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#もしもラオスの政治が良かったら

 

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051887

2020年11月

(7,189字)

タイの反政府運動から派生した現象

「#もしもラオスの政治が良かったら」。ラオスの民主化を求めるこのハッシュタグは、ラオス語で書かれているにもかかわらず、10月19日から20日にかけてタイのTwitterを席巻し、一時はトップトレンドのひとつとなった(Satrusayang 2020b)。このハッシュタグをつけてツイートしているのは、タイの反政府運動に参加している人々やその支持者、また民主化を求めるラオス人である1。同じく民主化を求める香港などからも、同ハッシュタグを使った連帯を示すツイートが寄せられた。

このハッシュタグはラオスの民主化を求めるTwitterユーザーの定型となり、現在もタイムラインを流れている。ツイートの内容は、「民主化のために闘争する。#もしもラオスの政治が良かったら」という直接的なものから、「#もしもラオスの政治が良かったら、子ども達みんなが教育を受けられるのに」「#もしもラオスの政治が良かったら、雇用が生まれるのに」といった政府への不満まで多岐にわたる。もちろん、これらの不満は民主化されれば教育や雇用問題が解決されるという主張である。そして、一部のユーザーはラオスでもタイと同様の民主化運動が起きる可能性に期待を寄せた。

では、Twitterで発生した政治運動がラオス国内の若者を刺激し、リアルな民主化運動に発展するのだろうか。以下、詳しくみてみよう。

どこからどのように拡散したのか?

ラオス人による民主化を求めるツイートは決して新しい現象ではない。多くの人が本名で使用するFacebookと異なり、ユーザーの多くが偽名で本人特定が難しいTwitterではこれまでも体制批判が行われてきた。しかし今回は民主化要求を象徴するハッシュタグが生まれ、それが大規模に拡散し、タイ人や他国のユーザーから多くの支持表明がなされた点で新しい。

このハッシュタグは10月19日に突如生まれたわけではない。20日以降の各種報道では、「#もしもラオスの政治が良かったら」が拡散した発端は、タイの反政府運動に刺激されたラオス人がこのハッシュタグをツイートし、それに対してタイ人が同じく非民主的体制におかれているラオス人への支持を表明したことにあるとされる(Reed 2020; Lipes 2020)2。しかし同ハッシュタグが付いたツイートを過去に遡っていくと、最終的にあるユーザーにたどり着く。

9月23日、あるユーザーAが「#もしもラオスの政治が良かったら、教育が良くなり、すべての階級の人々が自由に教育を受けられ……不平等もなくなるのに……」とラオス語でツイートした3。タイでは9月1日に「#もしも政治が良かったら」というハッシュタグが拡散しており(Satrusayang 2020a)、Aがその影響を受けたことは間違いない。Aはラオス語、タイ語、英語でツイートしているが、ラオス語のツイートがもっとも多く、ラオス語の使い方からもラオス人とみてよいだろう。もちろんアカウント名に本名は使用していない。Aのツイート以降、他のラオス人ユーザーが同ハッシュタグを使用し体制批判を始めた。

例えば翌24日、あるユーザーは「政府は外国人投資家を支援しているが、必死にもがいているラオス人労働者には関心がない。#もしもラオスの政治が良かったら」とツイートした。また、タイ人によるタイ語のツイートもみられるようになった。9月末から10月前半には、すでに多くのラオス人やタイ人が同ハッシュタグを使用し体制批判を行っていた。そして10月19日、ハッシュタグはタイ人の反政府運動支持者の間で一気に拡散したのである。

数が多くなると、「#もしもラオスの政治が良かったら、KFCを食べられるのに」4といった大喜利のようなツイートもみられるが、11月に入っても同ハッシュタグを使用した体制批判は続いている。

大人気のFacebook、普及しないTwitter

しかしハッシュタグ運動は、ラオス社会で大きな反響を呼ぶには至っていない。なぜだろうか。

理由のひとつは、Twitterがラオス社会に普及していないことである。We Are SocialHootsuiteが作成したDigital 2020: Laosによると、ラオスには約310万人のインターネットユーザーがいる。それはソーシャルネットワーキングサービス(SNS)のユーザー数でもあり、人口(約722万人)の約43%がSNSを使用していることになる。13歳以上の人口に限れば実に約60%がSNSを使用している。しかしTwitterのユーザー数は約16万7000人と少なく、SNSユーザーの約5.4%でしかない。またアクティブでないアカウントも多い。

