BOPレポート(Bottom of the Pyramid)

アフリカ成長企業ファイルは2008年度~2009年度に実施した調査事業の成果です。

8. アクセスの向上

第4層のコミュニティは、通常物理的経済的に断絶しているため、BOPの発展にとっては流通システムと通信リンクの改善が不可欠である。大規模な新興市場諸国のほとんどが、人口の半数以上にアクセスできるような流通システムを持っていない(したがって最貧層の消費者は地元製品、サービス、貸金業者に依存したままである)。そのため、数社のMNCが農村部の貧困層のニーズを満たすような独自の流通システムを構築した。

しかしながら、創造性に富んだ地元企業の方が効率的な地域流通には一歩秀でている。たとえば、インドではArvind Millsがブルーデニムで全く新しい流通システムを導入した。Arvindは世界第5位のデニムメーカーだが、インドの国内デニム市場は限られていると考えた。一本40ドルから60ドルではジーンズは一般消費者には手が届かず、既存の流通システムではわずかな街と農村に行きわたるだけである。そこで、ArvindはRuf&Tufと呼ばれるジーンズを導入した。これはジーンズを作るための材料が揃ったキット(デニム、ジッパー、リベット、パッチ)であり、価格は6ドルである。キットは地元の数千の仕立屋のネットワークを通じて流通し、多くは小さな地方の街や農村に提供され、仕立屋は自身の利益のためにこのキットを広く販売しようとした。Ruf&Tufジーンズは現在インドで最も売れているジーンズであり、Levi's等米国やヨーロッパのブランドを軽く凌駕してしまった。

またMNCは、BOPにいる企業に国際市場へのリンクを与えることで、第4層企業の製品を第1層市場で流通させることもできる。実際、提携関係を築くことで伝統的知識を活用し、より長持ちしてときにはより優れた製品を、第1層消費者に提供することが可能である。

The Body Shop International plcのCEO、Anita Roddickは、先住民から地域の原料や製品を調達するプログラム「援助ではなく貿易」(trade not aid)により、この戦略の力を示したのである。

最近ではスターバックスが、Conservation Internationalと協力してメキシコのChiapas地方の農家から直接コーヒーを調達するプログラムを実施した。これらの農場は木陰を使ってコーヒー豆を有機栽培し、鳥たちの住処を保存している。スターバックスはこの製品を、米国消費者に高品質のプレミアムコーヒーとして販売している。メキシコの農家はこの調達プログラムにより、ビジネスモデルから仲介業者を排除することで、経済的に利益を得ることができる。この直接的関係はまた、第1層市場とその消費者の期待に対する地元農家の理解や知識を高めるという効果がある。

情報の欠如は、持続可能な発展の唯一で最大の障害なのかもしれない。人類の半数以上が一度も電話をかけたことがない。しかし、歴史上初めて電話やインターネット接続が存在することで、世界の富裕層と貧困層が相互に繋がった、真に持続的な経済発展を探求することができる単一市場を、想像することが可能となった。そのプロセスによりデジタルディバイドを「デジタル分配」(digital dividend)に変換することができる。

ロンドンに拠点を置くWorldtel Ltd.は、電気通信組合が新興市場で通信開発を行うために設立した企業であるが、その会長兼CEOであるSam Pitrodaは、10年前インドを訪れ「地域電話」の概念を持ち込んだ。彼の元々のコンセプトはコミュニティ電話を使うことであった。これは起業家(通常は女性)が電話の使用料を課金し、電話の維持費用として一定のパーセントを賃金として受け取るというものである。こんにちでは、インドの大部分から世界中に電話をかけることが可能である。

その他の起業家では、ファックスサービスを導入し、なかには低コストEメールやインターネットアクセスを試す者もいる。これらの通信リンクは、農村の機能や、農村と国内の他地域や世界とのつながりを劇的に転換した。グローバルブロードバンド接続の登場により、第4層における情報ビジネスのチャンスは大きく広がるであろう。

インドのCorDECTや南米のCelnicos Communicationsといった新しいベンチャー企業は、BOPが求める固有の要求に適した情報技術やビジネスモデルの開発を行っている。共有アクセスモデル(インターネットキオスクなど)、ワイヤレスインフラ、集束テクノロジー開発により、企業は接続コストを大幅に低下させている。たとえば、先進国では音声とデータ接続に1回線当たり850ドルから2800ドルのコストが企業にかかる。CorDECTはこのコストを1回線当たり400ドル未満に抑え、100ドルにすることが目標である。その結果、開発途上国のすべての人々に通信機会を提供できるだろう。

非常に大きなビジネスチャンス、発展チャンスを認識したヒューレット・パッカード社は、「世界のE統合」(world e-inclusion)というビジョンを掲げ、世界の貧困層のニーズに適した技術、製品、サービスを提供することに注力している。この戦略の一環としてHPは、遠隔地農村部に「テレセンター」を完備するため、MIT Media Lab、およびコスタリカの持続的発展のための財団法人Foundation for Sustainable Development of Costa Rica(Jose Maria Figueres Olsen前大統領が主宰)と合弁した。これらのデジタルタウンセンターは、低廉な高速インターネット接続をクレジット通信により農村レベルで提供できる、近代情報テクノロジーを採用している。

このような技術を第4層の農村に提供することで、遠隔教育、遠隔医療、小規模銀行取引、農業拡大サービス、環境モニタリング等を実現することができ、これらのすべてが小規模企業、経済発展、世界市場へのアクセスの促進につながるのである。このプロジェクトはLincosと名付けられ、中央アメリカ、カリブ諸国、アジア、アフリカ、中央ヨーロッパといった現在の試験施設から、さらに拡大されていくことが予想されている。

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