ライブラリアン・コラム
インドの新旧統計データポータル──e-SankhyikiとStatistical Year Book
坂井 華奈子
2024年12月
インド統計の日
インドでは6月29日が統計の日(National Statistics Day)として祝われる。これはインド統計の父と呼ばれる統計学者でありインドの開発計画に大きな貢献を果たしたマハラノビス教授1の誕生日を記念して定められたものである。
統計・事業実施省のプレスリリース(2024年6月28日付)によると2024年の統計の日には「意思決定のためのデータ利用」をテーマとしたイベントが開催された。これにあわせて統計・事業実施省はインドの新しいデータポータルであるe-Sankhyikiの公開を行った。
eSankhyikiとは
筆者が統計・事業実施省のウェブサイトに現れた“eSankhyiki”という項目に気が付いたのは、統計の日より少し後のことだった。同じ並びには以前からある、Micro Data、Data Visualization、Search Publications/Survey Reportsという項目が表示されている。“eSankhyiki”はアルファベットで書かれていても英語ではない。Sankhyiki、 すなわちसांख्यिकीとはヒンディー語辞書によると統計学を意味する。サイト内でも場所によって表記が異なりハイフンがついていたりいなかったりするが、頭についた“e”は電子を意味するElectronicを略したものだと思われた。クリックしてみると「e-Sankhyikiへようこそ、インドの公式統計のポータル、包括的かつ信頼できる統計データの決定的情報源」というようなメッセージが表示された。画面中央上部にはシンプルな検索窓があり、メニューとしてデータカタログとマクロ指標の2つの項目がある。
データカタログでは、統計・事業実施省が管轄する主要なデータが下記の9種類2とすべてのデータセット(ALL)の各見出しからアクセスでき、Find Datasetsをクリックした先の画面で検索も可能である。
- ① Consumer Price Index
- ② Index of Industrial Production
- ③ National Accounts Statistics
- ④ Periodic Labour Force Survey
- ⑤ Annual Survey of Industries
- ⑥ Household Consumption Expenditure Survey
- ⑦ Multiple Indicator Survey
- ⑧ Annual Survey of Unincorporated Sector Enterprises
- ⑨ Comprehensive Annual Modular Survey
各統計データについて、タイトル、調査/指標名、カテゴリー、地理、調査頻度、対象期間、データソース、そして説明文が参照できる。また、リリース日と表の番号も記載されており、表形式とグラフ形式での画面表示ができるほか、ファイルのダウンロードが可能である。さらに、キーワード、表番号、タイトルから検索、調査/項目名と対象期間での絞り込みも可能である。
マクロ指標では、経済指標とNSS調査の2つの項目が表示されている。NSSとはNational Sample Survey(全国標本調査)という大規模標本調査である。
経済指標の下位には上記の①~⑤の項目が表示され、NSS調査の下位には④と⑤が表示された。収録内容はデータカタログと重なっているが、マクロ指標の方では、必要なデータ項目を選択してからダウンロードできたり、APIでデータの取得ができたりするという機能の違いがある。
下位の項目を選択すると、表の形式でデータが表示される。画面上部のタブでグラフ、API、メタデータへ表示切り替えが可能である。表とグラフの画面では、左側のパネルから年、州、性別など、必要な項目、データ系列を選択できるプルダウンメニューが表示されるが、選択したデータによって表示される内容は異なる。必要な項目を選択した後、画面に表示されたデータを表の場合はCSV形式、グラフの場合はSVG形式の画像ファイルでダウンロードすることができる。
インドの総合統計年鑑との比較
各国の総合統計年鑑はその国の重要な統計を取りまとめた資料であり、統計データを探す際の出発点となる基礎的な情報源である。インドの総合統計年鑑“Statistical Year Book India”も、各省庁や州などが管轄する情報を含む多種多様な統計が1冊にまとめて収録されている重要な情報源であった(表1)。
表1 Statistical Year Book India 2018の章構成
インドの総合統計年鑑は歴史のなかで何度かタイトルが変遷しており、アジア経済研究所図書館では多少の欠号はあるものの継続的に収集していた。しかし、近年のインドの総合統計年鑑の発行状況は不安定で、途中でウェブ版のみになり2018年版の後はウェブでも刊行が確認できていない。電子版として発行が開始された“Statistical Year Book India” 2011年版の序文にはそれまでの“Statistical Abstract”からタイトルが変更されたこと、CDとウェブの電子版の発行に伴い冊子体の部数は限定したことなどが記載されている。また、2015年版の序文にはウェブのみでの公開であることが明記されているが、2014年版にはそのような記載がなかった。
ウェブはリンク切れやファイルの削除などの不安があるため、できれば冊子体も入手したいと思い、当時デリーに赴任していた筆者は政府刊行物の販売カウンターを訪問し冊子体の入手可能性について確認を行った。粘って交渉し、在庫を保管する倉庫と販売を管理する台帳を見せてもらいつつ、2014年版のウェブ版が出ていることをスマートフォンで示したが、台帳に記載はなく倉庫の担当者はウェブ版の存在を知らなかった。冊子体の販売について質問したところ、担当者はしばらく電話で問い合わせていたが、最終的に残念ながら取り扱いはないという回答を得た。
さて、e-SankhyikiはStatistical Year Bookに代わる情報源になるのだろうかと期待しながら収録データを検索してみた。しかし結論としては収録内容は統計・事業実施省で管轄している主要な調査のデータのみで、他の省庁所管のデータは見当たらなかった。ただし、表やグラフでの表示、APIを使ったデータの取得などデジタルならではの機能が充実しており、その点がe-Sankhyikiの“e”に象徴されているように感じた。
