IDEスクエア

世界を見る眼

ラオス・中国鉄道は何をもたらすのか?――両国にとっての意義

What will the Laos-China Railway Bring?: Significance for both countries

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00052851

2021年11月

(9,301字)

ついに夢が実現したラオス・中国鉄道

2021年12月3日、ラオス・中国鉄道が正式に開通し、国内長距離鉄道の敷設というラオスの長年の夢がついに実現する。このプロジェクトは、「運命共同体」を唱える両国関係の象徴でもある。

今回開通する首都ヴィエンチャンから中国国境のボーテンを経て雲南省昆明まで結ばれる鉄道は、ラオスと中国それぞれが進める壮大なインフラ計画の一部を成す。ラオスは東南アジア大陸部の連結国となるために、全国を鉄道と高速道路で結ぶ計画を進めている。一方、中国にとっても同鉄道は「一帯一路」戦略の一環である。

2016年12月から建設が始まったこのプロジェクトは、構想が明らかになった当初から国際社会の注目を集めてきた。中国による「債務の罠」に陥る可能性を指摘され、事業の採算が疑問視されるなど、現在でも否定的な見解が後を絶たない1。そのようななか鉄道はついに走り始める。

ラオスと中国にはどのような狙いがあるのか。またどのような問題が考えられるのか。本稿ではラオスと中国双方にとっての鉄道の意義を考えてみたい。

写真1 ラオスの首都ヴィエンチャン駅に停車するランサーン
(14世紀に誕生したラオ族初の王国の名称)号(2021年10月20日)
鉄道プロジェクトの経緯

ラオスの鉄道構想は、植民地時代のフランスの計画に端を発する。ただしラオスで敷設された鉄道は南部チャンパーサック県のコーン島とデート島を結ぶ4.5キロメートルだけであり、それも1940年代には運行を終えた。2009年には首都ヴィエンチャンとメコン川を挟んで対岸に位置するタイ・ノンカーイを結ぶ約3.5キロメートルの鉄道が整備された。長距離鉄道建設については1970年代に旧ソ連に支援を打診したが(川合 2021)、実現には至らなかった。

ラオスは2001年から中国と鉄道に関する交渉を始め(Pasaxon, January 9, 2020)、2010年代になりようやく計画が具体化した。2009年にラオス人民革命党は、数ある鉄道計画のなかでラオス=中国路線を最優先と位置付けた(Pathet Lao, September 16, 2021)2。そして2010年4月7日、ラオス公共事業・運輸省と中国鉄道部の間で協力に関する覚書が締結された(Ekasan khosana phuipae nampha naewkhit kiawkap khongkan kosang thang lotfai lao-chin 2016, 7)。2012年10月18日にはラオス国会が特別会議を召集し、政府が中国輸出入銀行から政府保証により約70億ドルを30年の特別融資で借り入れ(10年間の元本返済免除、金利2%)、ラオス・中国鉄道プロジェクト3を実施することを承認した(山田紀彦 2018)4。特別会議の開催は1992年以来であり、高度な政治判断が働いたことがわかる(山田紀彦 2013, 249)。その後11月5日には両国政府の間で鉄道に関する協力文書が締結された(Ekasan khosana phuipae nampha naewkhit kiawkap khongkan kosang thang lotfai lao-chin 2016, 7)。

しかしプロジェクトは一向に進まなかった。2010年8月から始まった鉄道計画のデザインや初期調査は2011年初頭には終了し、2012年には経済・技術分析報告書が完成していた(Pasaxon Socio-Economic, November 17, 2015; Pasaxon, September 20, 2016)。それでも計画が進まなかったのは、ラオスの返済能力を中国が疑問視したこと、そして中国鉄道部の再編などが背景にあったとみられている。

