IDEスクエア

世界を見る眼

Focus On China フォーカス・オン・チャイナ

第6回 先鋭化する米中対立――「米中新冷戦」の争点

PDF版ダウンロードページ:http://hdl.handle.net/2344/00051457

2019年8月

(4,160字)

「米中新冷戦」の幕開けか

「米中貿易戦争」や「米中新冷戦」といった言葉に象徴されるように、米中対立の長期化を懸念する声が国際社会にあがっている。とりわけ、2018年以来の米中間の関税の引き上げ合戦によって、米中関係の悪化が危ぶまれている。最近の米中対立は貿易問題にとどまらず、安全保障問題などの多岐にわたる分野にまで拡大しつつある。

アメリカの対中強硬姿勢への転換を象徴する契機となったのが、2018年10月にペンス米副大統領がワシントンDCのハドソン研究所で行った中国政策に関する演説である1。この演説のなかでペンスは、中国に対する強い警戒感を鮮明に打ち出した。これを契機として「米中新冷戦」が開始したという見方もあり、米中対立が予想以上に根深く、長期化するのではないかといった見通しが広まりつつある。確かに、トランプ政権期に入ってから、中国に対してより厳しい姿勢で臨むというコンセンサスが生まれ、超党派による「対中国包囲網」が米国国内に形成されつつある。

ペンスは演説のなかで、中国による知的財産権の侵害や強制技術移転などを問題視した。中国共産党政府が米国企業に対して、中国国内で事業を展開する代償として企業秘密の提供を強要していることや、米国製品の所有権を獲得するために中国側が買収や出資を進めていることを指摘し批判したのである。さらに、中国政府の安全保障機関がアメリカの最先端民間技術を盗用し、軍事技術へ転用しているといった衝撃的な事実も明らかになった。

写真1 中国を警戒するペンス米副大統領

写真1 中国を警戒するペンス米副大統領

また、ペンス演説では、アメリカの大学に在籍する中国人に対する言論統制や情報操作などによって、中国政府が望ましい情報を広め、逆に望ましくない情報を抑え込んできたことなども指摘された。これについては、全米の大学に150以上の拠点がある中国人学生組織や学者協会などが、43万人以上の中国人留学生を監視しており、留学生が中国共産党の路線から逸脱した場合には中国大使館や領事館に告発を行っているといった実態が明らかにされた。

さらに、中国の圧力はアメリカ自体にも及んでいる。ペンスは、中国当局がアメリカの大学や研究機関、シンクタンク、研究者などに対して多額の資金援助を行うことを通じて、中国共産党にとって好ましくない研究成果の発表などを阻止しようとしていることなども指摘した。研究成果が中国側の立場と相反する場合には、中国側の圧力によって、中国入国のビザ発給などに影響が出ていることも明らかにされた。

中国の「統一戦線工作」の強化

このような中国側の動きは、中国の海外における「統一戦線工作」と少なからず関わっている。中国の統一戦線工作は、党外人士・勢力の協力を得て、中国国内の潜在的に敵対する政治的勢力などを取り締まる役割を果たしてきた。また、海外での中国共産党の宣伝工作も統一戦線工作の重要な任務の一部になってきた。

2015年5月には、中央統一戦線工作会議が8年ぶりに開催され、新たに中央統一戦線工作領導小組が設置された。この頃より、中国共産党中央委員会直属の統一戦線工作部員が大幅に増員され、在外の中国大使館には同関係者を配置するようになったと見られる。また、2017年10月の第19回党大会の演説のなかでも、習近平は統一戦線工作を重視する姿勢を改めて打ち出した。

海外における最近の統一戦線工作に関しては、欧米の研究機関や専門家などによってその実態が明らかにされてきた。それらの分析によれば、近年、中国共産党の宣伝工作を行う中央統一戦線工作部の活動が、オーストラリアやニュージーランド、アメリカなどで活発化している2。中央統一戦線工作部は、アメリカをはじめとする海外の主要なシンクタンクなどへの研究資金の提供を通じて、中国寄りの立場を取るよう働きかけてきた3。アメリカの主要大学が、中国政府の工作員によって、中国に関わる教育や研究の自由を侵害され、学問の独立への深刻な脅威を受けてきた実態も明らかになっている4。例えば、中国人外交官や中国政府の意を受けた留学生が、アメリカの大学へ圧力を掛け、講義内容の変更などを仕向けてくることがあるという。

中国語や中国文化の普及のための海外での拠点とされてきた「孔子学院」を中国の統一戦線工作の一環とする見方もある。孔子学院は、世界120カ国以上の地域の450カ所以上に設置され、アメリカ国内の大学の100カ所余りで開設されてきた。だが、その授業内容には中国政府の意向が働いており、共産党の一党独裁体制に対する批判を封じるための世論操作の温床になっていると問題視されている。このため、アメリカでは孔子学院の閉鎖が相次いでいる。

写真2 アラバマ州トロイ大学構内の孔子学院

写真2 アラバマ州トロイ大学構内の孔子学院
中国の「二十一文字」の対米方針

米中関係悪化の長期化の見通しが国際社会に強まりつつあるなかで、中国国内では長期戦に備える必要があるとの認識が政策決定関係者の間に広まりつつある。だが、習近平政権は必ずしもアメリカとの間で長期的な全面対立を望んでいるわけではないようだ。