インドの総合統計に話を戻すと、最後の“Statistical Abstract”(2007年版)には43番目、最初の“Statistical Year Book”(2011年版)の序文には44番目の記載があるため、その間は総合統計年鑑の発行がなかったことが示唆される。インドだけでなく途上国では定期刊行物の発行が数年遅延することはままある。2018年版が出た後の社会情勢を鑑みると、COVID-19の流行によるパンデミックでインドも混乱のなかにあった。Statistical Abstractが間をあけてStatistical Year Bookに引き継がれたように、今後新たな形でインドの総合統計が再度刊行されることを切に願う。
最後に、インドの統計を調べるためのその他の情報源を紹介する。経済・金融の統計についてはインドの中央銀行であるReserve Bank of India(RBI)のサイトでDatabase on Indian Economyというデータベースが提供されている。RBIは出版物も多く刊行しているが、特に年次で刊行される“Handbook of Statistics on Indian Economy”には主要な経済統計が収録されている。同じく年次の“Handbook of Statistics on Indian States”では、州レベルでの統計がまとめられており、保健、環境などの社会統計もある程度収録されている。社会統計については、統計・事業実施省や政策委員会(NITI Aayog)が出すSDGsの開発目標に関する各種刊行物も参考になる。
統計だけでなく各省庁などが持っている政府データを提供するインドのオープン・ガバメント・データのポータルであるdata.gov.in(Open Government Data Platform India)は、多くのデータが収録されているため目当てのものを見つけるのに苦労することもあるが、政府データを探す際の窓口として重要なポータルサイトである。
写真の出典
- すべて筆者撮影
参考文献
- 絵所秀紀 2002. 『開発経済学とインド──独立後インドの経済思想』日本評論社.
- 町田和彦編著 2016.『ヒンディー語・日本語辞典』三省堂.
- Central Statistical Organisation, Ministry of Statsistics & Programme Implementation, Government of India 2008. “Statistical Abstract India 2007.” New Delhi: Central Statistical Organisation, Ministry of Statsistics & Programme Implementation, Government of India.
- ――― 2011. “Statistical Year Book India 2011.” New Delhi: Central Statistical Organisation, Ministry of Statsistics & Programme Implementation, Government of India.
- ――― 2014. “Statistical Year Book India 2014.” New Delhi: Central Statistical Organisation, Ministry of Statsistics & Programme Implementation, Government of India.
- ――― 2015. “Statistical Year Book India 2015.” New Delhi: Central Statistical Organisation, Ministry of Statsistics & Programme Implementation, Government of India.
- ――― 2018. “Statistical Year Book India 2018.” New Delhi: Central Statistical Organisation, Ministry of Statsistics & Programme Implementation, Government of India.
- Ministry of Statsistics & Programme Implementation 2024a. “e-Sankhyiki Portal: Empowering India with Reliable Statistical Data.” Press Information Bureau, Government of India. 6 August, 2024. https://www.pib.gov.in/PressNoteDetails.aspx?NoteId=151992&ModuleId=3®=3&lang=1 (Accessed Nov. 18, 2024)
- ――― 2024b. “‘Statistics Day’ will be celebrated on June 29, 2024 Theme: Use of Data for Decision-Making.” Press Information Bureau, Government of India. 28 June, 2024. https://pib.gov.in/PressReleaseIframePage.aspx?PRID=2029227 (Accessed Nov. 18, 2024)
著者プロフィール
坂井華奈子(さかいかなこ) アジア経済研究所学術情報センター図書館情報課主幹。担当は南アジア。最近の著作に「インド情報の探し方・文献案内」(堀本武功・村山真弓・三輪博樹編『これからのインド──変貌する現代世界とモディ政権』東京大学出版会、2021年)、“A Guide to the Japanese Literature on the Battles of Imphal and Kohima.”(in Mayumi Murayama, Sanjoy Hazarika and Preeti Gill eds. Northeast India and Japan: Engagement through Connectivity, Routledge, 2022) など。
この著者の記事
- 2023.11 [ライブラリアン・コラム] ニュースの波の積み重ね──社会科学資料としての新聞コレクション
- 2023.3 [ライブラリアン・コラム] インドにおける資料収集活動──南アジア版書籍と発送の苦労
- 2020.9. [ライブラリアン・コラム] インドと感染症──植民地時代の飢饉と疫病、そして現代の希望の船
注
- マハラノビス教授については絵所(2002)参照。
- 8月6日付のプレスノートでは7種類が記載されているが、現在は項目数が増えている。