この停滞状況は「一帯一路」戦略の開始により打開された。中国は2013年に同戦略を発表し、その一環として「汎アジア鉄道」構想や東南アジアのインフラ建設をこれまで以上に重視し始めた。つまり、ラオス側の強い要望で進められてきたプロジェクトに、中国が積極的になる理由ができたのである(山田紀彦 2018)。そして2015年11月13日、両国政府は北京にてラオス・中国鉄道建設プロジェクト(建設総額62億8000万ドル)に関する合意文書に調印した。つまり当初計画は、5年間で大きく変更されたのである。

巨大プロジェクトの概要

プロジェクト概要は以下のようになっている。鉄道は単線で全長約422キロメートルであり、全行程のうちトンネルは75カ所、橋梁は167カ所ある。総駅数は33、そのうち旅客駅数は10となっており5、旅客と貨物を含め当初は21駅が先行オープンする。開通後は1日往復18本(旅客4本、貨物14本)の運行が予定されている6。旅客料金は1キロメートルあたり約350キープ(0.3元)/人で、首都ヴィエンチャンからボーテンまで約14万キープとなる。これはバス料金とほぼ同じだが、所要時間は20時間以上短縮される7。輸送費は車両輸送の約半額の約600キープ (0.5元)/キログラムであり、同じく首都ヴィエンチャンからボーテンまでの輸送時間は45時間以上短縮される(Pathet Lao, October 19, 2021)8

建設費の両国負担は以下のとおりである。総額は最終的に約59億8600万ドルとなり、建設・運営はラオス鉄道公社と中国企業3社(磨丁万象鉄路公司[Boten-Vientiane Railway Company Limited]、北京玉昆投資集団[Beijing Yukun Investment Corporation]、雲南省建設投資集団有限公司[Yunnan Investment Holdings Group Co., Ltd.])が建設総額の40%を出資して設立した、ラオス・中国鉄道株式会社が担う。出資比率は中国側が70%、ラオス側が30%であり(Pathet Lao, April 6, 2017)、ラオス側の出資額は約7億3000万ドルとなる。ラオス政府はこのうち4億8000万ドルを金利2.3%で中国輸出入銀行から借り入れた。残りの2億5000万ドル(年間5000万ドル)は政府予算から支出され、主に土地収用や住民への補償に充てられた(Pathet Lao, August 9, 2016; Pasaxon, September 23, 2016, April 6, 2017; Janssen 2017; Malik et al. 2021)。しかし、2018年11月の国会でトーンルン首相(当時)は、土地収用のために中国から1億6000万ドルの追加融資を受けたと報告している(The National Assembly of the Lao PDR 2018)。財政不足から債務がさらに膨らんだ可能性が高い。総額の60%(35億4000万ドル)は合弁会社が中国輸出入銀行から借り入れた(Malik et al. 2021)。これに対してラオスは政府保証を行っていない。したがって政府は多額の債務は発生しないと主張するが、後述のように偶発債務の可能性が指摘されている。

地図 ラオスの鉄道計画

(出所)筆者作成
ラオスの狙いと課題

ラオス政府が鉄道に期待するのは、近隣諸国へのアクセシビリティを改善することでもたらされる経済効果である。ラオスは内陸国(Land-Locked)から東南アジア大陸部の連結国(Land-Linked)を目指し、すでに運行している首都ヴィエンチャン=ノンカーイ線を除いて、図のように5本の鉄道計画を描いている。中国との鉄道はその第一歩である。

政府が最も期待するのは、ラオス・中国間およびASEAN・中国間の貿易量の増加による貨物収入である。世界銀行(世銀)によると鉄道の開通により、ラオスを通過する中国とタイ、マレーシア、シンガポールの間の貿易量は2016年の200万トンから2030年までに390万トンに拡大し、同じくラオスから中国への陸上貿易量も120万トンから370万トンに増加するという(World Bank 2020, 9)。世銀は鉄道プロジェクトの成功は貿易量の増加次第だとする。しかし、タイ、マレーシア、シンガポールでは鉄道事業の遅れや中止が相次いでおり、すでにラオス・中国鉄道の採算が懸念されている(岸本 2021)。