2018年12月に党中央の指導部は、「対抗せず、冷戦をせず、開放を継続し、国家の核心的利益は譲歩しない」という対米方針を決定した5。この方針は、中国語の文字数が21字であることから、「二十一字方針」と呼ばれている。この二十一字方針からは、習近平政権が「米中新冷戦」を望んでいないことが読み取れる。また、2019年3月、第13期全人代の政府活動報告のなかで、李克強首相は米中貿易摩擦に関して、米中協議の継続の重要性について触れ、互恵と「ウィン・ウィン」の関係を実現できることを望んでいると表明した。さらに、このとき李克強は、「中国製造2025」に触れなかった。「中国製造2025」とは、2015年5月に中国が発表した、建国100周年にあたる2049年までにハイテク分野などで世界トップの製造強国を目指す政策である。李克強が言及を避けたことで、「中国製造2025」に対して強い警戒感を持つアメリカ側に一定の配慮を示すかたちとなった。

改善の糸口が見えない米中関係
2019年6月末に大阪のG20サミットに合わせて米中首脳会談が実施され、懸案のアメリカによる第4弾の対中制裁の追加関税措置の発動は見送られた。これにより「米中貿易戦争」は一旦小休止とされたものの、8月1日にはトランプ大統領がツイッターでその立場を翻して、第4弾の追加関税を9月1日に発動すると発言した。こうした予測不可能な「トランプ要因」も相俟って、米中関係の先行きの不透明さに拍車を掛けている。

写真3 G20大阪で行われた米中首脳会談

写真3 G20大阪で行われた米中首脳会談

トランプ政権は対中強硬派の声が強い米国議会の強い後押しなどもあり、引き続き中国に対して、知的財産権の保護や国有企業への補助金問題の是正といった構造改革を求めていくことが予想される。だが、習近平政権が構造改革に本気で取り組むことは、中国国内の既得権益に切り込むことにも繋がる。中国側としては、可能な限り構造改革の問題を先送りしつつ、米中対立を回避したいところではあるが、アメリカ側が中国に対する圧力を緩める気配は見られない。このため目下のところ、米中双方の妥協点を見出すことは難しい状況である。

もしも習近平政権がアメリカの求める構造改革に正面から着手すれば、中国共産党指導部に対する風当たりが強まり、政権基盤が揺らぐ危険性もある。そのため、中国側はアメリカとの全面的な対決を避けつつも、弱腰な姿勢を見せることはできないという難しい立場に置かれている。いずれにせよ、習近平政権は長期的な政権運営も見据え、大国としての存在感を国内外に示す必要がある。今後、米中間の貿易問題が一時的に解消されたとしても、外交・安全保障面における米中対立の構造に変化はみられないことから、米中関係は楽観できない状況が続くであろう。

写真の出典
  • 写真1 Gage Skidmore from Peoria, AZ, United States of America, Governer Mike Pence of Indiana speaking to supporters at an immigration policy speech hosted by Donald Trump at the Phoenix Convention Center in Phoenix, Arizona [CC-BY-SA-2.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.0)].
  • 写真2 Kreeder13, View of the Confucius Institute building on the Troy University campus. [CC BY-SA 4.0 (https://creativecommons.org/licenses/by-sa/4.0)].
  • 写真3 The White House from Washington, DC, President Donald J. Trump, joined by members of his delegation, meets with Xi Jinping, President of the People's Republic of China, at their bilateral meeting Saturday, June 29, 2019, at the G20 Japan Summit in Osaka, Japan. (Official White House Photo by Shealah Craighead) [Public domain].
参考文献
  • 松本はる香「『米中新冷戦』の行方――米中関係をめぐる外交・安全保障問題」『東亜』第626号、2019年8月。
  • 松本はる香「米中関係と中国の海外における『統一戦線工作』」『運輸と経済』第79巻第4号、2019年4月。
著者プロフィール

松本はる香(まつもとはるか)。アジア経済研究所 地域研究センター東アジア研究グループ グループ長代理(博士)。専門はアジアの冷戦外交史、中国外交、台湾をめぐる国際関係。主な著作に川上桃子・松本はる香編『中台関係のダイナミズムと台湾――馬英九政権期の展開』研究双書 No. 639、アジア経済研究所など。

書籍:中台関係のダイナミズムと台湾――馬英九政権期の展開――

  1. "Vice President Mike Pence's Remarks on the Administration's Policy towards China," October 4, 2018 at Hudson Institution.
  2. Bates Gill and Benjamin Schreer, "Countering China's 'United Front,'" The Washington Quarterly, Summer, 2018.
  3. Alexander Bowe, "China's Overseas United Front Work: Background and Implications for the United States," U.S.-China Economic and Security Review Commission, Staff Research Report, August 24, 2018.
  4. Anastasya Lloyd-Damnjanovic, "A Preliminary Study of PRC Political Influence and Interference Activities in American Higher Education," Wilson Center Report, September 6, 2018.
  5. 北京観察:中南海擬定対美21字方針」『多維新聞』2018年12月16日。