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BOPレポート(Bottom of the Pyramid)

6. 購買力の形成

ILO発行の World Employment Report 2001 によると、約10億人(世界の労働人口の約1/3)が、不完全雇用であるか低所得労働であり、自身とその家族を養うことができない。世界の貧困層が自分の力で絶望のラインを超えるよう支援することは、社会に貢献するためのビジネスモデルである。これを効率的に行うにはふたつの介入が不可欠である。ひとつは信用取引へのアクセスの提供、もうひとつが貧困層の収入の潜在性を高めることである。先見の明のある数社がこの道を既に進み始めており、驚くべき結果を残している。

商業信用取引は、貧困層はこれまで利用できなかった。貧困でありながら銀行を利用している人でも、従来の銀行システムでは担保無しに信用を得ることは困難であった。ペルーの経済学者Hernando de Sotoは、その革新的研究 The Mystery of Capital: Why Capitalism Triumphs in the West and Fails Everywhere Else のなかで、商業信用取引は市場経済構築の中心であるとしている。米国で信用取引が可能になったことで、下流家庭の者でも制度的に株式を持ち、家、自動車、教育といった主要な財とサービスを購入できるようになったのである。

開発途上国の大部分の人々は、インフォーマルな、あるいは非合法な経済活動によって生活している。法的所有権や資産の確保、企業設立のために時間がかかりすぎ、さらにコストが高額に設定されているためである。開発途上国政府は貧困サイクルから貧困層を救うため補助金を給付したが、ほとんどうまくいかなかった。たとえ貧困層が政府の支援により小規模なビジネスを始めることができたとしても、地元の高利貸しに資金を依存していたため成功することは不可能だった。インドのムンバイにある地元貸金業者は、1日最大で20%の利子を取っている。これは、野菜行商人が朝100ルピー(2.08ドル)借りると、夜には120ルピー(2.50ドル)返さなければならない計算になる。

貧困層への信用を拡大し経済的に彼らを支えることは、新しいアイデアではない。1851年に設立されたI.M. Singer & Companyが、ミシンを購入するために数百万の女性に信用を提供した例がある。それらの女性のほとんどが、100ドルのという高額な値を支払うことはできなかったが、月5ドルであれば返済可能だったのである。

同じ論理がより大きな規模で第4層に適用される。例えば、バングラディシュのGrameen Bank Ltd.が世界で初めて商業銀行業務においてマイクロファイナンスを実施している。バングラディシュのChittagong大学経済学部の元教授であったMuhammad Yunusが20年前に始めたグラミン銀行は、貧困層への融資の先駆けとなり、数千のマイクロファイナンス業者が後に続いた。それにより世界中の開発途上国と、米国やイギリスを含む先進国で2500万のクライアントを持つまでに成長した。

グラミン銀行のプログラムは、低所得消費者に信用を拡大する際の問題(担保の欠如、高信用リスク、契約の履行)に対処するために作成されている。2300万人の顧客のうち95%が女性で、彼女らは農村地域において伝統的稼ぎ手であり起業家でもあるから、男性よりも信用リスクが低い。融資の候補者は、地域コミュニティで家族以外の者5名による徹底的な評価と了承を受けなければならない。グラミン銀行の販売・サービス担当者は農村を頻繁に訪れ、借入金がある女性や、投資対象となるプロジェクトを調査している。この方法で、西欧で一般的な大量の書類と難解な言語を要せず融資のデュー・デリジェンスが達成される。

グラミン銀行は1170の支店を持ち、4万以上の農村で小規模信用サービスを行い、バングラディシュ国内ではサービス全体の半分以上を占めている。1996年の時点で、グラミン銀行は返済率95%を達成し、インド亜大陸のどの銀行よりも高くなっている。しかしながら、マイクロファイナンスが普及したことで競合者も増え、ここ数年の利益は縮小している。

