クルド関係資料について
クルド人は、現在のトルコ、イラク、イラン、シリア、そして旧ソ連の国境地帯に古くから暮らしてきた民族である。国家統計が存在しないため、民族規模には幅があるが、全体でおよそ2000万〜5000万人、うちトルコに約半数、イラクとイランにそれぞれ20%ずつ、そしてシリアに10%弱が居住している。独自の民族国家を持たないクルド人には、その出版物を民族全体にわたって収集・保存する単一の国立図書館がない。クルド語やクルド人に関する出版をめぐる状況も国や時代によって異なり、刊行された資料は中東各国や欧米の図書館、研究機関、個人などに分散されて所蔵・保存されている。
クルド人のホームランドである中東の居住地域のなかで最大のクルド人口を抱えるトルコでは、クルド語での出版が長く制限され、クルド人としての歴史や文化を表現することも難しい時期があった。特に、1970年代から1990年代にかけては、多くのクルド人知識人や活動家がヨーロッパに亡命し、彼らの主張を出版物に託した。ヨーロッパでは、先に移住していた労働者らも読者として、クルド語だけでなくトルコ語でも、クルド人の社会、歴史、文化や政治運動に関する書籍・雑誌が刊行されてきた。ヨーロッパは、トルコ出身のクルド人が自らの言葉や経験を出版物として残す重要な場所となったのである。
【参考】
- 2022.11 [IDEスクエア] (海外研究員レポート)不可視化されたクルド・ナショナリズムの多様性——IISHが所蔵するクルド系社会主義組織の資料から
- 2022.06 [IDEスクエア] (世界を見る眼)クルド・ナショナリズム揺籃の地としてのスウェーデン──二つの社会制度と民族性の承認
当館コレクションの特徴
アジア経済研究所図書館のクルド関係資料は、トルコ国籍またはトルコ出身のクルド人に関わるものが中心である。トルコ国内で刊行された資料と、ヨーロッパに移住・亡命した人々による出版物の双方を、購入や各地の機関・個人からの寄贈によって収集してきた。また、イラク、イラン、シリアなど、ほか中東のクルド人居住地域に関する資料も含まれている。
当館では、クルド人居住地域とヨーロッパで刊行された資料を、国別の枠組みを越えて収集しており、クルド語資料に加え、クルド人やクルド地域についてほかの言語で書かれた資料も対象としている。また、政治・歴史に関する資料だけでなく、文学、民話、児童書、辞典なども含まれている。異なる時期や場所で生まれた資料をともに調べることで、クルド人の歴史や文化について多角的に考える手がかりが得られる。
資料の入手経緯もさまざまであり、現地の出版社・書店から購入した資料に加え、クルド関係の機関から寄贈された資料には、一般の流通経路にはのらない「灰色文献」や、刊行部数が少ないもの、現在では入手しにくいものもある。
クルド関係資料は、各地の図書館や研究機関、個人などが、それぞれの経緯や方針のもとで収集・保存してきた。資料の所在や書誌情報が分散しているため、異なる地域や時期の出版物をあわせて探すことは容易ではない。異なる時期、地域、立場から生まれた出版物を一緒に調べられることは、当館のコレクションの特徴である。個々の出版物の内容を知るだけでなく、表現や議論が場所や時代を越えてどのようにつながり、変化したのかを考える手がかりにもなると思う。
資料を探す・利用する
当館のクルド関係資料は、蔵書検索(OPAC)で件名「Kurds」を指定して探すことができる。書名に「Kurds」などの語が含まれていない資料も検索できる。特定の地域や言語の資料を探す場合は、件名と請求記号の冒頭部分を組み合わせると絞り込みやすくなる。
日本語および欧米諸語で書かれた資料は2階に配架されている。複数の国にまたがるクルド関係資料の請求記号は「ME」から始まる。トルコやイランなど一国を対象とする資料は、その国に対応する記号(トルコ:「METU」、イラク:「MEIQ」、イラン:「MEIR」、シリア:「MESY」)で探していただきたい。
トルコ語やクルド語などの多言語資料は4階に配架されている。請求記号はトルコ語資料が「Tk」、クルド語資料が「Kr」から始まる。また、少数民族問題に関する資料には分類番号「323.1」(Minority ethnic group problems)が付与されており、特にトルコ語のクルド関係資料は「Tk/323.1」の棚にも多く配架されている。