ラオスでもっとも普及しているSNSはFacebookであり、ユーザー数は約290万人となっている。次に人気のInstagramのユーザー数は20万人である。Facebookがいかにラオス社会に浸透しているかわかるだろう。ラオスの人々はFacebookやInstagramで自撮りの写真を頻繁にアップする。近年、写真撮影用に「映える」スポットを店内に設置するカフェやレストランも増えている。2010年代にSNSが普及し始めた際、ラオス人ユーザーはトイレからお葬式まであらゆる場所で自撮りをし、Facebookにアップしていた。写真に便器が映り込んでいてもお構いなしである。私がもっとも驚いたのは、「今、父が他界しました」とのメッセージとともにアップされた遺体との自撮り写真である。これは極端な例だが、ラオスの人は外に出れば必ずといってよいほど自撮りをしている。

実は、SNSユーザーの約94%が使用するFacebookに今回のハッシュタグ運動は波及していない。10月29日現在、Facebookでは1000人以上が同ハッシュタグについて書き込みを行っている。なかには賛同を示す意見もみられるが、ユーザーの多くは否定的に捉えているようである。ほとんどの人は話題にすらあげていない。つまり今回のハッシュタグ運動は、Twitter内の限定的な現象なのである。あるラオス人はTwitterで、「FacebookユーザーとTwitterユーザーはそれぞれ異なる世界にいる。#もしもラオスの政治が良かったら」と呟いている。

危険と隣り合わせのFacebook

FacebookとTwitterで反応が異なるもっとも大きな要因は、Facebookでは本人特定が容易であり、Twitterではそれが難しいことである。Facebookは原則本名登録が義務付けられ、多くのユーザーは本名をそのままアカウント名に使用している。先述のようにラオス人はFacebookに本人写真をアップするため、政府当局は個人を容易に特定することができる。一方Twitterはどのようなアカウント名でも使用でき本人特定が難しい。Facebookでも稀に反体制・反政府的投稿がみられるが、SNSで体制批判を行うラオス人の多くはTwitterを使用する。一部のラオス人ユーザーはタイ語でTwitterアカウントを作成し、ツイートもタイ語で行っている。一見するとラオス人とはわからないため、政治的な内容もツイートしやすい。

FacebookとTwitterの違いは政府の取り締まりにも表れている。政府は2014年9月に「インターネットの情報管理に関する政令第327号」を公布し(ラオス政府 2014)、SNSへの取り締まりを強化した。第10条では反体制・反政府運動を誘発するような内容のインターネットへの掲載が禁止され、第26条は違反の軽重によって刑事罰を科すと定めた。何が反体制や反政府活動にあたり、どの場合が重罪になるか詳細は定められていない。つまり政府が反体制・反政府とみなせば、自由に罰することができるようになった。

これ以降、特にFacebookユーザーの逮捕・拘束が相次ぐようになった。例えば2015年6月、ポーランド国籍のラオス人がFacebookに虚偽情報を掲載した反体制容疑で逮捕され、禁錮4年9カ月の判決を受けた(Gerin 2015)。2016年3月には、Facebookで政府批判を行っていたタイ在住のラオス人3人が、パスポート更新のためラオスに帰国したところを当局により拘束された(Boliek 2016)。

2017年には刑法典が成立し、政府による取り締まりがさらに強化された(国会 2017)。例えば第117条は、国家権力の弱体化を目的に電子媒体を含めたメディアなどで国家に対する誹謗中傷、党路線や政府方針を歪曲し宣伝活動を行った者に対して、1年から5年の禁錮刑、および500万から2000万キープ(2020年10月29日現在1ドル=約9240キープ)の罰金を科すとしている。

2019年9月、南部で起きた洪水被害への政府対応をFacebookライブで痛烈に批判した女性が逮捕され、その後の裁判で刑法第117条により5年の禁錮刑を受けた(Finney 2020)。今回のハッシュタグ運動はこの女性の解放も呼びかけている。2020年8月には、政府の汚職問題をFacebookで批判したラオス人男性が1カ月以上拘束された(Whong 2020)。逮捕はされないものの、Facebookへの書き込み内容を理由に事情聴取を受けるユーザーもいる。

これまでTwitterユーザーが拘束されたという報道は管見の限りない。しかし今回のハッシュタグの使用も刑事罰の対象となっている。ハッシュタグの拡散が明らかになると、一部の国家機関やネットメディアはそれぞれのFacebookページで同ハッシュタグの使用が刑事罰の対象になると警告した。例えば、大衆組織のひとつであるラオス人民革命青年同盟傘下のFMラジオ局は、10月21日夜と22日の午前中にFacebookページで2回警告を発している。ネットメディアは法律で政府への登録が義務付けられており、政府の意に反することはできない。Facebookユーザーがハッシュタグを話題にしなかったのは、政治的発言の危険性を十分認識していることもあるが、この警告が抑止力として機能したことも一因だろう。

