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ラオスにおける中国語学習ブームと言語ナショナリズム――中国依存を巡るジレンマ

Language Nationalism under the Chinese Learning Boom in Laos: Dilemma over Growing Dependence on China

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00052819

矢野 順子
Junko Yano

2021年9月

(10,828字)

正誤表(121KB)

中国語学習ブームの光と影

2021年12月に開業予定のラオス・中国鉄道に代表されるように、ラオスでは近年、中国の存在感が急速に拡大してきた。そうしたなか、人びとの間では中国系企業への就職を目指して、空前の中国語学習ブームがおこっている。中国政府や中国の地方政府の奨学金を得て、または私費で留学する学生数も増加しており、2018年には1万4654人ものラオス人が中国各地の高等教育機関に留学した1。これは国別留学生数では8位、東南アジア諸国ではタイ、インドネシアに次いで3位となる数値であった2

しかし一方で、国民からは街中にあふれる中国語の看板に対する懸念が表明されるなど、中国の影響力増大への警戒心もみられる。

本稿では中国語教育に焦点をあて、中国との関係強化がラオス社会にどのような影響を及ぼしているのか、言語ナショナリズムの観点から考察する。

写真1 ボケオ県の黄金の三角地帯経済特区にある3カ国語の看板

写真1 ボケオ県の黄金の三角地帯経済特区にある3カ国語の看板
拡大する中国語教育

現在、ラオスでは私立の中華学校、一部の中・高等教育機関、民間の語学学校などで中国語教育が実施されている。中華学校はチャンパーサック県、サワンナケート県、首都ヴィエンチャン(以下、ヴィエンチャン)、カムアン県、ルアンパバーン県のいずれも都市部にあり、フランス植民地時代に創設された(『环球印象』2017年12月15日)。国内最大の中華学校であるヴィエンチャンの寮都公学は1937年創立で、幼稚園から後期中等教育課程までの教育が行われている3。2015年9月時点で生徒数は2628人、生徒の90%以上が中国系を含むラオス人である(Phouxay 2018, 14)。このほか、北部を中心に後述する私立の中華学校がある。

中等教育に関しては、制度上は第一外国語が英語である生徒は複数の選択肢のなかから第二外国語に中国語を選択できる4。しかし、現状では全国で教えられているわけではなく、中国の援助をうけるなどした一部の中等教育機関で中国語の授業が行われている5

高等教育機関では、2003年にラオス国立大学文学部に中国語学科が設置された。学生は全員、中国の広西民族大学に1年間留学する。現在、中国語学科は文学部のなかで英語学科に次ぐ規模であるが(Phouxay 2018, 14)、2021~2022学年度入試の学科別出願者数ランキングをみると中国語学科を第1志望とする志願者数は1331人、全学科で1位となっており、人気では5位(688人)の英語学科を圧倒している6。また、ルアンパバーン県のスパヌウォン国立大学にも、2009年に中国語クラスが開設された(Phouxay 2018, 14)。

教育機関だけでなく政府・国家機関でも中国語教育が広がっている。国境警備や出入国管理上の必要から2004年、ヴィエンチャンの警察学校に3年制の中国語プログラムが設置された(『环球印象』2017年12月15日; Phouxay 2018, 14)。ラオスでは2004年頃より中国との間で要人レベルの会合が盛んとなり、貿易や中国からの投資も拡大した。警察学校での中国語プログラム導入の背景には、中国との経済活動の活発化があったと考えられる。

さらに2009年8月には、教育省(当時)と国防省から認可を得て、国防大学に4年制の中国語プログラムが開設された。これは、ラオスへの軍事支援や兵器整備などのプロジェクトに必要な人材の育成、中国留学のための中国語教育を目的としたものである7。国防大学ではラオス人教員と中国国防部により解放軍外国語学院から派遣された中国人教員を中心に中国語教育が行われている(『环球印象』2017年12月15日)。2010年代に入ると、ラオス人民軍と中国人民解放軍(以下、中国軍)の交流が頻繁にみられるようになり、中国・ラオス外交関係樹立50周年にあたる2011年には、両軍の友好関係を強化するためヴィエンチャンで中国軍の「文化活動週間」が開催された8(郑2011)。また、2012年10月には国防大学の代表団が北京を訪問した。その際、中国軍の馬暁天副総参謀長(当時)が、両軍の関係強化のため軍事教育面での交流を希望すると発言しており(Somne 2012)、中国が軍事面での協力関係構築において、教育部門を重視していることがわかる。