そのなかでもラオスから中国への農産物輸出の増加は確実視され、ラオス政府も着々と準備を進めてきた。2020年10月、中国がラオスに対し全品目の97%(8256品目)の関税を免除することで合意した(山田健一郎 2020; Lao Economic Daily 2020)。2021年5月には、中国がラオスからピーナッツやマンゴーなど9種類の農産加工品(15億ドル相当)を5年以内に輸入することとなった(Pasaxon, May 31, 2021)9。さらに11月に両国政府は、柑橘類の輸出に関する検疫条件で合意し、2022年以降にラオスが5万トン(5000万ドル相当)を中国に輸出する(KPL 2021b)。すでに輸入割当を受けているコメ(5万トン)や肉牛(50万頭)の他(Souksakhone 2021)10、ラオスはトウモロコシなど他の品目の割当についても中国と協議予定である(山田健一郎 2021)。

タイも同様に中国への農産物輸出の増加を期待している。タイは2020年にドリアン57万5000トン(約20億ドル相当)を中国に輸出した。フレッシュフルーツの輸出は時間が重要であり、タイ・ドリアン協会もラオス・中国鉄道に期待を寄せている(Global Times, September 26, 2021)。同鉄道が開通すれば中国へのフルーツ輸出はトラックから鉄道輸送に切り替わるという(Nareerat 2021)。タイ国鉄は首都ヴィエンチャン=ノンカーイの貨物列車を1日4本(往復)から、2021年末までに1日10本、2026年までに1日24本に増やす予定である(Bangkok Post 2021)。

ラオスは中国人観光客の増加も期待している。政府は年間観光客数を600万人とする目標を掲げ、観光産業の育成に取り組んできた。しかしこれまで目標値には届いていない。その要因のひとつが中国市場を開拓できていないことである。中国人観光客数は2019年に初めて100万人を超えたが(Vientiane Times 2020)、中国の市場規模を考えればその数は少ない。これまでも中国人観光客は飛行機、バス、自家用車で観光地ルアンパバーンなどを訪れていた。したがって、鉄道ができたからといってすぐに中国から大量の観光客が押し寄せるとは考えられない。中国市場を開拓するには、鉄道を降りてからの公共交通インフラや新たな観光施設の開発が必要になろう。景勝地ヴァンヴィエンでは中国企業が新しい郡の開発許認可権(50億ドル相当)を受けたともいわれている(Voice of America 2021b)。

また政府は、観光客誘致と製造業の輸出増加を狙い、新都市(スマートシティー)や経済特区なども建設する予定である。2021年3月の国会でソーンサイ副首相は、2つの新都市を建設する予定を明らかにした。ひとつはルアンナムター県とウドムサイ県の間、もうひとつは首都ヴィエンチャンのサイセーター総合開発区である(Somsack 2021a)。後者はすでに開発が進み日系企業なども進出している。一方前者は、タイの大手ディベロッパーであるアマタや、ボケオ県の黄金の三角地帯経済特区を運営する金木棉国際(香港)有限公司による新都市構想や経済特区(SEZ)計画を指していると思われる(Nareerat 2021; Voice of America 2021a)。

輸出の増加や観光産業開発は、新たな国家建設路線とも合致する。2021年1月の第11回党大会でラオス人民革命党は、今後は大規模な公共インフラ事業に政府予算を使用しない方針を示し、輸出を増やすとともに雇用拡大による持続的な経済成長を目指す路線に転換した。これまでの成長戦略は、達成したい成長率(7%)を決め、それに必要な投資額(対GDP比3割)を機械的に算出する固定された投資効率に基づいていた(ケオラ 近刊)。だからこそ、政府は総額数十億規模のメガプロジェクトを積極的に推進し、鉄道もその一翼を担ってきた。完成した鉄道は新たな役割を担い始める。