「不平等」社会の受益者である中間層

ハッシュタグ運動がリアルな民主化運動に発展しないもうひとつの理由は、都市中間層の共感を呼び起こさなかったことである。

ラオスは役所での書類手続き、入試、就職、交通違反の罰金処理、建設許認可などの取得まで、生活のあらゆる面で「コネ」が重要となる。特に都市部における人々の生活はコネで成り立っている部分も多く、それは公式な制度を補完する機能も担っている。そして多くの人々がコネを使って物事を進めることを厭わない。

一方、「コネ」をもたない人々には当然不満がたまる。特に山岳農村地域の人々は教育や就職などあらゆる機会が不足している。あるTwitterユーザーは、「つながりのある人=勝者、能力がある人(つながりがなければ―筆者)=敗者。これがラオスという国である。#もしもラオスの教育が良かったら #もしもラオスの政治が良かったら」とツイートしている。別のユーザーは、「都市の人は特権があり十分な生活をしているが、現実をみようとしない。農村の人々は食べるものもなく、教育についてはいうまでもない。#もしもラオスの政治が良かったら」と都市と農村の格差についてツイートした。

今回のハッシュタグを使うユーザーの多くは都市部の若者だと考えられ、不平等社会や格差是正を訴える人もいる。しかし都市中間層の多くは、社会は不平等だと認識し多少の不満を抱えつつも、自らが恩恵を受けている社会構造の崩壊は望んでいない。

どうなる?SNSと政治

「#もしもラオスの政治が良かったら」に端を発するTwitterの政治運動は、Facebookユーザーや都市中間層の共感を呼ばず、今のところリアルな民主化運動に発展していない。同ハッシュタグは現在も使い続けられているが、政府が目を光らせているFacebookには今後も波及せず、引き続きTwitter内の運動に留まる可能性が高い。友達や知り合いとのつながりを大事にするラオス人に、Twitterが急速に普及するとも考えにくい。Twitterは政治意識の高い若者のガス抜きの場となる可能性もある。

とはいえ今回のハッシュタグ運動を無意味なものと片付けるのは早計だろう。ラオスにも民主化を強く望む人々が一定数いることが世界に報道され、諸外国のネットユーザーから連帯が示されたことは注目に値する。民主化を訴えるユーザーにとっては、SNS空間であっても多くの反応を呼び起こしたことは大きな収穫である。また、自由な言論空間を求めていた若者がTwitterに新たな活路を見出すかもしれない。さらに今回の件が、政府への改革圧力として機能する可能性もある。

しかしラオス人ユーザーにとって、SNSでの政治的発言が常に危険と隣り合わせである状況は変わらない。そして政府はこれまでに以上にSNSの政治的利用を厳しく取り締まるだろう。Twitterへの監視強化も考えられる。SNSの政治的利用をめぐる政府とユーザーの攻防は新たな局面に入りつつある。

写真:スマートフォンで遊ぶラオスの子どもたち。

スマートフォンで遊ぶラオスの子どもたち。
写真の出典
  • 2018年6月6日、ラオス南部チャンパーサック県スクマー郡にて著者撮影。
参考文献
著者プロフィール

山田紀彦(やまだのりひこ) アジア経済研究所地域研究センター動向分析研究グループ長。専門はラオス地域研究、権威主義体制研究。主な著作は『ラオスの基礎知識』めこん(2018年)、『独裁体制における議会と正当性――中国、ラオス、ベトナム、カンボジア』(編著)アジア経済研究所(2015年)等。

  1. ラオス語とタイ語は同じ語群に属し、ラオス人の多くは幼少の頃からタイのテレビをみて育っているため、タイ語をほぼ完璧に理解する。特に都市部ではタイ語を書ける人も多い。
  2. Reed(2020)については、参考文献のハイパーリンクをクリックするとFinancial Timesの有料ページに移行する。検索エンジンで記事名を検索し、そこからFinancial Timesのページにアクセスすると全文読むことができる。
  3. タイムラインでは9月23日のAのツイートより前に遡ることが不可能であったため、このツイートを「#もしもラオスの政治が良かったら」を使用した最初のツイートとして論を進める。しかしそれ以前に同ハッシュタグが使用された可能性は否定できない。また本稿では、政府の取り締まり対象となるSNSにおける反体制的な書き込みを扱うため、ユーザーが特定されないようにユーザー名やアカウント名は明記しないこととする。
  4. ラオスにはマクドナルド、KFC、スターバックスなど日本や隣国でみかけるファストフード店は韓国系のロッテリアを除いて参入していない。
この著者の記事

(2020年11月5日 修正)