このほか、2012年にはヴィエンチャンのタートルアン湿地特定経済区に、中国語を教授言語とする蘇州大学ラオス校が開校された(Phouxay 2018, 14)。小規模なものとしては、ラオス人民革命青年同盟中央委員会が2003年以降、定期的に短期中国語講座を実施しているほか、中華学校で大人向けの中国語コースを開設するなどの動きがみられる(『环球印象』2017年12月15日)。

孔子学院、中国語教育のけん引役

ラオスの中国語教育機関のなかでも、中心的な役割を果たしているのが孔子学院である。孔子学院は、世界各国で中国政府が大学等と連携して設立する中国語・中国文化の教育機関で、2019年末の時点で世界162カ国・地域に550の孔子学院と1172の孔子課堂がある9。しかし、アメリカなど一部の国では、孔子学院は「中国共産党の宣伝機関」であるとの懸念から、閉校するケースもみられる10

ラオスの孔子学院は、ヴィエンチャンのラオス国立大学とルアンパバーン市のスパヌウォン国立大学にある。ラオス国立大学と中国の広西民族大学が共同で運営するヴィエンチャンの孔子学院は、2010年3月に設立され、中国語教育に加えて活発な文化交流活動を実施してきた。中国語教育ではラオス国立大学の学生のほか、社会人や僧侶を対象に中国語コースが開講されている。2013年9月には27の中国語クラスが開講され、学生数は967人であった(潘2019)。

孔子学院の学生数は年々増加しており、新校舎が完成した2019年9月には、入学申込書を求めて570人の定員を超える希望者が殺到し、申込書を入手できなかった1406人が仮登録を行った。中国からの教員派遣を増員することで、最終的に約1200人が新規に入学し、学生総数は約2000人に達した(Lao Youth Radio Station FM90.0 Mhz, 18 September, 2019)。孔子学院には30人以上の中国人、ラオス人の教員が在籍しているものの、学生数の増加に教員の増員が追い付いておらず、中国からの教員派遣の増員とラオス人教員の育成が課題となっている(潘2019)。ヴィエンチャンの孔子学院は中国留学に必要な中国語検定試験(HSK)と中国語会話検定試験(HSKK)のラオス初の指定試験会場にもなっており、以前は受験のために国外に行く必要があった検定試験が、国内で受験できるようになった11

このほか、孔子学院ではラオス政府の重要部署を対象とした中国語講座も行われており、2015年3月からは首相府と経済特区管理委員会の幹部を対象に24カ月の中国語特別コースが実施された。文化交流活動では、中国絵画や太極拳、カンフー、書道など多様な文化体験イベントが定期的に開催され、人気を博している(潘2019)。

2018年に設立されたスパヌウォン国立大学の孔子学院は、昆明理工大学との共同運営で12、2019年に初めて3カ月の短期中国語コースを開講した。ラオスでもっとも有名な観光地であるルアンパバーン市に位置し、ツーリズムに力を入れている同大学では中国人観光客の増加に伴い中国語教育が重視されており、今後中国語の学士プログラムも開設予定である(Maysuli 2019)。

このように、孔子学院はラオスにおける中国語教育拡大のけん引役として、幅広い活動を行ってきた。最新の動きとして、2021~2022学年度にラオス国立大学が孔子学院に中国語教師養成課程の学士プログラムを開設するなど13、中国語教育を担う人材の育成にも力を入れている。しかしながら、中国政府が資金提供する孔子学院の活動は、中国政府の政治的思惑と無縁ではない。スパヌウォン国立大学孔子学院の設置目的には一帯一路と中国・ラオス経済回廊建設への貢献が明記されており14、ラオスにおける孔子学院の活動は中国政府の経済・外交政策の文脈にしっかりと埋め込まれるかたちで展開しているのである。

就職に有利な中国語

対中関係の密接化と歩を一にするかたちでラオスにおける中国語教育が拡大するなか、中国語人気はとくに中国国境に近いラオス北部で顕著なものとなっている。2000年代に入ると、中国政府は北部の県に中国語学校を設置し、中国政府が派遣した中国人教師が中心となって中国語が教えられてきた(RFA, 27 September, 2013)。2013年9月27日の『ラジオ自由アジア』では、ボケオ県の24歳の女性が将来、良い職に就くため毎日中国語学校に通う様子を伝えている。女性の通う学校では8歳から28歳までの60人が中国語を学んでいた(RFA, 27 September, 2013)。

