これを実現するには、MNCは自社の先進技術と地域固有の深い洞察力を組み合わせなければならない。例として、包装について検討しよう。第1層諸国の消費者には可処分所得があり、大量購入品(たとえば10ポンドの箱詰洗剤)を保管できるスペースを持ち、買い物をする回数を少なくすることができる。第1層の消費者は「保管による利便性」にお金を使う。しかし第4層の消費者は、現金に貧窮し、居住スペースも限られているため、毎日買い物するがその量は少ない。第4層の消費者は家庭用品を保管する場所的余裕がなく、購入できる選択肢が限られている。つまり、1回用の包装を求めているのである。しかし少量を購入する消費者にも実験を行う利点はある。製品を大量に購入しないため、購入のたびに購入する商品を変えることができるという点である。

インドでは、身の回り用商品とその他の消耗品の30%(シャンプー、紅茶、風邪薬等)が、すでに1回分の包装で販売されている。価格の多くは1ルピー(約1¢)である。もし包装の革新がなければ、この傾向によって大量の固形廃棄物が排出されるであろう。ダウケミカル社とカーギル社は、完全に生分解性を持つ有機プラスチックの生産を試みている。この包装は確実に第4層に対して有効であるが、世界ピラミッドの第4層すべてにおいても革新を巻き起こすであろう。

MNCにとって、最高のアプローチは地域の生産能力と市場知識を世界のベストプラクティスと融合させることである。このイニシアチブに第4層に参加するMNCが加わるにしても、第4層からの企業が加わるにしても、発展原則は同じである。それは、新しいビジネスモデルは地域の人々の文化やライフスタイルを破壊してはならないということである。各地域における世界知識の効果的な融合が求められており、西欧システムの複製が望まれているのではない。

インドの乳産業の発展は、MNCにとって多くの見識をもたらしてくれる。その転換は1946年から始まった。同年グジャラート州にあるKhira District Milk CooperativeはVerghese Kurienの主導のもと自社の処理工場を建設し、現在ではインドでもっとも知られているブランドの一つであるAmulを生み出した。

西欧の大規模酪農場とは異なり、インドでは牛乳の多くが小さな農村で作られていた。農村部の住民は水牛または乳牛を2、3頭ほど所有し、農村部の収集センターに1日2回牛乳を運搬する。住民には、含有脂肪量と牛乳の量に基づき、届けた牛乳分の料金が毎日支払われる。冷蔵バンが牛乳を中央処理工場に運搬し、そこで低温殺菌される。次に貨車が牛乳を主要都市センターに配送する。

農村ベースの牛乳生産から世界規模処理施設に至るまで、バリューチェーン全体が慎重に管理されている。Khira District社は、獣医医療や家畜飼料といったサービスを農家に提供している。Khira District社はまた、低温殺菌牛乳、粉ミルク、バター、チーズ、離乳食、その他の製品の配送も管理している。Amul社の独自性は、分散化された生産と、近代的処理・配送インフラの効率性の融合にある。その結果、それまで辺境に追いやられていた農家は安定した収入を得ることができるようになり、活発な市場参加者に生まれ変わったのである。

20年前インドでは牛乳の供給が不足していたが、いまでは世界最大の牛乳生産国となっている。インドのNational Dairy Development Boardによると、インドの乳業者組合のネットワークには1070万の農家が参加し、これは9万6000の農村社会を包含して、170の乳生産組合も含め285の地域で運営されている。牛乳生産量は1974年以降、年率で4.7%増加した。インドの一人当たりの牛乳摂取量は、20年間で1日107グラムから213グラムに増加している。

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