中国の期待と目論見

ラオスの狙いと比べて、中国が両国を結ぶ鉄道に何を期待しているのかいまひとつ見えてこない。以下では、中国国内の報道や論考を基に中国の期待と目論見について考える。

正式開通を間近に控え、中国国内では中国・ラオス鉄道11に関する報道を目にする頻度が増えてきた12。とはいうものの、報道内容は総じて地味で、中国国内の関連工事の順調な進展を報じるものがほとんどである。しかしこれは、中国が同じく社会主義路線を歩み、「運命共同体」と位置付ける隣国ラオスの経済発展に無関心であることを意味しない。

まず中国では、この鉄道建設が「中国・ラオス経済回廊」構築における最重要プロジェクトとして捉えられている13。ラオス国内のインフラ整備構想と、中国人研究者らによる複数の研究成果を照らし合わせると、北からボーテン経済開発区、7つのダムから成るナムウーカスケード、ウドムサイ産業エネルギー協力モデル地区、ルアンパバーン生態特別区、サイセーター総合開発区、そして、ボラウェーン高原開発といった両国の共同建設拠「点」を、鉄道や高速道路という「線」で結ぶといったイメージが浮かぶ14。中国はこのような点と線を起点に、後発開発途上国脱却を目指すラオスの経済発展を支援する姿勢を見せている。

また、ラオスにおける中国プレゼンスの高まりが、ラオスの地政学上の戦略的価値を高めるとの主張もある。韋(2017)によると、鉄道建設などを通じて経済大国中国との関係が一層強まれば、ラオスに対する域外国の関心と関与が高まり、同国の立場は強まるという。そして、現在計画されているラオス国内の複数の鉄道建設が順調に進み、中国・ラオス鉄道と連結されれば、ラオスは「閉ざされた内陸国から連結国(陸のハブ)へと」飛躍できる。

このように、ラオスへのメリットを論じる研究もあるが、中国における鉄道建設をめぐる議論は、中国の総体的外交戦略の枠組みで語られることが多い。具体的には2つある。

第1は、「一帯一路」戦略である。中国・ラオス鉄道は「汎アジア鉄道」構想において、戦略的重要性を有する。中国は現在、同構想を「一帯一路」戦略の枠組みのなかで捉えようとしている。中国・ラオス鉄道は、「汎アジア鉄道」の中央ルート、すなわち、昆明、磨憨(モーハン)、首都ヴィエンチャン、バンコク、クアラルンプールを経てシンガポールに繋がる全長3894キロメートルの中枢を構成する15

第2は、「人類運命共同体」である。この概念は、2012年11月の第18回中国共産党大会で、当時の総書記である胡錦濤が初めて提起し、習近平が継承したものだ。それが現在、アメリカに代わる国際的地位を希求する習近平外交の最も崇高な理念として喧伝されている。2019年4月30日、ラオスのブンニャン書記長(当時)訪中の際に、習近平との間で調印された両党間の「運命共同体に関する中国共産党とラオス人民革命党のマスタープラン」では、両国が「運命共同体」構築に向けてさらなる協力を進めることが確認された16。この運命共同体を「初の二国間戦略運命共同体」と位置づけ、中国外交における戦略的意義を強調する研究者もいる(劉 2021)。鉄道プロジェクトはその象徴といえる。

以上2つの議論にもうひとつ筆者が付け加えるとするならば、本鉄道がラオスと「特別な関係」にあるベトナムへのけん制材料になり得ることである。ベトナムが注視するなか、中国・ラオス関係は近年一段と強化されている。中国政府は、「中国側投資を主体とした共同運営で、中国国内の鉄道網と直接連結し、全線で中国の技術と設備を使用しているという点で、中国・ラオス鉄道は中国初である」とプロジェクトの成果を高く評価する17。中国側が今後、このような「成果」やラオスとの「結束」を誇示し、対越ポジションを高めようとすることも十分考えられる。