2021年2月18日の『ラジオ自由アジア』からは、北部の中国語教育がさらに活発化しているのがわかる。ルアンナムター、ウドムサイ、ボケオの3県では中国企業の投資が増えるなかで、中国語の学習が他の言語よりも人気となっていった。ボケオ県では新しい中国語教育機関が建設中であるほか、私立の中国語学校が1校あり、後期中等教育課程の卒業を控えた100人以上の生徒たちが中国留学準備のために学んでいる。ボケオ県では一般の中等教育機関でも中国語の授業がある15(Champathong 2021a)。ルアンナムター県では私立の中華学校である寮龚華文学校があり16、前・後期中等教育課程で159人の生徒が在籍しているほか、中国留学から帰国したラオス人教師から中国語を学ぶ後期中等教育課程の修了者が毎年200人程度いる17。県の教育・スポーツ部門の担当者によると、彼/彼女らの多くは留学か就職のために中国語を学んでいるという(Champathong 2021a)。ウドムサイ県にもラオス・中国友好学校と寮北学校の2つの私立中華学校があり、各校の前・後期中等教育課程ではそれぞれ約100人から200人の生徒が学ぶ18。県の教育・スポーツ局の担当者は、ウドムサイ県には英語学習センターが10カ所以上あるが、中国留学や中国企業への就職のため、ラオス人生徒は中国語学習に関心をもっているとしている(Champathong 2021a)。

このように、中国語人気の背景には就職に有利との根強い考えがあることがわかる。その象徴ともいえるのがラオス・中国鉄道会社の存在であろう。現在、ラオスでは2021年12月の開業を目指し、中国国境とヴィエンチャンを結ぶ鉄道が建設されている。同社では2020年2月末~6月にかけて、3組にわけてラオス人職員の募集を行った19。2020年9月21日には孔子学院で第2組、第3組として採用された約360人を対象とする中国語研修が開講された(KPL, 22 September, 2020)。2021年3月には新たに160人の募集が始まった。募集要項をみると中国語能力は必須ではないものの、基礎レベルの中国語能力がある場合は特別に考慮するとなっている20。実際、第2組、第3組の募集の際にベトナムで鉄道を専攻した応募者が不採用となっており(Saynya 2020)、ラオス人の間では中国語能力の有無が同社職員への採用を左右するとの認識が共有されている。鉄道会社に限らず、中国企業の進出が著しいなか、中国語能力は将来良い職をえるための有効な手段との認識が浸透しており、北部では貧困層の中国語学習も増加しているという(RFA, 19 August, 2013)。

言語ナショナリズムと中国への警戒心

中国語学習ブームの高まりの陰で、中国の影響力拡大への警戒もみられる。2021年2月24日、ヴィエンチャンのファーグム通り沿いの街灯に21、ラオス・中国の協力のシンボルとして、ラオスの国花といえるチャンパーの花と中国結びを模したシンボルが飾られた(Lao Update, 24 February 2021)22。その2日後、26日付の『ラオパッタナー』紙には、「街に外国のシンボルや看板を設置するのは心配すべきことだ」と題する記事が掲載された。「外国の」としているものの、記事には中国語の看板の写真が添えられており、「外国」が中国を指していることは明白である。記事では、はじめに「我々ラオスが外国に対して広く門戸を開放し、直接投資を推進して以来、国家建設は目に見えて活発化した」として、ヴィエンチャン=ヴァンヴィエン高速道路やラオス・中国鉄道などを例に挙げ、それらが国家に新しい文明的な装いをもたらしたと評価した(Lukmueangphuan 2021)。

しかし、その一方で国家間の友好関係をそこない、ラオス人民革命党(以下、党)の政治方針を批判して、混乱を生じさせているとの非難を恐れ、人びとが言い出せないことがあるとする。それは、建設現場などでみられる外国語の看板や、当局の検査を経ずに誤った文字や語彙が使われたラオ語(ラオスの公用語)の看板に対する懸念であるという23。そして、なぜ彼らの言語で書かれなければならないのかと問い、それらは国家の独立を脅かすものであると警告している(Lukmueangphuan 2021)24

ラオスでは1960年代後半から70年代前半にかけて、映画やラジオ、新聞などをとおしてタイ語の影響が強まるなか、タイ語風に綴られ、誤ってタイ語の語彙が使用された宣伝広告に対して、ラオスの政治的独立をそこなうものとする声があがった。中国語看板への懸念には、ラオスの人びとがタイ語に対して表明したのと同様の言語ナショナリズムがみてとれる25

