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BOPレポート(Bottom of the Pyramid)

5. 第4層のパイオニア

Hindustan Lever Ltd.(HLL)は英国ユニリーバの子会社であり、インドでもっとも良好な経営を行っていると広く考えられている。この会社は最貧困層の市場を開拓するMNCのパイオニア企業のひとつである。50年以上にわたり、HLLはMNCの作る製品を購入できるインドのわずかなエリートのために製品を提供してきた。90年代になると、地元企業であるNirma Ltd.は、農村地域の貧困消費者のために洗剤を販売し始めた。実際、Nirmaは新しい製剤方法、低コスト製造プロセス、広範な流通ネットワーク、日常用に作られた特殊包装、低価格を取り入れた新しいビジネスシステムを確立した。

HLLは、通常のMNCと同様、Nirmaの戦略を当初は否定していた。しかし、Nirmaが急速に成長を遂げるなかでHLLは、自分たちが不要とみなした市場で地元の競合企業であるNirmaが成功していることを認識した。1995年、HLLはこの市場に自社製品を投入し、従来のビジネスモデルを大きく転換した。

HLLの新しい洗剤はWheelと呼ばれ、製品の水に対する油の量を大幅に削減し、貧困層が通常河川や公共水道設備で衣類を洗うという事実に対応している。HLLは、生産、販売、流通を分散させインドの農村部にある豊富な労働力を用い、また数千の小売店を通じて販売チャンネルを作りだし、最貧困層にいる人々へ商品を届けた。またHLLは、洗剤ビジネスのコスト構造を転換しWheelを低価格帯で提供できるようにした。

こんにちではNirmaとHLLは洗剤市場で拮抗している。ビジネス情報・市場調査サービスのIndiaInfoline.comによると、それぞれ38%の市場占有率を持っている。ユニリーバが行った独自の分析では、NirmaとHLLの洗剤ビジネスにおける競争は、BOPにはいま以上の利益を得られる潜在性があることを示しているという。

一般の仮説とは反対に、貧困層は、とくにMNCがビジネスモデルを転換すれば、非常に収益の高い市場なのである。具体的には、第4層は従来のハイマージンの商品を販売できる市場ではなく、量と資本効率で収益を上げることができる。収益率は低くても、販売量は非常に多くなる。売上総利益に注目する経営者は、最貧困層にあるチャンスを見逃すであろうが、経済的利益に着目する経営者は利益を上げることができるであろう。

Nirmaは、世界で最大のブランド洗剤メーカーのひとつになった。一方で、HLLはライバルの出現とその結果としてのビジネスモデルの転換により、年間収益を20%増加させ、1995年から2000年にかけ年間成長率25%を記録した。同時期HLLの時価総額は120億ドルに達したが、これは年間40%の成長率である。HLLの親会社であるユニリーバもまた、その子会社のインドにおける成功から収益を上げた。ユニリーバはHLLのビジネス原理をブラジルの洗剤市場に投入し、Alaブランドの名で成功を収めた。さらに重要なことにユニリーバはBOPを企業戦略優先事項として採用したのである。

ユニリーバの例が明確に示すように、最初に認識すべきは、第4層でのビジネスは最高の技術と世界資源ベースを用い各地の市場条件に対応することが必要であるという点である。安くて質の低い製品を作ることがゴールではない。第4層の潜在性は起業家精神なしには実現できない。経営者にとって真に戦略的な課題は、現在絶望的な貧困のみが存在するところに活発な市場を発見することである。未だまったく組織化されていないセクターにおいて市場インフラを構築するには、大きな想像力と創造性が要求される。

第4層市場での展開は、既存の市場での展開をさらに改善したり、効率化させることと同義ではない。まず経営者は、第4層のニーズと課題に合わせて商業インフラを構築する必要がある。このインフラの構築は、工場、加工施設、製品、R&Dといった一般的な投資と同様に、投資としてみなさなければならない。

さらに、従来の投資戦略とは対照的に、これを一社で行える企業はない。各政府機関、NGO、地域社会、金融機関、その他の企業など複数のプレイヤーが参加してこそ、はじめて達成できるのである。購買力の形成、欲求の形成、アクセスの向上、各地域のニーズへの対応という4つの要素が、第4層市場での成功のカギである。

この4つの要素それぞれに、テクノロジー、ビジネスモデル、管理プロセスの革新が求められる。そして、ビジネスリーダーは、地域での実験、協力、権限の付与を進んで行い、競争力や富の新しい源を形成しなければならない。

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