もちろん、鉄道がシンガポールまで結ばれれば、中国からASEAN諸国への輸出や投資も増え、中国への経済効果も期待できるだろう。しかし中国・ラオス鉄道に関する中国国内の議論を見ると、経済的利益への期待よりも外交戦略の一環と見る向きが強い。とはいえ先述のように、ラオス以外の地域での鉄道事業が思うように進んでいない。「汎アジア鉄道」構想が実現できなければ「一帯一路」戦略にも影響するだろう。また、中国との関係緊密化がどの程度ラオスの地政学上の地位を高めるかも疑問である。国際社会の注目を集めるにしても、それは中国への批判となって現れる可能性が高い。

写真2 ラオスの首都ヴィエンチャン駅の外観(2021年10月20日)
抜け出せない中国依存

期待どおりの成果を得られるにしろ、そうでないにしろ、鉄道の開通は両国にいくつかの問題を突きつける。

ラオスにとっての問題は、さらなる中国企業と中国人の流入である。当然、中国企業は沿線開発にビジネスチャンスを見ている。そして個人レベルでもラオスで新たに商売を始める中国人がやってくるだろう。中国のプレゼンスがこれまで以上に高まれば、ラオス社会やラオス人との軋轢が生まれる可能性は否定できない。ラオス社会では中国企業への就職を見越した中国語学習ブームが起きる一方で、言語ナショナリズムが高揚するなど、すでに中国の影響力拡大に対する警戒心が生まれている(矢野 2021)。

もうひとつは中国への過度の依存である。鉄道の開通により、タイ経済と密接にリンクしていたラオス経済はそれを凌駕する勢いで中国市場との結びつきを強めるだろう。つまり、鉄道の経済効果を高めれば高めるほど、ラオスの中国依存も深まっていく。

そして最も厄介なのが債務である。鉄道関連の政府債務はさほど大きくない。しかし、ラオスの公的債務残高は2020年には約133億ドル(対GDP比72%)まで拡大し、対外公的債務は約106億ドルとなった(Somsack 2021b)。アメリカの民間調査機関エイドデータ研究所によると、ラオスの中国へのソブリン債務は対GDP比で29.4%だが、政府の明示的または暗黙の保護をうけた国有企業や特定目的会社などへの貸付、いわゆる隠れ債務は同比で35.4%あり、合計すると64.8%となる(Malik et al. 2021, 59)。まさにラオス・中国鉄道の実施方式がこれに該当する。鉄道会社が約35億ドルの債務を返済できない場合、「しくじるには大きすぎる」事業のため、ラオス政府にとって偶発債務となる可能性がある(Malik et al. 2021, 46)。

債務は中国にとっても厄介な問題だ。鉄道建設はラオス側の強い要望で始まり、土地の収用や補償もラオス側の責任である(山田紀彦 2018)。したがって「債務の罠」や「新植民地主義」の汚名を着せられるのは、中国にとっては筋違いといえる。鉄道の開通でラオス経済が潤い、債務返済も順調に進むのであれば、そのような批判は雲散霧消する。しかし、米中対立に好転の兆しが見えず、台湾への軍事的威嚇、そして香港や新疆ウイグル自治区での人権問題への反発も強い欧州諸国の対中姿勢が厳しくなるなか、万が一ラオスが債務不履行に陥った場合、中国は難しい対応を迫られる。厳しく返済を迫り、沿線の開発権を手に入れるにせよ、逆に、最友好国であることを理由に債務免除やリスケジュールをするにせよ、ラオスの対中依存がますます強まり、それが欧米のさらなる対中批判を招くといった悪循環に陥る可能性がある。責任ある大国を自任する中国は、まさにその足元における責任を自覚しておくべきだろう。

ラオスにとって鉄道の効果を最大限生かし、かつ、プロジェクトを失敗させずに存続させるためには、中国に依存するしか道はない。もう後戻りができないなか、鉄道は走り始める。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
  • 写真1、2ともに山田健一郎氏撮影。
参考文献
著者プロフィール