さらに記事の後半では歴史ある建物を外国が現代風の建物に建て替えるのを認めてしまっていると非難し、ラオス人は主人公として国家の独立を高めていかなければならない時がきたと訴える。そして、その際に軸となるのが知識、能力、革命の道徳26、愛国心を備え、自立した人材を育成する教育部門であると結んでいる(Lukmueangphuan 2021)。近年、ヴィエンチャンでは中央郵便局やラオス建国戦線など27、内戦時代から存在する建物の建て替えが進められた。最近では、最も有名な市場でありラオス王国時代に建設されたタラート・サオの土地のコンセッションを中国企業が取得し、建物の取り壊しが行われた。それに対して、Facebook上には取り壊しを惜しむ声や、政府への批判的なコメントもみられた(Vientiane Times, 7 September, 2020)。『ラオパッタナー』の記事の内容はそうした事実を踏まえたものと考えられる。

写真2 首都ヴィエンチャン、ラオス建国戦線本部建て替え工事の建設現場(2015年9月)

写真2 首都ヴィエンチャン、ラオス建国戦線本部建て替え工事の建設現場(2015年9月)

ラオスでは、報道機関が党や政府を表立って批判することはない。したがって、中国関連プロジェクトをネガティブにとらえているとの印象を与える今回の記事は、従来の傾向と一線を画すものともいえる。しかし一方で、教育による自立した人材の育成を訴えている点は、2021年1月に開催された第11回ラオス人民革命党全国代表者大会(以下、党大会)の方針とも一致する。党大会の政治報告では格差是正と貧困削減のため、教育をとおした国民の自立促進と援助への依存心の解消が強調された(Phak pasaxon pativat lao 2021)。

現在、中国との関係なしに国家建設はありえないといえるぐらい二国間関係が親密化するなか、中国語学習は国民の自立の一助となる一方で、中国の影響力浸透を助長する側面があることは否定できない。このような状況下において、この記事には言語ナショナリズムを利用して党の主張を補完し、国家としてのラオスの独立維持に対する国民の意識強化をうながすねらいが含まれていた、といえるのかもしれない。

ラオスの抱えるジレンマ

本稿でみてきたように、中国との関係深化とともにラオスでは中国語学習ブームが起こっている。その一方で、偏在する中国語の看板に対し、ラオスの政治的独立を脅かすものとの批判がみられた。1960年代後半、タイ語に対して言語ナショナリズムが高揚したのは先述のとおりである。加えて、ラオス王国(1953~1975年)の公用語であった仏語もまた当時、言語ナショナリズムの標的となっていた28。公務や高等教育で仏語が重用されるなど、独立後も仏語の使用が継続される状況下、真の独立を達成するにはラオ語の地位を高め、言語面での独立を確立しなければならないとの声が広がっていったのである。

1975年の社会主義革命後は、ロシア語を中心に社会主義諸国の言語が学ばれ、ラオスがASEANに加盟した1997年頃には、英語が一番人気の外国語となった。しかし、全方位外交へと転換し、対外開放を進めるなか、ASEANや国連など国際機関の公用語となり、国際語として世界的に使用されている英語を独立への脅威とみなすような傾向はほとんどみられない29。それに対して、目に見えるかたちで政治的・経済的影響力を増している中国の国家の言語である中国語は、ともすればラオスの政治的独立を脅かすものととらえられ、ラオス人の言語ナショナリズムを刺激している。今後、二国間関係のさらなる強化が予想されるなか、中国の前にいかにして自立性を維持できるのか、中国語学習ブームの裏で高まる言語ナショナリズムからは、ラオスの抱えるジレンマの一端を読み取ることができる。

※この記事の内容および意見は執筆者個人に属し、日本貿易振興機構あるいはアジア経済研究所の公式意見を示すものではありません。
写真の出典
  • 写真1 Slleong, Tri-lingual signage in the Golden Triangle Special Economic Zone in Bokeo Province, Laos(Public Domain).
  • 写真2 筆者撮影
参考文献

(日本語)

  • 矢野順子 2013.『国民語の形成と国家建設――内戦期ラオスの言語ナショナリズム』風響社.
  • 山田紀彦 2018.『ラオスの基礎知識』めこん.
  • 「中国語教育『孔子学院』、米で閉鎖次々、『共産党の宣伝機関』」『朝日新聞』2018年12月17日.