さらに、グラミン銀行の返済率は評価が難しい。これまでグラミン銀行は完全にマニュアルかつフィールドベースの運営で、効率性には優れない構造であった。今日、Grameen Telecom(農村電話サービスプロバイダ)やGrameen Shakti(再生可能エネルギー源の開発業者)等へのスピンオフにより、グラミン銀行はプロセスを自動化する技術インフラを構築している。グラミン銀行がそのオンラインビジネスモデルを開発するなかで、利益率は大きく増加し、これは小規模信用サービスにおける革命の展開において情報テクノロジーが重要な役割を果たすことを示している。

グラミン銀行の成功のなかでおそらくもっとも適切な測定基準は、グラミン銀行が世界に推進したマイクロファイナンスの制度的影響力の世界的爆発である。南アフリカでは人口の73%が毎月5000ランド(460ドル)未満の所得であるが(2001年の世界銀行調査)、低所得顧客に対するリテールバンク業務は、もっとも競争力があり急速に成長する大きな市場のひとつになっている。1994年、Standard Bank of South Africa Ltd.(アフリカの主要消費者銀行)は、低コストでボリューム重視のEバンキングビジネス(AutoBank E)を導入し、貧困層に銀行業務を展開して収益の向上をめざした。2500機のATMと98のAutoBank Eセンターを設置して、スタンダード銀行は現在、南アフリカの黒人居住区とその他のサービス未展開地域において最大のシェアを誇っている。2001年4月時点で、スタンダード銀行は300万近くの低所得顧客を持ち、さらに毎月6万人以上顧客を増やしている(南アフリカの Sunday Times 紙)。

スタンダード銀行はAutoBank Eアカウントを開設するための最低所得を定めていないが、定期的な所得は必須としている。これまで銀行口座を開設したことがない者でも、8ドルから口座を開設することができる。顧客はATMカードを所有し、各種アフリカ言語を話すスタッフが使用法を説明する。少額の均一料金がATM取引ごとに課金される。利子が付く「貯金財布」が各口座に設けられ、貧困層に貯金を奨励している。預金の利子は低いが、瓶に現金を貯めるよりはいい。 Sunday Times 紙はまた、スタンダード銀行が低所得顧客に対して貸付プログラムを検討していると報じた。

小規模融資サービスのコンピュータ化は、全体的運営を効率化するだけでなく、担保や公的住所がない者にも融資できるようになり、より多くの人が利用できるようになるという利点がある。諸経費や書類作業が少ないため、AutoBankのコストは従来の支店形態よりも30%から40%低くなっている。

1999年のマイクロクレジット・サミットにおいて、国連は何社かの主要MNC(Citigroup Inc.、Monsanto Company)と共同で、2005年までに世界の最貧困1億家庭に基本的な信用を与えるという目標を設定した。不運にも、この目標は高取引コスト、自動化の欠如、農村地域の情報や通信インフラ設備の不足によって達成が遅れている。

これらの問題に対処しマイクロファイナンスの発展を加速させるため、フランスの銀行家Jacques Attali(European Bank for Reconstruction and Developmentの設立者、1980年代のフランス大統領François Mitterandの主席補佐官)は、PlaNet Financeを創設した。そのウェブサイト(www.planetfinance.org)は、世界の数千のマイクロファイナンス・グループをひとつのネットワークにまとめ、マイクロファイナンス銀行がソリューションや低コストを共有できるよう支援している。

最終的に、マイクロファイナンスに関連する数百万の小規模貸付の追跡と処理を自動化することが可能である。処理と取引コストを十分に下げることができれば、これをひとつにまとめて、第2次市場でシティグループ等の多国籍金融企業に販売することもできる。これにより寄贈者や政府からの現在の出資を超え、マイクロファイナンスに利用できる資本を、大きく拡大することができるであろう。

米国では、マイクロファイナンスは貧困な郊外地域においてここ10年根付き始めている。たとえば、ShoreBank Corporation(前South Shore Bank)は、貧困層が多いシカゴ南部で利益を上げている。Project Enterpriseは、ニューヨークに拠点を置くグラミンのようなプログラムであり、少数の起業家を対象としている。

いくつかの多国籍銀行は、開発途上国において小規模銀行サービスを提供し始めている。たとえば、シティグループはインドのバンガロールで預金額25ドル以上の顧客に年中無休サービスを実験的に導入している。初期の結果は非常に良好である。

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