BOPレポート(Bottom of the Pyramid)

アフリカ成長企業ファイルは2008年度~2009年度に実施した調査事業の成果です。

2. BOPの概要

「我々は根本的疑問から逃れることができない。ビジネスは誰のため、そして何のためなのか。答えは一時明確にされたと思われたが、今では曖昧だ。ビジネスという言葉の意味が変わったのである。」
—チャールズ・ハンディ

「氷山の一角のように、チャンスは企業世界には見えないままである。」
—C. K. プラハラード、ステュアート・ハート

冷戦の終結により、旧ソ連とその同盟国、ならびに中国、インド、南米諸国は、その閉鎖的市場を次々と外国資本に開放していった。この大きな経済的、社会的転換によって多国籍企業(以下ではMNC)は多くの分野で新しい成長チャンスを得たが、期待されていた成果はまだ実現されていない。

まず、開発途上国において何百万にもおよぶ「中流階級」消費者が出現し、彼らがMNCから製品を買い漁るというシナリオは誇張されすぎていた。さらに、アジアや南米で起きた金融危機により新興成長市場の魅力が大きく低下した。その結果、世界中の多くのMNCが投資を抑制し、これらの市場に対するリスク‐報酬構造を再評価し始めたのである。この後退傾向は、米国でのテロ事件や世界的経済停滞によってさらに明確になった。

ここ十年の、多くのMNCの新興成長市場戦略における勢いの低下によっても、現在のチャンスの大きさが変わることはない。実際にはこのチャンスの規模は、考えられていたものよりもはるかに大きいのである。新興成長市場の真の立役者は、開発途上国のわずかな富裕層でもなく、中流階級消費者でもない。実は、初めて市場経済に参加しようとしている「立ち上がる貧困層」(aspiring poor)なのである。

いまこそ、MNCが包括的資本主義という新しいレンズでグローバル戦略を見直すときである。資源と意欲を持つ企業が世界経済最貧困層で競争しようとすれば、成長、利益、そして人類全体に対する計り知れない貢献が得られるであろう。近代的インフラや人間の基本的ニーズを満たす製品を持たない諸国は、世界で使用する環境的に持続可能な技術や製品を開発するのに、理想的な試験場所である。

さらに、MNCの「最貧困層」への投資は貧困や飢えから多くの人々を救い、富裕国と貧困国間の格差が拡大し続けるかぎり変わることのない腐敗、政治的混乱、テロリズム、環境破壊を食い止めることができる。

世界40億の貧困層(世界総人口の2/3)へビジネスを展開するには、技術やビジネスモデルの大きな転換が求められる。MNCは、製品やサービスの価格とパフォーマンスの関係を再評価する必要がある。新しいレベルの資本効率性や、財務上の成功を測る新しい方法も要求される。企業は、その規模に対する理解を「大きければ大きいほどよい」というものから、世界規模で対応力のある高度に分散された小規模形態に改める必要がある。

要約すると、最貧困層は、世界でもっとも裕福な企業に対して新しい経営上の課題を投げかけているのである。つまり、各文化に対応し、環境的に持続可能で、かつ経済的に収益が上がる方法で製品やサービスを生産、販売することによって、貧困層の生活を改善するということである。

BOPという概念は、世界の貧困市場における新しい考え方、そして新しいビジネス手法を提案している。このハイレベルな展望は、必ずしも新しいものではないが、現在の概念B24B(business-to-4-billion)は、大きな影響力を持った経営学者プラハラードとハートが使った用語であり、重要かつ頻繁に引用される諸論文に発展していった。

なかでも重要な論文は:
The Fortune at the Bottom of the Pyramid, C.K. Prahalad of the University of Michigan.
Capitalism at the Crossroads, Stuart L. Hart of Cornell University.
“Reinventing strategies for emerging markets: Beyond the transnational model”, Ted London of the University of Michigan and Hart(最初の実証的論文)
Ted Londonは、UNDPから委託された研究の報告書で、貧困削減領域におけるBOPビジネスの貢献を調査した。

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