(ラオ語)

(中国語)

(英語)

著者プロフィール

矢野順子(やのじゅんこ) 一橋大学大学院言語社会研究科博士後期課程修了、博士(学術)。愛知県立大学外国語学部国際関係学科准教授。ラオスの言語ナショナリズム、国民国家建設を中心に研究。おもな著作は『国民語が「つくられる」とき――ラオスの言語ナショナリズムとタイ語』(風響社、2008年)、『国民語の形成と国家建設――内戦期ラオスの言語ナショナリズム』(風響社、2013年)、「社会開発戦略と今後の課題――『負の側面』の克服と『カイソーン・ポムヴィハーン思想』(山田紀彦編『ラオス人民革命党第10回大会と「ビジョン2030」』アジア経済研究所、2017年)など。


  1. 「中国教育部」ホームページ。2021年6月6日アクセス。
  2. 同上。タイは全体2位で2万8608人、インドネシアは7位で1万5050人、日本は9位で1万4230人であった。
  3. ラオスの教育制度は初等教育5年+前期中等教育4年+後期中等教育3年で、初等教育と前期中等教育が義務教育である。前期中等教育は日本の中学校、後期中等教育は高等学校に相当する。
  4. 現在、ラオスの中等教育機関では通常は英語が第一外国語となっているが、一部、フランス語など英語以外を第一外国語とする学校がある。
  5. 2010年の前期中等教育新カリキュラム(後期中等教育は2011年)では中国語のほか、日本語、ベトナム語、仏語から第二外国語を選択できるとされているが、2021年6月時点で中国語が学べるのは孔子学院や中国政府の支援を受けた一部の中等教育機関となっている。日本語もヴィエンチャンの4つの中等教育学校で試験的に教育が行われているのみで(「国際交流基金ホームページ」。2021年9月15日アクセス)、現状では大半の生徒は第二外国語としてフランス語を学んでいるという(ラオス教育科学研究所のA研究員への2021年6月18日の聞き取りによる)。なお、2020年には韓国朝鮮語が新たに選択可能な第二外国語に追加され、ヴィエンチャンの3つの中等教育学校で試験的に教えられている(Lao Youth Radio Station FM90.0 Mhz , 21 December, 2019)。
  6. ラオス国立大学出願用ウェブサイト。2021年8月28日アクセス。志願者数、順位は2021年8月28日時点の数値。2位は経済・経営学部経営学科で864人。ラオス国立大学のウェブ出願用のサイトでは第1志望、第2志望の学科別志望者数ランキングが掲載されている。それによると、中国学科を第2志望とした志願者数は967人。なお、2021~2022学年度入試における中国語学科の定員は240人(Saynya 2021)。
  7. 学生は2年間ラオスで学んだ後、残りの2年間は中国の関連機関で学ぶ(『环球印象』2017年12月15日)。
  8. 2011年12月18日〜23日までヴィエンチャンの文化ホールで開催された。主な内容は文化公演、映画上映、書道・写真展で、中国軍が海外で文化活動週間を実施した最初の事例であった(郑2011)。
  9. Chinese International Education Foundationホームページ。2021年8月28日アクセス。孔子課堂は、初等・中等教育機関に設置され、中国語教育・文化交流などを行う施設(Confucius Institute U.S. Center ホームページ、2021年9月15日アクセス)。
  10. アメリカでは2005年3月のメリーランド大学を皮切りに、2018年12月までに100の大学に孔子学院が設置された。しかし、2014年6月にアメリカ大学教授協会が孔子学院を中国政府の一機関と批判し、米政界の対中国強硬派からも懸念の声があがったことなどから、2018年12月までに11校が閉鎖を決定した(『朝日新聞』2018年12月17日)。
  11. 従来、HSKを受験するにはタイや中国に行く必要があった。2011年12月にヴィエンチャンの孔子学院で第1回目の試験が実施され、73人が受験した(潘2019)。2021年8月現在では、孔子学院のほかヴィエンチャンの蘇州大学ラオス校も試験会場となっている。スパヌウォン国立大学の孔子学院でも今後実施予定とみられる。
  12. スパヌウォン国立大学ホームページ。2021年8月4日アクセス。
  13. ラオス国立大学孔子学院のFacebookページで2021年8月24日に募集要項が発表されると問い合わせが相次ぎ、8月25日付でQ&Aが投稿された。そのなかで文学部中国語学科との併願が可能かとの問い合わせに受験日が異なるため可能との回答がみられる(「ラオス国立大学孔子学院」Facebookページ(2021年8月28日掲載)、2021年8月28日アクセス)。中国語学科を第1志望とする受験生が滑り止めで受験することも可能なことから、一定数の志願者を集めることが予想される。