山田紀彦(やまだのりひこ) アジア経済研究所地域研究センター動向分析研究グループ長。専門はラオス地域研究、権威主義体制研究。主な著作は『ラオスの基礎知識』めこん(2018年)、『独裁体制における議会と正当性――中国、ラオス、ベトナム、カンボジア』(編著)アジア経済研究所(2015年)等。 

諏訪一幸(すわかずゆき) 静岡県立大学国際関係学部教授。修士(国際情報学)。専門は現代中国の政治と外交。主な論文は、「全国人民代表大会常務委員会と中国共産党指導体制の維持――法律制定過程における党と議会、そして大衆」山田紀彦編『独裁体制における議会と正当性――中国、ラオス、ベトナム、カンボジア』アジア経済研究所、2015年、35-67ページ、中国共産党の幹部管理政策――「党政幹部」と非共産党組織、『アジア研究』第50巻第2号、2004年、107-125ページなど。


  1. 直近の日本の報道では川合(2021)や田原(2021)などがある。
  2. 首都ヴィエンチャン=ルアンパバーン=ボーテン=雲南線を最優先とし、首都ヴィエンチャン=タケーク=ムーザー(ベトナム)が2番、タケーク=パクセーが3番目の優先順位となっている。
  3. 当時は「ラオス・中国高速鉄道プロジェクト」と呼ばれていたが、本稿では現在の名称である「ラオス・中国鉄道」に統一する。
  4. 国会で報告を行なったのは本鉄道プロジェクトのキーマンであり、中国政府とのパイプをもつ華人のソムサワート副首相(当時)であった。
  5. 10駅とは順番に首都ヴィエンチャン、ポンホーン(ヴィエンチャン県)、ヴァンヴィエン(同)、カシー(同)、ルアンパバーン(ルアンパバーン県)、ムアンサイ(ウドムサイ県)、ムアンガー(同)、ナモー(同)、ナートゥイ(ルアンナムター県)、ボーテン(同)(KPL 2021a).
  6. 1日あたりの最大運行数は当初23本、すべての駅舎が開所した場合は39本だが、本数は需要に応じて変更される(Pathet Lao, October 19, 2021)。
  7. 通常のバス料金との比較であり、寝台車などバスの種類によっては14万キープ以上となっている。
  8. 通常の乗用車でも首都ヴィエンチャンからボーテンまで1日で行くことは難しい。多くの人はウドムサイ県などで一泊する。
  9. ラオス企業AIDCトレーディングと中国国有企業中糧(蘇州)糧油工業との間で文書が交わされた。具体的には、ピーナッツ10万トン、タピオカ粉10万トン、冷凍肉牛10万トン、カシューナッツ20万トン、マンゴー10万トン、ドリアン5万トン、大豆20万トン、バナナ10万トン、砂糖5万トンが輸出される予定である(Pasaxon, May 31, 2021)。
  10. コメは年間2万トン以下、肉牛は2021年4月に2000頭が輸出されたのみであり(Souksakhone 2021; Somsack 2021a)、輸入枠を生かしきれていない。
  11. 中国での報道を基に記述しているため、本小見出しでは「中国・ラオス鉄道」と表記する。
  12. 例えば、「共建中老鉄路 共創繁栄富足」『人民日報』2021年5月11日。
  13. 中老聯合声明」(2021年10月5日、最終アクセス)。
  14. 張 (2021)、宏 (2020)、および「中老経済走廊背景及重点項目」(2021年10月18日、 最終アクセス)。
  15. 韋(2017)および「中老鉄路即将開通運営、舗就連係快車道」(2121年10月29日、最終アクセス)。
  16. 中国共産党和老撾人民革命党関於構建中老命運共同体行動計画」(2021年11月14日、最終アクセス)。
  17. 「共建中老鉄路 共創繁栄富足」『人民日報』2021年5月11日。
この著者の記事