  14. スパヌウォン国立大学ホームページ、2021年8月25日アクセス。
  15. 詳細は書かれていないが、公立の中等教育機関で中国から派遣されたボランティア教師が教えているものと思われる。
  16. この学校は2006年に創設された私立学校で、『ラジオ自由アジア』の記事では「前期中等教育学校」とされていたが、前・後期中等教育課程に加え、幼稚園、初等教育課程がある。学校のFacebookページに掲載された名簿をみると、2020~2021学年度は後期中等教育課程の5年と6年にそれぞれ15人、8人が在籍している。最終学年の7年生は在籍者がいないことから、2019~2020学年度ごろから後期中等教育課程の教育を開始したと推測される。2020~2021学年度の前期中等教育課程(1年~4年)の名簿上の人数は136人で、前・後期中等教育課程の総人数は159人であった(「寮龚華文学校」Facebookページ(2021年7月16日掲載)、2021年9月14日アクセス)。
  17. 中国留学から帰国したラオス人が経営する小規模な中国語学校がルアンナムター県には多数あり(Radio Free Asia, February 23, 2021)、そのような学校で学んでいる生徒のことを指していると考えられる。
  18. ともに2006年に創設され、幼稚園から後期中等教育課程までを教える。ラオス・中国友好学校の総生徒数は1100人以上で60%がラオス人生徒であるという。2018年に最新のコンピューター室や図書館、学生寮を備えた広大な新キャンパス(総面積約7万3000平方メートル)の建設が開始し、2019年6月に完成した(韩2019)。
  19. 2020年1月の段階では3回に分けて募集するとのことであったが(Vaenkeo 2020)、実際には同年2月に第1組の募集が発表されたあと、第2組と第3組の募集は同年5月に同時に発表された(「Laos-China Railway Company Limited」Facebookページ(2020年2月28日掲載)、「Laos-China Railway Company Limited」Facebookページ(2020年5月18日掲載)、ともに2021年9月13日アクセス)。
  20. 「Laos-China Railway Company Limited」Facebookページ(2021年3月5日掲載)、2021年8月4日アクセス。
  21. ファーグム通りはヴィエンチャン中心部にあるメコン川沿いの通りの名称。
  22. チャンパーは学名プルメリア。ラオス国民の象徴と位置づけられており、ラオス国営航空のシンボルもチャンパーの花をモチーフにしている。「中国結び」は紐を用いた中国の伝統工芸。
  23. 2018年の看板法第16条で、ラオスで使用される看板はすべてラオ語でなければならず、国際機関の看板など、二言語の看板の場合はラオ語を上、外国語を下に表記することなどが定められ、内容に関しては情報・文化・観光部門の検査を受けなければならないとされている(Sapha haeng sat 2018, 4)。
  24. 中国語看板の乱立は、近年しばしば問題となっており、2021年3月の『ラジオ自由アジア』でも、北部で住民から中国語看板の乱立によりラオスの独立が脅かされるとの懸念が示されている件を伝えている (Champathong 2021b)。
  25. タイ語とラオ語は同じ言語系統に属し、方言ほどの差異しかないとされている。内戦時代の言語ナショナリズムについては(矢野2013)に詳しい。
  26. 「革命の道徳」(クンソムバット・シンタム・パティヴァット)とは、国家の「善良な公民」が身に着けるべき資質のひとつとされる。2015年版中学6年の『公民教育』教科書は、「重要な政治資質のひとつ」として、国家や国民に対する犠牲心、勤勉、倹約、誠実さ、規律と法の尊重、団結と思いやり、などから構成されると説明している(Sathaban khonkva vithanyasat kan suksa 2015, 117-119)。
  27. ラオス建国戦線とは、女性同盟、労働連盟などラオスに多数存在する社会団体のすべてを統括する組織(山田2018, 187-188)。建て替え前の建物は内戦時代には革命勢力パテート・ラオの前線組織であった「ラオス愛国戦線」のヴィエンチャン本部として使われていた。
  28. 独立前の1947年に制定されたラオス王国憲法においてラオ語と仏語が公用語とされた。ラオス王国は1949年のフランス連合内での条件付き独立を経て、1953年に完全独立を達成した。
  29. もっともラオス王国時代には、英語は経済・軍事支援をつうじて政府に圧倒的な影響力を及ぼしていたアメリカの言語として、言語ナショナリズムの対象となっていた。